事件番号:JP2024-0015

裁定

申立人:
(名称)株式会社日本経済新聞社
(住所)東京都千代田区 ●(省略)●
代理人:
弁護士 古西 桜子
 同  石戸 あかね
 同  野口 真未
弁理士 佐藤 俊司
登録者:
(名称)野口 和彦
(住所)大阪府大阪市 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・補正書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「NIKKEIDIGITALCORE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名は「NIKKEIDIGITALCORE.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、 全国紙「日本経済新聞」の発行及びネットメディア「日経電子版」の配信等の新聞事業を中核として、 出版事業、メディア事業、デジタル情報・サービス事業、放送・映像事業、 文化・イベント関連事業等の多角的な事業を展開する株式会社であり、 日本に加えて米国、欧州、アジア等に37か所の海外支局を有し、 2023年12月時点における「日本経済新聞」朝刊の販売部数は140万9147部、 2024年1月時点における「日経電子版」の有料会員数は90万2222名、 2023年12月期の売上高は1734億円である(甲2の1)。

 申立人は、 1995年1月31日に登録された商標「NIKKEI」(商標登録第3021671号、 以下「本件登録商標①」という。)、 1995年1月31日に登録された商標「日経」(商標登録第3021672号、 以下「本件登録商標②」という。)、 1946年8月23日に登録された商標「日本経済新聞」(商標登録第365748号、 以下「本件登録商標③」という。)、 及び2010年8月6日に登録された商標「日本経済新聞」(商標登録第5343451号、 以下「本件登録商標④」という。)等の商標権者である(甲3の1乃至甲6)。

 本件ドメイン名は、2015年9月27日に登録された(甲1)。

5 当事者の主張

a 申立人の主張

 申立人は、登録者が、 申立人が保有する本件登録商標①及び本件登録商標②と紛らわしい本件ドメイン名を登録し、 一般消費者、サイト閲覧者、 ネット利用者等(以下「消費者等」という。)をして申立人の事業に関連するものであるとの誤解を生ぜしめることによって、 経済的な利益を得ること、 及び競業者たる申立人の事業を混乱させることを意図していると主張する。 申立人によれば、本件ドメイン名は、 申立人が権利を有する商標と同一または混同を引き起こすほどに類似し、 登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則について、 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」と指示する。

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること

b 処理方針第4条a項各号に係る紛争処理パネルの判断

処理方針第4条a項各号の要件が充足されているか否かを、以下に順次検討する。

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 ア 申立人は、 本件登録商標①及び本件登録商標②の商標権者であることが認められる(甲3の1乃至甲4の2)。

 以上から、申立人は、 本件登録商標①及び本件登録商標②について権利を有していると認められる。

 イ 本件ドメイン名「NIKKEIDIGITALCORE.JP」のうち「.JP」の部分は、 トップレベルドメインであって国別コードの日本を意味するため、 識別力を有しない。

 セカンドレベルドメイン「NIKKEIDIGITALCORE」は、「NIKKEI」、 「DIGITAL」及び「CORE」の3語を結合したものである。 そのうち、「DIGITAL」の部分は、 「デジタルの」を意味する英単語(Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』オンライン版、 https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english-japanese/digital、 2024年10月28日最終閲覧)であり、 「数や量を、有限桁数の数値で表現する方式」(甲9の1)を指す外来語として、 ローマ字表記の「DIGITAL」及びカタカナ表記の「デジタル」のいずれも一般的に使用されており、 ありふれた表示である。また、「CORE」の部分も、「(物、 ことの)中心」や「核心」を意味する英単語(Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』オンライン版、 https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english-japanese/core、 2024年10月28日最終閲覧)であり、 ローマ字表記の「CORE」及びカタカナ表記の「コア」のいずれも外来語として一般的に使用されており、 ありふれた表示である。 そして、「DIGITAL」と「CORE」が結合された「DIGITALCORE」は、 デジタルの中心・核心を意味する記述的な用語であり、 一般に「ITの基盤・土台」(甲10の1)を指すものとして認識されている。

 この点に関して、 処理方針第4条a項(i)号と同様の規定が「Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy」(統一ドメイン名の紛争解決ポリシー、 以下「UDRP」という。)第4条a項(i)号に置かれているため、 同号に関する「WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition」(以下「WIPO Overview 3.0」という。)の1.8の解説が参考になる。 当該解説においては、「Where the relevant trademark is recognizable within the disputed domain name, the addition of other terms (whether descriptive, geographical, pejorative, meaningless, or otherwise) would not prevent a finding of confusing similarity under the first element.」(関連する商標が係争中のドメイン名内で認識可能である場合、 他の用語(記述的、地理的、侮蔑的、無意味、 またはその他を問わず)を追加しても、 第1要件における混同を引き起こすほどの類似性の認定は妨げられない。)と解説されている。 処理方針第4条a項(i)号について異なる解釈をする特段の理由は認められないため、 同様の解釈に基づいて検討するに、 申立人が保有する本件登録商標①は「NIKKEI」(甲3の1、 甲3の2)であり、本件登録商標②「日経」(甲4の1、 甲4の2)をローマ字で表記すると「Nikkei」となる。 本件ドメイン名内では、 「NIKKEI」または「Nikkei」は語頭部に位置していることからも認識可能であるから、 それに「DIGITALCORE」という記述的な用語が追加されていても、 本件ドメイン名は本件登録商標①及び本件登録商標②と混同を引き起こすほど類似しているといえる。 (なお、JPドメイン名の登録ルールにおいては、 「英字の大文字・小文字の区別はなく同じ文字とみなされる」から、 大文字と小文字の差異は問題にならない。)

 ウ 以上より、本件ドメイン名は、 申立人が権利を有する本件登録商標①及び本件登録商標②と混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。

(2)権利または正当な利益

 ア 申立人は、(i)本件ドメイン名は登録者の氏名と一致せず、 何らの関係性も見出せないこと、 (ii)登録者は本件ドメイン名に関係するような日本の登録商標を保有していないこと、 (iii)登録者に対して本件登録商標①、本件登録商標②、 その他一切の表示等に関してライセンスを与えておらず、 登録者は申立人と何ら関係のない第三者であること、 (iv)登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているという事実は存在しないこと、 並びに(v)登録者の連絡先及び登録者が代表取締役に就任している会社は申立人と無関係であることを主張する。

 イ まず、 上記(i)(本件ドメイン名と登録者の氏名との一致・関係性)については、 登録者の氏名と本件ドメイン名との間に共通する部分は存在せず、 登録者からも本件ドメイン名と自身との間に関係があるとの主張・立証はなされていないから、 本件ドメイン名と登録者の氏名との間に関係性があるとは認められない。

 ウ 次に、 上記(ii)(本件ドメイン名に関係する登録者保有の登録商標)については、 J-PlatPat上でも、 登録者または登録者と同じ氏名の者が権利者である登録商標の中に本件ドメイン名を構成する文字列を含むものは存在せず(甲11の1乃至甲11の4)、 World Intellectual Property Organization(世界知的所有権機関)の「Global Brand Database」においても、 登録者または登録者と同じ氏名の者が権利者である登録商標の中に本件ドメイン名を構成する文字列を含むものは確認されなかった(2024年10月28日最終閲覧)から、 登録者が本件ドメイン名に関係するような登録商標を保有していることは認められない。

 エ また、 上記(iii)(登録者への商標等のライセンス付与)については、 登録者は本件ドメイン名を2015年9月27日に登録しているところ(甲1)、 それは、 申立人が本件登録商標①及び本件商標登録②を登録した1995年1月31日、 本件登録商標③を登録した1946年8月23日、 並びに本件登録商標④を登録した2010年8月6日よりも後である(甲3の1乃至甲5の4)。 また、本件ドメイン名を用いた登録者のウェブサイト(以下「登録者ウェブサイト」という。)は、 少なくとも2024年7月26日時点において、 保険や消費者金融等に関する7つの記事を掲載し(甲13の1)、 いずれの記事についてもフッター部分に本件登録商標③及び本件登録商標④と同一である「日本経済新聞」の表示を付して(甲13の1、 甲18の1乃至甲18の7)、 当該表示をクリックすると申立人のウェブサイト(甲14)へ遷移するように設定していた(甲13の2)。 「Internet Archive」の「Wayback Machine」が保存した2024年9月4日午前6時10分24秒(グリニッジ標準時)/同日午後3時10分24秒(日本標準時)時点の本件ドメイン名の表示(2024年10月28日最終閲覧)によれば、 登録者ウェブサイトは2024年7月26日時点のもの(甲13の1)と同一であったことが認められるが、 同「Wayback Machine」が保存した2024年9月19日午前5時19分59秒(グリニッジ標準時)/同日午後2時19分59秒(日本標準時)時点の本件ドメイン名の表示(2024年10月28日最終閲覧)によれば、 登録者ウェブサイトからフッター部分の「日本経済新聞」の表示は削除されており、 「サンプルページ」という表示が付された主として英文の記述に変わっていることが認められる。 つまり、登録者は、2024年9月4日以降に、 フッター部分の「日本経済新聞」の表示を削除すると共に、 見本であると思われる内容に置き換えたことが推認される。 もし、登録者が、 申立人から本件登録商標①乃至本件登録商標④その他の表示等に関してライセンスを付与されていたのであれば、 本件ドメイン名に係わる本件紛争につき日本知的財産仲裁センターから開始通知を受けた2024年9月3日の翌日以降に、 登録者ウェブサイトにおいてフッター部分の「日本経済新聞」の表示を削除したり、 記事を含めてウェブサイト全体を異なる内容のものへと置き換えたりする必要はなく、 むしろ答弁書において申立人からライセンスを受けている旨を主張するものと合理的に考えられる。 しかし、登録者からは、ライセンスを付与されたこと、 及び登録者と申立人との間に何らかの関係があることについて何ら主張・立証はなされていない。 ゆえに、登録者が申立人から本件登録商標①、本件登録商標②、 その他一切の表示等に関してライセンスを受けた事実、 及び登録者と申立人との間に何らかの関係がある事実は認められない。

 オ 続いて、 上記(iv)(本件ドメイン名の名称での登録者に係る一般の認識)については、 上述のとおり、 登録者が本件ドメイン名を登録した2015年9月27日(甲1)は、 申立人が本件登録商標①及び本件商標登録②を登録した1995年1月31日(甲3の1乃至甲4の2)より後であるだけでなく、 申立人が「日経デジタルコア設立事務局」を設けていた2000年(甲12の1)、 「NIKKEI DIGITALCORE」の漢字・カタカナ表記である「日経デジタルコア」の表示を用いて対外的な勉強会を開催していた2011年(甲12の3)、 及び「NIKKEI DIGITALCORE」の表示を用いてソーシャル・ネットワーキング・サービス上で投稿を行っていた2012年から2013年(甲12の2)よりも後であることが認められる。 また、「Internet Archive」の「Wayback Machine」が保存した2012年1月18日午後3時25分54秒(グリニッジ標準時)/同月19日午前0時25分54秒(日本標準時)時点の本件ドメイン名の表示(2024年10月28日最終閲覧)によれば、 フッター部分に「お問い合わせは、 日経デジタルコア事務局まで」と申立人の組織名(甲12の1)が記載されていることから、 申立人が本件ドメイン名を用いて、 「NIKKEI Digital CORE」及び「日経デジタルコア」の名称で情報セキュリティやクラウド等のITに関する情報の発信やセミナーの告知を行っていたことが認められる。 他方、登録者からは、 登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたとの主張・立証はなされていない。 ゆえに、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた事実は認められない。

 カ そして、 上記(v)(申立人と登録者の連絡先・会社との関係性)については、 申立人が茨城県に国内支局や国内印刷拠点を有することは認められる(甲2の1)ものの、 それらが登録者の住所、電話番号、FAX番号、 及び電子メールアドレス(2024年8月15日付ドメイン名登録照会に対する通知)と関連していることを示す証拠は提出されていない。 また、登録者は、 株式会社nanairovisionの代表取締役であることが認められる(甲20)が、 同社と申立人との間に関係があることを裏づける証拠は提出されていない。 登録者もこの点について主張・立証はしていないから、 登録者の連絡先及び登録者が代表取締役を務めている株式会社nanairovisionが申立人と関係しているとは認められない。

 キ 加えて、 後記「(3)不正の目的での登録または使用」において詳述するとおり、 登録者は、登録者ウェブサイトが申立人の事業に関係しているとの消費者等の誤認を惹起させることにより広告収入等の商業上の利得を得る意図で本件ドメイン名を使用していると合理的に認められる。 ゆえに、登録者が、 本件ドメイン名に係わる本件紛争につき日本知的財産仲裁センターから開始通知を受けた2024年9月3日以前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名を使用していた事実、 及び、登録者が消費者等の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を有することなく本件ドメイン名を使用している事実は認められない。

 ク したがって、 本件ドメイン名と登録者の氏名との間に関係性があること、 登録者が本件ドメイン名に関係するような日本の登録商標を保有していること、 登録者が本件登録商標①及び本件登録商標②その他の表示等に関してライセンスを受けるなど、 登録者と申立人との間に何らかの関係が存在すること、 登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたこと、 登録者が本件ドメイン名に係わる本件紛争につき日本知的財産仲裁センターから開始通知を受ける前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名を使用していたこと、 及び登録者が消費者等の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を有することなく本件ドメイン名を使用していることは、 いずれも認められない。

 ケ 以上から、 登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないと認められる。

(3)不正の目的での登録または使用

 ア 申立人は、登録者は、 本件ドメイン名を用いて登録者ウェブサイトを開設・運営することにより、 消費者等に登録者ウェブサイトが申立人の事業に関係しているとの誤認混同を生じさせ、 誤信した消費者等を登録者ウェブサイトに誘引することによって、 広告収入等の商業上の利得を得る目的を有していること、 及びそれにより競業者たる申立人の事業を混乱させることを目的としていることから、 不正の目的で本件ドメイン名が登録され使用されていると主張する。

 イ まず、上述したとおり、「Internet Archive」の「Wayback Machine」が保存した2012年1月18日午後3時25分54秒(グリニッジ標準時)/同月19日午前0時25分54秒(日本標準時)時点の本件ドメイン名の表示(2024年10月28日最終閲覧)によれば、 少なくとも同日時点では、 申立人が本件ドメイン名を用いて「NIKKEI Digital CORE」及び「日経デジタルコア」の名称でウェブサイトを開設・運営していたことが認められる。 また、申立人は、2011年に「NIKKEI DIGITALCORE」の漢字・カタカナ表記である「日経デジタルコア」を用いて対外的な勉強会を開催していたこと(甲12の3)、 及び2012年から2013年には「NIKKEI DIGITALCORE」の表示を用いてソーシャル・ネットワーキング・サービス上で投稿を行っていたこと(甲12の2)が認められるところ、 登録者による本件ドメイン名の登録は、 それらよりも後の2015年9月27日である(甲1)。 さらに、現時点においても、検索エンジンで「NIKKEI DIGITALCORE」を検索キーワードにして検索をすると、 これらの勉強会の案内や投稿が検索結果に表示される(2024年10月28日最終閲覧)ことが確認されている。 これらの事情に鑑みれば、登録者は、 本件ドメイン名の登録当時、 申立人が過去に本件ドメイン名を登録していた事実、 並びに申立人が「NIKKEI DIGITALCORE」及びその漢字・カタカナ表記である「日経デジタルコア」の表示を用いて情報発信や活動を行っていた事実を認識していたことが推認される。

 また、上述したとおり、 2024年7月26日時点の登録者ウェブサイトには、 本件登録商標③及び本件登録商標④と同一の「日本経済新聞」がフッター部分に表示され、 そこをクリックすると申立人のウェブサイト(甲14)へ遷移するように設定されていたこと(甲13の1、甲13の2)、 及び登録者ウェブサイトの出所が申立人であると誤解して相互リンクの設定を打診した会社が現実に存在すること(甲16)がそれぞれ認められる。

 さらに、 少なくとも2024年7月26日時点の登録者ウェブサイトには、 広告記事であることを示す「PR」の表示がなされた消費者金融に関する記事が複数存在することが認められる(甲18の5乃至甲18の7)。 一般に、ウェブサイトに広告記事を掲載する場合には、 事前に広告主とウェブサイト運営者との間において、 消費者等による広告記事の閲覧毎にウェブサイト運営者が受け取る報酬額等について取り決めがなされるものである(顕著な事実)から、 消費者等が登録者ウェブサイトの広告記事(甲18の5乃至甲18の7)を閲覧すると、 登録者に広告収入が発生することが推認される。

 以上の各事実から、登録者は、 申立人が過去に登録しており、 その活動の名称であった「NIKKEI DIGITALCORE」及びその漢字・カタカナ表記である「日経デジタルコア」と同一または類似の文字列を含む本件ドメイン名を登録して使用することにより、 全国紙である「日本経済新聞」を発行し、 グローバルに活動を展開している申立人が発信する情報に関心を持つ消費者等をして登録者ウェブサイトの出所が申立人であるとの誤認混同を生じさせ、 登録者ウェブサイトへ誘引し、 閲覧数を増やして広告収入を得る目的で本件ドメイン名を登録し使用していると合理的に認められる。 登録者からは、この点について何らの主張・立証もなされていない。

 したがって、登録者は、 広告収入等の商業上の利得を得る目的で、 消費者等に登録者ウェブサイトが申立人の事業に関連しているとの誤認混同を生ぜしめることを意図して、 消費者等を登録者ウェブサイトの広告記事へと誘引し、 広告記事の閲覧数を増やすために本件ドメイン名を使用していると認められる。

 なお、 登録者と同一の氏名及び電話・FAX番号(2024年8月15日付ドメイン名登録照会に対する通知)が「特定商取引に関する表示」欄に記載されている別件ウェブサイト(甲21の1)において、 「当サイトはは〔ママ〕各キャッシング・ローン会社のアフィリエイトプログラムにより運営されております」との表示がなされており(甲21の1)、 当該別件ウェブサイト上のリンクからキャッシング等の申込ができるようになっていること(甲21の2)が認められる。 確かに、消費者金融に関する記事である点、 及び当該記事の閲覧または当該記事のリンクからの申込に起因して広告収入またはアフィリエイト報酬が得られると推認される点においては、 登録者ウェブサイト(甲13の1、 甲18の1乃至甲18の7)との間に一定の類似性は認められる。 しかし、当該別件ウェブサイトは、 本件ドメイン名を用いた登録者ウェブサイトとは別個であることに加え、 「KNstreet」という名称の「業者」名義で運営されており(甲21の1)、 「所在地」及び「連絡先」の電子メールアドレスも本件ドメイン名の登録に係るものとは一致していない(甲21の1、 2024年8月15日付ドメイン名登録照会に対する通知)から、 当該別件ウェブサイトの存在は、 紛争処理パネルの判断に直接影響を与えるものではない。

 ウ 次に、登録者は個人であることから、 申立人が処理方針第4条b項(iii)号の「競業者」に該当するかは検討を要するところ、 UDRP第4条b項(iii)号に同様の規定が置かれているため、 同号に関するWIPO Overview 3.0の3.1.3の解説が参考になる。 当該解説においては、「panels have applied the notion of a “competitor” beyond the concept of an ordinary commercial or business competitor to also include the concept of “a person who acts in opposition to another” for some means of commercial gain, direct or otherwise」(パネルは、「競業者」の概念を、 通常の商業上またはビジネス上の競争相手という概念にとどまらず、 直接的か否かを問わず、 何らかの商業的利益を得るために「他者と対立する行動をとる者」という概念をも含むものとして適用している)と解説されている。 処理方針第4条b項(iii)号の「競業者」について異なる解釈をする特段の理由は認められないため、 同様の解釈に基づいて検討するに、 申立人の多角的な事業には、 「金融コンフィデンシャル」や「フィンテックトレンド」等、 国内外の金融記者が執筆する連載コンテンツなどをオンライン配信する事業も含まれている(甲2の1)。 他方、登録者ウェブサイトにおいても、 生命保険・学資保険・給与サポート保険や消費者金融に関する記事、 「PayPay」等のフィンテックに関する記事が掲載されており、 その中には「PR」という表示の付された広告記事も複数含まれている(甲13の1、 甲18の1乃至甲18の7)。 このように、申立人と登録者は、 金融関係の情報をオンライン配信することによって定期購読料(申立人の場合)や広告収入(登録者の場合)といった商業的利益を得ることを目的としている点において、 相互に相手方と対立する行動をとる関係にあるから、 申立人は登録者にとって「競業者」に当たるといえる。

 続いて、 登録者が競業者たる申立人の事業を混乱させることを目的として、 本件ドメイン名を登録したかを検討する。 この点、 消費者等が特定のウェブサイトの閲覧を求める場合には、 検索エンジンでウェブサイトの正式名称等を検索キーワードとした検索をするものの、 特定のウェブサイトの閲覧ではなく、 特定の情報発信主体によるコンテンツの閲覧を求める場合には、 情報発信主体を示す名称を検索キーワードに含めて検索をすることが一般的といえる(顕著な事実)。 「NIKKEI」や「nikkei」を検索キーワードに含めて検索をする場合、 検索結果の中に、 申立人の各種ウェブサイトと登録者ウェブサイトとが入り混じって表示されることが想定され、 消費者等は、 いずれのウェブサイトも申立人のものであると誤信するか、 登録者ウェブサイトが申立人のものであるか否かについて判断に迷うことが想定される。 事実、登録者ウェブサイトを閲覧した者から、申立人に対して、 なりすましサイトではないかという問い合わせ(甲15)や、 登録者ウェブサイトとの間で相互リンクを設定したいという打診(甲16)がなされており、 申立人はそれらに対応せざるを得なくなったことが認められる。 登録者ウェブサイトが申立人と無関係なのであれば、 申立人が過去に登録していたことに加え、 申立人が保有する本件登録商標①と同一であり、 本件登録商標②と混同を引き起こすほど類似している文字列を含む本件ドメイン名を登録し、 フッター部分に本件登録商標③及び本件登録商標④と同じ「日本経済新聞」の表示をし、 そこから申立人のウェブサイトへ遷移するように設定する合理性は認められない。 むしろ、消費者等を誤認混同させ、 混乱した消費者等から申立人に問い合わせが行く事態を招来することが容易に想定される。 この点について、登録者からは何らの主張・立証もなされていない。

 したがって、登録者は、 (それが「主たる目的」であることまでは認められないものの)競業者である申立人の事業を混乱させることを目的の一部として、 本件ドメイン名を登録していると認められる。

 エ なお、現時点では、 2024年7月26日時点において登録者ウェブサイトに存在した広告記事(甲18の5乃至甲18の7)も、 「日本経済新聞」というフッター部分の表示も削除されており、 「サンプルページ」という表示が付された主として英文の記述に置き換えられている(2024年10月28日最終閲覧)。 しかし、上記「(2)権利または正当な利益」において詳述したとおり、 登録者が登録者ウェブサイトのコンテンツをそのように変えたのは、 登録者が、本件ドメイン名に係わる本件紛争につき日本知的財産仲裁センターから開始通知を受けた2024年9月3日の翌日である同月4日以降であることが認められるから、 本件ドメイン名に係わる紛争との関係で、 一時的に内容を変更したに過ぎない可能性は否定できない。 また、現在の登録者ウェブサイトが申立人と一切関係がないのであれば、 なおさら申立人が保有する本件登録商標①及び本件登録商標②と混同を引き起こすほど類似している本件ドメイン名を用いる合理性は認められない。 したがって、登録者ウェブサイトの現時点における外観・内容は、 登録者が、 消費者等に登録者ウェブサイトが申立人の事業に関連しているとの誤認混同を生ぜしめる目的、 及び申立人の事業を混乱させる目的がないことを裏づける事実とはいえない。

 オ 以上から、 本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され使用されていると認められる。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録された本件ドメイン名「NIKKEIDIGITALCORE.JP」が、 申立人が権利を有する本件登録商標①及び本件登録商標②と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録され使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条i項に従って、 本件ドメイン名「NIKKEIDIGITALCORE.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年10月31日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    二瓶 ひろ子

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年8月14日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年8月13日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、 2024年8月15日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年8月15日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2024年8月21日に申立書の記載事項の補充が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2024年8月27日に補正書類を受領し、 2024年8月27日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年9月3日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2024年9月3日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年9月3日)、 答弁書提出期限(2024年10月3日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であった。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年10月4日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、 1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2024年10月10日に弁護士 二瓶 ひろ子を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年10月10日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年10月31日)を通知した。 パネルは、 2024年10月10日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2024年10月31日に審理を終了し、 裁定を行った。