事件番号:JP2024-0016
裁定
- 申立人:
-
(名称)NTTデータルウィーブ株式会社
(住所)東京都千代田区 ●(省略)● - 代理人:
- 弁護士 深井俊至
- 登録者:
-
(名称)株式会社ASTI
(住所)東京都中央区 ●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、情報システムの企画、設計および管理運営、 情報通信システムにかかるシステムインテグレーション業務、 ソフトウェアの開発、売買等、コンピュータを利用した情報処理、 情報提供、情報通信サービス等の業務を行う株式会社である(甲第1号証、甲第2号証)。 申立人は、2021年10月1日、 その商号を「エヌ・ティ・ティ・データ・ジェトロニクス株式会社」から「NTTデータルウィーブ株式会社」に変更した(甲第1号証、甲第2号証)。
申立人は、 東京都江東区豊洲三丁目3番3号に本社を有する株式会社NTTデータ(以下「NTTD」という。)の100%子会社である(甲第2号証、甲第3号証)。 NTTDは、電気通信事業、情報処理、情報通信に関する機器及びソフトウェアの開発、 販売等、情報処理等の業務を行う株式会社である(甲第3号証)。 2023年7月1日、NTTDは、 「株式会社NTTデータグループ」(以下「NTTDG」という。甲第4号証)から、 国内事業を承継し、持株会社となった(甲第5号証)。
NTTDGの親会社は、 「日本電信電話株式会社」(以下「NTT」という。)である(甲第6号証)。 NTTは、「NTT DATA」関連の登録商標を多数、 保有している(甲第15号証~甲第20号証)。
「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」は、申立人が、2021年10月1日、 その商号を「エヌ・ティ・ティ・データ・ジェトロニクス株式会社」から「NTTデータルウィーブ株式会社」に変更(甲第1号証、甲第2号証)するまで、 申立人が登録・使用していたドメイン名である(甲第2号証)。
本件ドメイン名は、2024年1月23日に登録された(甲第27号証)。
5 当事者の主張
a 申立人の主張
申立人の主張は以下のように、整理できる。
(1)「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について
申立人は、NTTDとの平成19年6月15日付「NTTデータグループ協定」(甲第21号証)、 平成19年6月15日付「NTTデータグループ運営費に関する基本契約」(甲第22号証)、 平成19年6月29日付「NTTデータ・シンボルマーク使用承認書」(甲第23号証)、 及び2022年3月付「NTT DATAブランドマネジメントガイドライン Ver.4.0J」(甲第24号証)に基づいて、 「NTT DATA」、「NTT DaTa」及び「NTTデータ」という著名商標並びに「nttdata」の文字列を含むドメイン名を使用する正当な権限を有すると共に、 NTTデータ・グループのコーポレートブランドである「NTT DATA」のシンボルを共有して事業活動で使用する正当な権限を有する(甲第24号証)。
登録者のドメイン名「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」は、申立人が、 2021年10月1日、 その商号を「エヌ・ティ・ティ・データ・ジェトロニクス株式会社」から「NTTデータルウィーブ株式会社」に変更するまで、 申立人が登録・使用していたドメイン名である。
登録者のドメイン名中、「NTTDATA」の部分は、 NTTデータ・グループ企業を示す著名商標である「NTT DATA」と実質的に同一又は類似しており、 「NTTDATA」をドメイン名の一部に入れることは、 NTTデータ・グループ企業であると誤認させる。
さらに、「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」は、 申立人がNTTデータ・グループ企業として登録、 使用していたドメイン名なのであり、 NTTデータ・グループ企業であることを想起させることは明らかである。 過去に申立人が作成した資料、広告、電子メール等に、 このドメイン名が使用されていたことから、現在においても、 このドメイン名を見た者が、このドメイン名は申立人が登録、 使用していると誤解するおそれがある。 仮に、申立人に接触するつもりで、 このドメイン名を使用した過去の電子メールアドレスに返信すると、 意図しない宛先に当該電子メールが送付されてしまうおそれがある。
以上のとおり、 登録者のドメイン名は、NTTデータ・グループ企業(申立人を含む。)の事業と混同を引き起こすものであり、 申立人が権利又は正当な利益を有する「NTT DATA」の著名商標と同一又は混同を引き起こすほど類似している。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
NTTデータ・グループの著名商標である「NTT DATA」及びドメイン名の一部に「NTTDATA」を正当に使用できるのは、 NTTデータ・グループ企業に限られる。 登録者は、NTTデータ・グループ企業ではないので、 「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」に関係する権利又は正当な利益を有していない。
登録者は、 NTTデータ・グループ企業の著名商標である「NTT DATA」の英語文字列であってNTTデータ・グループ企業のみがそのドメイン名の一部に使用することができる「NTTDATA」を一部に使用し、 申立人の旧商号に対応したドメイン名である「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」に関係する権利又は正当な利益を有しない。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
ブラウザのサーチエンジンにURLとして「www.nttdata-getronics.co.jp」を入力すると、 直ちに、「her-rose.com」というドメイン名のサイトに転送され、 その転送先サイトは、インターネットを利用した各種情報提供サービス、 Webサイトの企画、制作、販売、運営及び管理、 通信販売を事業概要とするという「VPN Streaming合同会社」(以下「転送先会社」という。)が運営している(甲第25号証、甲第26号証)。 転送先会社もNTTデータ・グループ企業ではない。
登録者が、 「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」のドメイン名を単に転送先会社のサイトへの転送目的のみに使用していることは、 当該ドメイン名の使用により、 アクセス者を転送先会社のサイトに誤導することを意図しているといえる。
このように当該ドメイン名の使用により、NTTデータ・グループ企業、 特に申立人の事業と誤認、混同を生じさせ、 転送先会社のウェブサイトに不正に誘導し、 又は第三者が申立人に何等かの通知若しくは情報提供するつもりで、 登録者又は転送先会社に当該通知若しくは情報提供がなされてしまうという情報漏洩の損害の発生のおそれがある。
登録者として登録されている商号「株式会社ASTI」、 住所「東京都中央区日本橋本町三丁目7番9号」の会社登記情報(甲第29号証)によると、 当該会社は、 令和5(2023)年6月28日に東京地方裁判所の破産手続が開始され、 破産管財人が選任されている。 株式会社ASTI破産管財人(甲第30号証)によると、当該会社は、 2024年1月23日又はその頃に、 「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」(本件ドメイン名)をドメイン名として登録申請をしておらず、 また、第三者に当該会社の名称をもって登録申請することを許諾したこともなく、 当該会社は、本件ドメイン名の保有者ではないとのことである(甲第31号証)。 すなわち、実際の登録者は、当該会社を騙って、 本件ドメイン名を不正に登録した者である。 本件ドメイン名を登録名義人とされている当該会社又は実際の不正登録者の保有として登録、 使用させる正当な理由は全くない。
登録者は、 NTTデータ・グループ企業の著名商標である「NTT DATA」に対するフリーライド、 又はNTTデータ・グループ企業、 特に申立人の事業を混乱させることを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録し、使用しているといえる。
以上のように、登録者の当該ドメイン名は、不正の目的で登録又は使用されている。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
登録者のドメイン名は、「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」である。
本件ドメイン名の「NTTDATA」の部分は、 申立人が甲第21号証~甲第24号証に示すようにNTTデータグループ協定等によって、 申立人が正当な使用の権限を有し、 NTTが所有する「NTT DATA」等の登録商標(甲第15号証)と同一類似の文字からなることが認められる。
「NTTDATA」の部分が申立人に使用が認められている登録商標と同一類似である以上、 「GETRONICS」及び「CO.JP」の文字が付いているからといって、 本件ドメイン名が「申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していうこと」という要件をみたさないということはできない(同旨JP2020-0001)。
したがって、登録者のドメイン名は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しているものと判断する。
(2)権利または正当な利益
申立人の主張および提出された証拠によれば、 登録者として登録されている会社(商号「株式会社ASTI」、 住所「東京都中央区日本橋本町三丁目7番9号」)(甲第29号証)は、 令和5(2023)年6月28日に東京地方裁判所の破産手続が開始され、 破産管財人が選任されている(甲第30号証)。 そして、当該破産管財人より申立人代理人宛に、「当会社は、 2024年1月23日又はその頃に、 「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」(本件ドメイン名)をドメイン名として登録申請をしておらず、 また、第三者に当会社の名称をもって登録申請することを許諾したこともありません。 当会社は、本件ドメイン名の保有者ではありません」、との報告がなされていることが、 甲第31号証より認められる。
これよりすれば、実際の登録者は申立人の主張のとおり、 登録者の会社を騙って、本件ドメイン名を不正に登録した者であると認めざるを得ない。
したがって、 本件ドメイン名の登録者とされる「株式会社ASTI」の破産管財人からの上記報告がなされ、 権利または正当な利益の存在について何ら実質的な主張を行っていないことに鑑みると、 登録者が「本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた(処理方針4条c(ii))」ことは認められず、 登録者が「商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとも認められず、 または明らかにその使用の準備をしていた(処理方針4条c(i))」ことも認められない。
さらに、本件ドメイン名の甲第25号証で示される使用状況を考慮しても、 「登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、 または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、 または公正に使用している(処理方針4条c(ⅲ))」ことも認められない。
したがって、登録者には、 本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているという事情は認められない。
(3)不正の目的での登録または使用
本件ドメイン名に含まれる「NTTDATA」は、NTTによって登録され、 申立人の親会社が属するNTTDGのグループにおいて長年の使用にかかる我が国において著名な商標であると認められる。
この「NTTDATA」の文字を含む本件ドメイン名の使用において、 甲第25号証及び甲第26号証によれば、 ブラウザのサーチエンジンにURLとして「www.nttdata-getronics.co.jp」を入力すると、 直ちに、「her-rose.com」というドメイン名のサイトに転送され、 その転送先サイトは、インターネットを利用した各種情報提供サービス、 Webサイトの企画、制作、販売、運営及び管理、 通信販売を事業概要とするという「VPN Streaming合同会社」(以下「転送先会社」という。)が運営していることが認められ、 転送先会社もNTTデータ・グループ企業ではない。
よって、申立人の主張のとおり、 登録者が「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」のドメイン名を単に転送先会社のサイトへの転送目的のみに使用し、 アクセス者が転送先会社のサイトに誤導される意図があることが推認される。
加えて、上記(2)で認定したように、 登録者とされる「株式会社ASTI」の破産管財人からの報告によれば、 登録者とされる「株式会社ASTI」には、 本件ドメイン名の登録の意思も本件ドメイン名保有の認識もないことが認められる。
したがって、 登録者が実質的な反論を行わないところにおいて申立人の主張および提出された証拠によれば、 申立人の主張に沿った事実が概ね認められるのであり、 「登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用している」(処理方針第4条bⅳ)ことが推認され、 登録者は当該ドメイン名を不正の目的で登録したものと認定せざるを得ない。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」が申立人が使用する商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「NTTDATA-GETRONICS.CO.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2024年12月3日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 本多敬子
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年9月27日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年9月30日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2024年9月30日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年9月30日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2024年10月1日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2024年10月7日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2024年10月7日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年10月7日)、 答弁書提出期限(2024年11月6日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については送信不能であった。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年11月7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2024年11月13日に弁理士 本多 敬子を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年11月13日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年12月3日)を通知した。 パネルは、 2024年11月13日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2024年12月3日に審理を終了し、裁定を行った。