事件番号:JP2024-0017

裁定

申立人:株式会社スマートドライブ
(住所)東京都千代田区 ●(省略)●
代理人:
弁護士 濱本 賢一
弁護士 小澤 雄輔
登録者:Taka Enterprise Ltd.WHOISプライバシーサービス
(住所)東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書において提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「SMARTDRIVE-STYLE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「SMARTDRIVE-STYLE.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、データの解析業務、 コンピュータシステムのソフトウェア及びハードウェアの規格、 設計、開発、販売等を目的とする会社であり、 2022年12月15日に東京証券取引所グロース市場に新規登録を行い、 「SmartDrive Fleet」等の名称で法人向け車両管理システムの提供その他の移動データプラットフォームを他企業に提供している。

 申立人は、 平成31年(2019年)3月15日に登録された商標第6130907号、 令和1年(2019年)11月22日に登録された商標第6200718号、 令和3年(2021年)6月23日に登録された商標6406310号、 及び令和3年(2021年)10月19日に登録された商標第6458670号の各登録商標の商標権者である。

 本件ドメイン名は、2023年6月1日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人の主張

 申立人の主張は以下のように、整理できる。

 申立人は上記4記載の各登録商標の商標権者であり、 株式会社スマートドライブの商号で上記4記載のような事業を営んでいる。

 登録者は「SMARTDRIVE-STYLE.JP」なるドメインを有している。

 上記ドメイン名は申立人商号及び上記4記載の各登録商標と同一又は類似している。

 よって、ドメイン名は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の取消を請求する。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

 よって、 まず申立人において上記処理方針第4条のaの(1)乃至(3)に記載された各事実を証明するに足りる主張および証拠を提出しているか否かを判断する。

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

イ 申立人は「SmartDrive」なる文字標章につき、 前記4記載の登録商標に関して商標権を有しており(甲8号証の1乃至4)、 上記各登録商標につき「権利」または「正当な利益」を有している。

ロ 本件各登録商標を本件ドメイン名との間に混同を引き起こすほど類似している。

(イ)本件各登録商標と本件ドメイン名との間の類似

①本件ドメイン名のうち、 トップレベル・ドメインである「jp」は日本国を示すコードであり、 それ自体には出所識別機能を有しない。

②また上記ドメイン名のうち「SMARTDRIVE-STYLE」のうち「SMARTDRIVE」と「STYLE」の間には「-」を有しており、 外観的にも両者は「SMARTDRIVE」と「STYLE」の二語として認識され、 かつ呼称されるのが通常である。

③さらに上記二語のうち「STYLE」の部分は流派、様式、 流儀等をあらわす一般的な用語であり(甲9号証)、 その用語自体の出所識別機能は著しく乏しいので、 仮に本件ドメイン名が商品や役務の出所識別標識として機能するとすれば、 そのような出所識別機能は「SMARTDRIVE」の部分に由来する。

④本件ドメイン名を構成する部分のうち、 商品や役務の出所識別機能を有すると認められる「SMARTDRIVE」と本件登録商標の「SmartDrive」とはその外観、 称呼、観念が同一もしくはきわめて類似しており、 両者が同一又は類似の商品又は役務に使用されるとすると、 その商品やサービスの間で混同が生じる程類似している。

(ロ)その他混同を引き起こす虞れがある間接事実

①登録者は、 申立人がそのドメイン名(以下「申立人ドメイン名」という)の登録を更新せず、 2023年4月30日当該ドメイン名の登録が終了した後、 1ヶ月程度しか経過していない同年6月1日に本件ドメイン名の登録を取得した。

②そして登録者である「Taka Enterprise Ltd.WHOISプライバシーサービス」が運営しているものと推測されるウェブサイト(以下「本件サイト」という)では(甲6号証の1,2)、 申立人が登録を終了した申立人ドメイン名によって開設していたサイト(以下「申立人サイト」という)に掲載していた文章や画像をそのまま無断で掲載し、 本件サイトの「サイトのご利用にあたって」と表示するページには株式会社スマートドライブがサイトを運営している旨の利用規約が掲載されている(甲5号証2の1乃至甲5号証2の2)。 また、同サイトの「運営会社について」のページ等にも「SmartDrive」のロゴが使用されている。

③以上のような登録者によるドメイン名の取得経緯や、 本件サイト上の上記②記載の文章や図画の記述等により、 利用者が本件ドメイン名で表示される本件ウェブサイトの運営者が申立人であるかのごとき誤認を生じる虞がある。

(2)権利または正当な利益

 下記に記載したような事実からみて、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または利益を有していないこと

イ 登録者の氏名、商号とドメイン名の不一致。
 登録者の氏名又は法人名は「Taka Enterprise Ltd.WHOISプライバシーサービス」であり、 本件ドメイン名の「SMARTDRIVE-STYLE.JP」とは一致していない(甲6号証の1、2)。

ロ 登録者が本件ドメイン名と同一もしくは類似する登録商標を有していないこと。
 登録者の氏名又は法人名によって表記される個人又は団体は本件ドメイン名と同一の「SMARTDRIVE-STYLE」等の文字標章では登録」商標を有していない。 また、登録者が開設したものと推測されるウェブサイト「http://www.takaenterprise.co.jp」に記載された「有限会社Takaエンタープライズ」も「SecureStage」という標章からなる商標登録(第6841995号)及び出願中の商標(商願2023-63344)を有しているのみであり、 本件ドメイン名と一致しあるいはこれと類似する登録商標を有していない(甲第12号証、甲第13号証)。

ハ 登録者は本件ドメイン名に関わる紛争に関し、 本件申立の通知を受領する前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うにつき、 本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用し、 または明らかにその使用を準備しているとは認められないこと。
 登録者は本件ドメイン名において表示されるサイトにおいて前記のように申立人が申立人サイト上に記載された文章、 図画等の多くをそのまま無断で使用しているほかには本件ドメイン名とは全く無関係な内容のブログ記事等を掲載しているものの(甲14号証の1~7)、 自らが提供する商品やサービスまたはその広告、 宣伝前に関する記事等に掲載した記事、 図画等を見受けることはできない。

ニ 登録者が本件ドメイン名と同一の名称や表示で一般に認識されていると認められるような事実が存在しないこと。

ホ 登録者は本申立てに対して、答弁書等を提出せず、「登録者がドメイン名に関する権利または正当な利益を有している」との事実を主張・立証行っていないこと。

(3)不正の目的での登録または使用

イ 本件ドメイン名取得の経緯等
 前記(1)のイ(ロ)記載したように、登録者は、 申立人がかつて所有した「SMARTDRIVE-STYLE.JP」なるドメイン名(「申立人ドメイン名」という)の登録を終了したわずか1か月後に本件ドメイン名を取得し(甲3号証、4号証、6号証の1)、 本件サイトにおいて本件サイトの開設者が申立人であるかのごとく誤認を生じさせている。
 またこれらの行為は上記文章・図画等に関する申立人等の著作権を侵害するおそれがある。

ロ また登録者は本件サイトに多数のリスティング広告を掲載しており(甲5号証の1の1、16号証)、 これらのリスティング広告に利用者を誘引して何らかの商業上の利得を得る目的で、 前記イで述べたような利用者の誤認を利用しているのではないかと推測することができる。

ハ また登録者は本件サイト上で「JP-Domains.com(JPドメイン)」というサービスを提供しており、 失効ドメインのドロップキャッチサービスを提供する旨の宣伝広告を行っている。

ニ 小括
以上、イ乃至ハに記載した事案からは登録者が本件ドメイン名を不正の利益を得る目的で供用していると認められる。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「SMARTDRIVE-STYLE.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「SMARTDRIVE-STYLE.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年12月3日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    松村 信夫

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年9月30日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年9月30日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2024年10月1日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年10月1日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2024年10月2日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年10月7日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2024年10月7日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年10月7日)、 答弁書提出期限(2024年11月6日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年11月7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2024年11月13日に弁護士 松村 信夫を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年11月13日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年12月3日)を通知した。 パネルは、2024年11月14日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2024年12月3日に審理を終了し、裁定を行った。