事件番号:JP2024-0020

裁定

申立人:
(名称)COINTREAU
(住所)●(省略)● SAINT BARTHÉLEMY D'ANJOU, FRANCE
登録者:
(名称)株式会社クァントロ(Yoshiteru Tamai)
(住所)東京都品川区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「COINTREAU.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「COINTREAU.CO.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、1849年に、 菓子職人アドルフ・コアントローとその弟エドゥアール=ジャン・コアントローによってフランス国アンジェに設立された会社であり、 オレンジの皮から作られるリキュールを製造している。 申立人は、現在はREMY COINTREAU社の傘下にある(添付書類1)。

 申立人は、 「COINTREAU」という言葉を含むブランドのポートフォリオを複数の国で所有している。 日本においても、 1950年10月11日に登録された商標登録第392652号(「COINTREAU」の文字商標)及び2022年7月8日に登録された国際商標登録第1681554号(デザインされた「COINTREAU」の文字を含む。)を登録・保有している(添付書類2)。

 また、申立人は、 商標「COINTREAU」を含む複数のドメイン名を所有しており、それには、 「cointreau.com」(1995年10月11日登録)及び「COINTREAU.JP」(2012年1月24日登録)が含まれる(添付書類3)。

 本件ドメイン名は、2024年8月5日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人

(1)本件ドメイン名には、 申立人の商標「COINTREAU」がそっくりそのまま含まれている。 ccTLDである「.JP」を追加するだけでは、 本件ドメイン名が申立人の商標と同一であると見なされることを回避するのには十分でなく、 申立人の商標と関連がある名称であるという全体的な印象を変えるわけではないため、 本件ドメイン名と申立人、 その商標及びそのドメイン名との間に関連があるという混乱を引き起こす可能性を回避できない。

 また、UDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)における下記の裁定では、 申立人の権利を認めている。

 以上から、申立人は、本件ドメイン名が、 以前から申立人が使用していた商標と同一であると主張し、 その正当性の一応の証拠として(商標の)登録証明書を提出する。

(2)登録者は本件ドメイン名によって知られていない。 これまでのパネリストは一般的に、 WHOIS情報が係争ドメイン名と類似していない場合、 係争ドメイン名によって被申立人は知られていないと判断してきた。

 登録者は、 本件ドメイン名に関連する権利または正当な利益を有しておらず、 申立人といかなる形でも関連がない。 申立人は、登録者に代わっていかなる事業も行っておらず、 登録者との関係もない。 申立人は、登録者に対し、 本件ドメイン名を使用または登録申請するライセンスまたは権限を付与していない。

 本件ドメイン名は、 本件ドメイン名とは無関係の英語のウェブサイトにつながるが、 このウェブサイトはWordPressのテンプレートのようである。 運営者や当該ウェブサイトの目的に関する情報はない(添付書類5)。

 以上から、申立人は、 登録者が本件ドメイン名に関連する正当な利益を有していないと主張する。

(3)本件ドメイン名は、申立人の商標「COINTREAU」と同一である。 本件ドメイン名が登録された時点で、 登録者が申立人の特徴的なマーク「COINTREAU」を知らなかった可能性は低い(下記裁定参照)。

 登録者は、 申立人の商標を知りながら本件ドメイン名を登録しており、 申立人の商標との混同の可能性を生じさせることなく本件ドメイン名を使用することはできない。

 したがって、登録者は、本件ドメイン名を使用することにより、 商業目的で、登録者のウェブサイトもしくは場所、 またはそのウェブサイトもしくは場所にある製品もしくはサービスの出所、 スポンサー、提携もしくは推奨について、 申立人の標章と混同を生じる可能性を生じさせることにより、 インターネットユーザーをそのウェブサイトもしくはその他のオンライン上の場所に意図的に引き付けようとした。

 以上から、申立人は、 本件ドメイン名は悪意を持って登録されたと主張する。

(4)以上の理由から、申立人は、紛争処理パネルが、 本件ドメイン名の登録について、移転の裁定を下すことを求める。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

(1)本件ドメイン名の登録者について

 申立書では、 本件ドメイン名の登録者名は「株式会社クァントロYoshiteru Tamai」となっていて、法人名と個人名が続けて記載されており、 登録者名が明確ではなかった。

 この点、JPRSのWHOISで本件ドメイン名の登録情報を確認すると、 日本語の登録情報では、登録者は「株式会社クァントロ」、 組織種別は「株式会社」となっている(添付書類4)。 他方、英語での登録情報では、 登録者は「Yoshiteru Tamai」となっている一方、 組織種別は「corporation」となっている。

 属性型JPドメインである「CO.JP」は日本国内で登記を行っている会社が登録できるドメイン名であり、 個人は登録できないこと、WHOISの登録情報では、 登録者の組織種別は英語でも「corporation」となっていること、 「Yoshiteru Tamai」は日本語の登録情報にある登録者「株式会社クァントロ」の代表者として登録されている「玉井良輝」と同一人物と考えられること、 紛争処理パネルによる単純なインターネット検索によって参照できた「株式会社クァントロ」の(本件ドメイン名とは別のドメイン名を用いた)ウェブサイトでは、 会社名を「株式会社クァントロ」、 代表取締役を「玉井良輝」と記載していることといった事情を踏まえると、 本件ドメイン名の登録者は「株式会社クァントロ」と解すべきであり、 登録者もその意図であったと思われる。

 以上から、本件手続においては、 「株式会社クァントロ」を本件ドメイン名の登録者と扱うものとする。 ただし、裁定書上は、登録者の名称として、 「Yoshiteru Tamai」も括弧内に入れて付記する。

(2)同一または混同を引き起こすほどの類似性

 申立人は、上記4で述べたとおり、 商標登録第392652号(「COINTREAU」の文字商標)及び国際商標登録第1681554号(デザインされた「COINTREAU」の文字を含む。)を登録・保有している(以下、「本件登録商標」と総称する。添付書類2)。 したがって、申立人は、 本件登録商標について権利を有していると認められる。

 本件ドメイン名の「COINTREAU.CO.JP」のうち、 「JP」は国別コードで日本を示すトップレベルドメインであり、 「CO」は組織種別を示すセカンドレベルドメインであって、 いずれも特段の識別力を有するものではない。 したがって、 本件ドメイン名において識別力を有する要部は「COINTREAU」である。 当該部分は、申立人の本件登録商標の「COINTREAU」の文字と同一である。

 以上より、本件ドメイン名は、 申立人が権利を有する本件登録商標と混同を引き起こすほど類似していると認められる。

(3)権利または正当な利益

 登録者による本件ドメイン名の登録は2024年8月5日であり、 申立人の本件登録商標の登録日よりも後であることが認められる(添付書類3及び4)。

 申立人は、登録者に代わっていかなる事業も行っておらず、 登録者とは無関係であると主張しており、登録者も、 (本件ドメイン名とは別のドメイン名を用いた)自社のウェブサイトでは、 システム開発、WEBマーケティング、WEBコンサルティング、 事業企画、採用支援などを提供していると記載していることが認められ、 登録者のかかる事業は申立人の事業や商品と全く関わりがないことから、 申立人と登録者は取引関係その他の関係を有しないことが認められる。

 申立人が登録者に対して、 本件登録商標や本件ドメイン名を使用または登録申請するライセンスまたは権限を付与していることも考えがたく、 この点についての申立人の主張も認められる。

 また、本件ドメイン名を使用したウェブサイト(以下、 「本件サイト」という。)は、左上に本件登録商標の「Cointreau」の表示があるほかは、 WordPressのテンプレートのままのようであり、 内容も登録者の事業とは全く無関係であることから(添付書類5)、 登録者が自社のサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名を使用しているとは認めがたい。

 さらに、紛争処理パネルによる単純なインターネット検索によれば、 登録者が設立されたのは2024年5月であり、 登録者により本件ドメイン名が2024年8月5日に登録されたが、 未だ登録者が本件ドメイン名と同一の名称で一般に認識されている事実も認められない。

 これに対し、登録者は答弁書を提出せず、 本件ドメイン名に関連する権利または正当な利益を有していることについて主張せず、 申立人の立証に対する反証を行わなかった。

 以上から、 登録者が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有するとは認められない。

(4)不正の目的での登録または使用

 申立人の本件登録商標は、 カクテルまたは菓子作りに用いられる、 オレンジの皮から作られる申立人のリキュールを示すものとして強い識別力を有し、 日本及び世界で周知であることは紛争処理パネルに顕著な事実である(添付書類1及び2、 申立人の主張の全趣旨)。 「Cointreau」は、Merriam-Webster辞書(オンライン版)では、 「Cointreau」という商標として掲載され、 「used for a sweet colorless orange-flavored liqueur」と説明されており、 研究社新英和中辞典(オンライン版)では、 コアントロー《オレンジの香りのする甘口のリキュール》と説明されており、 いずれも申立人のリキュール「COINTREAU」を指すことは明らかである。 また、申立人が引用するWIPO Case No. DME2019-0004:Cointreau v. Erwin Kurniawan, THIS DOMAIN IS FOR SALE <cointreau.me>(2019年7月11日裁定)、CAC Case No.100552:COINTREAU v. Cointreau <sing-cointreau.com>(2013年3月20日裁定)、及び、 CAC Case No.100708:COINTREAU v. Telnet Marketing <bitercointreau.info>、<cointreaudrogues.info>、 <cointreaupyroxene.info>(2014年1月3日裁定)においても、 「COINTREAU」の商標が周知であることが認定されている(CAC Case No.100552は、「日本でも」周知であったと認定している。)。

 登録者による本件ドメイン名の登録は2024年8月5日であるところ、 本件登録商標は、上記のとおり、 遅くとも本件ドメイン名が登録された時点では日本及び世界において周知であったと認められる。 登録者は本件登録商標にアクセスすることが容易な状況にあったと認められるだけでなく、 本件登録商標は申立人の創業者のフランス語の名字に由来しており、 一般的に使用する用語とは言えないことから、 登録者が本件登録商標を知らず独自に本件ドメイン名を創造したとは考えにくい。 これらの事情から、登録者は、 既に周知であった本件登録商標を認識した上で、 本件ドメイン名を登録したことが推認される。

 また、本件サイトは、 左上に本件登録商標である「Cointreau」の表示があるほかは、 WordPressのテンプレートのままのようであり、 その内容も建築家や設計事務所のウェブサイトのサンプルのようである。 登録者の本件サイトの使用目的は不明であるが、 登録者は本件ドメイン名とは別のドメイン名を用いた自社のウェブサイトを既に保有しており、 登録者が本件ドメイン名を自らの事業目的で用いているとは認めがたく、 本件サイトの内容も登録者の事業との関連性は認められない。

 さらに、登録者は答弁書を提出せず、 不正の目的で登録または使用していないことについて主張せず、 申立人の立証に対する反証を行わなかった。

 以上に挙げた事情を総合的に考慮すると、 本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、 使用されていると認めざるを得ない。 なお、申立人が引用する前掲CAC Case No.100552及びCAC Case No.100708は、 対象ドメイン名は登録者によって使用されていなかったが、 登録者は強い識別力があり周知であった申立人の登録商標を認識した上で対象ドメイン名を登録したことを推認または認定し、 登録者が反論等を行わなかったことも考慮して、不正の目的を認定している。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録された本件ドメイン名「COINTREAU.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 本件ドメイン名「COINTREAU.CO.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年12月22日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    小山 隆史

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下、「センター」という。)は、 2024年10月17日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、 2024年10月22日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、 2024年10月22日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年10月22日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2024年10月24日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2024年10月24日に補正書類を受領し、 2024年10月25日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年10月31日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2024年10月31日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年10月31日)、 答弁書提出期限(2024年11月29日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年12月2日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、 1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2024年12月3日に弁護士 小山 隆史を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年12月3日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年12月23日)を通知した。 パネルは、 2024年12月4日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2024年12月22日に審理を終了し、裁定を行った。