事件番号:JP2024-0021

裁定

申立人:
(名称)株式会社NTTドコモ
(住所)東京都千代田区 ●(省略)●
代理人:
弁理士 網野友康
弁理士 網野誠彦
登録者:
(名称)ドメインプライバシー有限責任事業組合
(住所)東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下「本パネル」という)は、JPドメイン名紛争処理方針(以下「方針」という)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「規則」という)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「HOTSPOT.NE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名は「HOTSPOT.NE.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。なお、ドメイン名登録照会に対する通知の割当表記に従う。)である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 当事者の主張

 当事者の主張をまとめると、以下のように整理される。

a 申立人

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

 ア 申立人について

 申立人は、日本電信電話株式会社の完全子会社であり、日本最大手の移動体通信事業者である。

 申立人は、2023年7月1日、エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社を吸収合併しており(履歴事項全部証明書)、同社が保有していた下記の登録商標(以下「本件登録商標」という)を一般承継した(甲2、商標法第35条、特許法98条1項1号)。


登録番号  4539387号
商  標  ホットスポット
区  分 38類(平成8年法)

以上


イ 登録者について

 現登録者は、Whois登録者情報非表示設定機能を利用しているため(甲1の1)、申立時において氏名不明として特定するが、その登録担当者及び技術担当者の所属組織がドメインプライバシー有限責任事業組合であり(甲1の2、3)、現登録者は同有限責任事業組合であると推測される(甲2)。

 ドメインプライバシー有限責任事業組合は、高下誠治及び有限会社Takaエンタプライズを組合員とする登録有限責任事業組合であって(甲16)、法人格を有さない。

ウ 本件ドメインについて

 申立人が移転を求める「HOTSPOT.NE.JP」(以下「本件ドメイン」という)の属性型JPドメインと同一のドメイン名のドメイン(以下「前ドメイン」という)は、記録が残る限り、2008年4月3日までには、ネットワークサービス名を「Hotspot Network Service」として登録されており(甲6)、現在は申立人の完全子会社であるNTTコミュニケーションズ株式会社が、遅くとも、2002年5月29日から同社が当時提供していた無線LANサービス「ホットスポット」のためのウェブサイトとして運用を開始し(甲5)、同社が同サービスを提供していた2013年7月31日までは同ウェブサイトを運用してきたものであり(甲8)、同サービス終了後も、早くとも、2022年2月18日まで将来のウェブサイト用のため保有管理されてきた(甲9)。

 2022年4月30日に前ドメインが放棄された後、2022年9月1日、本件ドメインが登録されており(甲10)、当時の登録担当者が前掲高下誠治(甲14)、所属組織が前掲有限会社Takaエンタプライズである(甲15)。

 2024年5月3日に本件ドメインの登録担当者が「ドメイン アドミン」との仮名と考えられる氏名に変更されたが(甲12)、所属組織は前記有限会社Takaエンタプライズのままであって、電話番号も連絡先(info@takaenterprise.com)も現在と同一だったものであるから(甲1の2、甲14)、本件ドメインは、登録時の登録者は同有限会社Takaエンタプライズとしてなされ、現登録者と推測されるドメインプライバシー有限責任事業組合に変更されたものの、実質的に同一の主体と考えられる。

 本件ドメインは、遅くとも、2022年9月13日から、ドメイン販売のためのサイトのドメインとして使用され(甲11)、遅くとも、2024年5月22日から、過去にNTTコミュニケーションズ株式会社が無線LANサービスを提供していた当時のウェブサイトを完全コピーしたものと思われるサイトのドメインとして使用されていた(甲12)。

エ 対比

 本件ドメインのドメイン名(以下「本件ドメイン名」という)は「HOTSPOT.NE.JP」であるところ、ファーストレベルドメイン及びセカンドレベルドメインである「.NE.JP」は、日本でネットワークサービスを提供する業者向けのドメインであることを表す部分であり識別力を有しない。

 したがって、本件ドメイン名の要部はサードレベルドメインである「HOTSPOT」である。

 そして、この「HOTSPOT」は、比較的平易な英単語である「HOT」(ホット)と「SPOT」(スポット)を組み合わせたものと容易に理解することができることから、本件ドメイン名の要部は「ホットスポット」と称呼されるのが自然である。

 一方で、本件登録商標は「ホットスポット」の文字を片仮名にて書してなることから、「ホットスポット」の称呼が生じる。

 以上の通り、本件ドメイン名の要部である「HOTSPOT」と本件登録商標である「ホットスポット」は、「ホットスポット」の称呼が共通することから、両者は混同が生じるほど類似していることは明らかである。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

 前掲のとおり、登録者の氏名は不明であるが、個人の場合、その氏名と本件ドメイン名とが一致する可能性は極めて低い。

 登録者と推測されるドメインプライバシー有限責任事業組合も、本件ドメイン名と一致するものではない。

 本件ドメイン名と同一の称呼を有するわが国の登録商標は、本件登録商標以外に存在するが、個人がこれを保有しているものはなく(甲4)、また、ドメインプライバシー有限責任事業組合も法人格を有さないことから、商標権者にはなれない。

 申立人は、第三者に対して、本件登録商標やドメイン名の使用を許諾することはないし、ドメインプライバシー有限責任事業組合に使用許諾した事実もない。

 申立人が調べる限り、登録者と推測される「ドメインプライバシー有限責任事業組合」が本件ドメイン名の名称で一般に認識されている事実は確認できず、また、本件ドメインの使用状況を考慮すると、登録者は商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うため本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとはいえず、本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているともいえない。

 したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

① 方針4条b(iv)該当性について

 過去、無線LANサービス「ホットスポット」のため前ドメインを運用していたNTTコミュニケーションズ株式会社は、申立人の親会社である日本電信電話株式会社の完全子会社であったものであり、現在は、申立人の完全子会社である。

 また、前記のとおり、2024年5月3日に登録担当者等が変更されているとはいえ、登録者は実質的に同一主体と考えられる。

 このような中、2022年9月13日から、本件ドメインはドメイン販売のためのサイトとして使用されており、登録者に著名なNTTグループが提供していたサービスに使用されていたドメインを取得して転売するといった商業上の利益を得る目的や誤ってサイトを訪れるものを誘引しようとする不正の意図が強く推認できる。

 また、前記のとおり、登録者は、登録担当者を変更後、遅くとも、2024年5月22日から、以前のNTTコミュニケーションズ株式会社が提供していたウェブサイトを完全にコピーしたサイトに本件ドメイン名を使用している。

 同サイト内のリンクは、申立人が調査した限り、有害な無関係なリンク先にする構成にはなっていないようであるが、少なくとも、このようなサイトに使用すべき合理的な理由はなく、NTTコミュニケーションズ株式会社の過去のサイトを認識して、その見かけをそのまま流用しており、消費者を誤認混同させているといえる。

 さらに、今後、アフィリエイトのためのリンクを作成したり、全く異なる内容のウェブサイトに変更したりして、誤ってサイトを訪れたユーザーから商業上の利益を得ようとする蓋然性は非常に高いものと考えられる。

また、登録者は、下記の通り、本件ドメイン名をウェブサイトに使用するためのAレコード(IPアドレス)を設定しているだけではなく、Eメールに使用するためのMXレコードやTXTレコード(SPFレコード)も設定している。

【レコード確認結果】※2024年10月21日調査時点

hotspot.ne.jp. 0 IN A 172.67.213.43

hotspot.ne.jp. 0 IN A 104.21.37.207

hotspot.ne.jp. 0 IN MX 0 _dc-mx.6acfeb1a95b2.hotspot.ne.jp.

hotspot.ne.jp. 0 IN TXT "v=spf1 a mx ip4:185.175.59.111 -all"

 本件ドメイン名を使用して、実際にeメールが送られているかどうかは定かではないが、もしeメールが送られる場合、消費者に誤認混同その他の混乱を生じさせることは明らかである。

 これらのことが生じた場合には、申立人も属するNTTグループ全体にとって多大な不利益が生じることとなる。

 なお、現状のウェブサイトの使用はNTTグループ各社の登録商標や商品等表示などを無許諾で使用するものであり、商標権侵害や不正競争行為にも該当し得ると考えられる。

 以上のとおりであるから、登録者による本件ドメイン名の使用は、「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」(方針4条b(iv))に該当することは明らかである。

② 方針4条b(iv)該当性について

 本件ドメイン名の2022年9月1日時点での登録者は「有限会社Takaエンタプライズ」で、2024年5月3日時点での登録者は「ドメインプライバシー有限責任事業組合」であると推測できるが、両者は実質的には同一視できることは前述のとおりである。

 そして、「有限会社Takaエンタプライズ」は、以下に示す事案の通り過去に複数回、申立人を含んだ他人の登録商標を含むドメインを登録している経緯がある。

JP2024-0010:「SGLAWSON.JP」

JP2024-0004:「DOCOMO-1-1.JP」

JP2023-0013:「COCOSTORE.JP」

JP2023-0002:「YOMIURI-CG.JP」

JP2022-0007:「MISSTREAT.JP」

 したがって、「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき」(方針4条b(ii))にも該当する。

③ 小結論

 以上、本件ドメインが、不正の目的で登録または使用されていることは明らかである。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定

(1)本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について

 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。

 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

 そして、方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること(第1要件)

 (2) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(第2要件)

 (3) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(第3要件)

(2)当事者

 事案に鑑み、当事者についての判断を示す。

 まず、申立人が、本件登録商標の商標権者であることは、提出された甲2号証及び履歴事項全部証明書より、これを認めることができる。

 次に、登録者については、日本知的財産仲裁センター(以下「本センター」という)が後記手続で行った照会に対して2024年11月1日付けで送付されたドメイン名登録照会に対する通知に基づき、登録者名がドメインプライバシー有限責任事業組合と認める。

 同有限責任事業組合は、高下誠治氏及び同氏を職務執行者として指定する有限会社Takaエンタプライズを組合員とする登録有限責任事業組合であり(甲16)、高下誠治氏は有限会社Takaエンタプライズの代表取締役である(甲15)。

 有限責任事業組合は、有限責任事業組合に関する法律(以下「LLP法」という)第1条において、共同で営利を目的とする事業を営むための組合契約とされ、法人格を有さないが、同法第4条に基づく組合契約書に従い運営され、同法第20条により組合員財産と組合財産とが分別管理されていることから、民事訴訟紛争において権利能力なき社団として(民訴法第29条)、広く訴訟当事者能力が認められている。

 ファーストレベルドメイン及びセカンドレベルドメインを「.NE.JP」とする本件ドメイン名については、株式会社日本レジストリーサービス(以下「JPRS」という)が定める「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則」の別紙1「属性型地域型JPドメイン名の種類」「1.6 NE.JPドメイン名」「(2) その他の要件」として、「・ネットワークサービスを提供する組織は、日本に在住する個人または日本国法に基づいて設立された法人であること。」を要するとしているが、これに準ずるものとして、所謂、LLPドメインが認められているものであり、本件ドメイン名紛争の登録者をドメインプライバシー有限責任事業組合と認めることができる。

 この点、本日本知的財産仲裁センターにおいても、登録された登録者とこれに利害関係を有する者の内、いずれを登録者とみるかについて、JP2012-0003:HANKYU-JUTAKU.JP事件の判断があり、ドメイン名紛争処理については、その方針第1条に従い、JPRSにドメイン名を登録した者を登録者とみることになる。

(3)第1要件

 

ア 登録者の本件ドメイン名

 前記のとおり、本センターのドメイン名登録照会に対する通知により、登録者に本件ドメイン名が割当てられている事実を認める。

イ 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示

 前記のとおり、申立人は、その申立書において、指定役務区分38類に「ホットスポット」の本件登録商標を有している。

ウ 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

(ア)基準

 第1要件における同一または混同を引きおこすほど類似していることの判断手法について、本パネルは、ドメイン名がサイバー世界での標識であり、RFC等の規程に従い運用される標識である以上、申立人商標とドメイン名の表示それ自体を端的に見比べ、ドメイン名の表示の構成に申立人の「商標その他表示」が含まれるか、またはその特徴的部分が含まれているか、ドメイン名のその余の構成に特徴的部分が含まれて両者を区別するこが可能であるか否かをもって、同一または誤認を惹起するだけの類似性があるかを客観的に定めることを本則として判断する。

 ”WIPO Overview 3.0” 1.7において、誤認を惹起するほど類似するか否かについては、ドメイン名と関連する商標のテキスト部分との対比観察によることが示されており、ドメインが人の手により入力、認識されるものである以上、音声、翻訳等の対比も肯定されている(”WIPO Overview 3.0” 1.7及び1.14)。

 以上の考え方は、外観、称呼、観念の各要素の対比と総合判断により客観的に類否判断を示す多くの裁決例に採用されてきた考え方と共通である。

(イ)本件登録商標と本件ドメイン名との対比

 本件ドメイン名のトップレベルドメインである「.JP」部分、及びセカンドレベルドメインである「.NE」部分は、IANAを承継したICANNが定めるラベルであり、対比の対象ではなく、「HOTSPOT」部分だけがドメイン紛争の対比の対象である。

 本件ドメイン名は、「HOT」と「SPOT」という比較的平易な英単語を連続して表記してなるものであり、片仮名表記の本件登録商標と外観において異なると言えるが、その日本語読みは、「ホットスポット」となり本件登録商標の称呼と同一であって、相違がない。

 その意味するところも、熱い場所、ホットなスポットといった、通常のその英文表記より想起される以外に、連続表記から特別の観念が生じるところもなく、本件登録商標との間に観念上の相違があるとも認められない。

 したがって、本件登録商標と本件ドメイン名とは混同を引き起こすほど類似しており、第1要件を充足することは明らかである。

エ 第1要件の結論

 以上、本パネルは、本件ドメイン名(HOTSPOT.NE.JP)は、申立人の本件登録商標と混同を引き起こすほど類似であり、第1要件を充足すると判断する。

(4)第2要件

ア 第2要件に関する方針及び解説の規定

 第2要件の「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」については、判断の統一性をJP-DRP研究会がとりまとめたJP-DRP解説(2008年3月)(以下「解説」という)Ⅲ3.(3)は、申立人に主張・立証が求められる事項として、

(i) 登録者の氏名・法人名とドメイン名の不一致

(ii) ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在

(iii) 当該ドメイン名に関してのライセンスの不存在

 を例示している。

  他方、方針第4条c.は、登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることの証明として、

(i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準備をしていたとき

(ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき

(iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき

 を例示としてあげている。

イ 第2要件の充足性に関する判断

 申立人の申立書にあるとおり、登録者の組織名は本件ドメイン名とは一致せず、登録者及び自然人である個人が、本件ドメイン名と称呼を共通にする日本国登録商標は存在せず、申立人が登録者に本件登録商標のライセンスを付与した事実もないと認めうる一方、登録者に本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有すると認める特段の事情は認められない。

ウ 第2要件の結論

 以上、本パネルは、登録者に本件ドメイン名(HOTSPOT.NE.JP)に関する権利または正当な利益を有しないものとして、第2要件を充足すると判断する。

(5)第3要件

ア 第3要件における判断基準

 第3要件は、「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」であり、登録時または使用時のいずれかにおいて不正の目的で登録または使用されたものというのが要件である。

 方針第4条b.は、以下の事情がある場合は、ドメイン名の登録または使用は、不正の目的であると認めなければならないとされている。

(i) 登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき

(ii) 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき

(iii) 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録しているとき

(iv) 登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき

イ 登録者とその組合員との実質的な主体の同一性

 まず、議論の出発点として、申立人の申立書にあるとおり、登録者であるドメインプライバシー有限責任事業組合とその組合員である高下誠治氏及び同氏を職務執行者として指定する有限会社Takaエンタプライズとの実質的な主体の同一性を認めることができるかを検討する。

 申立人に関する認定と同様、登録者とその組合員との関係が明確であるだけでなく、登録担当者が属する組織は、有限会社Takaエンタプライズであって、登録者の[登記地住所]も、有限会社Takaエンタプライズと同一場所であり(甲15、16)、その連絡先のメールアドレスも同社を示すものと一応判断ができる。

 申立人が主張するように登録時登録者が有限会社Takaエンタプライズであったとまでは認定できないものの、両者がその活動を共通にし、評価を共通にする主体の実質的な同一性は肯定できるものである。

 当該観点から検討した場合、本件にあっては、

① 方針第4条b.(i)に係る事項として、対価は不明であるものの、本件ドメイン名は登録直後から売却対象のサイトで利用されていたこと(甲11。)、

② 方針第4条b(ii)に係る事項として、有限会社Takaエンタプライズと思われる登録者が過去複数回にわたり本センターのドメイン名紛争での登録者であったこと(申立人指摘の各事例)、

③ 方針第4条b(iii)に係る事項として、現在、登録者は本件ドメインの下での独自のウェブサイトを開設していないとはいえ、過去、本件ドメインがNTTコミュニケーションズ株式会社のウェブサイトをコピーしたサイトを開設していたこと(甲12)

④ 方針第4条b(iv)に係る事項として、単なるウェブサイトのためのAレコード(IPアドレス)だけではなく、eメールの認証に使用するためのMXレコードやTXTレコード(SPFレコード)を設定しており、過去に申立人が属するNTTグループが運営していた無線LANサービスの名称が一定程度現在も浸透していると判断できる中、将来における消費者の誤認混同が生じることが懸念されること(申立人指摘の登録レコード)。

 の各事実が認められる。

 第3要件は、登録時または使用時のいずれかの時点で認定される要件であり、以上の各事実に照らせば、本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることは明らかである。

ウ 第3要件の結論

 したがって、本パネルは、登録者の本件ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されているものと認定し、第3要件を充足すると判断する。

(6)結論

 以上の認定事実に照らして、本パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名「HOTSPOT.NE.JP」が申立人の本件商標と実質同一であり、登録者が本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されているものと判断する。


 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「HOTSPOT.NE.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

2025年1月17日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    小 池  眞 一

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2024年10月31日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年10月30日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2024年11月1日にJPRSに登録情報を照会し、2024年11月1日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、2024年11月1日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年11月7日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2024年11月7日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年11月7日)、答弁書提出期限(2024年12月5日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2024年12月6日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2024年12月12日に弁護士 小池 眞一を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2024年12月12日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年1月8日)を通知した。パネルは、2024年12月13日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)2025年1月8日、申立人及び登録者に対し電子的送信により、裁定日を2025年1月17日と延長する旨を通知した。

(9)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年1月17日に審理を終了し、裁定を行った。