事件番号:JP2024-0023

裁定

申立人:
名称 Fiskars Finland Oy Ab
住所 ●(省略)●Billnäs, Finland
代理人:
弁護士 相良 由里子
登録者:
名称 iittalashop.jp
住所 Shibuya-ku ●(省略)●
代理人:
なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「IITTALASHOP.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「IITTALASHOP.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、1649年に創業されたフィンランドの企業で、 デザイン主導のブランドを展開するグローバル企業であり、 2007年に「IITTALA」ブランドを買収して以降、 ロイヤルコペンハーゲンや、ウェッジウッド、ロイヤルドルトン、 などのブランドをグループ傘下に有している(甲第1号証)。

 「IITTALA」は、 1881年にイッタラ村で創業された食器などインテリアデザインを専門とするフィンランドの企業であり、 申立人は「iittala.jp」のドメイン名のもとで、 公式オンラインショップの運営を任せて(甲第2号証)おり、 日本においても人気を博している。

 一方、登録者は、 iittalashop.jpのドメイン名を2019年12月1日に登録している。

 登録者が上記ドメイン名で運営するウェブサイトは、 「ビーベット(beebet)徹底解析ブログ」(甲第10号証)であり、 オンラインカジノへ誘引するリンクが張られている(甲第13・14号証)。

5 当事者の主張

a 申立人

申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

 申立人は、「IITTALA」ブランドに関し、日本で、 ①「iittala」、②「イッタラ/iittala」、③図+iittala、 ④図+iittalaの登録商標を有しており(甲5~8号証)、 「iittala.jp」ドメインの下、 公式オンラインショップを運営させている(甲第2号証)。

一方、本件紛争に係るドメイン名は、 本件登録商標「iittala」に「shop」を付したうえで、 「.jp」を付したドメイン名である。 本件ドメイン名中、 「.jp」の部分は国別コードの日本を意味するトップレベルドメインであり、 類否判断において考慮されるべきではない。

 また、「iittalashop」のうち「shop」は「店」「店舗」の意味を有する、 非常に平易な英単語に過ぎないから識別力はないし、 本件ドメイン名の要部「iittala」部分は、 申立人の周知な商標と完全に同一である。

 よって、本件ドメイン名は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似していることは明らかである。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

 本件ドメイン名のもとで登録者が運営するウェブサイトは「ビーベット(beebet)徹底解析ブログ」と称しており(甲第10号証)、 運営元は「ワンダーカジノ専門ブログ」であり(甲第11号証)、 いずれも、「IITTALA」の表記を一切含まない名称である。

 当然のことながら、 申立人が登録者に「IITTALA」の表記の使用を許諾したこともなく、 昨年12月1日に同ウェブサイトの「お問い合わせ」のフォームを通じてドメイン名の使用の中止を求めたが(甲第12号証)、 登録者から、関係する権利または正当な利益を有している旨を主張する反論は一切なされなかった。

 したがって、登録者は、 当該ドメイン名についての権利または正当な利益を有していない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 「IITTALA」ブランドは1881年に創業されたブランドであり、 上記の通り、日本においても1971年には「iittala」の商標を登録し、 現在に至るまで、 「IITTALA」等の文字商標やロゴの商標登録を行うだけでなく、 「iittala.jp」のドメイン名で公式オンラインショップを運営させるなど、 商標権等を使用してビジネスを行い、周知性を獲得している。

 登録者は、 申立人の登録商標を含む本件ドメイン名が登録されていないことを奇貨として、 2019年12月1日に本件ドメイン名を登録し、 当該ドメイン名に係るウェブサイトにおいて、 オンラインカジノの解説記事を多数掲載してオンラインカジノへ誘引し、 複数個設けられたボタン(甲第13号証)は、 サイトを利用するためのアカウント作成画面に誘導している(甲第14号証)。

 これらの事実関係から、登録者は、本件ドメイン名を利用し、 申立人と関係があるかのように誤認混同を生ぜしめ、 オンラインカジノのサイトへ誘導することで商業上の利得を得ていることが容易に推測される。 よって、登録者の行為は、処理方針4条b(iv)に該当する。

 また、登録者が、違法なオンラインサイトへ誘引するサイトにより、 申立人が当該カジノと関係があるかのような誤認を招き、 申立人の信用を毀損し、ブランドの価値を汚染し、 円滑なビジネスを妨げるものであるから、登録者の行為は、 処理方針4条b(iii)にも該当する。

 したがって、登録者の本件ドメイン名が、 不正の目的で登録又は使用されていることは明らかである。

 よって、ドメイン名は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されているため、 申立人は移転の裁定を下されることを求める。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第4条a(ⅰ))については、 以下の通りである。

 申立人は、1649年に創業したフィンランドの企業であり、屋内および屋外の生活を彩るデザイン主導のブランドを展開するグローバル企業であり、2007年に「IITTALA」ブランドを買収して、そのグループ傘下にはロイヤルコペンハーゲン、ウエッジウッド、ロイヤルドルトン等を有している(甲第1号証)。

 さらに申立人は、「IITTALA」ブランドに関し、日本において、 ①「iittala」(登録第919931号、1971年8月9日登録)、 ②「イッタラ/iittala」(登録第5282170号、2009年11月20日登録)、 ③図(黒い円の内部に白抜きのi )+iittala(国際登録第1196049号、 2016年2月5日登録)、 ④図(黒い円の内部に白抜きのi )+iittala(国際登録第801469号、 2004年8月20日登録)の4件の登録商標を有しており(甲5~8号証)、 「iittala.jp」のドメイン名で公式オンラインショップを運営させている(甲第2号証)。

 一方、登録者の本件ドメイン名「iittalashop.jp」は、 国別コードで日本を意味するトップレベルドメインである「.JP」を除くと、 「iittalashop」の文字列より成る。

 そして、「iittalashop」のうち「shop」部分は「店」、 「店舗」といった意味を有する英語であり、 ドメイン名として使用される場合にはオンラインショップ等容易に想起させ、 実際にもそのような使用例が多数見られる。 また、「.com」等のgTLDに加え、 新gTLDとして「.SHOP」がECや商売関係のドメインとして採用された事もあり、 shop部分に識別力は認め難い。

 そうすると、 本件ドメイン名の要部は「iittala」にあると認められるところ、 当該部分は申立人の登録商標と同一である。

 よって、本件ドメイン名は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似していることは明らかである。

 なお、「Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy(UDRP)」の「WIPO Overview 3.0」の解説には「当該商標が係争中のドメイン名の中で認識可能である場合、 他の文言(記述的、地理的、侮蔑的、意味がない、 その他の場合)が追加されたとしても、 第1要件の「混同を引き起こすほど類似する」、 という認定が妨げられるものではない。」との記載がある。

 上記に鑑みれば、 「iittala」に「shop」が付加された本件ドメイン名の場合でも、 「SHOP」の存在により類似の認定を妨げられるものではない。

 さらに、今回の件と同旨の裁定例として、 JP2021-0003<venosanshop.jp>、 JP2012-0012<chunluushop.jp>、 JP2021-0010<mizkan-shop.jp>があり、 WIPO CaceにおいてもD2024-0184<axa-shop.vip>、 D2023-3850<thepelicanshop.com>等、 多くのケースが認められる。

(2)権利または正当な利益

 登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処理方針第4条a(ⅱ))については、以下の通りである。

 方針第4条a(ⅱ)に関しては、同条cにおいて、(ⅰ)登録者が、 当該ドメイン名に係わる紛争に関し、 第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、 または明らかにその使用の準備をしていたとき、(ⅱ)登録者が、 商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、 当該ドメイン名の名称で一 般に認識されていたとき、(ⅲ)登録者が、 申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、 または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき、 という三つの事情が列挙されており、 これらの事情のうち一つでも認められれば、 登録者に当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認めなければならない、 との記載がある。

 この点、 本件ドメイン名のもとで登録者が運営するウェブサイトは「ビーベット(beebet)徹底解析ブログ」と称しており(甲第10号証)、 また、同ウェブサイトの「運営者情報」によれば、 運営元の名称は「ワンダーカジノ専門ブログ」と記載されており(甲第11号証)、 「iittala」の表記は一切使用されていない。

 そうすると、登録者が紛争処理機関から通知を受ける前に、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を正当な目的をもって使用し、 その使用の準備をしていたとは認められないから、 第4条c(i)には当たらない。

 また、上に述べた状況での使用であるため、 登録者が当該ドメイン名の名称で一 般に認識されていたものとも認められず、 第4条c (ⅱ)にも当たらない。

 さらに、 登録者は本件ドメイン名のもとで「ビーベット(beebet)徹底解析ブログ」を運営し、 運営元の名称も「ワンダーカジノ専門ブログ」であり、いずれも、 「IITTALA」の表記を一切含まない。 また、申立人が登録者に「IITTALA」の表記の使用を許諾したこともないため、 第4条c(ⅲ)にも該当しない。

 上述の様に、本件商標の使用は、 第4条cのいずれの事情も認められないため、 本ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有しているとは認められない。

 また、認定を覆すためには登録者自身が本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有する旨を主張すべきところ、 登録者は答弁書を提出しておらず、 申立人が2024年12月1日に「お問い合わせ」のフォームを通じて、 ドメイン名の使用の中止を求めた(甲第12号証)際にも、 関係する権利または正当な利益を有している旨を主張するような反論は一切なされなかったのであるから、 権利又は正当な利益を有する登録であるとは考えることは適切でない。

(3)不正の目的での登録または使用

 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること(処理方針第4条a(ⅲ)については、以下の通りである。

 方針第4条a(ⅲ)に関しては、同条bにおいて、(ⅰ)登録者が、 申立人または申立人の競業者に対して、 当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、 当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録または取得しているとき、 (ⅱ)申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために登録者が当該ドメイン名を登録し、 当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき、 (ⅲ)登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録しているとき、(ⅳ)登録者が、 商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき、 という四つの事情が列挙されており、 これらの事情のうち一つでも認められれば、 登録者の当該ドメイン名は「不正の目的での登録または使用」されていることになる。

 この点、申立人は、 前述のとおり「iittala.jp」のドメイン名に係る公式オンラインショップを運営するなど、 それら登録商標を使用してビジネスを行い、 日本においても周知性を獲得している(甲第3・4号証)ところ、 登録者は、2019年12月1日に本件ドメイン名を登録したうえで、 本件ドメイン名に係るウェブサイトにおいて、 違法なオンラインカジノのやり方や出金方法等を詳細に解説する記事を多数掲載してオンラインカジノへ誘引するとともに、 具体的な記事の中で「ビーベットに今すぐ無料登録する!」というボタンを複数個設け(甲第13号証)、 当該ボタンによりオンラインカジノのサイトへのリンクを貼り、 これをクリックすると、 当該サイトを利用するためのアカウント作成画面に誘導するように作っている(甲第14号証)

 これらの事実関係から、登録者は、 申立人の周知な商標を含む本件ドメイン名を利用することで、 申立人と何らかの関係のあるサービスであるかのように誤認混同を生ぜしめ、 オンラインカジノへ誘導することで、 商業上の利得を得ていることが容易に推測される。 よって、登録者の行為は、処理方針4条b(iv)に該当する。

 したがって、登録者の本件ドメイン名が、 不正の目的で登録又は使用されていることは明らかである。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「IITTALA」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「IITTALASHOP.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2025年2月12日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
            単独パネリスト    久門 保子

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年11月18日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、 2024年11月19日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、 2024年11月19日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年11月19日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、2024年11月26日に補正(申立書の記載事項の修正)が必要と判断してその旨を申立人に通知した。

 センターは、2024年11月28日に補正書類を受領した。

 センターは、2024年12月5日に補正(代表者の資格を証明する公的証明書類の提出)が必要と判断してその旨を申立人に通知した。

 センターは、2024年12月9日に補正書類を受領し、 2024年12月11日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年12月16日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、 2024年12月16日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年12月16日)、 答弁書提出期限(2025年1月21日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者の住所に送付した通知は「あて名不完全で配達できません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年1月22日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2025年1月28日に弁理士 久門 保子を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年1月28日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年2月18日)を通知した。 パネルは、2025年1月28日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年2月12日に審理を終了し、裁定を行った。