事件番号:JP2024-0024
裁定
- 申立人:
-
JFEスチール株式会社(以下、「申立人1」という。)
(所在地)東京都千代田区 ●(省略)●
日本継手株式会社(以下、「申立人2」といい、 申立人1と併せて「申立人ら」と総称する。)
(所在地)大阪府岸和田市 ●(省略)● - 代理人:
-
弁理士 網野友康
同 網野誠彦 - 登録者:
-
Takaテコンドー有限責任事業組合
(所在地)東京都新宿区 ●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「JFE-PF.CO.JP」の登録を申立人2に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「JFE-PF.CO.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人1は、JFEホールディングス株式会社(以下、 「JFEホールディングス」という。)を持株会社とするJFEグループに属する鉄鋼メーカーであり(甲第6号証)、 JFEグループ全体では、23か国・地域、 117拠点で事業展開を行い、2023年度の売上高は、 5兆1746億円に及んでいる(甲第7号証)。
申立人2は、ガス、水道、 その他配管用継手及び建築・産業機械部品の製造等を行う株式会社であり、 もとは申立人1の連結子会社のうちの1社であり、 JFE継手株式会社との商号であったが、 申立人1と株式会社リケン(以下、 「リケン」という。)の間の2022年11月4日付株式譲渡契約に基づきその株式の一部がリケンに譲渡され(甲第2号証の1)、 2023年5月9日付でリケンの子会社となるとともに、 商号を現在のものに変更した(甲第2号証の2)。 もっとも、 申立人1も申立人2の株式の一部の保有を継続している(甲第3号証)。
本件ドメイン名については、 2003年3月25日から2023年8月31日まで申立人2が保有し(甲第8号証の1及び2)、 少なくとも2003年4月4日から2023年3月10日まで申立人2の自社ウェブサイトのドメインとして実際に使用されていたが(甲第9号証の1乃至3)、 2024年3月1日にJfepf Co., Ltd.により仮登録され(甲第13号証)、 同年8月13日に登録者名義で本登録された(甲第1号証の1)。
5 当事者の主張
a 申立人ら
申立人の主張は以下のように、整理できる。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
① 申立人及び申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示について
(i) 申立人1
- 申立人1の親会社であるJFEホールディングスは、 「JFE」の文字からなる登録商標として登録第4575380号、 登録第4742827号、登録第4793624号、 登録第4843557号及び登録第5767141号(以下、 「本件登録商標」と総称する。)を種々の区分で保有している。
- WIPO Overview 3.0によれば、 商標保有者の親会社を含む関連会社や独占的な商標ライセンスを受けた者は、 UDRPの下で、 申立てを行う資格について商標に対する権利を有するとみなされるとされ、 かつ実際に過去のJPドメイン名紛争処理の事例においても、 商標権者のグループ会社が申立人であっても当該申立人が当該商標権について正当な利益を有していると認められた事例がある。
- 「JFEグループ」の名称のうち当該グループを識別する主要な表示は「JFE」であり、 「JFE」の表示はJFEグループやグループに所属する企業を表す表示として一定程度の知名度を有していると考えるのが自然である。
- 以上より、 申立人1は本件登録商標及び「JFE」の表示について権利及び正当な利益を有している。
(ii) 申立人2
- 申立人2は、 本件ドメイン名を2003年3月25日から2023年8月31日まで申立人2が保有しており、 少なくとも2003年4月4日から2023年3月10日まで約20年にわたり自社ウェブサイトのドメインとして実際に使用していた。
- 申立人2の旧名称であるJFE継手株式会社の英文名称は、 「JFE Pipe Fitting Manufacturing Co., Ltd.」であった。
- 申立人2は、 JFEとPFの間にハイフンのない「JFEPF」という表示についても、 少なくとも2005年から2017年までの間、 パンフレットやカタログに略称として使用していた。
- したがって、 申立人2は「JFE-PF」及び「JFEPF」の表示について権利または正当な利益を有している。
② 登録者のドメイン名と申立人商標の類似性について
- 本件ドメイン名のファーストレベルドメイン及びセカンドレベルドメインである「co.jp」は、 日本で登記された企業であることを示す部分であり識別力を有しない。
- 本件ドメイン名のサードレベルドメインは「JFE-PF」であるところ、 これは「JFE」と「PF」を「-(ハイフン)」で結合した構成であり、 本件登録商標及び「JFE」の表示と全く同じ文字列である「JFE」を構成に一部に含んでいる。 さらに、「PF」はローマ字2文字よりなり何ら特別の意味合いを有しないものであることから、 サードレベルドメインの中で強い識別力を有するのは「JFE」の部分である。
- 本件ドメイン名のサードレベルドメイン全体である「JFE-PF」は、 申立人2が権利または正当な利益を有している「JFE-PF」と全く同じ文字列であり、 同じく申立人2が権利または正当な利益を有している「JFEPF」とは「-(ハイフン)」の有無の差を有するのみでほぼ同一である。
- 以上より、 本件ドメイン名は申立人らが権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似している。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 本件ドメイン名の登録者の名称は本件ドメイン名とは一致しない。
- 申立人らが調べる限り、 登録者が本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有している事実はなく、 本件ドメイン名と一致する登録商標の存在も確認できない。
- 申立人1の属するJFEグループは登録者に登録商標にかかる商標の使用やドメインの登録及び仕様を許諾しておらず、 本件ドメイン名についてライセンスをした事実も存在しない。
- 申立人ら以外が本件ドメイン名の名称で一般に認識されている事実は確認できず、 登録者が商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名又はこれに対応する名称を使用しているとは言えず、 本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、 または構成に使用しているとも言えない。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
① 処理方針4条b(iv)該当性について
- 申立人1が属する「JFEグループ」は、 粗鋼生産量日本第2位を誇る巨大な企業グループであり、 「JFE」の表示は「JFEグループ」やグループに所属する企業を表す表示として一定程度の知名度を有している。
- 申立人2は本件ドメイン名を2003年3月25日から2023年8月31日まで保有しており、 少なくとも2003年4月4日から2023年3月10日まで自社ウェブサイトのドメインとして実際に使用していた。
- 「JFEグループ」の周知性や、 申立人2が本件ドメイン名を手放した丸6か月後に実施されるドメインのリリース日が本件ドメイン名の仮登録の申請時期であることを考慮すると、 登録者が本件登録商標や「JFEグループ」の存在を知らずに本件ドメイン名を登録し使用しているとは考えられない。
- 現在、本件ドメイン名の転送先のウェブサイト(以下、 「本件ウェブサイト」という。)では、 「審査なしカードローンを探して三千里」と題してカードローンと審査時に関する情報を提供しているところ、 このウェブサイトはアフィリエイトとして稼働できる状態になっており、 登録者には本件ドメイン名を使用し本件ウェブサイトを運営することで収益を得る商業上の目的があると十分推認できる。
- 「JFE」の表示の知名度、 本件ドメイン名の登録の経緯及び使用状況を考慮すると、 登録者による本件ドメイン名の使用は申立人2のウェブサイトに訪れようと本件ドメイン名にアクセスする者を本件ウェブサイトに誘引しようとしていることを強く推認できる行為である。
- 登録者が本件ドメイン名を使用して本件ドメイン名と全く関連性のないウェブサイトを運営することについて合理的な理由はない。
- したがって、 登録者による本件ドメイン名の使用は処理方針4条b(iv)に該当する。
② 処理方針4条b(ii)該当性について
- 本件ドメイン名の登録者は「Takaテコンドー有限責任事業組合」であり、 技術連絡担当者は「有限会社Takaエンタープライズ」となっているところ、 組合員や主たる事務所に鑑み、 両者は実質的に同一主体と考えることもできる。
- 「有限会社Takaエンタープライズ」は過去に複数回他人の登録商標を含むドメインを登録している経緯がある。
- したがって、処理方針4条b(ii)にも該当する。
以上の理由から、本件ドメイン名につき、 申立人2へ登録移転の裁定がなされるべきである。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。 例外的な事情がない限り、 パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとされる(手続規則第5条(f))一方で、 処理方針第4条aは、 申立人に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。 そのため、仮に答弁書が不提出であったとしても、 パネルが申立書に基づき事実の認定等を行ったうえで裁定を下すことになる。 よって、以下各要件について検討する。
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
(i) 権利または正当な利益を有する商標その他表示
(ア) 申立人1
申立人1の親会社であるJFEホールディングスは、 「JFE」の表示について、本件登録商標(登録第4575380号、 登録第4742827号、登録第4793624号、 登録第4843557号及び登録第5767141号)を保有していることが認められる(甲5号証の1乃至5)。
本件においては、 申立人1の親会社の保有する登録商標をもって申立人1にとって「権利または正当な利益を有する商標その他表示」があると言い得るかは問題となり得る。 この点、申立人らの主張するようにWIPO Overviewにおいてこれが肯定されていると考えられることやJPドメイン名紛争においてもそのような状況下で申立人に親会社保有の登録商標について正当な権利を認めた事例があること(JP2023-0002「YOMIURI-CG.JP」)に加え、 申立人1の商号に当該登録商標同様の「JFE」が含まれており、 第三者による当該登録商標の無断での悪用等があった場合に事業に悪影響が生じる可能性が相当程度あることに鑑みれば、 申立人1にとって「JFE」の表示は「権利または正当な利益を有する商標その他表示」に該当すると判断する。
(イ) 申立人2
申立人2との関係では、 関連する登録商標に関する主張はなされていないほか、 現在の商号に本件ドメイン名との関連性を示唆する表示が含まれているとは認められない。
他方、 本件ドメイン名について申立人2が(a)2003年3月25日から2023年8月31日まで保有していたこと及び(b)少なくとも2003年4月4日から2023年3月10日まで自社ウェブサイトのドメインとして実際に使用していたことが認められる(甲第8号証の1及び2、第9号証の1乃至3)(なお、 パンフレットやカタログに「JFEPF」という表示を用いていた旨の申立人らの主張事実については、 提出された証拠からは認定できない。)。
上記はいずれも本件紛争前の事実の指摘にとどまり、 申立人らの主張においては、 過去のドメイン保有等が「権利または正当な利益」を基礎づけることの理由づけ等は含まれていないものの、 「権利または正当な利益を有する商標その他表示」の論点との関係では、 過去に相当期間本件ドメイン名を保有及び使用していた申立人2は、 商号の変更等があったとしても本件ドメイン名について正当な利益を有すると判断する。 これは、かつてドメインを保有していた者(A)が当該ドメインを放棄した後に次の登録者(B)が当該ドメインを使用する場合、 Aによるドメイン放棄前に当該ドメインを訪れたことがある等の理由で当該ドメインをAのものと認識する第三者(C)は、 Aによるドメイン放棄後も同様の認識に基づき当該ドメインにアクセスする可能性が否定できないところ、 Bによる当該ドメインの使用実態等によってはCのAに対する信用棄損につながる等してAに風評被害その他の損害が生じる可能性があると考えられるからである。
以上より、 申立人2との関係では本件ドメイン名が「正当な利益を有する表示」にあたると判断する。
(ii) 登録者のドメイン名と申立人商標等の類似性
(ア) 申立人1
上記のとおり申立人1が権利または正当な利益を有すると認められる表示は「JFE」であり、 本件ドメイン名のサードレベルドメインの一部と共通する。 そして、申立人らも主張するとおり、 本件ドメイン名のファーストレベルドメイン及びセカンドレベルドメインである「co.jp」は、 日本で登記された企業であることを示す部分であり識別力を有しないほか、 本件ドメイン名のサードレベルドメインである「JFE-PF」については「JFE」と「PF」を「-(ハイフン)」で結合した構成であり、 「PF」は特別の意味合いを有するとまで認めるのは困難であることから、 サードレベルドメインの中で強い識別力を有するのは「JFE」の部分と認められる。
したがって、 申立人1が権利または正当な利益を有すると認められる「JFE」の表示と本件ドメイン名は混同を引き起こすほど類似していると判断する。
(イ) 申立人2
上記(i)で論じたとおり、 申立人2は本件ドメイン名に対して権利または正当な利益を有しているところ、 これは登録者の保有するドメインと同一である。
以上より、登録者のドメイン名は、 申立人らがそれぞれ権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していると判断する。
(2)権利または正当な利益
第2要件である「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと」については、 JP-DRP解説(2008年3月)(以下「解説」という。)」Ⅲ3.(3)は、 申立人に主張・立証が求められる事項として、以下の各事項を例示している。
- 登録者の氏名・法人名とドメイン名の不一致
- ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在
- 当該ドメイン名に関してのライセンスの不存在
他方、処理方針第4条cは、 登録者がドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していることの証明として、 以下のような事情がある場合には登録者は当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していると認めなければならないとする。
- 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、 第三者又は紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品又はサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 当該ドメイン名又はこれに対応する名称を使用していたとき、 又は明らかにその使用の準備をしていたとき
- 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、 当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたと
- 登録者が、 申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、又は、 申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、又は公正に使用しているとき
以上に鑑み本件ドメイン名について具体的に検討するに、 まず解説Ⅲ3.(3)に例示される3点についてはいずれも認められる。 すなわち、(i) 登録者の氏名・法人名とドメイン名の不一致に関しては、 登録者の名称はTakaテコンドー有限責任事業組合であり、 本件ドメイン名とは無関係であるし、 (ii) 本件ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在、 (iii) 本件ドメイン名に関してのライセンスの不存在についても申立人らは証拠と共に主張しており(甲第11号証、第12号証)、 これに反する証拠は提出されていない。
また、処理方針第4条cとの関係でも、 証拠上登録者に関し上記いずれの事情を示唆する事情も認められない。
以上より、 登録者が本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有しているとは認められない。
(3)不正の目的での登録または使用
第3要件は、「登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録又は使用されていること」であり、 処理方針第4条bにおいては、以下の事情がある場合は、 ドメイン名の登録又は使用は、 不正の目的であると認めなければならないとされている。
- 登録者が、申立人又は申立人の競業者に対して、 当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、 当該ドメイン名を販売、貸与又は移転することを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録又は取得しているとき
- 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、 登録者が当該ドメイン名を登録し、 当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき
- 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録しているとき
- 登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイト若しくはその他のオンラインロケーション、 又はそれらに登場する商品及びサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイト又はその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき
本件では、 申立人らは上記のうち(iv)及び(ii)に該当すると主張しているので、 まずはこれらについて検討する。
① 処理方針4条b(iv)該当性
処理方針4条b(iv)は登録者によるドメイン名の使用について、 (a)商業上の利得を得る目的で、 (b)そのウェブサイト若しくはその他のオンラインロケーション、 又はそれらに登場する商品及びサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 (c)インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイト又はその他のオンラインロケーションに誘引するためであることが要件とされているので、 それぞれ検討する。
まず(a)との関係では、本件ドメイン名について、 遅くとも2024年4月16日頃から「https://mplace01.xsrv.jp/」に転送するためのドメインとして使用されていること(甲第14号証)、 転送先のウェブサイト(以下、「本件ウェブサイト」という。)では、 2024年9月30日時点で「審査なしカードローンを探して三千里」と題してカードローンと審査時に関する情報を提供していたことが認められる(甲第15号証)。 さらに、本件ウェブサイトの冒頭部分には申立人らが主張するようにad.doubleclick.netといったリンクが記載されており、 アフィリエイトとして稼働できる状態になっていたことが認められる(甲第16号証)。 このことからは、 登録者には本件ドメイン名を使用し本件ウェブサイトを運営することで収益を得る商業上の目的があったと認められる。
次に(b)との関係では、以下のとおり、 登録者が本件登録商標及び「JFEグループ」の存在並びに本件ドメイン名に関するこれまでの使用の事実を認識しつつ、 JFEグループや申立人2のサービス等と誤認混同を生じさせることを意図していたと認められる。
(x)申立人1が属する「JFEグループ」は23か国・地域、 117拠点で事業展開を行い、 2023年度の売上高が5兆1746億円と巨大な企業グループであることが認められるところ(甲第7号証)、 「JFE」の表示は申立人らの主張するとおり「JFEグループ」やグループに所属する企業を表す表示として少なくとも一定程度の知名度を有していると考えられる。
(y)申立人2は上記のとおり本件ドメイン名を2003年3月25日から2023年8月31日まで保有しており、 少なくとも2003年4月4日から2023年3月10日まで自社ウェブサイトのドメインとして実際に使用していたことが認められるところ、 本件ドメイン名の仮登録は、 申立人2が本件ドメイン名を手放した丸6か月後に実施されたドメインのリリース日である2024年3月1日に申請されており、 仮登録の申請を行った者が本件ドメイン名の以前の使用に関して認識していたことが強く推認される。 そして、 仮登録の申請名義は「Jfepf Co., Ltd.」となっており、 本登録の際の登録名義とは異なるが、 本登録が仮登録から6か月以内に行われており、 かつ甲第1号証の1における登録年月日が仮登録日と同様の2024年3月1日となっていることから、 仮登録の申請者は実質的に本登録の名義人と同一人物と認められる。
(z)このように知名度の高いグループの商標や以前当該グループに所属していた申立人2による本件ドメイン名の使用を知りつつ下記のように申立人らと無関係の目的に本件ドメイン名を使用することは、 JFEグループや申立人2のサービス等と誤認混同を生じさせることを意図しての行為と考えるのが自然である。
さらに、(c)との関係では、 登録者が本件ドメイン名を使用して本件ドメイン名と全く関連性のないウェブサイトを運営することについて合理的な理由はないことは申立人らの主張のとおりであるし、 「JFE」の表示の知名度、 本件ドメイン名の登録の経緯及び使用状況を考慮すると、 登録者による本件ドメイン名の使用は申立人2のウェブサイトに訪れようと本件ドメイン名にアクセスする者を本件ウェブサイトに誘引しようとしての行為であることを強く推認できる。
そして、 以上からは登録者が本件登録商標や「JFEグループ」の存在や、 本件ドメイン名に関するこれまでの使用の事実を認識しつつ、 商業上の利得を得る目的で、 申立人らのウェブサイトと誤認してそのウェブサイトを訪れる者を転送先のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用していることが強く推認されるところ、 登録者は何らの反論も行っていない。
したがって、 登録者による本件ドメイン名の使用は処理方針4条b(iv)に該当すると判断する。
② 処理方針4条b(ii)該当性
本件ドメイン名の登録者は「Takaテコンドー有限責任事業組合」であり、 技術連絡担当者は「有限会社Takaエンタープライズ」となっているところ(甲第1号証の1及び3)、 申立人らが主張するように、組合員や主たる事務所の同一性に鑑み、 両者は実質的に同一主体と考えるのが自然である。
そして、「有限会社Takaエンタープライズ」については、 過去に「DOCOMO-SYS.CO.JP」のドメインを登録し、 ドメイン名紛争JP2024-0008の結果登録を移転された経緯が認められる。 また、同じくドメイン名の移転裁定がなされたJP2024-0021「HOTSPOT.NE.JP」においても、 登録者の組合員の一人となっていることが認められる。
他方、 申立人らの主張するドメイン名紛争(JP2024-0010「SGLAWSON.JP」、 JP2024-0004「DOCOMO-1-1.JP」、 JP2023-0013「COCOSTORE.JP」、 JP2023-0002「YOMIURI-CG.JP」及びJP2022-0007「MISSTREAT.JP」)に関しては、 登録者はいずれも「Taka Enterprise Ltd.WHOISプライバシーサービス」となっており、 名称の類似性から本件登録者との関係がうかがわれはするものの、 両者が同一とまで断じるに十分な証拠はない。
以上の状況下で処理方針4条b(ii)の要件を充足するか、 具体的には、 (a)「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、 登録者が当該ドメイン名を登録し」又は(b)「当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき」のいずれかに該当するかにつき検討する。
まず(a)については、本件では、 申立人2が本件ドメイン名の登録を手放したことを契機に同ドメイン名を取得したことがうかがわれることは上記のとおりであり、 申立人2の商号変更も併せ考慮すれば申立人らには本件ドメイン名の使用の意図がなくなったものと推測するのは自然なことと考えられるから、 「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するため」に本件ドメイン名が登録されたと認定することは困難と言わざるを得ないと考える。
次に(b)については、 登録者が申立人以外に対して複数回の妨害行為を行っている場合を想定するものであるが、 上記で問題となっているうちの1件は本件の登録者と実質的に同一視可能な者が当該案件における登録者の組合員の一人となっていた事案であり、 「登録者が…行った」と評価し得るのは1件にとどまること、 また上記事案が「妨害」目的の事案であったとも即断できないことを踏まえれば、 こちらも要件を充足すると認定することは困難と考える。
したがって、処理方針4条b(ii)には該当しないと判断する。
とはいえ、 本件における登録者と同一視可能な者が登録者であった事案及び当該者が強く関与していることが伺われる登録者であった事案がJPドメイン名紛争の対象となり、 いずれも移転を命じる裁定が出されたという事実自体は本件における登録者が不正の目的を有していたことを強く示唆する事情と考えられる点、申し添える。
いずれにせよ、 本件では処理方針4条b(iv)に該当すると認められるため、 本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「JFE-PF.CO.JP」が申立人1が権利または正当な利益を有する「JFE」の表示と混同を引き起こすほど類似し、 かつ申立人2が権利または正当な利益を有するドメイン名と同一であり、 登録者が、 本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
そして、 申立人らはいずれも上記ドメイン名につき申立人2に移転することを求めているところ、 これを認めることを禁じる規則上の根拠は見当たらず、 実際に特定のドメイン名に関して複数の申立人が同一手続内で一方の申立人に移転することを求めてこれを認めた裁定例が複数存在する(JP2015-0007、 JP2016-0006、JP2017-0003、 JP2019-0009)ほか、 かつこれを認めることによる実質的な問題等は考え難い。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「JFE-PF.CO.JP」の登録を申立人2に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2025年3月3日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 卜部晃史
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年12月20日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年12月19日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、 2024年12月20日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年12月20日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2024年12月25日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2024年12月27日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2024年12月27日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年12月27日)、 答弁書提出期限(2025年2月3日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年2月4日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2025年2月10日に弁護士 卜部 晃史を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年2月10日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年3月4日)を通知した。 パネルは、 2025年2月12日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2025年3月3日に審理を終了し、裁定を行った。