事件番号:JP2024-0025
裁定
- 申立人:
-
(名称)東日本電信電話株式会社
(住所)東京都新宿区 ●(省略)● - 代理人:
- 弁護士 澤田 将史
- 登録者:
-
(名称)Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス
(住所)東京都新宿区 ●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「FLETS-MEMBERS.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「FLETS-MEMBERS.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
本件ドメイン名は、登録者により、 2024年7月1日に登録された(甲第1号証)。
申立人は、日本電信電話株式会社等に関する法律に基づき、 日本電信電話株式会社の完全子会社として、 東日本地域において地域電気通信事業を経営することを目的に設立された株式会社(特殊会社)である。
申立人は、 「フレッツ(FLET'S)」の名称を用いて2000年から「フレッツ・ISDN」「フレッツ・ADSL」「フレッツ光」などのネットワークサービスを提供し(甲第2号証の1・208〜209頁)、 「フレッツ光」は、 2001年8月のサービス開始から順調に契約数を伸ばし2023年3月時点での契約数は約1332万件にのぼり(甲第2号証の1・94〜95頁)、 総務省が公表する令和4年度第4四半期(3月末)の「FTTHの契約数における事業者別シェア(設備設置事業者別)」は、 35.0%と第1位である(甲第2号証の2、甲第2号証の3・13頁)。 「FTTH」とは、光ファイバーによるデータ通信サービスを指し、 申立人のFTTHサービスは「フレッツ」シリーズである。
本件ドメイン名は、2009年10月1日から2024年6月1日まで申立人が所有しており(甲第4号証の1)、 当該ドメイン名は、同年7月1日に一般開放された(甲第4号証の2)。 「フレッツ光メンバーズクラブ」という会員サイトのドメイン名として、 遅くとも2009年12月7日から2013年7月22日まで使用され、 その後も「https://members-club.flets.com/」にリダイレクトする形で使用された(甲第5号証の1〜3)。
申立人は、 「フレッツ」「FLET'S」の文字を二段書きした登録商標(商標登録第4080429号。 甲第3号証の1)、 「FLET'S」の文字と長方形の図形からなる登録商標(商標登録第4646157号。 甲第3号証の2)(以下、これらの商標を「本件各登録商標」という。)の商標権者である。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように、整理できる。
申立人は、実質的に「FLET'S」の文字を含む本件各登録商標を保有し、 それを申立人の光ファイバーによるデータ通信サービスの名称として、 20年以上に亘って使用し、令和4年には、シェアは35%にのぼった。 よって、「FLET'S」は、 申立人の周知又は著名な商品等表示(不正競争防止法2条1項1号又は2号)であり、 申立人は、「FLET’S」の表示について、権利及び正当な利益を有している。
本件ドメイン名である「FLETS-MEMBERS.JP」は、 「flets」と「members」の語が「-」を介して結合されるセカンドレベルドメイン及び「jp」のトップレベルドメインで構成さる。 このうち「jp」のトップレベルドメインは、 ドメイン名の登録に必須のものであって識別力は存在しない。 「flets-members」のセカンドレベルドメインは、 「flets」の文字列が「-」を介して結合されていることから、 「members」と外観上分離独立して認識される。 そして、「members」の語は「メンバー」「会員」を示す一般的な用語であるため識別力が弱い一方で、 「flets」は造語であり、識別力が強い。 このようなセカンドレベルドメインの構成からすると、 本件ドメイン名の構成中、識別力を発揮する要部は「flets」の部分である。
申立人の表示である「FLET'S」と本件ドメイン名の要部である「flets」を比較すると、 外観上は、アルファベットの大文字・小文字の違い、 アポストロフィー(')の有無という些細な違いがあるが、 申立人の表示である「FLET’S」と本件ドメイン名とは、 需要者において混同を引き起こすほどに類似しているといえる。
「FLET'S」の表示は申立人のサービスの名称として現時点に至るまで著名であり、 「flets-members.jp」は2009年10月1日から2024年6月1日まで申立人が所有しており、 「フレッツ光メンバーズクラブ」のウェブサイトとして遅くとも2010年10月6日から2013年7月22日まで使用されており、 その後も「https://members-club.flets.com/」にリダイレクトする形で使用されていた。
そして、 本件ドメイン名の登録日は申立人の解約後一般開放がされた直後の2024年7月1日であって、 上記のとおり、本件ドメイン名が使用されているウェブサイトにアクセスすると、 販売ページに遷移する。
このような状況からすると、 登録者は申立人の「FLET’S」の高い著名性を知った上で本件ドメイン名を登録し、 その著名性の高さにフリーライドして、 本件ドメインを転売しようとしている意図が強く推認できる。
登録者は、 「JP-Domains」というWebサイトを運営して失効ドメインのドロップキャッチサービスを提供しており(甲8の1及び2)、 申立人のグループ会社である株式会社NTTドコモが専用使用権を有する「DOCOMO」及び「docomo」の商標に関しても、 複数ドメイン名を取得しており、本件ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていることは明らかである。
よって、ドメイン名は、申立人の登録商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
本件ドメイン名は、「FLETS-MEMBERS」と「.JP」からなり、 「.JP」の部分は日本国の国コードトップレベルドメインであって、 JPドメイン名の登録の必須の部分であるから、 本要件(処理方針第4条a(i))を判断するにあたって考慮されない。 よって、本件ドメイン名のうち、「FLETS-MEMBERS」の部分と、 「申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示」とを対比して本要件が判断される。
申立人が本件ドメイン名を、 2009年12月7日から2013年7月22日まで「フレッツ光メンバーズクラブ」という会員サイトのドメインとして使用し、 その後も「https://members-club.flets.com/」にリダイレクトする形で使用してきた(甲第5号証の1から3)。 会員サイト、つまり、 メンバー(member)サイトに用いられてきた本件ドメイン名のうち、 「members」の部分は、申立人のサイトの内容との関係で識別力が弱い。 一方、「flets」は造語であり、また、セカンドレベルドメインの語頭にあり、 需要者等本件ドメインを看守する者にとって目立つ部分であり、識別力が強い。 よって、本件ドメイン名の構成中、識別力を発揮する要部は「FLETS」と言える。
申立人は、2つの本件登録商標を所有しており(甲第3号証の1、2)、 どちらの登録商標にも「FLET’S」が含まれるし、 登録商標第4080429号商標の上段に表示される「フレッツ」はその称呼に過ぎないから、 本件ドメイン名と対比すべき申立人が権利を有する商標その他の表示は「FLET’S」である。
「FLET’S」との対比において、 本件ドメイン名「FLETS-MEMBERS.JP」には、 トップレベルドメイン「.JP」のほか、ハイフン「‐」、 およびその後に「MEMBERS」が備わっている。 前記のとおり、それぞれの部分は識別力が無いか、 きわめて識別力の弱い表示であり、 本件ドメイン名の要部は「FLETS」である。
申立人が権利を有する本件各登録商標は、 「FLET’S」もしくはそれを含むものである。 本件ドメイン名の要部「FLETS」と本件各登録商標の「FLET’S」とは、 語尾「S」の前に、アポストロフィーが配されているか否かの点に、 区別できる点が存在する。 しかし、ドメイン名にはアポストロフィーは採用できず、 アポストロフィー自体は欧文の記号に過ぎず特定の観念を生じない。 また、どちらも「フレッツ」と称呼でき、 この称呼をカタカナで表した表示「フレッツ」は、 申立人の登録商標第4080429号の商標に含まれている(甲第3号証の1)。 以上から、本件ドメイン名の要部「FLETS」は、 申立人の表示「FLET’S」を、 ドメインの構成上含めるための表示「FLETS」に相当する。 つまり、申立人の表示が、 本件ドメイン名に流用されているものと客観的に認識でき(客観テスト、 JP-DRP裁定例検討最終報告書31頁)、 本件ドメイン名の要部「FLETS」及び「FLETS-MEMBERS」の部分は、 申立人所有の本件各登録商標と、 同一または混同を引き起こすほど類似すると言える。
したがって、本申立ては、 「同一または混同を引き起こすほどの類似性」の要件(処理方針第4条a(i))を満たしている。
(2)権利または正当な利益
登録者は、Taka Enterprise.Ltdであるところ(甲第1号証)、 本件ドメイン名と不一致である。 また、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標は保有していない(甲第6号証)。 さらに、申立人が登録者に対し、 本件ドメイン名の使用・登録について許諾した事実は存在しない(JP-DRP解説22頁)。
しかも、本件ドメイン名を申立人が2024年6月1日に解約後、 1か月間は一般開放がされないところ(甲第4号証の2)、 本件ドメイン名は、 解約からちょうど1か月後の2024年7月1日に登録されている(甲第4号証の1、 甲第1号証)。 また、本件ドメイン名は、 2009年10月1日から2024年6月1日まで申立人が所有しており、 「フレッツ光メンバーズクラブ」のドメイン名として、遅くとも2010年10月6日から2013年7月22日まで使用されており、 その後も「https://members-club.flets.com/」にリダイレクトする形で使用されていた(甲第5号証1~3)。 令和4年度第4四半期のFTTHの契約者数における事業者シェア35.0%であること(甲第2号証の2、 甲第2号証の3・13頁)、 2023年3月時点で契約者数は約1332万人にのぼっていることなどにも鑑みれば(甲第2号証の1・94~95頁)、 2024年7月1日時点で、 申立人の表示「FLET’S」が、申立人のサービスの名称として著名であったことは明らかであるから、 「登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた」とは認められない(処理方針4条c(ii))。
したがって、本申立ては、 「登録者が本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有していないこと」なる要件を満たしている(処理方針第4条a(ii)、同c)。
(3)不正の目的での登録または使用
前記(2)で認定したとおり、2024年7月1日時点で、 申立人の表示「FLET’S」が、 申立人のサービスの名称として著名であったことは明らかである。
本件ドメイン名が使用されているウェブサイトにアクセスすると、 「このドメインを購入する。」との文字が表示され(甲第7号証の1)、 この文字をクリックすると、 「販売オファーの対象:flets-members.jp」と題するWebページに遷移し、 名前や連絡先、オファー価格を入力して本件ドメイン名を購入するための連絡を取ることができるようになっている(甲第7号証の2)。 このページは、本件ドメイン名の販売の申し出をしていると判断できる。
「不正の目的」の認定には、 有償でのドメイン名の売却の申し出だけでなく、 有償でのドメインの売却が「主たる目的」であることが必要であるところ(JP-DRP解説19頁)、 登録者は本件ドメインを使用しておらず、 このドメイン名売買の仲介ポータルサイト「mydomaincontact.com」へ誘導するためだけに使用していると言えるから、 有償でのドメイン名の売却が「主たる目的」と判断でき、 「商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション…について誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」に該当する(処理方針第4条b(iv))。
したがって、本件ドメイン名の登録は、 有償でのドメイン名の売却を主たる目的としていると認定できるから、 「不正の目的で登録されていること」の要件を満たしている(処理方針第4条a(iii)、同b(iv))。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「FLETS-MEMBERS.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「FLETS-MEMBERS.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2025年3月4日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 筒井章子
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年12月26日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年12月26日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2025年1月6日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年1月6日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2025年1月8日に補正(証拠書類の追完)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2025年1月8日に補正書類を受領し、 2025年1月8日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2025年1月10日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2025年1月10日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2025年1月10日)、 答弁書提出期限(2025年2月10日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年2月12日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2025年2月18日に弁理士 筒井 章子を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年2月18日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年3月11日)を通知した。 パネルは、 2025年2月19日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2025年3月4日に審理を終了し、裁定を行った。