事件番号:JP2008-0002

                  裁 定

  申立人:
  (名称)フィアット・グループ・オートモービルズ・エス・ピー・エー
  (住所)イタリア共和国トリノ10100 コルソ ジョヴァンニ アニエッリ 200
  代理人:弁護士 乗 杉  純
           同  木内 千登勢
  登録者:
  (名 称)有限会社ネバーランド
  (住 所)三重県四日市市高角町211番地の1

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  申立人の請求を棄却する。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「ALFAROMEO.JP」及び「ALFAROMEO.CO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、以下の(1)ないし(3)を主張し、ドメイン名登録の申立人への移転を請求
している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
    申立人は、日本において57件の「ALFA ROMEO」及び「アルファロメオ」の登録商
   標を有している。
   「アルファロメオ」の名称は、申立人の製造、販売する車両のブランド名として、
   また、日本における正規代理店販売網の名称として使用されており、いずれも極め
   て著名である。
    さらに、1990年に申立人の100%子会社として「アルファロメオ ジャパン株式
   会社」が設立され、同社は1991年に「フィアット アンド アルファロメオ モー
   タース ジャパン株式会社」、1997年に「フィアット オート ジャパン株式会社」、
   2007年に「フィアット グループ オートモービルズ ジャパン株式会社」と商号
   を変更し、今日に至っている。
    他方、登録者の本件ドメイン名の要部は「ALFAROMEO」の部分である。
    したがって、登録者の本件各ドメイン名と、申立人の有する登録商標「ALFA ROMEO」、
   申立人の日本における子会社の名称、その販売する車両のブランド名及びその正規
   販売代理店網の名称である「ALFAROMEO」とは、同一又は混同を引き起こすほど類似
   している。
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
    ドメイン名「ALFAROMEO.CO.JP」は1999年11月24日に、「ALFAROMEO.JP」は2001
   年4月24日にそれぞれ登録されている。
    他方、申立人のアルファロメオ商標は、57件中52件が1999年以前に登録され、
   また、アルファロメオ ジャパン株式会社は、1990年に設立されている。更に、ア
   ルファロメオ車は、1999年に日本で4925台輸入登録されていた。
    これらの事実から、ドメイン名「ALFAROMEO.CO.JP」の登録時において、「ALFAROMEO」
   が申立人の著名な商標又は名称として日本において広く認識されていたことが明ら
   かである。
    これに対して、登録者の名称は本件ドメイン名と無関係である。また、「ALFAROMEO」
   を商標登録している事実はなく、申立人との間に一切の資本関係、取引関係もなく、
   申立人登録商標の使用許諾を受けたこともない。さらに、登録者の登録担当者であ
   る中村氏は、「ALFAROMEO」が申立人の製造販売する著名な乗用車のブランド名であ
   ることを認識の上、本件各ドメイン名登録をしている。
    以上から、登録者は、本件各ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を
   有していない。
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   ア 「ALFAROMEO.CO.JP」について
    (ア) JPドメイン名紛争処理方針第4条b項(iv)に該当すること
       登録者は、本件ドメイン名を「ALFAROMEOメールサービス」と称するメール
      ボックスレンタル業に使用していた。登録者の登録担当者である中村氏は、そ
      の目的を「維持管理費用をまかなうためだけのもの」と弁解したが、仮にそう
      であったとしても、「商業上の利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用して
      いたことは明らかである。
       また、申立人の製造販売する著名な乗用車のブランド名を使用していること
      から、「誤認混同を生ぜしめることを意図」していたことも明白で、本件ドメ
      イン名は、インターネットのユーザーを当該ウェブサイトに誘引するために使
      用されていたと言わざるを得ない。
      登録者の上記使用行為は、JPドメイン名紛争処理方針第4条b(iv)に該当する。
    (イ) 不正競争防止法に違反すること
      「ALFAROMEO」の商品表示は、本件ドメイン名が登録された1999年において、
      既に日本全国に広く知れ渡った著名表示であった。登録者の上記(ア)記載の使
      用行為は、申立人の著名表示を自己の商品等表示として勝手に使用し、申立人
      の著名表示の顧客吸引力にただ乗りする行為である。
       したがって、登録者の本件ドメイン名の使用行為は、不正競争防止法第2条
      第1項第2号に違反する。
   イ 「ALFAROMEO.JP」について
      本件ドメイン名が使用された事実は確認できていないが、「ALFAROMEO.CO.JP」
     が上記のように不正目的で使用されたことが明らかであるため、本件ドメイン名
     も同様の不正目的で登録され、保持されていると推測できる。
   ウ 関連事項
      登録者は、平成16年8月31日の社員総会により解散し、平成18年1月20日
     に清算結了しているにもかかわらず、登録名義が変更されず、登録担当者の中村
     篤史氏により管理されているようである。
      また、登録者の住所としてWHOISに記載されている住所は、法人登記上の住所
     と異なる(株式会社フルバックの住所とされているものと同一である(登記上の
     住所ではない))。
      更に、WHOISに、登録者の連絡窓口として記載されている3つのEメールアド
     レスは、いずれも株式会社フルバックのもののようであり、登録者がそもそも実
     体のある会社であったか疑わしい。
      株式会社フルバックのホームページは、一時ドメイン名「ALFAROMEO.CO.JP」の
     リダイレクト先とされていたことがある。
      このような不自然な登録に関する事情は、登録者に害意があり、本件各ドメイ
     ン名を不正に利用しようとする目的があったため、そのための工作をしたのでは
     ないかと思われる。
   エ 以上から、本件各ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていることは
    明らかである。

 b 登録者
 登録者は、同人が本件各ドメイン名を保有できる理由として以下の主張をし、実質
的に申立の棄却を求めている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似している、との申立人の主張について
   申立人の主張を認める。
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していない、と
   の申立人の主張について
   ア 登録者は、申立人の商標その他表示を利用した事実は一切ない。登録者は、平
    成16年8月31日に解散しており、それ以来全く業務を行っていない。解散以前に
    おいても、申立人と競合する業務は一切行っておらず、その商標を利用したことも
    ない。呉服販売を主に行っていた登録者が申立人の商標を利用することはあり得な
    い。
   イ 登録者は、メールサービス事業を行っていない。また、本件各ドメイン名を商
    業目的で利用したことはない。
   ウ 申立人の商標が著名であるにもかかわらず、そもそも申立人が本件各ドメイン
    名の登録の事実を従前関知していなかったことは、登録者が本件各ドメイン名及び
    申立人の商標を商業的に不正に使用してこなかったことの証左である。
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   ア 申立人は、本件各ドメイン名を峻別せず概括的な主張をしている。
    「ALFAROMEO.JP」に関しては、登録者が使用した事実はない。申立人は本件ドメイ
    ン名に関して、証拠を何ら提出しておらず、その主張には理由がない。
   イ 「ALFAROMEO.CO.JP」について
    (ア) メールボックスサービスについては、登録者は、本件ドメイン名に直接かか
     った金額を超えない範囲で対価を得るためだけに行っているものであり、何ら
     利益を得る目的はない。実際にも利益を得ていない。
      本件ドメイン名のアカウントは10個に満たず、個人的な使用に終始している
     し、紛らわしい掲示を一切していないので、申立人が運営しているとの混同を
     招くことはあり得ない。
    (イ) メールボックスレンタル業(以下、「メールサービス」という)は、申立人
     の業務と競合するものではなく、その事業を混乱させることもない。現に、9年
     間の長期にわたり本件ドメイン名を保持しているにもかかわらず、申立人の業
     務は何ら混乱していない。これに関して申立人から問合せがきたこともないし、
     業務の混乱をきたしたとの主張もなされていない。
    (ウ) 登録者は、申立人に本件ドメイン名を売却しようとしたり、何らかの対価を
     要求したりしたこともない。
 (4)「関連事項」について
   ア 登録者は、きちんと清算結了されていることからも、実体を有していたことが
    明らかである。
     株式会社フルバックは、ドメイン取得代行及びサーバーレンタルの会社である。
    連絡先メールアドレスを同社宛にしていたことに何ら不自然な点はない。
     登録者が、メールサービスに関するトップページを削除したのち、フルバック
    社のトップページにレダイレクトされていたことも、意図的なものではなく、
    トップページが空の場合には、サーバーの持ち主であるフルバック社のトップ
    ページにリダイレクトされる設定がされていたためである。
   イ 本件各ドメイン名は、もっぱら個人の使用のためだけに取得されたものである。
    即ち、本件ドメイン名は、登録者の代表者であった中村篤史が、登録者から正
    当に権利を譲り受け、管理、利用しているものである。
   ウ 申立人は、「ALFAROMEO-JP.COM」のドメイン名で営業を行っており、登録者の
    本件各ドメイン名の登録、使用によって、何ら事業に支障を生じていない。両
    者は併存可能である。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につ
いてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に
基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 そこで、本件につき以下検討するが、本件における具体的な事実に基づく検討の前提と
して、紛争処理パネルは、次のとおり上記JPドメイン名紛争処理方針第4条a及びそこで
の要件中同条a(ii)と(iii)の証明(JPドメイン名紛争処理方針第4条bをも参照)に
関する基本的な解釈適用のあり方についてまずは明らかにする。

 (1)JPドメイン名紛争処理方針第4条a(ii)及び(iii)における各要件の趣旨
 JPドメイン名紛争処理方針第4条a(ii)及び(iii)は、ドメイン名登録者において「当
該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない」ことに加えて、同じ登録
者による当該ドメイン名についての「不正の目的で」の「登録または使用」している場合
には、ドメイン名登録者は第三者である申立人(通常は商標権者)の申立にかかるJPドメ
イン名紛争処理手続に従わねばならいが、このa項の要件の主張・立証及び同条b項にお
ける(i)から(iv)として「不正の目的」に該当する「登録または使用」と認めなければ
ならない類型的事実の主張・立証は、一重に申立人によって尽されねばならないとされて
いる。このようにJPドメイン名紛争処理方針が、予めドメイン名登録者における「当該ド
メイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」(注:斜体・下線は紛争処
理パネルにより付したものである)の客観的状況だけでなく、同じ登録者についての主観
的態様をも要件とし、当該ドメイン名の「登録または使用」が許されない「不正の目的」
(注:斜体・下線は紛争処理パネルにより付したものである)があるものとみなされる類
型的事実を列挙して示した所以は、JPドメイン名紛争処理方針が本来目指してきたミニマ
ル・アプローチないしミニマム・アプローチを徹底するところにあると考えられる。
 本来、先登録の順のみをもって株式会社日本レジストリサービスによるJPドメイン名登
録を契約に基づいて受けることができるというドメイン名登録の基本的性格からして、商
標権者と雖も、著名性の有無に拘らず、当該ドメイン名登録よりも先行する商標権を有す
るということによってのみ登録者のドメイン名の登録移転や取消しをなしうるというので
は、インターネット上における自由な活動の基本的リソースであるドメイン名登録のあり
方を著しく制限することになり、ひいてはインターネット社会の発展を妨げかねない。こ
れは、JPドメイン名紛争処理方針がその範と仰いだUDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)
において逆ドメイン名強奪行為(リバース・ドメインネーム・ハイジャッキング)が厳し
く禁止されていたこととも軌を一にする考え方でもある。
 確かに、ドメイン名の有する一定の標識的機能において商標権者の有する利益との間で
不正な競業的意味を有するような登録や使用がなされるならば、これは極めて明らかな不
正な競業行為として制約されねばならない。そして、この判断において商標権者の有する
商標が著名性を有するという事情が、当該ドメイン名登録者に関係する「権利または正当
な利益を有していないこと」や「不正の目的で」当該ドメイン名の登録または使用を疑わ
しめる前提事情として考慮に値するものであることは否定しえない。しかしながら、当該
ドメイン名の移転または取消しを申立る商標権者の側は、そのような自らの商標の著名性
が、如何にして相手方であるドメイン名登録者の作為または不作為において当該ドメイン
名登録者に関係する「権利または正当な利益を有していないこと」や「不正の目的で」当
該ドメイン名の登録または使用と具体的に結びついているのかということを摘示して、JP
ドメイン名紛争処理方針第4条a及びbの要件を満たすだけの事実を充分に主張立証しな
い限りは、当該ドメイン名登録における先登録ベースで成り立っている秩序を軽々しく覆
すことはできないのである。即ち、定型的にサイバースクワッティング(ドメイン名不法
占拠行為)として判断し得る行為に迅速に対処することが本件紛争処理方針及び手続規則
の解釈適用では重要であり、事案の慎重な検討なくして判明しえないようなハードケース
については、標識法的規制の観点から、不正競争防止法第2条1項12号に基づく訴訟手続
に委ねているのである。
 JPドメイン名紛争処理方針においては、上記UDRPのような逆ドメイン名強奪行為の宣
言についてまでは、その一部とされてはいない。しかし、当該ドメイン名について登録者
における登録または使用の具体的態様が「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損
害を加える目的その他の不正の目的)」を有する場合というのは、上記のような同方針の基
本的な趣旨に立ち帰れば、不正競争防止法第2条1項12号の場合と比較してもおのずとよ
り謙抑的に解釈適用されねばならない。即ち登録者によるJPドメイン名紛争処理方針第2
条cにおける登録者自身の告知義務を意図的に潜脱するような場合に等しいドメイン名登
録者による当該ドメイン名の登録または使用が現状においてあるならば、当該ドメイン名
登録者によるドメイン名の先登録や使用も第三者の商標権に優るべきではないと考えるこ
とが合理的であり、同登録者が不正行為を犯した結果としてドメイン名に関する権利を失
うこともまた止むを得ない現状があると考えられる場合に限り、その不正な目的でのドメ
イン名の登録または使用は排除してもよいが、それ以上のことはありえない。これはいい
かえれば、単に商標権があるとか、当該商標が著名であるということだけによって商標権
者側を保護するというものではないということでもある。この点において、JPドメイン名
紛争処理方針a項及びb項は、著名商標の保護を優先する考え方をそのまま直に受け入れ
るものではないことに、商標権者の側からも正しい注意が向けられねばならない。ちなみ
に、不正競争防止法においても、現在では、通常の周知または著名な商品等表示の使用に
関する不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号・2号)とは同じ規制の下ではなく、
ドメイン名使用の権利の取得、保有または使用について、特定商品等表示との関係で「不
正の利益を得る目的」または「他人に損害を加える目的」がない限り特段不正競争行為と
はしないでいることに(不正競争防止法第2条1項12号)、JPドメイン名紛争処理方針の
考え方と同じ方向性をみることができるといってよいであろう。
 そうすると、JPドメイン名紛争処理方針b項でいう「ただし、これらの事情[パネリス
ト注:b項(i)から(iv)の列挙された事情]に限定されない。」という文言についても、商標
権者の側の利益のみを考慮して広く「不正の目的」を解釈適用することは許されず、当該
ドメイン名登録者の側における答弁の内容、そこでの弁明において主張立証される事実や
事情についても総合的かつ慎重に勘案した上で、真に当該ドメイン名の登録または使用が
商標権者の有すべき利益との間で「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加
える目的その他の不正の目的)」を有するといえる事実・事情がある場合に限って、厳格に
解釈適用されねばならないというべきである。そのため、当該ドメイン名の「登録または
使用」について「不正の目的」ありと断じるためには、JPドメイン名紛争処理方針b項(i)
から(iv)において摘示されたような「使用されている」事実や「登録がある」という事実
にほぼ匹敵するだけの具体的事実が当該ドメイン名登録者の現状において見当たらないま
まに、この列挙された類型的事実以外によって「不正の目的」が存在すると判断すること
は、JPドメイン名紛争処理方針本来の趣旨を没却するものといわざるをえない。

 (2)本件各ドメイン名が申立人の商標その他表示と同一又混同を引き起こすほど類似
であることの有無
 本件各ドメイン名のccTLDの部分(「.co.jp」又は「.jp」)と区別され、本件各ドメイン
名の主要な部分を構成するものが「ALFAROMEO」であり、これが日本語の発音としても「ア
ルファロメオ」と読めることは、ドメイン名自体から明らかである。また、「ALFA ROMEO」
または「アルファロメオ」が、申立人の登録商標であること(甲5、6の1、6の2)、更に
は、申立人の販売する著名な車両のブランド名であり、その正規販売代理店網の名称でも
あることについて(甲3)、当事者の間に争いはない。従って、本件各ドメイン名が申立人
の登録商標と比較して、アルファベットのつづりがほぼ同一で、読み方も同じであるから、
申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほ
ど類似していると認められる。
 一方、申立人は、その日本における子会社の名称との類似も主張している。しかし、同
社は、1997年に、商号を「フィアット アンド アルファロメオ モータース ジャパン
株式会社」から「フィアット オート ジャパン株式会社」に変更して「アルファロメオ」
の文字を商号中から除き、2007年に「フィアット グループ オートモービルズ ジャパ
ン株式会社」(以下「FGAJ」という。)と商号変更をして今日に至るまで、「アルファロメオ」
の文字を商号に用いていない(甲3)。従って、「ALFAROMEO」がFGAJの販売する車両のブ
ランド名として著名でありFGAJを幾ばくか連想させる可能性は全く否定はできないとし
ても、本件各ドメイン名の主要な部分である「ALFAROMEO」を何ら含まないFGAJの表示と
の間において「混同を引き起こすほど類似している」と認めることはできない。

 (3)ドメイン名登録者において本件各ドメイン名に関係する権利又は正当な利益がな
いこと
 申立人が「ALFA ROMEO」又は「アルファロメオ」という登録商標を日本において自動車
や輸送機械器具のみならず被服や履物にいたるまで多数の指定商品・指定役務に有してお
り(甲5、6の1、6の2)、更には、申立人の販売する著名な車両のブランド名でかつその
正規販売代理店網の名称でもあり(甲3)、本件各ドメイン名の登録者がそれぞれのドメイ
ン名を登録した1999年11月24日(ALFAROMEO.CO.JP)及び2001年4月24日(ALFAROMEO.JP)
の時点において、1999年から2000年にかけてのデータであるが平均して年間4000台以上
日本において輸入登録される程であって(甲4)、少なくとも2008年現在の車体価格であ
る1台300万円から400万円水準から遡って推計するとしても、国産車よりも高めの小売
価格と考えられる欧州系外国車としては、比較的多い数を記録していた事実[イタリア製乗
用車としては最多数]は認められる(甲8の1)。しかしながら、欧州系の輸入登録された
乗用車としては上記と同じ期間中、他にもメルセデス・ベンツやボルボなどがあり、前者
については年間平均4万6000台以上、後者についても年間平均1万台以上が輸入登録され
ていたことなどと比較すれば(甲4)、必ずしも申立人製品の輸入登録数が顕著に多数であ
るとはいえない。もちろんスポーツ性を前面に出したFF車や4WD車のみを生産すると
いうブランドイメージ自体が日本の自動車ファンの間において一定程度認識されているこ
とはうかがえるのではあるが(甲3)、いずれにしても本件手続において申立人から提出さ
れた証拠のみをもってしては、未だ申立人の登録商標である「ALFA ROMEO」又は「アルフ
ァロメオ」が明らかに本件ドメイン名登録時以降現在に至るまで著名であったと認められ
るだけの証明はない。
 一方、本件各ドメイン名の登録者において、当初登録者の商号又は事業に関わる名称や
表示との間で関連性があると思われる事実は認められず、登録者が申立人との間で一切の
資本関係や取引関係になかったことは当事者の間に争いがない。また、登録者の元代表者
でかつ清算人であり、実質的な個人経営者と考えられる中村篤史においても、申立人の製
品である本件登録商標を付した乗用車の名称について個人的な興味・関心があったという
理由のみで登録者をしてドメイン名登録をさせ、これを取得したものであることは認めて
いる(甲10)。なお、登録者の取締役は全て同姓の者3名であって当初登記された本店所
在地と同一のところにそれぞれの住所を有している事実(甲1)からみる限り、登録者は
有限会社ではあったものの、実際には中村篤史及びその血縁者による個人経営であったと
認めることができる。
 以上のような事情を総合的に判断すれば、申立人の登録商標が著名であるということは
定かではないものの、申立人は、少なくとも日本における「ALFA ROMEO」または「アルフ
ァロメオ」の登録商標を有している。一方、中村篤史が個人の興味・関心を理由として本
件各ドメイン名を登録者に登録させた点については、登録者の経営の中心が中村篤史自身
であったことを勘案し登録者の経営者による個人的興味・関心で本件各ドメイン名を登録
するに及んだことは理解できるとしても、少なくとも「ALFAROMEO.CO.JP」及び
「ALFAROMEO.JP」に関係する何らかの権利または正当な利益を有していたことが、客観的
に裏付けられているかといえば、そうではない。従って、本件の登録者においては、本件
各ドメイン名についてこれらに「関係する権利または正当な利益」があったとはいえない
と認めざるをえない。
 既に述べたように、ドメイン名が契約関係による先登録を基本とする制度であるが故に、
JPドメイン名紛争処理方針におけるドメイン名登録の移転・取消しが最小限度で留められ
るべきであるとしても、登録者においても個人的興味・関心というだけで、何ら自らの個
人としての活動や生活、あるいは自らの営業や社会的関連性において特段の理由がないま
まに、既に第三者がその営業等に使用していたり、商標登録していることが容易に予測さ
れるような文字列と同一または混同を引き起こすほど類似な文字列を含んだドメイン名を
登録・使用としようとするならば、十分な注意が必要である。当該ドメイン名に関係する
権利または正当な利益の存否に合理的な疑いがないようにすべきことは、登録者の登録申
請、維持・更新に際してなすべき告知義務である以上、これは当然のことである(JPドメ
イン名紛争処理方針2条(b))。

 (4)不正の目的での登録及び使用があること
  それでは、本件各ドメイン名の登録・使用の現状において、これらについて「不正の
目的で登録または使用」がなされているといえるかであるが、「不正の目的」の具体的内容
について定めるJPドメイン名紛争処理方針4条b(i)から(iv)に列挙された類型的事
実、またはこれらに準ずる事実があるか否かに関し、以下順次検討する。なお、この点に
ついて、本件の申立人及び登録者のいずれの主張・立証においてもどのような類型的事実
について争点としようとしているのか不明確な点もあるが、主張立証の全趣旨を勘案の上、
次の通り各類型事実について検討し、認定判断する。

 i)まず本件各ドメイン名に関して、「販売、貸与または移転することを主たる目的とし
て」、各ドメイン名に「直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るた
めに」本件各ドメイン名の登録者が当該ドメイン名を「登録または取得」を認められるだ
けの主張も立証も本件申立人によりなされていない(JPドメイン名紛争処理方針4条b(i))。
従って、「ALFAROMEO.CO.JP」及び「ALFAROMEO.JP」のいずれのドメイン名についても、こ
の類型的事実をもって、登録者による本件各ドメイン名の登録において「不正の目的」が
あったとは認定できない。

 ii)次に、本件の申立人が最も強く主張し、登録者も争っているとみられるJPドメイン
名紛争処理方針4条b(iv)の類型的事実の有無であるが、結論からいえば本件各ドメイ
ン名の現状においてはかかる事実は認められないと判断するのが相当である。
 JPドメイン名紛争処理方針4条b(iv)では、「商業上の利得を得る目的」で、自らの提
供する「商品およびサービス」の「出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係な
どについて誤認混同を生ぜしめることを意図」しているとみられるような形で、「インター
ネット上のユーザー」を登録者の「ウェブサイトまたはその他のオンラインロケーション
に誘引するために」、当該ドメイン名を「使用している」という類型的事実が「不正の目的」
を認めるものとなるとしている。
 しかし、申立人の主張・立証においては具体的にどのような誤認混同、誘引行為を目指
して「商業上の利得を得る目的」を登録者の行為が有していたのかについては明確なもの
がない。
 本件においては、まず本件各ドメイン名のうち「ALFAROMEO.JP」については、何らこの
ような使用の事実が申立人によって主張立証されておらず、この類型的事実が具体的に申
立人により主張立証されない限り、ここにおいて「不正の目的」があるとは認められない。
 次に本件各ドメイン名のうち「ALFAROMEO.CO.JP」については、確かに申立人が主張・立
証するが如く、登録者は、当該ドメイン名を使用したウェブサイトにおいて、当該ドメイ
ン名登録を受けた直後の1999年12月以降(甲14)、「ALFAROMEOメールサービス」と称し
て申立人との関連性を疑われるような体裁によりつつ、メールボックスの設定料1000円、
月額使用料800円のサービスを開始し、2001年12月、2004年11月、2005年1月及び2
月に若干の期間メンテナンス等のためか「準備中」または株式会社フルバックのウェブサ
イトへのリダイレクトがあったものの、2005年3月ころまで当該ドメイン名を使用してい
たという状況であった。登録者としては、このようなメールサービスの活動は、本件各ド
メイン名に関わる維持管理費用をまかなうためだけに実施し、数名の友人に限ってメール
サービスを行っただけであると主張するが(甲13)、本件紛争発生直前の2007年度及び2008
年度「ALFAROMEO.JP」の維持費及び「ALFAROMEO.CO.JP」のサーバーレンタル料をみても、
年間にして概ね2万円台から3万円台程度の費用について、平成16(2004)年の社員総会
による解散決議(甲1、乙1)があるような財務状況だったとはいえ、本件登録者の行為態
様自体からは用意に登録者が主張するような趣旨が伺われるものではない。その意味では
本件「ALFAROMEO.CO.JP」のドメイン名については、「商業上の利得を得る目的で」使用さ
れた事実はあったものといえる。
 しかし、いずれにしても、「商業上の利得を得る目的」でのメールサービスが過去に存在
していたとしても、それは2005年3月ころを最後に終わっており、本件申立の現在にいた
るまで「ALFAROMEO.CO.JP」を使用した状態でなされているということについては、申立人
による主張立証はない。JPドメイン名紛争処理方針4条b(iv)における類型的事実は、
現に当該ドメイン名を登録者が「使用している」ときに限ったものであり、登録者による
当該ドメイン名使用の主観的態様において、ドメイン名登録機関との契約によって先登録
されたはずの当該ドメイン名登録の移転・取消しを認めるに止むを得ない程度の具体的に
不正競争的な行為が現に認められている場合をいうものと理解される。そうである以上、
過去においてそれに該当するような事実があったとしても、現状においてこれが認められ
なければ、登録者によるドメイン名登録を抑圧すべき理由はない。これは既に述べたごと
く、JPドメイン名紛争処理方針が目指したミニマル・アプローチないしミニマム・アプロ
ーチの考え方から裏付けられるものである。従って、本件においては、JPドメイン名紛争
処理方針4条b(iv)の類型的事実として本件「ALFAROMEO.CO.JP」のドメイン名を登録者
が「使用している」ものではない以上、登録者について当該ドメイン名登録の「使用」に
ついて「不正の目的」が現状においてあるとはいえず、申立人の主張は成り立たないとい
うべきである。
 このようにドメイン名の使用の態様がない場合に、その登録自体において「不正の目的」
があるというためには、JPドメイン名紛争処理方針4条b(i)、(ii)又は(iii)のいず
れかの類型的事実についての該当性が認められる必要があることになるが、本件では既に
(i)の類型的事実については申立人において一切の主張立証がなく、その事実の存在を認
めることができないのは前述の通りであるから、次項以下においては、JPドメイン名紛争
処理方針4条b(ii)又は(iii)の類型的事実が存するか否かを検討する。

 iii)JPドメイン名紛争処理方針4条b(ii)の類型的事実は、申立人による「商標その
他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために登録し」、そのような行為を
登録者が「複数回行っている」ときとされている。ここでの「複数回」については同時で
あっても、反復であっても構わないところであるから、本件においても「ALFAROMEO.CO.JP」
を1999年11月24日に、また「ALFAROMEO.JP」を2001年4月24日にそれぞれ登録者が取
得し、現在もその登録を維持していることについて(甲14)、これが「商標その他表示を
ドメイン名として使用できないように妨害するために登録し」たものであるとの事実が、
本件各ドメイン名の現状において合理的に看取されるようであるならば、本件登録者によ
る登録には「不正の目的」があると言わねばならないことになる。
 確かに、「ALFAROMEO.CO.JP」に依って登録者がメールサービスを行うにあたり、サーバ
ー管理を行っていたと思われるフルバック株式会社のウェブサイトにリダイレクトされる
ような状況が発生したり、同社のウェブサイト上の住所が同ドメイン名のWHOIS情報上で
は登録者の住所であるかのように表示されていたという事実はあったものの(甲11、14)、
これをもって直ちに本件登録者が申立人による「商標その他表示をドメイン名として使用
できないように妨害するために登録し」たものであると判断できるものではない。WHOIS
上でのドメイン名登録内容における公開連絡窓口がサーバー管理会社の技術担当者をもっ
て登録者自身のそれに代えられることは実際の連絡可能性確保の観点からありえないこと
ではない、決してこの一事をもって本件登録者が自らの身分を隠すような方策として申立
人による「商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために登録し」
たものであるとはいえないであろう。もちろん、既に本件登録者が平成18年1月20日に
清算結了しているのであれば、WHOIS情報の内容においてこれを正しく更新し、実質的な
登録者である中村篤史に譲渡するなどの措置を速やかにとるべきであることは、本件各ド
メイン名の登録機関との間での登録規則に従って処理されるものであることは間違いない。
しかし、そのようなドメイン名登録における情報更新の遅れにおいて生じる登録規則上の
問題とそれに関する責任は、専らドメイン名登録機関と登録者との間での契約に基づいて
解決されればよいことである。それと同様の事実だけで、第三者にドメイン名登録に対す
る特別な介入の権利・利益を与えたJPドメイン名紛争処理方針4条の解釈適用として、申
立人による「商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために登録
し」たものであることを裏付ける事実とまで理解することはできないであろう。
 本件申立人と登録者の交信においてわかることは、登録者の本件各ドメイン名の登録に
おいて(「ALFAROMEO.CO.JP」のみではあるが)自ら使用しこそすれ、申立人による本件各
ドメイン名の使用を妨げるべく登録のみを維持していたという明白な事実は、申立人によ
り何ら主張立証されていない一方で次のような事実が明らかである。即ち、申立人におい
ては従来「ALFAROMEO-JP.COM」とのgTLDベースでのドメイン名を登録・使用して何らの問
題なくその日本における営業を日本子会社によって行ってきたものの、イタリア本社の方
針変更によってccTLDベースでのドメイン名を各国子会社に登録させて使用するというこ
とが2008年7月ころに決まったために、急遽本件各ドメイン名の登録をしようとしたとこ
ろ、そこで初めて本件各ドメイン名が本件登録者の登録にかかっていたことを知り、慌て
て譲渡交渉に及んだのであり、個人的関心・興味を理由に譲渡を断った登録者に対して、
JPドメイン名紛争処理方針4条b(ii)などにおけるいかなる「不正の目的」がありうる
のかということについての明確な事実の確認もないままに(例えば、本件登録者が「ALFA
ROMEO」ばかりでなく、申立人が日本へ輸入販売する他の自動車ブランド[「FIAT」等]につ
いても複数のドメイン名登録を有しているような事情など。(SONYBANK.CO.JP事件裁定、
日本知的財産仲裁センター・ドメイン名紛争処理手続JP2001-0002参照))、本件各ドメイ
ン名を申立人が至急利用する必要があるというところのみを強調して登録者に対して譲渡
を迫っていたという事実である(甲10、11、12、13)。このような事実に鑑みると、本件
申立人による本件各ドメイン名の登録自体については、未だ申立人による「商標その他表
示をドメイン名として使用できないように妨害するために登録し」たものであることを裏
付ける事実が、本紛争処理手続申立の時点においても適切に主張立証されたとはいえず、
これを理由に本件各ドメイン名の登録について「不正の目的」を認めることはできない。

 iv)JPドメイン名紛争処理方針4条b(iii)での類型的事実は、ドメイン名登録者が「競
業者の事業を混乱させることを主たる目的として」、当該ドメイン名を登録している場合で
ある。しかし、この点についても、本件申立人の主張立証をみる限り、このような目的を
もって本件各ドメイン名が登録者によって登録されていると認めることはできない。
 確かに、登録者の法人登記の目的欄によれば、15項目列挙された目的の中には「乗用車
及び交換部品、付属品の販売及びこれに関するアフターサービス」もあるが(甲1)、その
一方で、解散の清算確定申告書によれば、解散に至るまでの従前の主たる事業種目として
は「呉服販売」が挙げられており(乙1)、これは登録者の会社の目的の第1項目に挙げら
れている「衣料品・・・の輸入及び販売」と同じくするものである。しかしながら、申立
人及びその日本における子会社の営業内容は明らかにイタリア製ブランドの乗用車の輸入
販売にを主とするものである。また、現実に本件各ドメイン名のうち、現実に使用された
「ALFAROMEO.CO.JP」においても、メールサービスに使用されたに過ぎない。これらの事実
以外に、申立人が本件各ドメイン名の登録が登録者によってなされていることで、申立人
の事業が混乱させられるに至るような状況があるかどうかについては、何ら申立人による
主張立証はない。このような事実に照らすと、本件各ドメイン名「ALFAROMEO.CO.JP」及び
「ALFAROMEO.JP」のいずれについても、未だ登録者は申立人の「競業者」といえる状況に
はなく、まして、申立人の「事業を混乱させることを主たる目的として」これらのドメイ
ン名を登録しているという事実は認められない。従って、ここにおいても、本件各ドメイ
ン名の登録において、登録者に「不正の目的」があるものとは認められない。

 v) JPドメイン名紛争処理方針4条b本文但書においては、「不正の目的」を認める事情
としては同条b(i)から(iv)に列挙されたものに限定されないとしている。しかし、こ
のような「不正の目的」を認めることができる他の「事情」というものが厳格に解釈適用
されねばならないことは、JPドメイン名紛争処理方針におけるミニマル・アプローチない
しはミニマム・アプローチの考え方の重要性について既に述べたところからも明らかであ
る。そのため、JPドメイン名紛争処理方針4条b(i)から(iv)の類型的事実がいずれも
明確に認められない場合として、例えば、当該ドメイン名の登録のみが現に存在し、紛争
処理手続申立がなされていて、その通知も確かに行われているにも拘わらず登録者から全
く応答がなされないような状況を前提として、その状況自体を考慮に入れた上で、列挙さ
れた以外の事実として「不正の目的」を認めるということも許されねばならない場合があ
ろう(CYBERLINK.JP事件裁定、日本知的財産仲裁センター・ドメイン名紛争処理手続
JP2006-0008参照)。しかしながら、そのような場合であっても、やはりまずJPドメイン
名紛争処理方針4条b(i)から(iii)に示されるのに準じる程度に、登録のみであって
も「不正の目的」を認定するような類型的事実に匹敵するだけの不正競争的な事情が登録
者について認められるかどうかについては、極めて慎重な検討が必要である。
 本件おいては既に述べたように、登録者において「ALFAROMEO.CO.JP」につき「商業上の
利得を得る目的」でインターネット上のユーザーを誘引するような「不正の目的」をもっ
た使用が過去になされたやに疑われかねない事実や、本紛争処理手続申立時点において登
録者が清算を結了した法人であり実質的には個人経営とみられるというようなことはある
ものの、それ以外に登録者あるいは登録者を実質的に経営している個人においても、本件
各ドメイン名の先登録の地位を取り上げられるべき何らかの「不正な目的」、即ち申立人の
「事業を混乱させることを主たる目的」や「商標その他表示をドメイン名として使用でき
ないように妨害するために登録し」ようとする目的のようなものに匹敵する「不正の目的」
があったというべき明白な事実の主張立証は未だ充分であるとは言えない。従って、この
点においてもまた「不正の目的」をもって本件各ドメイン名が登録されているとは認定で
きない。

6 結論
 以上に照らして、本件紛争処理手続における紛争処理パネルは、登録者によって登録さ
れたドメイン名「ALFAROMEO.JP」及び「ALFAROMEO.CO.JP」が申立人の商標その他表示と混
同を引き起こすほど類似しており、登録者はドメイン名について権利又は正当な利益を有
していないとは認められるものの、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され又は使用
されているとは認められないとの結論に至った。
 よって、紛争処理方針第4条a(iii)の要件を充足しないので、主文のとおり裁定する。

    2008年12月3日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            単独パネリスト 矢 部 耕 三


別記(手続の経過)
(1)申立受領日
  電子メール 2008年9月29日  書面 2008年9月30日
(2)適式性
 日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォ
メーションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、J
Pドメイン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理
方針のための補則(補則)の形式要件を充足することを確認した。
(3)手続開始日  2008年10月6日
 申立人は、センターに対して、2008年10月1日に規定料金を支払った。
(4)ドメイン名及び登録者の確認日
  センターの照会日(電子メール)  2008年9月30日
  JPRSの確認日及び確認内容(電子メール)
  1)2008年9月30日
  2)申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者である。
(5)登録者・登録担当者への通知日及び内容
  1)2008年10月6日
  2)申立書、申立通知書(郵送、ファクシミリ及び電子メール)
  3)答弁書提出期限  2008年11月5日
(6)答弁書の提出の有無及び提出日
  提出有り  答弁書受領日  2008年11月5日
(7)パネリストの選任
  申立人は1名パネルを要求
  パネリストの指名  矢部 耕三
  中立宣言書の受領日 2008年11月14日
(8)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日
  通知日  2008年11月12日
  予定裁定日  2008年12月3日
(10)パネルによる審理
  2008年12月3日 パネルによる裁定