事件番号:JP2021-0006

                  裁 定
  申立人:
  (名称)株式会社北電子
  (住所)東京都豊島区西池袋一丁目7番7号
  代理人:弁理士 古関 宏
  登録者:
  (氏名)岩下洋平
  (住所)東京都八王子市台町3-19-35
  代理人:弁護士 森川 弘太郎
       同  岡山 和佳奈

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイ
ン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基
づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「KITAC-KOREZON.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「KITAC-KOREZON.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人の主張の要旨
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同
  一又は混同を引き起こすほど類似していること
 ア 申立人の登録商標等
   申立人は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の適用を受ける
  第4号営業店に設置される「回胴式遊技機」(略して「パチスロ」)を取り扱っており、
  申立人の通称は「KITAC」(キタック)である。
   申立人は、主として、遊技機及びホール周辺機器等の開発を担当し、株式会社キ
  タック販売は、それらの販売を担当している。申立人及び株式会社キタック販売
  (以下、併せて「申立人ら」という。)の開発・製造・販売に係るパチスロ機等に
  「KITAC(ロゴ)」を付すことがある。
   申立人は、登録第4328511号商標、同第4342904号商標、同第4402006号商標、同
  第4434885号商標、同第4440029号商標、同第4514693号商標、同第4514694号商
  標、及び、同第5019157号商標等、「キタック販売」若しくは「KITAC(ロゴ)」から
  なる登録商標または「KITAC」若しくは「キタック」を含む登録商標に係る商標権を
  複数所有している。
   申立人は、株式会社角川プロダクション(現株式会社KADOKAWA)及びインテル株
  式会社(現インテルエンタテインメント株式会社)との間で、2013年に、木村心一
  によるライトノベル「これはゾンビですか?」(略称:これゾン)を原作とするテレ
  ビアニメについて、商品化権使用許諾契約を締結し、その作品名、その作品名の略
  称、及びそのキャラクターを利用した「パチスロ」機を、2018年4月に導入し(以
  下、「本件パチスロ機」という。)、本件パチスロ機の導入に先立ち、申立人は、2017
  年12月6日、「KITAC-KOREZON.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)を登録して、
  同年3月29日頃、本件パチスロ機に関する特設サイトを開設し、その広告宣伝に供
  していたが、契約満了により、2021年1月1日、本件ドメイン名の登録を廃止した。

 イ 登録者のドメイン名
   申立人が登録していた本件ドメイン名について、レジストリデータベースから当
  該ドメイン名の情報が削除されると同時に、登録者は、本件ドメイン名を登録して
  いる。
 ウ 登録者のドメイン名と申立人の登録商標等との同一・類似性
   「KOREZON」部分は、申立人と株式会社角川プロダクションらとの間で締結した商
  品化権使用許諾契約の対象となっていたライトノベル作品の略称である。
   他方、「KITAC」部分は、申立人の周知著名な商標と実質的に同一であって、本件
  ドメイン名における要部は、「KITAC」部分に存する。そして、「KITAC」と「KOREZON」
  は、「-」(ハイフン)をもって分離して表されている。
   したがって、本件ドメイン名が登録商標に類似する。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 ア 登録者の氏名は、本件ドメイン名と何ら関連がない。また、登録者の本件ドメイン
  名に関連する登録商標は一切見当たらない。

 イ 登録者は、申立人らと何の関係性も有さず、かつ、申立人らは、登録者に対して本
  件ドメイン名に関するライセンスを一切付与していない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 ア 申立人の登録商標等の周知著名性について
   申立人は、前記のとおり「回胴式遊技機」(略して「パチスロ」)を取り扱っており、
  当業界において、申立人は「KITAC」(キタック)と称されている。
   申立人が1996年にリリースしたパチスロ機「ジャグラー」は、20年を超えるロン
  グセラーシリーズとなっている(特に、パチスロ5号機は、申立人の製造に係る「ア
  イムジャグラーEX」であった)。
   また、「日刊遊技情報」(株式会社ビジョンサーチ社の発行)によれば、ここ数年、
  東京及び大阪の主要14店舗における申立人の製造販売に係るパチスロ機の設置台
  数は、約25%と、継続して第1位の地位を確保している。
   「KITAC」を含む登録商標は、申立人が所有するもの以外にはない。
   パチスロ業界において、申立人の登録商標「KITAC」及び申立人の略称「KITAC」
  (キタック)は周知著名である。

 イ 登録者による本件ドメイン名の不正目的による登録または使用
   登録者は、本件ドメイン名の下で、「パチスロ これはゾンビですか?」と題した
  ウェブサイトを開設し、広告収入等の商業上の利得を得る目的で、インターネット
  上のユーザーを、「オンラインカジノ」のオンラインロケーションに誘引するために、
  当該ドメイン名を使用している。
   同ウェブサイトでは、ユーザーに対し、「全てがお得な特典・ボーナス付\当サイ
  トが認定!優良オンラインカジノ一覧」及び「初回特典付き!オンラインカジノ
  最新情報」を大きく表示し、それらをクリックすると、いずれも「オンラインカジ
  ノ一覧」(https://bitcoinlab.jp/)に飛ぶように設定されている。
   そして、その「オンラインカジノ一覧」では、「ベラジョンカジノ」「CASINO
  SECRET」「ラッキーニッキー」「エンパイアカジノ」「Bettilt」「スポーツベット」
  「ライブカジノハウス」「Cherry Casino」「インターカジノ」「ウィリアムヒル・スポ
  ーツ」「DORA麻雀」「カジ旅」「Gambola」「ビットカジノ」「ミスティーノ」「CASINO-X」
  「Casumo」「21.com」「カジノ王国」「ロトランド」「バカラ支援ツール B-Focus」を紹
  介している。
   したがって、本件ドメイン名は、インターネット上のユーザーを、「オンラインカ
  ジノ」のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用してい
  る。
   また、例えば、パチンコ、スロットマシーン、パチスロ、ホール等を紹介する株式
  会社パチンコビレッジのウェブサイトにおいて、申立人のパチスロ機がその商品ペ
  ージのURLとともに紹介されているが、そのURLには、リンクが貼られており、登録
  者の本件ドメイン名のサイトに飛ぶようになっている。

(4)よって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者の主張の要旨
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一でなく、混同を引き起こすほど類似もしていないこと
 ア 申立人の保有する商標のほとんどは、「KitAC」というロゴであり、「kitac」や
  「korezon」、「kitac-korezon」という商標を取得しているわけではない。
   「KitAC」というロゴと「kitac-korezon」というドメイン名における文字列は、外
  観における類似性は認められない。さらに、前者の称呼は「キタック」であるとの
  ことだが、後者の称呼については「キタック」が最も呼びやすいものであるとは限
  らず、また、「korezon」部分も含めると前者とは全く異なる称呼となることは明ら
  かである。
 イ 本件ドメイン名においては「kitac」部分を要部として、ドメイン名の一部と商標
  との間の同一性・類似性を判断すべきではなく、ドメイン名全体と商標との間の同
  一性・類似性を判断すべきである。
 ウ 申立人の通称という「キタック」を正式名称とする会社が他に存在し、本件ドメイ
  ン名の一部である「kitac」という文字列は、申立人固有のものとはいえない。

(2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していること
 ア 登録者は、「お名前.com」上の「.jpドメインオークション」において本件ドメイ
  ン名を取得した。
   登録者は、本件ドメイン名で運用されていた過去のサイトと比較的近いジャンルで
  サイト運営を行うとグーグルの評価を得やすいため、本件ドメイン名を取得した後、
  本件ドメイン名で運用されていた過去のサイトのジャンルを調べ、それをもとにオ
  ンラインカジノに関する広告を行うサイトとして使用することとした。
   パチスロをしない者はもちろん、パチスロをする者であっても、本件パチスロ機を
  知らない者からすれば、本件サイトから申立人を連想する可能性は低く、何らの誤
  認を引き起こすものではない。仮に、本件パチスロ機を知っている者が同サイトを
  見ても、同製品はパチスロ機であるから、同製品とオンラインカジノとの間に何ら
  かの関連があると誤認することも考えられない。

 イ 仮に、方針4条(c)(iii)に該当することが認められないとしても、下記の事情
  により、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有している。

 ウ 申立人は、本件製品に関する商品化権使用許諾契約の満了により、本件ドメイン名
  の登録を廃止している。よって、申立人は、本件ドメイン名を利用する権利を放棄
  し、第三者による本件ドメイン名の利用を容認していた。
   また、申立人と株式会社角川プロダクション及びインテル株式会社との間で商品化
  権使用許諾契約は既に満了し、申立人が自ら登録を廃止した本件ドメイン名を申立
  人が保有する正当な利益があるとはいえない。

(3)登録者は、本件ドメイン名を不正の目的で登録または使用しているものではないこ
と
   登録者には、本件サイトが申立人が作成したものであると誤認混同させる意図や、
  本件サイト上のオンラインカジノに関する広告と本件製品が関係するものであると
  誤認混同させる意図はない。登録者による本件ドメイン名の登録または使用は、公
  序良俗に反する態様でなされたものではなく、自己の利益を不当に図る目的もなか
  ったものであるから、登録者に不正の目的があったとは認められない。

5 争点および事実認定
A 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
   JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)第15条
 (a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネ
 ルに次のように指示する。
 「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び
 適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければなら
 ない。」
  JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)第4条aは、申立人が次
 の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ⅱ)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   以下に、各要件を充足しているか否かを検討する。

B 処理方針第4条a各号についての当紛争処理パネルの判断
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
  同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第4条a(ⅰ))
 ア 本件ドメイン名「KITAC-KOREZON.JP」は、国別コードで日本を意味するトップレベ
  ルドメインである「.JP」を除くと「KITAC」と「KOREZON」の間に「-」(ハイフン)
  を入れた文字構成である。
   上記の本件ドメイン名において、識別力を有する部分は、セカンドレベルドメイン
  「KITAC-KOREZON」の部分であると認められる。
   ところで、本件ドメイン名のセカンドレベルドメインは、中間に「-」(ハイフン)
  がある2語から成る。そこで、類似の判断を行う前提として、本件ドメイン名の構
  成を検討する。

 イ 前記のとおり、本件ドメイン名(セカンドレベルドメイン)の構成は、2語を「-」
  (ハイフン)で結び、その構成が全体として一体となっているが、「-」(ハイフン)
  は、両語を分離する記号であり、前半の「KITAC」と後半の「KOREZON」の各語をそ
  れぞれ構成部分として明瞭に区別して分離して検討できる。
 (ア)前半の「KITAC」の部分について
   申立人が正当な利益を有する申立人商標のうち登録第4342904号[第41類娯楽施
  設の提供](甲第4号証)、同4402006号[第42類ソフトウェアの設計・作成又は保
  守](甲第5号証)、同4440029号[第10類診断用機械器具](甲第7号証)、同
  4514694号[第9類スロットマシーン/第28類遊戯用器具](甲第9号証)、同
  5019157号[第9類スロットマシーン外/第28類遊戯用器具外](甲第11号証)と
  「KITAC」は、称呼が同一である。また、申立人商標のうち、登録第4328511号[第
  41類娯楽施設の提供外](甲第3号証)、同4434885号[第10類診断用機械器具](甲
  第6号証)、同4514693号[第9類スロットマシーン/第28類遊戯用器具](甲第8
  号証)、同4899356号[第9類スロットマシーン外/第28類遊戯用器具外](甲第10
  号証)、同5432936号[第9類業務用テレビゲーム機外/第41類娯楽施設の提供外]
  (甲第12号証)、同5451301号[第9類業務用テレビゲーム機外/第41類娯楽施設
  の提供外](甲第13号証)、同6256841号[第9類遊戯店管理用コンピュータ及びそ
  の周辺機器外/第35類遊戯店におけるサービスの提供に関するオンラインによる経
  営情報の提供外](甲第14号証)とは、称呼を共通にする部分がある。さらに、申立
  人の会社の通称KITAC(キタック)と「KITAC」の部分で共通していると見受けられ
  る(甲第2号証)。
   そして、「KITAC」は、それ自体は特別の観念を持たない造語である。
 (イ)後半の「KOREZON」の部分について
   「KOREZON」は、それ自体は特別の観念を持たない造語である。
   しかし、その語の由来は、「これはゾンビですか?」という申立人主張の前記ライ
  トノベル作品の略称「これゾン」としての称呼と推認できる(甲第15号証)。
 ウ 「KITAC-KOREZON」は、全体として一体性があるとは言え、「KITAC」と「KOREZON」
  の2つの部分に要部があり、本件ドメイン名において、それぞれ当該部分に自他識
  別機能を有すると考えられる。
   そして、その要部である「KITAC」が共通して類似する以上、類似性は肯定される。
   他の要部である「KOREZON」が異なっているからといって、同部分が類似を打ち消
  すものではなく、類似性を否定する理由にはならない。
   もっとも、両語は、「-」(ハイフン)で分離されているとは言え、両語を結びつ
  けて、同一の機会に合わせ表示されているので、両語の関係性についての連想を生じ
  ることは否定できない。特に、本件では、申立人のドメイン名における両語の使用
  経緯につき商品化権使用許諾契約が介在しているようであるが、この事実も処理方
  針第4条a(ⅰ)の要件の「混同を引き起こすほど類似している」との判断を左右
  する事実ではない。
 エ 以上のとおりであり、本パネルは、(1)の要件は満たされていると判断する。

(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処
  理方針第4条a(ⅱ))
   登録者は個人であり、その氏名は、本件ドメイン名の要部である「KITAC」の文字
  列とも「KOREZON」の文字列とも関係がない。また、登録者は、申立人らと何の関係
  性も有さず、かつ、申立人らは、登録者に対して本件ドメイン名に関するライセン
  スを一切付与していないと申立人は主張しているが、その趣旨は、本件ドメイン名
  の要部である「KITAC」との文字列についてのことと解される。
   以上により、登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して
  いないと認める。
   登録者は、申立人が本件製品に関する商品化権使用許諾契約の満了により、本件ド
  メイン名の登録を廃止した事実を登録者が、当該ドメイン名に関する権利または正
  当な利益を有する理由と主張するが、当該事実は、(2)の要件の上記の認定を左右
  する事実ではない。
   なお、登録者は、本件要件との関係で、本件ドメイン名をオンラインカジノに関す
  る広告を行うサイトとして使用した経緯を主張するが、同主張は、次の(3)の要
  件で検討されるべきと思料する。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(処理方
  針第4条a(ⅲ))
   申立人は、登録者は本件各ドメイン名を使用して、インターネット上のユーザーを
  オンラインカジノのオンラインロケーションに誘導するために使用していると主張
  し、誘導された「オンラインカジノ一覧」では、各オンラインカジノが紹介されて
  いるとし、これに沿う証拠を提出する(甲第29、30号証)。
   また、申立人は、パチンコ、スロットマシーン、パチスロ、ホール等を紹介するウ
  ェブサイト(例えば、株式会社パチンコビレッジ)において、申立人のパチスロ機
  がその商品ページのURLとともに紹介されているが、そのURLをクリックすると、リ
  ンクが貼られており、登録者の本件ドメイン名のサイトに飛ぶようになっていると
  主張し、これに沿う証拠を提出する(甲第32号証)。
   そして、パチスロ機(パチスロ これはゾンビですか?)が2018年4月に発売され
  (甲第2号証)、この機種名がネット上で紹介される中で、この機種名に関連付けて、
  本件ドメイン名が使用され、オンラインカジノのオンラインロケーションに誘導す
  るために使用されていると認めることができる。さらに客観的に次のことが認めら
  れる。すなわち、(a)申立人は、本件ドメイン名を保有し、本件パチスロ機に関する
  特設サイトを開設し、宣伝広告に供し、使用していたこと、(b)その後本件ドメイン
  名を廃止したところ、登録者が本件ドメイン名を登録し、オンラインカジノのオン
  ラインロケーションへの誘導として使用されるようになったこと、(c)登録者がオン
  ラインカジノに関連付けて申立人の商標と類似する本件ドメイン名を使用している
  こと、(d)申立人の製造するパチスロ機の近時の設置シェアは、東京・大阪の主要1
  4店舗において継続して1位であること(甲第24乃至28号証)。加えて、登録者も
  本件ドメイン名を取得した後、本件ドメイン名で運用されていた過去のサイトのジ
  ャンルを調べ、それをもとにオンラインカジノに関する広告を行うサイトとして使
  用したことを答弁書で主張している。そうすると本件ドメイン名を登録者が利用す
  る合理的な理由はなく、オンラインカジノやパチスロ機に関心を有する需要者層に
  おいて申立人の商標等と需要者が誤認を惹き起こす恐れがあるといえる。なお、登
  録者は、パチスロをしない者はもちろん、パチスロをする者であっても、本件パチ
  スロ機を知らない者からすれば、本件サイトから申立人を連想する可能性は低く、
  何らの誤認を引き起こすものではないと答弁書で主張するが、オンラインカジノや
  パチスロ機に関心を有する者を対象とすれば足りる。
   ところで、処理方針第4条bによれば、「(ⅳ)登録者が、商業上の利得を得る目的
  で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに
  登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係な
  どについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、
  そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該
  ドメイン名を使用しているとき」との事情がある場合には、当該ドメイン名の登録
  または使用は、不正の目的であると認めなければならないと定めている。
   本件においては、上記の客観的な使用実態の状況を総合考慮して、登録者が商業上
  の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくは、その他のオンラインロケーショ
  ン、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所などについて誤認混同を生ぜ
  しめることを意図してインターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはそ
  の他のオンラインロケーションに誘導するために、当該ドメイン名を使用している
  と推認できる。
   登録者は、本件ドメイン名の登録または使用は、公序良俗に反する態様でなされた
  ものでないことを不正の目的がない理由として主張するが、上記の推認を左右する
  ものではない。また、一件記録を検討しても、不正の目的での登録又は使用を否定
  する例外的な事情は認められない。
   したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用されて
  いると認められる。

(4)救済
   申立人は、登録ドメイン名の登録移転を求めている。そして、本パネルは、移転す
  べきものと判断した。しかし、本件においては、取消裁定に止めるべきとの考えも
  あるかと思料する。しかし、取消裁定に止めず移転裁定が適切と判断する理由は次
  のとおりである。念のために、この点について以下に付言する。
   本件の登録ドメイン名は、申立人と第三者との商品化権使用許諾契約の下で、作品
  名の略称が組み合わされ、登録されていた「KITAC-KOREZON.JP」と同一である。そ
  して、申立人は、前記契約満了により同ドメイン名の登録を廃止している。
   本件事実関係においては、本裁定において登録ドメイン名「KITAC-KOREZON.JP」を
  申立人に移転させるとすれば、「KITAC-KOREZON」の文字列を含む上記の商品化権使
  用許諾契約上の取り扱いの内容が不明なままに、場合によっては契約上の問題等を
  誘発する可能性も否定できないと考えられた。そのため、そのような事情が申立人
  から主張されてうかがえる場合には、申立の一部認容の趣旨で、取消の限度で申し
  立てを認めることも考えられなくはない(日本知的財産仲裁センターにおける裁定
  においても移転裁定の申立てに対して取消裁定をした先例として、事件番号:JP201
  7-0001 https://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/2017/JP2017-0001.html、事件番号:JP
  2017-0005 https://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/2017/JP2017-0005.htmlが存する。
  ただし、本件とは事案を異にする)。
   しかし、移転後に生じるかも知れない移転後の問題を、移転前に先取りして断定的
  に判断して移転を否定することは、根拠に乏しい。すなわち、移転後の問題を想定
  して移転請求の可否を決する根拠や基準は、処理方針・手続規則等には見い出し得
  ない。したがって、移転裁定にあたり、移転後の紛争の可能性に基づいてその採否
  を決すべきではなく、移転請求に対して、取消裁定を行うために、移転を否定する
  事由としては、余程の特別な事情がない限り妥当とは言えないと思料した。もちろ
  ん移転請求が認められ、移転が実行されても、その後に正当な利害関係を有する第
  三者との間に別途解決すべき問題が生じるか否かは別問題である。本件ドメイン紛
  争処理は、あくまで、申立人と登録者間において、主として処理方針4条aの定め
  る3つの実体的要件の該当性を中心に、申立人の求めた登録者のドメイン名登録の
  取消請求または当該ドメイン名登録の申立人への移転請求が認められるか否かを判
  断すれば足りると解する(処理方針4条iは、救済として、「申立人がパネルに対
  して求めることのできる救済は、登録者のドメイン名登録の取消請求または当該ドメ
  イン名登録の申立人への移転請求に限られる。」と規定し、2つの請求に限定してい
  る。その救済がどのような場合に選択されるのかは申立人の選択に委ねられている)。
   また、移転請求の救済の申立てに対し取消裁定を行い、同裁定に即した措置が採ら
  れても、登録を取り消されたドメイン名については、1ヵ月間、再度の登録申請が
  できないものの、その後再度登録申請が可能である(汎用JPドメイン名登録等に
  関する規則29条1項(6)、同33条、同24条)。したがって取消裁定では、裁
  定後に再び第三者に登録される可能性があり、紛争の解決にはつながらず、申立人
  が移転請求の救済を選択したことを閑却することになる。そうであるならば、移転
  請求を申立人がしているときに、取消裁定が許されることがあるとしても、特段の
  事情がない限り、移転請求を認めれば足りると解する。本件では、このような特段
  の事情は認められず、却って処理方針第4条b(ⅳ)に該当するようなドメイン名
  の使用については、移転請求の申立てに対し移転裁定を行うことが必要な解決につ
  ながると考える。
   なお、登録ドメイン名の移転裁定の申立てについて、申立人への登録ドメイン名の
  移転につき関係する第三者(本件では、株式会社KADOKAWA等)の同意が定かでない
  点について、移転を同意の有無にかからしめるという処理方針・手続規則等の根拠
  はなく、同意書の存在により移転の可否が必然的に決せられるわけでもない(もっ
  とも当該第三者との該当部分の契約内容を明らかにし、当該第三者の同意を予め得
  て、証拠として申立人が同意書を提出しておくことは望ましい)。

6 結論
  以上のとおり、本パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「KITAC-
  KOREZON.JP」が申立人の登録商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン
  名について権利又は正当な利益を有しておらず、当該登録ドメイン名が不正の目的で使
  用されているものと判断する。
   よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「KITAC-KOREZON.JP」の登録を申立
  人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

    2021年7月1日
     日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
            単独パネリスト    三 山 峻 司

別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
  日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年4月30日
  に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料受領日
  センターは、2021年4月30日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
  センターは、2021年4月30日にJPRSに登録情報を照会し、2021年4月
  30日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であるこ
  とを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び
  住所等を受領した。
(4)適式性
  センターは、2021年5月10日に補正(証拠説明書の修正)が必要と判断してそ
  の旨を申立人に通知し、2021年5月10日に補正書類を受領し、2021年5月
  10日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日
  センターは、2021年5月12日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的
  送信により、手続の開始を通知した。センターは、2021年5月12日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2021年5月12日)、答弁書提出期限(2021年6月9日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に送付
  した通知は「あて名不完全で配達できません」として返送された。
   センターは、2021年6月10日に申立人から証拠一覧及び説明書の補正を電子
  的送信により受領し、2021年6月10日に登録者に対し電子的送信により送付し
  た。
(6)答弁書の提出
  センターは、2021年6月7日に答弁書提出期限の延長を求める上申書を登録者か
  ら電子的送信により受領し、2021年6月8日に提出期限を2021年6月15日
  まで延長する旨を通知した。
  センターは、2021年6月14日に答弁書を受領し、2021年6月15日に答弁
  書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認し、2021年6月15日
  に申立人に対し電子的送信により送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
  申立人、登録者とも、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センタ
  ーは、2021年6月16日に弁護士 三山 峻司を単独パネリストとして指名し、
  一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年6月16日
  に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネ
  リスト及び裁定予定日(2021年7月6日)を通知した。パネルは、2021年6
  月17日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
  パネルは、2021年7月1日に審理を終了し、裁定を行った。