Date: Tue, 30 May 2000 16:26:50 +0900 From: Machimura <matimura@asia-u.ac.jp> ------ JPドメイン名紛争処理方針(第一次答申)およびJPドメイン名紛争処理方針のための 手続規則(第一次答申)に対する意見 亜細亜大学法学部 町村泰貴 (1)用語等について ICANNの紛争処理ポリシーおよび手続規則の翻訳に近いが、日本語での紛争処 理ルールを定めるにはもっとこなれた日本語として規定をこしらえる必要がある。冗 長な部分が多すぎる。 例えば、代理人について一々権限ある・・・と書く必要はなく、また「特段の事情 のある例外的な場合に限り」といった表現、手続規則第6条(c)の規定なども冗長で ある。 (2)処理方針と手続規則との関係 また、処理方針と手続規則との関係も曖昧である。そもそも方針と規則とを区別す るのは、その改訂手続に差があって、臨機応変に見直していく部分と滅多に改正しな い部分とを区別することが第一の目的だが、JPNICの方針と規則にはこのような 違いが認められないので、敢えて方針と規則とを区別して規定するメリットがあるか どうか疑問である。それ以外のメリットとしては、ドメインネーム登録時に参照でき る基本原則や実体的なルールについて簡潔に方針で示されていて、規則は具体的に紛 争処理当事者となったときに参照すれば足りる程度の細則を示すことが考えられる。 そこで思うに、処理方針と手続規則との役割分担は、次のような3つの方法がある。 第一に、方針が大原則を示すにとどまり、具体的な内容はすべて規則で定める。 第二に、方針は実体ルールと手続の大原則を示し、手続の細かい部分は規則で定め る。 第三に、方針は実体ルールと手続の具体的準則を定め、送付の方式や期日などの細 則を規則で定める。 この3つの役割分担のうち、規則について特に臨機応変に改訂可能というわけでは ないJPNICの場合は、第二の選択肢が最適と考えられる。 (3)条文と章立てについて アメリカ流の条文構成をそのまま取り入れているが、日本の法律家の利用を前提と するのであれば、日本の法律条文構成に習って構成すべきである。 具体的な章立てとしては以下のようなやり方が考えられる。 第1章 総則 目的、規則・補則への委任、準拠法、免責 第2章 実体ルール 裁定の内容(=救済措置)、その要件 第3章 紛争処理手続 手続の基本原則、アウトライン、併合審理、パネル裁定の効力、取仮爾押ο族髻・ 仮の措置 第4章 裁判所への出訴 第5章 手続費用の負担 第6章 改訂手続 (4)登録規則との関係 登録規則が別に定められているが、登録者がこの紛争処理方針に従うことに同意す る旨は登録規則に定めるのが適切である。 また登録にあたっての告知義務(方針2条)、他の紛争処理手段(同5条)、セン ターの紛争への不関与(同6条)も登録規則に定めるのが適切である。 (5)規定がないが必要ではないかと思われる規定 1. 仮の手続の不存在 商標権者等が緊急に救済を求めている場合に、担保を立てて暫定的なドメイン使用 停止等が必要となるが、その規定が見られない。 2. 取仮爾・ 取仮爾欧惑Г瓩覆い箸い・饂櫃任呂覆い隼廚錣譴襪・・・蠅・・蕕譴覆ぁ・覆・⊆・ 下げを認める場合でも、相手方の同意の要否、再申立の可否などが考慮されるべきで ある。 3. パネリストの受諾 パネリストの指名は規定があるが、その指名を受ける意思表示をパネリストが行う 手続も必要であるが、欠けている。 (6)一方的な不当条項 申立人のセンター等に対する一切の請求・救済を放棄する旨(規則3条(c))など 、独占事業であるJPNICとしては不相当に有利な条項を設定している。 (7)証明の負担の不明確 登録者側の権利利益の不存在を申立人が主張しなければならないことは、通常の主 張立証の負担と逆である。また、登録者側も自らの権利利益の存在を主張することと なっている。この点、いずれか判定できない場合には、どちらがその証明失敗の不利 益を負担するのか不明である。 (8)併合審理の場合の処理不明 4条fは、複数の紛争が別々のパネルに係属している状態を前提にしているが、そ の場合に併合審理をするパネルはよいが、併合審理によって係属が失われるパネルは どうするのか、明確でない。 また、同一当事者間の複数ドメインを同一手続で審理できることは明確だが、異な る当事者の申立を併合することの可否(例えば慶応大学と京王帝都がkeio.shop.jpの 取消を求めるなど)、あるいは反訴の可否(慶応ゼミナールがkeio.ac.jpの取消を慶 応大学に対して請求し、慶応大学が逆に慶応ゼミナールにkeio-semenar.co.jpの取消 を求めるなど)について明確でない(認められるようにも見えるが、その場合の料金 の負担などは不明)。これらが認められないと、不便であろうとも思われる。 (9)実体ルールの整備の必要 実体ルールは、要件効果をはっきりと示すべきであり、その中で上記(7)の証明 負担も明示すべきである。 なお、従来JPNICではドメイン名登録の移転を認めてこなかったと理解してい るが、この規定では当事者の合意により移転できることが前提となっている。こうし た理解でよいのであろうか? (10)処理方針の私案 以下、上記の検討項目を織り込んだ私案を作成したので、ご参照願いたい。 ----(私案)---- 第1章 総則 第1条 目的 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「当センター」とい う)にドメイン名の登録をした者(以下「登録者」という)と第三者(当センターを 除く)との間の登録ドメイン名に係わる紛争については、この「JPドメイン名紛争処 理方針」(以下「本方針」という)に基づいて処理する。 第2条 規則・補則への委任 JPドメイン名紛争処理手続は、 本方針に定めるもののほか、「JPドメイン名紛争 処理方針のための手続規則」(以下「手続規則」という)、および当センターにより 認定された紛争処理機関(以下「紛争処理機関」という)が別途定める補則に従って 、実施されるものとする。 第3条 準拠法 本方針、手続規則および紛争処理機関の定める補則の解釈およびそれらに定めのな い事項に関しては、日本法が適用される。 第4条 免責 当センターは、登録者と第三者(当センターを除く)との間でのドメイン名の登録 と使用に関するいかなる紛争にも関与しない。 2項 当センター、紛争処理機関およびパネリストは、故意による不法行為を除き 、本規則に基づくすべての手続に関係するいかなる作為・不作為についても、両当事 者への責任を一切負わない。 第2章 実体ルール 第5条 ドメイン名の不正な目的による登録 登録者のドメイン名が、第三者の登録による商標と同一または混同を引き起こすほ どに類似している場合、当該商標権者は登録者が不正な目的で当該ドメインネームを 登録したことを証明して、本方針の定める紛争処理手続により自己への移転又は登録 取消を申し立てることができる。 2項 以下の各号に規定された事項を申立人が証明した場合には、不正な目的で登 録がなされたものとみなす。 1号 登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名の取得 に直接要した金額を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移 転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき 2号 申立人が権利を有する商標をドメイン名として使用できないように妨害する ために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複数 回行っているとき 3号 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイ ン名を登録しているとき 4号登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオ ンラインロケーション、またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポン サーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図 して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンライン ロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき 第6条 登録の正当な利益 前条の規定に関わらず、登録者が正当な利益に基づいて当該ドメイン名を登録した と認められるときは、その移転または取消を命じることができない。 2項 登録者が以下の各号に規定された事項を証明した場合には、正当な利益に基 づく登録とみなす。 1号 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争について何らかの通知を第三者たる 申立人から受ける前に、何ら不正な目的を有することなく、商品またはサービスの提 供を行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、ま たは明らかにその使用の準備をしていたとき 2号 登録者が、商標登録をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン名の名称 で一般に認識されていたとき 3号 登録者による当該ドメイン名の使用が、申立人が権利を有する商標との誤認 に乗じて商業上の利得を得る目的としたものではないとき、または申立人の業務に関 わる商標の価値を毀損せしめるような目的ではない非商業的または公正な使用である とき 第7条 ドメイン名登録の移転および取消 当センターは、以下の各号のいずれかに該当する場合には、当該ドメイン名登録の 移転または取消の手続を行う。 1号 登録者がドメイン名登録の移転または取消の指示を書面により当センター に提出したとき。 2号 裁判所または仲裁機関によって下された、ドメイン名登録の移転または取消 を命じる判決、決定もしくは裁定の正本を、当センターが受領したとき。 3号 本方針に基づくJPドメイン名紛争処理手続において、紛争処理機関における パネルが下したドメイン名登録の移転または取消の裁定もしくは第14条に規定する仮 の使用差止命令を、当センターが受領したとき。ただし、第16条および第17条の規定 に従うものとする。 第3章 紛争処理手続 第8条 申立 本方針に基づく紛争処理手続により登録者のドメイン名の移転または取消を請求す る申立人は、当センターの認証した紛争処理機関のいずれかに対し、手続規則の定め に従って申し立てることができる。 第9条 手続の開始とパネルの指名 手続の開始および実施の手順、ならびに紛争処理の裁定を下すパネルの指名手続は 、手続規則の定めによる。 第10条 答弁 本方針に基づく紛争処理手続の申立を受けた登録者は、手続規則に基づき、答弁書 を紛争処理機関に対して提出しなければならない。 第11条 事件の併合 当事者は、複数のドメイン名について同一の紛争処理手続により審理することを申 し立てることができる。この申請は、当事者間で係属中の紛争事件を担当している最 初のパネルに対してなされなければならない。当該申請を受けたパネルは、相当と認 めるならば、その一部または全部について併合審理を行うことができる。 第12条 裁定およびその効力 指名を受けたパネルは、手続規則の定めるところにより、両当事者の提出書面およ び証拠に基づき、第5条および第6条の規定に従って裁定を下す。 2項 紛争処理機関は当センターに対し、当該ドメイン名に関するパネルのすべて の裁定を通知しなければならない。すべての裁定は、パネルが例外的な事件として部 分的に変更修正して公表すると決定した場合を除き、その全文がインターネットで公 表されるものとする。 3項 この裁定は当センター、両当事者および両当事者のためにドメイン名登録事 務を行う者を拘束する。ただし、第16条に基づき期間内に裁判所へ提訴し、その実体 判断を得た場合はこの限りでない。 第13条 和解および取仮爾・ 申立人は、パネルの裁定が下されるまでの間、申立を取り下げることができる。た だし登録者が答弁書を提出した後にあっては、その同意を得なければならない。 2項 両当事者は、パネルの裁定が下されるまでの間、いつでも和解により手続を 終結させることができる。 第14条 紛争中におけるドメイン名の移転 登録者は、次のいずれかの場合、当該ドメイン名登録を他の者に移転することが出 来ない。 1号 本方針に基づくJPドメイン名紛争処理手続が係属した場合において、その 終結に至るまで。ただし移転または取消を命じる裁定を当センター受領した場合は、 その受領の日から15日間 2号 裁判所または仲裁機関による審理手続が係属中であって、その裁判所また は仲裁機関の判決・裁定に従うとの新登録者の書面による同意がない場合 2項 当センターは、本条の規定に違反してなされたドメイン名移転手続を取り消 すことができる。 第15条 仮の使用差止命令 申立人は、登録者のドメイン名使用により損害を被っていることを疎明したときは 、保証金を預託した上で、紛争処理機関に対して仮の使用差止命令を求めることがで きる。 2項 紛争処理機関は、直ちに暫定パネリストを自ら指名し、その判断を求めなけ ればならない。 3項 暫定パネリストは、必要と認めるときは登録者の意見を聞いて、仮命令を下 す。この仮の使用差止命令は紛争処理機関に直ちに送付され、紛争処理機関は当セン ターに直ちに転送しなければならない。 第4章 裁判所への提訴および裁定の実施 第16条 裁判所への出訴 いずれの当事者も、このJPドメイン名紛争処理手続の開始前、係属中または終結後 のいずれの段階においても、当該ドメイン名の登録に関して裁判所に出訴することが できる。 第17条 裁判所へ提訴された場合の裁定の実施 パネルが、登録者のドメイン名登録の取消または移転の裁定を下した場合において 、当センターは、紛争処理機関から裁定の通知を受領した日より10日以内に、登録者 が申立人を被告として裁判所に出訴した旨を証する文書の提出がなければ、その裁定 を実施する。 2項 裁判所に出訴した旨を証する文書の提出があった場合、当センターは、登録 者が提訴した当該訴訟についての訴えの取仮悉颪・茲喊塾・佑瞭碓媾颪寮桔棔・坐・ 訟の請求棄却もしくは登録者が当該ドメイン名を継続して使用する権利がないとの裁 判所による確定判決の正本またはこれと同一の効力を有する文書の正本を受領したと きに限り、裁定を実施する。 第5章 手続費用 第18条 料金 本方針に基づいてパネルが扱う紛争事件に関係して紛争処理機関が請求するすべて の料金は、申立人の負担とする。ただし、登録者が、手続規則に従い、パネリストの 数を一名から三名に増員することを答弁書において選択したときには、両当事者がす べての料金を折半により均等に負担する。 第6章 本方針の改訂 第19条 改訂 当センターは、いつでも本方針を改訂することができる。 2項 申立書の紛争処理機関への提出により本方針による手続が開始された場合、 その開始時に有効であった本方針が、その手続の終結まで継続して適用されるものと する。 ------(私案終了)----- 以上に規定されていない事項は、すべて手続規則に定めるものとする。 不明な点等、ありましたら、以下にご連絡願います。