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JPNICはインターネットの円滑な運営を支えるための組織です

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    /P▲        ◆ JPNIC News & Views vol.1315【定期号】2015.6.15 ◆
  _/NIC
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◆ News & Views vol.1315 です
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インターネットガバナンスをめぐる議論については、News & Viewsでも随時
状況をお知らせしておりますが、本号の特集では、IANA機能の監督権限移管
を取り巻く動向のアップデートをお伝えします。

米国政府がIANA機能の監督権限を移管した後のIANA機能のあり方については、
三つのIANA機能(プロトコルパラメータ、番号資源、ドメイン名)に関わる各
運用コミュニティから、それぞれの機能に関する提案を提出してもらうこと
になっています。提案が遅れていたドメイン名コミュニティでも、6月末の提
出に向けた動きが見られる状況となったため、ここで各提案のポイントなど
を取り上げます。

コラムには、インターネットによる「つながり」が、より安全で豊かなもの
になるよう日々奮闘されていらっしゃる、国立情報学研究所の中村素典さん
に寄稿いただきました。またインターネット用語1分解説では、DNSのセキュ
リティや安定性の向上を目的として活動している 「DNS-OARC」を取り上げて
います。

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◆ 目次
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【 1 】特集 「IANA機能の監督権限移管に関する動向
              ~三つのIANA機能に関する提案の統合に向けて~」」
【 2 】News & Views Column
       「通信を支えるさまざまな『つながり』」
        国立情報学研究所  中村素典氏
【 3 】インターネット用語1分解説
       「DNS-OARCとは」
【 4 】統計資料
         1. JPドメイン名
         2. IPアドレス
         3. 会員数
         4. 指定事業者数
【 5 】イベントカレンダー


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 1 】特集 「IANA機能の監督権限移管に関する動向
              ~三つのIANA機能に関する提案の統合に向けて~」
                                     JPNIC インターネット推進部 奥谷泉
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

IANA機能の監督権限移管を取り巻く動向は、 2014年3月14日の米国商務省電
気通信情報局(NTIA)による発表(*1)以降、JPNICからNews & Viewsや日本イン
ターネットガバナンス会議(IGCJ)の場などでお伝えしてきました。現在、移
管後のIANA機能に関する提案内容が、具体的に見えてきた段階にあります。
そこで、この号では今一度、IANA機能の監督権限移管の背景を振り返るとと
もに、現状と各提案の概要をご紹介します。

(*1) 米国商務省電気通信情報局がインターネットDNS機能の管理権限を移管
     する意向を表明
     https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2014/20140317-02.html


■これまでの状況

NTIAからの発表では、移管後の提案は、グローバルなマルチステークホルダー
(さまざまな立場を代表する関係者)で策定することが要件として示されてい
ます。これに伴い、13コミュニティからの代表者30名により構成されるIANA
Stewardship Coordination Group (ICG)(*2)が同年7月に組成され、NTIAへの
提案提出に向けた調整を担うことになりました。

その後、ICGから三つのIANA機能(プロトコルパラメータ、番号資源、ドメイ
ン名)に関わる各運用コミュニティに対して、それぞれの機能に関する提案策
定の募集が2014年9月に行われ、締め切り時点(2015年1月15日)での提案提出
状況は以下の通りです。

  ・プロトコルパラメータおよび番号資源コミュニティからは期日までに提
    案提出完了
  ・ドメイン名に関する提案は大きく遅れ、本稿執筆時点でいまだICGへの提
    出に至っていないが、6月末に提出予定

このドメイン名に関する提案の遅れのため、ICGが当初目標として発表した
2015年9月のNTIAへの提出は間に合わず、現時点では2ヶ月遅れの11月へと変
更されており、今後の状況によってはさらに見直しが行われる可能性もあり
ます。

以上のように、ドメイン名の提案はICGへの提出にはいまだ至ってはいません
が、2015年4月22日~5月20日に意見募集の行われた提案ドラフト第2版を通
して、具体的な内容を確認できる段階に入っています。今後、IANA機能に関
する提案はICGが統合を行い、必要に応じて各IANA機能の提案を策定したコ
ミュニティとの調整を行った上で、ICANN理事会の承認を経てNTIAへ提出しま
す。

またNTIAは、IANA機能に関する提案の提出に加え、「ICANNの説明責任」に関
する提案の提出も同時に求めています。これはNTIAの監督権限が移管された
後も、ICANNが十分に信頼に足る組織であり続けることを確認するためです。
これに対してはICANNコミュニティにおける各支援組織・諮問委員会の代表者
が選出された専門のワーキンググループで検討を行い、ICANN説明責任に関す
る提案(*3)も発表され、第1回の意見募集を2015年6月3日に締め切りました。

(*2) IANA Stewardship Transition Coordination Group (ICG)
     https://www.ianacg.org/

(*3) Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability
     (CCWG-Accountability) - Input Needed on its Proposed
     Accountability Enhancements (Work Stream 1)
     https://www.icann.org/news/announcement-3-2015-05-04-en


■IANA機能とNTIAの役割

IANA機能は、前述のごとく「プロトコルパラメータ」「番号資源」「ドメイ
ン名」の三つの重要資源に関する機能でそれぞれ提供されています。各機能の
紹介は、JPNICのWebサイトで「IANA機能の監督権限の移管について」の
「IANA機能とは」をご覧ください。

  IANA機能とは
  https://www.nic.ad.jp/ja/governance/iana.html#id0002

これらIANA機能に対してNTIAは、運用者を公募により選定して委託する役割
と、ドメイン名については、ルートゾーンに関する情報の追加・削除・更新
の承認を行う役割も担っています。

1点目については、歴史的な経緯から、NTIAがIANA機能の運用者であるICANN
と契約を締結し、ICANNは設立当初から運用者としての役割を担ってこれらの
機能を提供しています。ただし、米国政府から民間に対する業務委託という
性質上、契約更新時には運用者を公募しており、ICANNが永続的にその運用者
を務めることが保証されているわけではありません。NTIAはIANA機能の運用
者と契約締結することで、IANA機能を監督する象徴的な役割があると見られ
ています。

2点目の、NTIAがルートゾーンに関する情報の追加・削除・更新の承認を行う
役割を担っていることについては、一部の政府関係者等からは懸念の対象と
なってきました。しかしながらNTIAによれば、この役割は、必要な手続きが
踏まれているかどうかの事務的な確認を超えるものではなく、申請内容に対
する判断を行うものではないということです。また、プロトコルパラメータ
および番号資源機能の運用において、NTIAの関わりはありません。


■着目されている背景

上述の通り、IANA機能の運用におけるNTIAの関与は限定的であり、多くの人
はおそらくその存在自体意識していないのではないでしょうか。従って、NTIA
による監督権限移管がIANA機能の運用に実質的な影響を及ぼす可能性は、現
在のNTIAに置き換わる役割を拡大した提案が策定されない限りは、低いと言
えます。

では、なぜ本件がここまで着目されているのでしょうか。

そもそも、IANAというインターネットで通信する上で不可欠な機能に関して、
それを監督する特別な役割を米国政府が担っていること、特に、ルートゾー
ンを承認する役割を担っていることに対しては、各国政府をはじめ、少なく
ない懸念が挙がっていました。今回、米国政府がその監督権限を手放す意向
を表明したのは、このような懸念に対応するため、さらに2014年というタイ
ミングでの発表については、その前年のスノーデン事件による米国への不信
感を払拭するためではないかという観測も存在しています。

一方のNTIA側は、IANA機能の監督権限の移管に関する話は新たに浮上したも
のではなく、ICANN設立当初から掲げていた目標であり、今ICANN側で十分な
体制が整ったので移管の意向を固めたと発表しています。米国政府の文脈に
よると、米国政府が1997年に示し、ICANN設立当初から掲げてきたDNSの管理
権限を民間に移管する最終段階を迎える、重要な局面ということになります。
移管に伴い、特定の国や関係者に属さず、利用者中心でグローバルに発展し
てきたインターネットの性質に沿った形となると考えられます。

また、政府間の調整ではなく、グローバルなマルチステークホルダーコミュ
ニティによる調整に基づいた議論のプロセスにより、米国政府が納得し、か
つインターネットの安定運営を損ねない移管後体制を構築するとの課題に果
たして対応できるのか、懐疑的な立場をとる向きもあり、この点にも関心が
集まっています。


■各IANA機能に関する提案の特徴

各IANA機能に関する提案の共通点は、方法はそれぞれ異なるとしても、各機
能のサービスレベルを担保する仕組みを定義している点です。

まず、各提案をポイントだけで比較すると
  ・プロトコルパラメータ:
      既存の枠組み(IANA機能運営者としてのICANNとIETFとの間の覚書)から
      変更なしで、最もシンプル
  ・ドメイン名:
      名前機能に関するサービスレベルの評価を行うCustomer Standing
      Committee、より包括的なIANA機能の評価を行うReview Teamも設立する
  ・番号資源:
      上記2提案の中間として、RIRとIANA機能の運用間で新たに締結するSLA
      (サービスレベル合意)で主に対応するが、Review Committeeも新設
といった特徴が挙げられます。

各提案のポイントは上記の通りですが、詳細は次の通りです。

  プロトコルパラメータ:
    - IETFコミュニティで策定(IANAPLAN WG)
    - サービスレベルについても既存の覚書で必要な対応が担保されるとし、
      監督権限の移管に伴う変更なし
    [提案概要スライド]
    http://singapore52.icann.org/en/schedule/mon-icg-rfp-iana-stewardship/presentation-ietf-ianaplan-wg-09feb15-en.pdf

  番号資源:
    - RIRコミュニティで策定した内容を、各RIRコミュニティの代表者で構
      成されるCRISPチームが統合
    - 番号資源に関するIANA機能について、サービスの受益者であるRIRと
      IANA機能の運用者(現在ICANN)間でSLAを締結
    - コミュニティの代表者から成るReview Committeeを設立し、RIRによる
      サービスレベルの評価に対して諮問を行う
    [提案概要スライド]
    https://www.nro.net/wp-content/uploads/Numbers_proposal-final.pdf

  ドメイン名:
    - ICANNコミュニティの各支持組織、諮問委員会から構成されるCross
      Community Working Group on IANA Stewardship Transitionで策定
    - Post Transition IANA (PTI)と呼ばれるICANN子会社を設立し、IANA機
      能の運用をICANNから委託される形で担う
    - IANA機能の運用組織の帽子がICANNからPTIに置き換わるのみであり、
      運用上、実質的な影響を及ぼすものではないと説明されている
    - PTIの設立に伴い、PTI Boardを設置。名前機能に関するサービスレベ
      ルの評価を行うCustomer Standing Committee、より包括的なIANA機能
      の評価を行うReview Teamも設立する
    [提案概要スライド]
    https://community.icann.org/download/attachments/52897455/Webinar%20Slides.pdf?version=1&modificationDate=1430150507000&api=v2

三つの提案を比較すると、ドメイン名に関する提案が、最も複雑であること
が見て取れます。その要因としては、ICANNにおけるドメイン名の方針策定
は、番号資源やプロトコルパラメータよりもはるかに多様な関係者によって
マルチステークホルダーアプローチで行われているため、プロセスや機構設
計を重視せざるを得ないことが挙げられます。またそれに加え、プロトコル
パラメータにおけるIETF Administrative Oversight Committee (IAOC)や番
号資源におけるRIRと異なり、IANA機能がICANNの中に包含されているため、
資源に関するポリシー策定と、IANA機能の運営の分離、サービスレベルの担
保の仕組みなど、検討要素が多いことが挙げられます。

これに加えて、ICANNの説明責任に関する検討を行うWGでは、ドメイン名に関
するIANA機能の観点から、ICANNの組織としての信頼性強化を必要とする要素
も含めて、ICANNの信頼性強化につながる提案を発表しています。また、NTIA
からの要望に基づき、監督権限移管後におけるICANNの信頼性維持において、
あらゆる想定事態に備えた耐久度の評価(Stress Test)もあわせてNTIAへ提出
される予定です。

推測の域を出ませんが、米国政府による監督権限移管後も、ICANNが米国にと
って不適切な国、関係者グループや組織に乗っ取られることがないことを確
認するために、ICANNの説明責任向上に関する検討とそれに対する耐久度の評
価の提出が求められていると思われます。


■今後の議論で着目されるポイント

今後、ICGによる三つのIANA機能に関する提案の統合に向けて、議論が必要と
考えられる要素としては「PTIの設立に伴う影響」と「IANA機能の運用者変更
の条件」が挙げられます。共通しているのは、現在ICANNがその役割を担って
いるIANA機能の運用者(IANA Functions Operator)が「今後も米国所在であり
続けることをどの程度保証するべきか」という、IANA機能の実質的な運用と
は直結しない政治的な要素が大いに含まれている点です。

PTIの設立に伴う影響:

ドメイン名のコミュニティが設立を提案しているPTIは、ICANNとは別の組織
との位置づけは保ちつつも、子会社としてICANNと一定の関係性は維持すると
の適切なバランスが維持されるモデルと言えます。また、現行のIANA機能を
そのまま引き継ぐとされているため、運用上の影響はおそらくないと推測さ
れます。一方、プロトコルパラメータおよび番号資源のコミュニティではPTI
の設立を想定していなかったため、PTIと契約(覚書/SLA)を締結する立場とな
ることを考えると、法的な影響の分析が必要となります。PTIが米国所在であ
るICANNからIANA機能を引き継ぐことを考えると、PTIの所在地もそのまま米
国とすることが自然で現実的な選択と考えられますが、新たな組織を設立す
ることで所在地が議論の対象として取り上げられ、政治的にも米国以外の国
にも配慮をするという難しいバランスを保った判断が必要となる可能性もあ
ります。

IANA機能の運用者を変更する条件に関する議論:

IANA機能の運用者変更については、現行のNTIAの契約手続きと同じく、契約
更新時に特定の条件を課さずに継続を見直すことができるのか、それとも運
用者の見直しはサービスレベルを満たさない場合に限定するべきかについて
も、現在着目されています。これについては、現行の条件のままでは米国政
府は受け入れないとICANNが予測していることが伝えられており、今後調整が
必要となる要素かもしれません。ちなみに番号資源に関する提案は、現行の
NTIAの手続きと同じくサービスレベルに満たない場合に限定せずに、事前に
契約を更新しない通知を行うことで、番号資源のIANA機能の運用者を変更す
ることが可能です。

また、NTIAへの提案の提出時期も着目されているポイントです。NTIAは提出
期日が契約更新のタイミングと一致する必要はなく、コミュニティの意向次
第と公言している一方、米国大統領選挙前の1年ほどは物事は動かず、政権交
代があった場合の影響が不透明との見方も、一部の関係者からは表明されて
います。

米国政府の中でも一部注目が高まっており、NTIA長官およびICANN CEOも証人
を務めた米国上院通商・科学・交通委員会への公聴会(2015年2月)、米国下院
司法委員会による証人としての関係者の召集(2015年5月)、議会の調査機関で
あるGovernment Accountability Office (GAO)による関係者への調査の実施
(報告書を2015年6月発表予定)なども進められています。今後は、マルチス
テークホルダーによる提案策定プロセスを進めていきながらも、米国政府の
動向への注視も注視も必要となります。

グローバルな議論として以上が着目されていますが、国内におけるインター
ネットガバナンスに関する議論を行うフォーラムであるIGCJの第7回会合で
は、IANA機能の運用が安定する形で移管されることが最優先であり、それ以
外は実質的な影響を意識することはあまりないとの意見が参加者から出てい
ました。


■今後のプロセスと意見提出の機会

ICGは、NTIAへの提案提出に至るまでStep 0からStep 8までの9段階のプロセ
スを発表しており、現在はStep1 Communities Develop Proposalsが完全には
完了していないものの(ドメイン名の提案がICGへ6月末に提出予定)、ICGで
Step 2 ICG Develops Draft Response およびStep 3 Review of the Draft
Responseに着手している段階にあります。

 https://www.icann.org/news/announcement-2015-04-13-en
 https://www.dropbox.com/sh/fto56r4ceqhnhz2/AABJWRhIrOESlPwZHzEA_Uz1a?dl=0

今後、ドメイン名機能に関する提案提出後、既に提出済みの2機能の提案と併
せて、ICGが統合する提案へのコメント募集がかかりますので、そのタイミン
グで誰もがコメントを行うことが可能です。時期は正式に確定していません
が、現時点で公開されている案では2015年8月が見込まれています。

IANA機能の監督権限移管については、今後のIGCJでも随時ご報告して参りま
す。詳細については、以下のURLもご覧ください。

・IANA機能の監督権限移管に関する解説ページ
  https://www.nic.ad.jp/ja/governance/iana.html

・IGCJ資料
  第1回から第7回の各会議で、IANA機能の監督権限移管に関する発表があり
  ます。
  http://igcj.jp/meetings/


 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ┃     ◆◇◆◇◆  本特集のご感想をお聞かせください  ◆◇◆◇◆     ┃
 ┃良かった                                                          ┃
 ┃→ http://feedback.nic.ad.jp/1315/4e6c5cf65e92847cf6b1ed1f786588c0┃
 ┃                                                                  ┃
 ┃悪かった                                                          ┃
 ┃→ http://feedback.nic.ad.jp/1315/1c8448f9f88d3211acdf5543e503664a┃
 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 2 】News & Views Column
       「通信を支えるさまざまな『つながり』」
                                             国立情報学研究所 中村素典
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

私が大学生だった1990年頃、建物ごとに孤立していたLANがキャンパスネット
ワークに接続され、程なく、キャンパスネットワーク全体がWIDEインターネッ
トに接続されました。それまで、定期的に電話をかけてメールをやりとりし
ていた環境から、常時IP接続の環境に変わったことで、遠く離れた場所との
間でメールがすぐに届くだけでなく、チャットや音声・映像による実時間通
信も気軽に利用できるようになり、急激に世界が広がりました。「つながる」
ことに衝撃を受け、感動を覚えた瞬間でした。各地で多くの人がさまざまな
「つなぐ」ことに試行錯誤する中、私は電子メールを「つなぐ」ためのソフ
トウェアであるSendmailの改良や、検索エンジンの先駆けの一つであるオー
プンソース検索サービス、archieの運用などに腐心していました。その後、
WWWの登場、インターネットの商用利用の開始、無線LAN技術やモバイルデー
タ通信の普及など、インターネットを中心とする「つながり」は、多くの人
のさまざまな努力によって、さらに広がりました。

近年では、SaaS (Software as a Service)やクラウドの登場で、インターネッ
ト上に点在するさまざまなサービスを、部分的な機能として「つなぎ」合わ
せて一つのまとまったシステムを構築、提供することも容易になり、そのよ
うな利用形態が広がりつつあります。インターネット上に散らばる、さまざ
まな機能を「つなぎ」合わせてサービスを実現するためには、利用者に関す
る情報、特にID (Identity)情報の共有が重要になります。すなわち、認証処
理を統合して、利用者に対して認証手続きが一度で済んだように見せかける
シングルサインオンに加えて、プロビジョニングや属性情報の流通をサポー
トするID連携(IDフェデレーション)が、クラウド時代において重要な役割を
担います。SAML (Security Assertion Markup Language)やOpenID Connectを
用いた、オープンなID連携基盤の検討や構築は既に始まっており、さまざま
なサービスがID連携基盤に「つながる」ようになってきています。これによ
り、利用者はさまざまなサービスに容易に「つながる」のです。

また、昨今の不正アクセスの急増により、その対策が急務となっていますが、
対策の一つに認証の強化があります。脆弱なパスワード認証に代わる、より
信頼できる認証方式として、さまざまな仕組みが開発され、導入が進められ
ていますが、セキュリティを強固にするために、サービスごとに異なる認証
手段を用いると利便性が損なわれます。シングルサインオン技術に基づくID
連携基盤を活用すれば、安全な認証方式を1ヶ所に導入するだけで、利用者の
利便性を損なわずに、さまざまなサービスの認証を強化することができます。
ID連携基盤に「つながる」ことが、セキュリティ向上にも貢献するのです。

あらゆるものが「つながる」ようになると、プライバシーが心配になります。
ID連携では、仮名や匿名にしつつ、本人であることを確実に保証する仕組み
も提供されています。ID連携において成りすましを防ぎ、本人であることを
確実に保証するための枠組みであるトラストフレームワークも、その整備が
世界的に始まっています。

オープンなID連携基盤の普及は、特定のサービス事業者による囲い込みから
の、解放への鍵にもなります。各地で同時にID連携に取り組むことで、過去
にみんなで試行錯誤しながら体験した、「つながる」ことへのワクワク感を
再び取り戻せるような気がしています。利用者やサービスがID連携基盤で「つ
ながる」ことが、より豊かな「つながり」を持った未来につながると信じて。

■著者略歴

中村 素典(なかむら もとのり)

国立情報学研究所 学術基盤推進部 学術基盤課 学術認証推進室 室長/特任教
授。WIDE版Sendmailパッチやsendmail.cf生成ツールCFなどの開発を行うとと
もに、京都大学等のネットワークの構築・運用に携わった。現在は、学術認
証フェデレーション「学認」など主として認証に関する研究・開発および構
築・運用に取り組む。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 3 】インターネット用語1分解説
         「DNS-OARCとは」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

DNS-OARCとは、「DNS Operations, Analysis, and Research Center」の略
で、DNSに関連するさまざまな懸案事項や、攻撃への対応について議論するこ
とを目的とした、米国の会員制非営利団体です。2004年にISC (Internet
Systems Consortium, Inc.)により設立され、ルートサーバやTLD、主要な機
器ベンダー、ネットワーク運用者などの、技術者や研究者により構成されて
います。DNS-OARCの目的は、DNSにまつわる運用や実装についての知見を集約
し、会員間で共有することで、インターネットの安定をめざすこととされて
います。

DNS-OARCは、DNSのセキュリティや安定性の向上を目標として、以下のような
複数の活動が行われています。

・情報共有:
  DNSサーバの運用状況など、秘匿情報を含む会員間の各種情報やデータの共
  有

・運用評価:
  ルートサーバやTLDサーバなどの、重要なDNSサーバのトラフィック解析や、
  負荷の解析

・ワークショップの開催:
  運用や研究など、DNSに関する最新動向などが発表されるワークショップの
  開催

・ツールやサービスの提供:
  DNSに関する事項について調査や、問題解決に利用できるインターネット
  ユーザー向けのツールやサービスの提供

DNS-OARCが提供するツールとしては、DNSへの問い合わせを収集し、統計デー
タとして閲覧できるようにするDSC (DNS Stats Collector)(*1)が有名です。
また、DNS-OARCが調査しているルートサーバの運用状況や問い合わせ状況の
結果は、ICANNのセキュリティと安定性に関する諮問委員会(SSAC; Security
and Stability Advisory Committee)のレポートにも利用されており、最近で
は新gTLDの大量導入に伴う名前衝突問題(*2)への対応策にも利用されていま
す。

DNS-OARCでは、年2回、定期的に会合が開催されており、活発な議論が行われ
ています。

(*1) DSC - DNS Stats Collector
     https://www.dns-oarc.net/tools/dsc

(*2) 名前衝突(Name Collision)問題
     https://www.nic.ad.jp/ja/dom/new-gtld/name-collision/


■ 参考

DNS-OARC | The DNS Operations, Analysis, and Research Center
https://www.dns-oarc.net/


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 4 】統計資料
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1. JPドメイン名

o 登録ドメイン数(2015年1月~2015年6月)
--------------------------------------------------------------------------------------------
日付|  AD  AC    CO    GO   OR    NE   GR   ED   LG   GEO   GA     GJ     PA   PJ   TOTAL
--------------------------------------------------------------------------------------------
 1/1|259  3525 369071 600 31179 14710 6807 4976 1841 2422 819626 120801  8567 3117 1387501
 2/1|259  3533 368601 600 31262 14595 6761 4974 1841 2414 821046 120020  8627 3035 1387568
 3/1|259  3543 369419 601 31430 14543 6745 4997 1841 2411 823925 119353  8725 3033 1390825
 4/1|260  3543 370671 601 31581 14509 6723 5026 1841 2405 823166 117487  8739 2769 1389321
 5/1|261  3546 371798 597 31707 14476 6697 5038 1841 2402 824909 116654  8728 2768 1391422
 6/1|261  3542 372400 592 31815 14435 6678 5041 1841 2397 825412 115681  8814 2770 1391679
--------------------------------------------------------------------------------------------

 GA:汎用ドメイン名 ASCII(英数字)
 GJ:汎用ドメイン名 日本語
 PA:都道府県型ドメイン名 ASCII(英数字)
 PJ:都道府県型ドメイン名 日本語


2. IPアドレス

o JPNICからの割り振りとJPNICへの返却ホスト数(2014年12月~2015年5月)
------------------------------------------
  月 |   割振   |   返却   | 現在の総量
------------------------------------------
  12 |    26624 |    24576 |   93039294
   1 |    40192 |    37888 |   93041598
   2 |     6144 |        0 |   93047742
   3 |     3072 |     4096 |   93046718
   4 |     6144 |     1024 |   93051838
   5 |     3072 |        0 |   93054910
------------------------------------------


□統計情報に関する詳細は → https://www.nic.ad.jp/ja/stat/


3. 会員数  ※2015年6月12日 現在

 ---------------------
  会員分類  | 会員数 |
 ---------------------
  S会員     |      3 |
  A会員     |      1 |
  B会員     |      2 |
  C会員     |      2 |
  D会員     |     99 |
  非営利会員|     10 |
  個人推薦  |     33 |
  賛助会員  |     37 |
 ---------------------
  合計      |    187 |
 ---------------------

□会員についての詳細は → https://www.nic.ad.jp/ja/member/list/


4. 指定事業者数  ※2015年6月5日 現在

   IPアドレス管理指定事業者数           413


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【 5 】イベントカレンダー
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  2015.6.16(火)                第28回JPNICオープンポリシーミーティング
                               (東京、JPNIC会議室)
  2015.6.19(金)                第56回通常総会(東京、ホテルメトロポリ
                               タン エドモント)
  2015.6.21(日)~25(木)        ICANN 53
                               (Buenos Aires, Republica Argentina)
  2015.6.25(木)~7.3(金)       JPNIC技術セミナー(東京、JPNIC会議室)
 --------------------------------------------------------------------
  2015.7.15(水)~17(金)        JANOG36(福岡、北九州国際会議場)
  2015.7.19(日)~24(金)        IETF 93 (Prague, Czech Republic)
  2015.7.28(火)                第8回日本インターネットガバナンス会議
                               (IGCJ)会合(東京、JPNIC会議室)
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  2015.8.3(月)~11(火)         SANOG 26 (Mumbai, India)
  2015.8.10(月)~14(金)        APAN 40 (Sabah, Malaysia)


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
       わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。
             https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html
     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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 JPNIC News & Views vol.1315 【定期号】

 @ 発行  一般社団法人 日本ネットワークインフォメーションセンター
          101-0047 東京都千代田区内神田3-6-2 アーバンネット神田ビル4F
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