━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.1561【臨時号】2018.1.4 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.1561 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ あけましておめでとうございます。旧年中はNews & Viewsをご愛読いただき まして、誠にありがとうございました。本年も引き続き、よろしくお願いい たします。 2018年最初のNews & Viewsとなる本号では、第60回ICANNアブダビ会議の動向 と、それを受けて東京・JPNIC会議室にて開催した第50回ICANN報告会の模様 を併せてご紹介します。今回のICANN会議でも、引き続き新gTLDの次期募集ラ ウンドとWHOISに関連した議論が活発に行われました。また、プライバシーに 関する議論の一環として、EUで施行が予定されている一般データ保護規則 (GDPR)の話題も取り上げられました。 なお、アブダビ会議を取り上げた今回のICANN報告会の資料は、JPNIC Webで も既に公開しておりますので、ぜひ本号と併せてご覧ください。 第50回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20171205-ICANN/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ 第60回ICANNアブダビ会議および第50回ICANN報告会レポート JPNIC インターネット推進部 山崎信 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2017年10月28日(土)から11月3日(金)まで、アラブ首長国連邦の首都アブダビ にて、第60回ICANN会議(ICANN60)が開催されました。外の最高気温は連日35 度以上でしたが、ほぼ常時屋内におり冷房が強く効いていたため、むしろ寒 かった印象があります。 今回の会合は、年3回開催される会合の中で最も規模の大きいもので、中東地 域で初めて開催された会合でした。JPNICブログ(*1)にも書いたように、会場 は非常に広く、空港で見かけるような電動カートが走っていました。ICANN会 議の他にも、二つほど別の会議が並行して開催されていましたが、さらにも う二つ会議を追加しても大丈夫なぐらいでした。会場および会期前半の写真 は、次のブログ記事をご参照ください。 (*1) ICANNアブダビ会議フォトレポート https://blog.nic.ad.jp/blog/icann60_brief_report/ 参加者数などの統計数値は、以下のICANNによるブログ記事(*2)をご参照くだ さい。 (*2) ICANN60 By the Numbers https://www.icann.org/news/blog/icann60-by-the-numbers ■ 今回の特徴 ○次回新gTLD募集手続き開始に向けて TLDとしての国および地域名の利用については、専用のコミュニティ横断作業 部会(CCWG)が設けられ検討されていましたが、コンセンサスが得られずCCWG が閉じられ、代わって新gTLD次期申請手続きポリシー策定プロセスの作業ト ラック(WT)5として検討が進められることになりました。1作業トラックとは 言っても、分野別ドメイン名支持組織(GNSO)、At-Large諮問委員会(ALAC)、 政府諮問委員会(GAC)、国コードドメイン名支持組織(ccNSO)からの共同司会 者が進行する、CCWGと同様の構造となっています。2017年11月1日のセッショ ンおよびその後のメーリングリストでの、同トラックの委任事項(Terms of Reference, 検討範囲の意)が議論されました。11月に検討が始まったばかり ですが、WT5のスケジュールは2018年12月に最終報告書を完成させるとなって おり、他WTと同様の期限となっています。 ○WHOIS/次世代WHOIS(登録データディレクトリサービス、RDS)関連 ICANN59以降、WHOISに登録する最小限のデータ集合(Minimum Public Data Set, MPDS)を超えた範囲について検討を開始するとともに、WHOISの利用形態 について把握するため、ユースケースの例が作成されていました。 RDS PDP WG Example Use Cases https://community.icann.org/display/NGRDSTRWMO/RDS+PDP+WG+Example+Use+Cases 次いで、目的の定義に関する理解を深めるため、ドラフティングチーム(DT) を分野別に設立して目的を定義することとしました。ICANN60をまたいで検討 が行われ、11月半ばまでには、各DTよりDTの目的、データ収集の目的、課題、 利用者などが記載されたドラフトが提出されました。 Phase 1 Documents(各DTの検討結果最終版が掲載) https://community.icann.org/display/gTLDRDS/Phase+1+Documents 10月28日開催のWG会合発言録・録画 https://schedule.icann.org/event/CbIZ/gnso-next-generation-registration-directory-services-rds-to-replace-whois-policy-development-process-working-group-meeting 11月1日開催のWG会合発言録・録画 https://schedule.icann.org/event/CbF3/gnso-next-generation-registration-directory-services-rds-to-replace-whois-policy-development-process-working-group-meeting 各DTの対象などの詳細は、筆者が第50回ICANN報告会で報告していますので、 その資料(*3)をご覧ください。 (*3) 次世代gTLD RDSポリシー策定WG検討状況報告 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20171205-ICANN/icann50-6-yamasaki.pdf ○欧州連合(EU)一般データ保護規則(GDPR)関連 GDPRは、これまでEU各加盟国国内法の立法を必要としたデータ保護指令を、 各国国内法の立法が必要ない規則とするものです。併せて、データ主体であ る個人の保護の強化および拡大、データ管理者・処理者への要求の厳格化、 違反した場合の制裁金の巨額化が盛り込まれるとともに、対象範囲をEU居住 者のデータを処理する外国企業にも広げています。2016年4月に採択され、 2018年5月に施行予定です。ICANNは、外部の弁護士事務所にGDPR導入に伴う リスクの調査を依頼し、その分析のうち、WHOISに関するものがICANN60に先 立って公開されました。 ICANN60では、「GDPRがICANNに与える影響」という題目のコミュニティ間横 断セッションが開催され、欧州(ドイツ)の知財弁護士、ccTLD(.uk)レジスト リの法務責任者、レジストラ(GoDaddy)の法務担当、消費者保護を実施する法 執行機関として米国連邦取引委員会(FTC)の担当者、RDS PDP WG副チェア兼商 用ユーザー部会メンバー、WGメンバー、欧州委員会のデータ保護担当者、 ICANN事務総長Goran Marby氏、ICANN理事(Becky Burr氏)がそれぞれ登壇して 説明した後、参加者からの活発な質疑応答がありました。 GDPR Legal Analysis https://www.icann.org/resources/pages/gdpr-legal-analysis-2017-11-17-en Data Protection/Privacy Activity Recap (blog article) https://www.icann.org/news/blog/data-protection-privacy-activity-recap Cross Community Session: General Data Protection Regulation (GDPR) Implications for ICANN https://schedule.icann.org/event/CbHj/cross-community-session-general-data-protection-regulation-gdpr-implications-for-icann https://schedule.icann.org/event/CbIF/gac-discussion-on-whoisrds-and-gdpr ○.amazon TLD 新gTLDである.amazonについては、「amazon」は南米の地理的名称であるとい うGAC助言を受け、新gTLD申請がICANN理事会により一度却下されていました が、Amazon社側がIRP(独立評価プロセス)に対し異議を申し立てました。IRP の裁定は、Amazon社の主張を全面的に認め、理事会の却下を覆すものとなり ました。 ICANN60での関連セッションは、.amazonのIRPに関する議論セッションが2回、 Amazon社とGAC間の公開会談セッションが1回の、計3回開催されました。アマ ゾン協力条約機構(ACTO/OCTA)加盟諸国からのGACメンバーは、Amazon社の申 請プロセスおよびその後の対応に、重大な懸念を表明したとのことです。 Amazon社からは、公益コミットメントの枠組みを使った和解案が提示されま したが、ICANN報告会での総務省角田梨翔氏の発表によれば、ACTO諸国は和解 案に反対だったとのことです。 ICANN報告会GAC報告資料(総務省角田氏による) https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20171205-ICANN/icann50-3-tsunoda.pdf 公開会談セッションセッション議事録 https://gac.icann.org/sessions/icann60-agenda-item-12-meeting-with-amazon-com#_ftnref1 Amazon社が提示した和解案 https://amazontld.moi/ ■ GNSOポリシー策定関連動向 ○全gTLDにおけるすべての権利保護メカニズム(RPM)の評価 本PDP WGは二つのフェーズに分かれ、まずはフェーズ1として、2012年開始の 新gTLDプログラムで採用された、権利保護プログラムを評価中です。ICANN60 開催時点では、サンライズとTrademark Claimsについてのデータ収集は継続 中となっており、それらに加えURS (Uniform Rapid Suspension)についての 議論が開始されました。フェーズ1は、2018年第3四半期に終了予定となって います。 GNSO Review of all Rights Protection Mechanisms in all Generic Top-Level Domains https://schedule.icann.org/event/CbF6/gnso-review-of-all-rights-protection-mechanisms-in-all-generic-top-level-domains ○IGO/INGOによる事後権利保護メカニズムへのアクセス ICANN60では、コミュニティからのフィードバックを得るため、本PDPに関す る暫定的な最終勧告案が提示されました。暫定勧告案の主な内容は、統一ド メイン名紛争処理方針(UDRP)やURSに特に変更を加える必要はないものの、商 標登録のない政府間組織(IGO)向けなどの、救済策を追加するとなっています。 セッション詳細 https://schedule.icann.org/event/CbFM/gnso-igo-ingo-curative-rights-protections-pdp-wg-face-to-face ○新gTLDオークション収入の使途に関する議論 ICANN60時点で、チャーターに関する質問でさらに詳細な返答を必要とするも のを解決するというフェーズ2が完了し、2017年10月より本CCWGで検討可能な メカニズムのリストをまとめるという、フェーズ3が開始されています。 ICANN60でのセッションでは、ホワイトボードと付箋が用意され、参加者がア イデアを付箋に書き込みホワイトボードに貼り付けるという、ICANN会議では あまりお目にかかれないスタイルで議論が行われていました。 セッション詳細 https://schedule.icann.org/event/CbKI/gnso-new-gtld-auction-proceeds-cross-community-working-group-f2f-meeting WGニュースレター https://community.icann.org/display/CWGONGAP/Newsletters ■ CCWG-Accountability Work Stream 2 (WS2)関連動向 説明責任に関するコミュニティ横断作業部会(CCWG-Accountability)では、以 下の九つのサブグループに分かれて検討しており、アブダビ会議での議論向 けに勧告案が作成されました。 1. 多様性 2. 理事解任議論へ参加するEmpowered Community (EC)メンバーの免責に関す るガイドライン 3. 人権 4. 法管轄 5. オンブズマンオフィス 6. 支持組織/諮問委員会の説明責任 7. ICANNスタッフの説明責任 8. 透明性 9. 独立評価プロセス(IRP)実装監督チーム(IOT):WS2とは独立しておりWS2の 完了後も検討が続けられるとのこと 2と9以外の勧告案はアブダビ会議の前日に行われたWG会合までに承認され、 1は本稿執筆時点で既に意見募集中、他のものも近日意見募集が開始される予 定です。 この中で、以前から議論となっていた、4.法管轄についての勧告内容は、以 下の2点が主となっています。 - 米国による経済/貿易制裁下にある国からの申請におけるOFACライセンス 取得 これらの国からの申請については、米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Asset Control, OFAC)のライセンスが必要となっていますが、そ の点に関するICANNとレジストラ間のレジストラ認定契約(RAA)の文言を変 え、レジストラがOFACライセンスを申請取得できるようICANNは最大限の努 力を払うとすべき、としています。 - ICANNとレジストリ間の契約(レジストリ契約)およびRAA中の、法および裁 判地条項の選択制度の導入 現在定義されていないため、CCWGにより複数の選択肢が提示されました。 ・複数の法・裁判地をセットにした「メニュー」をいくつか用意(具体的な 国・地域名は挙げず) ・カリフォルニア州法および米国連邦法を準拠法として固定 ・契約の一部を特定の国・地域の法を準拠法として固定し、それ以外の部 分を「メニュー」で選べるようにする ・契約全体の準拠法はレジストリ・レジストラの準拠法とする ・現状維持:レジストリ契約、RAA中で準拠法を定義しない 4.の勧告案については、ブラジル政府の代表が反対意見(*4)を公表し、これ にはアルゼンチンとイランのGAC代表が支持を表明しています。 (*4)【総務省角田氏の第50回ICANN報告会での発表による】 法管轄サブグループによる勧告案は、米国法への準拠によるリスクを部 分的に軽減するだけで、内容として不十分である。ICANNが特定の国の法 律に準拠していることは、マルチステークホルダーモデルに政府が公平 に関与することを困難にすることから、最低限免責条項を求めるという 意見。他にも、ラテンアメリカ諸国、中国、ロシア、フランス等も、ブ ラジルに賛同したとのことです。一方、先進国は、勧告案に賛成のスタ ンスをとっているとのことです。 ブラジルによる法管轄サブグループ勧告案への反対意見 http://mm.icann.org/pipermail/ws2-jurisdiction/attachments/20171015/436b7873/StatementofBrazil-0001.pdf アブダビ会議でのセッション https://community.icann.org/display/WEIA/ICANN+60+-+Abu+Dhabi+%7C+28+October+-+3+November+2017 ■ 新たな識別子技術 ICANN60で開催された本セッションでは、ブロックチェーン技術およびDigital Object Architecture (DOA)について発表がありました。興味深いことに、ブ ロックチェーン技術を使った、IPアドレス割り振りへの応用についての発表 がありました。 Emerging Identifiers Technology https://schedule.icann.org/event/CbFe/emerging-identifiers-technology ■ Steve Crocker氏が理事長を退任 14年にわたりICANN理事を務め、後半には理事長を務めたSteve Crocker氏が、 アブダビ会合をもって退任されました。開会式ではリーダーシップ賞が授与 され、翌日10月31日には謝恩・送別会が会場内で開かれて、ITU事務総長の Zhao氏、前ICANN CEO Fadi Chehade氏、前米国NTIA次官補Larry Strickling 氏など、そうそうたるメンバーが挨拶されました。 ◇ ◇ ◇ いつもはICANN会議報告とICANN報告会レポートのメールマガジンは分けて発 行していますが、今回は1号でまとめてお送りしています。ここからは、ICANN 報告会のレポートとなります。 ━━━━━━━━━━━━ ◆ 第50回ICANN報告会 ◆ ━━━━━━━━━━━━ これらアブダビ会議での議論を紹介する第50回ICANN報告会を、2017年12月5 日(火)に開催いたしましたので、以下に当日の様子を簡単に報告します。報 告会の資料は既に公開しており、動画も追って公開いたしますので、参加さ れなかった皆様もぜひご覧ください。 第50回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20171205-ICANN/ ○ccNSO関連報告 株式会社日本レジストリサービスの高松百合氏より、以下についてお話しい ただきました。 - ccNSO評議員改選およびccNSO選出のICANN理事改選 - TLD-OPS(インシデント解決のためのレジストリ間での連携を目的とした運 用者のコミュニティ)活動状況 - TLDにおける2文字コードおよび3文字コードの扱い:2文字コードはすべて ccTLDのために保護すべき、3文字コードは現状を維持すべきとの結論 - ICANN理事へのスクリーニングチェック:ccNSOからの候補者も対象とする 方向で合意 ○GAC関連報告 総務省の角田氏より、主に以下についてお話しいただきました。 - ECへのGACとしての関与方法 - Amazon社とのIRP結果への対応 - GDPRがWHOISに与える影響 - ICANNの法管轄 - セカンドレベルドメインにおける2文字(国別)コードの扱い:関係国と理事 会間でタスクフォースを設立することになっているが、理事会から進捗報 告がないことについて懸念が表明された - 新gTLD導入に関する議論 ・IGO略称保護 ・赤十字・赤新月社名称保護 ・地理的名称保護 - GAC PSWG (Public Safety WG)での議論 ・DNS Abuseの軽減に向けた取り組み ・GDPRがWHOISに与える影響 - 理事会への助言 ・IGOの保護 ・ICANNへの有意義な参加 ・GDPR:GAC WHOIS原則に記載された課題を考慮に入れるべき ○レジストリ・レジストラ関連報告 株式会社インターリンクのジェイコブ・ウィリアムズ氏より、以下のトピッ クについてお話しいただきました。 - レジストラ関連 ・プライバシー/プロキシサービス事業者認定プログラム ・.comおよび.netのThick WHOISへの移行:GDPRの影響調査中のため、180 日遅らせることを理事会が決議 ・WHOIS項目間検証ポリシー:郵便番号と住所がマッチしているか、などの 検証を行うポリシー - レジストリ関連 ・登録データアクセスプロトコル(Registration Data Access Protocol, RDAP):2017年9月から2018年7月までパイロットプログラム実施中 ・GDPR:コミュニティ間横断セッション実施 ○次期新gTLD検討WG報告 GMOブライツコンサルティング株式会社のマイケル・フレミング氏より、次期 新gTLD募集手続き検討作業部会の状況、具体的には以下の各WTの進捗状況お よび今後のスケジュールについてご報告いただきました。 - WT1:全体プロセス - WT2:法規制 - WT3:文字列競合、異議申し立て、紛争処理 - WT4:国際化ドメイン名(IDN)、技術、運用 - WT5:トップレベルにおける地理的名称 WT5においては協議内容がCCWGと同様に明確にされたこと、そのためWTの権限 (Terms of Reference)が検討されたことが、特筆すべき点ということでした。 ■ 最後に アブダビ会議に参加した所感としては、相変わらず会議が多過ぎて常に3セッ ションほど聴講したいセッションが重なっていること、GNSOのカバー範囲が 広過ぎて1人ではカバーし切れないと思ったこと、が主なものです。 次回の第61回ICANN会議は、プエルトリコのサンフアンで、2018年3月10日 (土)~15日(木)に開催される予定です。 ICANN61 | San Juan https://meetings.icann.org/en/sanjuan61 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ まわりの方にもぜひNews & Viewsをオススメを! 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