━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.1647【臨時号】2018.12.13 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.1647 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2018年11月上旬にタイ・バンコクで開催された第103回IETFミーティングのレ ポートを、vol.1644より連載にてお届けしています。 連載第4弾となる本号では、従来の「HTTP over QUIC」から改称された 「HTTP/3」に関する議論の動向をご紹介します。 第5弾以降では、セキュリティ関連の動向と、DNS関連の動向をお届けする予 定です。これまでに発行した第103回IETFの報告については、下記のURLから バックナンバーをご覧ください。 □第103回IETF報告 ○[第1弾] 全体会議報告 (vol.1644) https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2018/vol1644.html ○[第2弾] SUITとIETF Hackathon ~IoT機器の安全なファームウェア更 新から~全体会議報告 (vol.1645) https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2018/vol1645.html ○[第3弾] セキュリティエリア関連報告 ~オペレーション関連技術の動向 CACAO/SMART~ (vol.1646) https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2018/vol1646.html また明日12月14日(金)には、東京・神田のNATULUCK神田駅前 会議室にて本 IETF会合のオンサイトでの報告会を開催します。本号の執筆者である後藤氏 も登壇されますので、みなさまぜひご参加ください。 IETF報告会(103rdバンコク) https://www.isoc.jp/wiki.cgi?page=IETF103Update ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ 第103回IETF報告 [第4弾] トランスポートエリア関連報告 ~HTTP over QUICからHTTP/3への改称~ グリー株式会社 後藤浩行 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2018年11月3日(土)から11月9日(金)にかけて、IETF 103が開催されました。 HTTPやQUIC関連の現在の標準化状況を振り返りながら、私が参加したWorking Group (WG)で議論されたトピックについて紹介します。 ■ QUICについて そもそもQUICとは、現在IETFで標準化が進められている新しいトランスポー トプロトコルです。UDPの上で、TCPのような信頼性があり、TLSのような暗号 化されたデータ通信を提供します。コアとなる仕様は、下記の四つの草案か らなります(執筆時点では2018年10月24日に発行されたdraft番号16であり、 今回のIETF 103での議論結果に伴う変更は含まれていません)。 - QUIC: A UDP-Based Multiplexed and Secure Transport (*1) - QUIC Loss Detection and Congestion Control (*2) - Using Transport Layer Security (TLS) to Secure QUIC (*3) - Hypertext Transfer Protocol (HTTP) over QUIC (*4) これらの草案はお互いに歩調を合わせ、同じ草案バージョンを持つように作 業が進められています。 当初の予定からは遅れ気味になってはいますが、2019年7月にWGとしての作業 は大詰めを迎え、IESG (Internet Engineering Steering Group)に送られる 予定となっています。 (*1) https://tools.ietf.org/html/draft-ietf-quic-transport-16 (*2) https://tools.ietf.org/html/draft-ietf-quic-recovery-16 (*3) https://tools.ietf.org/html/draft-ietf-quic-tls-16 (*4) https://tools.ietf.org/html/draft-ietf-quic-http-16 ■ HTTP over QUIC、そしてHTTP/3 今回のIETF 103では、現在標準化を進めているHTTP over QUICを、HTTP/3へ と名称を変更するWGコンセンサスがなされました。その議論の背景と、当日 のWGコンセンサスまでの流れを紹介していきます。 ○背景 この議論は、もともとメーリングリストでチェアのMark Nottingham氏が投稿 した「Identifying our deliverables (*5)」がもとになっています。そもそ も、QUICというプロトコルはGoogle社が考案、実装、ディプロイをしていた プロトコルであり、2016年にIETFでQUIC WGが結成され、正式にIETFで標準化 を進めることになりました。しかし、Google社の開発したQUICとIETFのQUIC は、同じ技術をベースとしながらも現状では異なるものになってしまってお り、それらを明示的に区別して前者をgQUIC、後者をiQUICと呼び分けていま す。 今回の議論で特に大事な違いは、gQUICはアプリケーションプロトコルとして HTTPを前提としており、アプリケーションも含めQUICと呼んでいましたが、 iQUICではQUICはトランスポートプロトコルであり、上位のアプリケーション はHTTPに限定されません。また、HTTP over QUICのHTTP部分にもいくつかの 変更があり、HTTP/2 over QUICとは既に別のマッピングを持ちます。このよ うに、QUICの名称に関する違いは、今後の利用者にとって混乱となるため、 HTTP over QUICに新しい名称を付けるという議論となりました。 HTTP/3と言うと、逆に混乱するという意見は実際に出ましたが、フォーマッ トとセマンティクスについて整理が行われており、その点を踏まえると私は 理解しやすいのかなと思っています。 現在HTTPBis WGでは、HTTP/1.1のRFC群(RFC7230~RFC7235)の再改訂作業が行 われています。その草案では、もともとのHTTP/1.1の仕様から、HTTP/1.1の フォーマット(*6)と、HTTPのセマンティクス(*7)が分離される予定となって います。HTTP/1.1、HTTP/2、HTTP/3というプロトコルの進歩により、さまざ まな変更がありますが、HTTPというセマンティクスを伝える形式が異なるだ けであり、セマンティクスは維持されます。 (*5) Identifying our deliverables https://mailarchive.ietf.org/arch/msg/quic/RLRs4nB1lwFCZ_7k0iuz0ZBa35s (*6) HTTP/1.1 Messaging https://tools.ietf.org/html/draft-ietf-httpbis-messaging (*7) HTTP Semantics https://tools.ietf.org/html/draft-ietf-httpbis-semantics ○WGコンセンサス まず11月6日(火)のQUIC WGで、HTTP/3への名称変更の議論が行われました。 HTTP over QUICの仕様は現在QUIC WGで管理されており、改称の影響範囲とし て名称だけでなく、プロトコル内で使用される識別子もH3に変更されること が確認されました。その後、ハミング(Hum)による採決によって、多くの賛成 をもってQUIC WG内でHTTP/3に名称を変更することと、最終的な決定はHTTPBis WGに委ねられることに関するコンセンサスが得られました。 その後、11月8日(木)に行われたHTTPBis WGで、引き続き議論が行われまし た。ここでは名称変更の他に、HTTP/3とそこで使用される新しいHTTPヘッダ 圧縮アルゴリズムであるQPACKについて、標準化後のメンテナンスをHTTPBis WGで行うことについてのコンセンサスが得られました。その他にあった議論 としては、HTTP/3と番号を進めることで、HTTP/2より新しいことを明示的に し、HTTP/3への移行を促すといった意見や、改善した点をHTTP/2の拡張とし てバックポートすることもできるといった意見もありました。その議論のあ と、HTTP/3へのHumが取られ、多くの賛成によってWGでのコンセンサスが得ら れました。 こうして、IETF 103においてHTTP over QUICをHTTP/3と呼ぶことについて、 両WGでコンセンサスが得られました。その後、実際のHTTP over QUICおよび それを参照する草案の修正はもちろんのこと、HTTPBis WGのチャーター変更 が現在進行系で進められています。 ■ HTTP/3 それでは、HTTP/3というプロトコルがQUICを使用する他に、どのような変更 点があるのかも簡単に紹介します。 HTTP/3ではHTTP/2の設計をベースにし、トランスポートレイヤとしてQUICを 使うための変更が含まれています。HTTP/2では、一つのTCPコネクション上 でHTTPリクエスト・HTTPリクエストレスポンスを多重化して送受信します。 その多重化を実現するために、仮想的なコネクションの通信単位であるスト リームという概念を導入していました。このストリームという単一コネクショ ン内の仮想的な通信単位は、QUICレイヤで提供されるようになったため、 HTTP/3ではQUICレイヤのストリームを利用する形に変更されており、今まで HTTP/2レイヤで行っていた各ストリームの制御に関する機能は、HTTP/3では 削除されている部分も多くあります。実際に、HTTP/2で使用するフレームタ イプ(メッセージの種類)より、HTTP/3で使用するフレームタイプの種類は少 なくなっています。 また、先述の通りHTTP/3で利用するQUICは、UDPプロトコル上で動作します。 QUICでは信頼性のある通信を提供しますが、TCPとは異なりストリームという 通信単位ごとにのみ信頼性があります。パケットロスがあったとしても、異 なるストリームの通信をブロックすることはなく、届いたパケットが処理可 能であれば、パケットロスの回復を待たずに処理を続行できます。HTTP/3で は処理順番を柔軟にできるように、HTTP/2では配送順番に依存していた部分 について改善を多く行っています。 このように、HTTP/3ではよりHTTPのメッセージを効率よく転送できるように、 多くの変更が加えられています。 ■おわりに HTTP/3という新名称は印象の強いキーワードであり、驚いた方も多くいらっ しゃるでしょう。だいぶ駆け足でのHTTP/3の紹介となりましたが、理解の一 助となれば幸いです。また、興味のある方はぜひHTTP/3について一緒に追い かけていければと思います。2018年12月14日(金)に行われますIETF報告会(*8) でもHTTP/3の話をいたしますので、お気軽にお声がけいただければと思いま す。 (*8) IETF報告会(103rdバンコク) https://www.isoc.jp/wiki.cgi?page=IETF103Update ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ まわりの方にもぜひNews & Viewsをオススメください! 転送にあたっての注意や新規登録については文末をご覧ください。 ◇ ◇ ◇ わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。 https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ ◆◇◆◇◆ 本号のご感想をお聞かせください ◆◇◆◇◆ ┃ ┃良かった ┃ ┃ http://feedback.nic.ad.jp/1647/fa97464246318b72a4cbf4edc9581501 ┃ ┃ ┃ ┃悪かった ┃ ┃ http://feedback.nic.ad.jp/1647/cc5a04317d57fbf52d4ab423e920dd8f ┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ___________________________________ ■■■■■ JPNICの活動はJPNIC会員によって支えられています ■■■■■ ::::: 会員リスト ::::: https://www.nic.ad.jp/ja/member/list/ :::: 会員専用サイト :::: https://www.nic.ad.jp/member/ (PASSWORD有) □┓ ━━━ N e w s & V i e w s への会員広告無料掲載実施中 ━━━┏□ ┗┛ お問い合わせは jpnic-news@nic.ad.jp まで ┗┛  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ JPNIC News & Views vol.1647 【臨時号】 @ 発行 一般社団法人 日本ネットワークインフォメーションセンター 101-0047 東京都千代田区内神田3-6-2 アーバンネット神田ビル4F @ 問い合わせ先 jpnic-news@nic.ad.jp ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ___________________________________ 本メールを転載・複製・再配布・引用される際には https://www.nic.ad.jp/ja/copyright.html をご確認ください  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ◇ JPNIC Webにも掲載していますので、情報共有にご活用ください ◇ 登録・削除・変更 https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/ バックナンバー https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/ ___________________________________ ■■■■■ News & ViewsはRSS経由でも配信しています! ■■■■■ ::::: https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/index.xml :::::  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ■■◆ @ Japan Network Information Center ■■◆ @ https://www.nic.ad.jp/ ■■ Copyright(C), 2018 Japan Network Information Center