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    /P▲        ◆ JPNIC News & Views vol.1738【臨時号】2020.1.8 ◆
  _/NIC
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◆ News & Views vol.1738 です
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2019年11月下旬に、シンガポールにて第106回IETFミーティングが開催されま
した。この会合のレポートを、本号より連載にてお届けします。第1弾となる
本号では、シンガポール会合における全体会議の様子をご紹介します。

次号以降では、トランスポート、DDoS対策、メールに関連した各分野の動向
を、順次ご紹介していく予定です。

なお、本シンガポール会合のオンサイトでの報告会を、明日の1月9日(木)に
東京・大手町プレイスウエストタワーにてISOC-JPとJPNICの共催で開催しま
す。本連載で取り上げるもの以外にも、幅広い議論の模様をご紹介しますの
で、ご興味を持たれた方はこちらの報告会にもぜひご参加ください。

    IETF報告会(106thシンガポール)開催のご案内
    https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2019/20191226-01.html

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◆ 第106回IETF報告 [第1弾]  全体会議報告
                                                 東京農工大学 根本貴弘
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第106回IETFミーティングは、2019年11月16日(土)から11月22日(金)の間、シ
ンガポールにあるRaffles City Convention Centerにて、Nokia社のホストで
開催されました。

今回のIETFミーティングは、2017年11月に開催された第100回IETFミーティン
グ以来となる、2回目のシンガポールでの開催となります。シンガポールの治
安は相変わらず良く、交通も整備されており、レストランの選択肢も豊富で、
英語も通じるため、とても過ごしやすい都市でした。また、2回目の開催とい
うことで、前回問題となった会場の室温がやたらと低かったという経験を踏
まえ、ミーティング運営者側は防寒用にブランケットを配布したり、参加者
側は長袖の上着を用意したりと、運営者側も参加者側も寒さ寒さ対策をして、
今回のミーティングに臨んでいたようです。赤道直下に位置するシンガポー
ルの気候は、1年を通して日本の夏日のような気候ではありますが、屋内は人
によっては半袖シャツでは寒過ぎると感じるほど冷房を効かせている場合が
多いため(筆者の滞在したホテルの冷房は当初15度に設定されていました)、
シンガポールに滞在される場合は寒さ対策に、ちょっとした羽織り物を持っ
ていくことをお勧めします。

さて、ここからは、11月20日(水)に開かれたIETFミーティングの全体会議で
ある「IETF Plenary」から、以下のトピックに関するご報告と、その他の情
報として、今後IETFへの参加を予定している方向けの情報をご紹介します。

・開催規模
・メーリングリストの運用について
・IETF Executive Directorの雇用
・Jonathan B. Postel Service Award

■ 開催規模

今回のIETFミーティングの開催規模について、IETF ChairのAlissa Cooper氏
から報告がありました。今回の現地参加者は、61の国と地域から998人の参加
があり、そのうち新規参加者は147名とのことでした。また、リモート参加者
数は606人でした。今回、参加者数が多かった上位5ヶ国の参加者数の割合は、
米国が34.2%、中国が12.0%、日本が6.3%、ドイツが5.4%、イギリスが4.1%で
した。なお、日本からの現地参加者数は65人でした。

また、第101回ミーティング以降の、開催規模についても報告がありました。
IETFは、国際的なインターネットの標準化技術を策定する団体であることか
ら、かねてより参加者のダイバーシティに配慮し、ジェンダーやプライバシー
等をはじめとした、さまざまな取り組みが行われています。そのため、今回
報告にあった過去2年間のIETFミーティングの開催地も、開催地域の偏りを軽
減するための配慮がされており、各年、北米地域・ヨーロッパ地域・アジア
地域で、それぞれ1回ずつ開催されていました。

また、会期初旬の11月16日(土)と17日(日)に開催された、IETF Hackathonの
開催規模についても報告があり、現地参加300人、会期中に取り組まれたプロ
ジェクト数は41プロジェクトとのことでした。

このIETF Hackathonは、第92回IETFミーティングから継続的に開催されてい
るイベントで、さまざまなWGで議論されている提案を実際に実装し、その提
案の有効性や実装可能性等を紹介し合う場となっています。IETFでは、標準
化を進める上で"Rough consensus"と"Running code"を大切にしており、この
IETF Hackathonでの取り組みは"Running code"という点で、重要な役割を果
たしています。次回IETF Hackathonは、2020年3月21日(土)と22日(日)の2日
間にわたり開催されます。


■ メーリングリストの運用について

IETFでは、年3回開催されるミーティングの他に、メーリングリスト(ML)を
使った議論が頻繁に行われています。IETFのMLには、各WGの技術的な取り組
みについて議論を行うためのML以外に、IETF全体に関わる情報を共有するた
めのMLがいくつかあります。今回の報告では、近年、このIETF全体に関わる
ML上で、ML本来の役割と異なる不適切な投稿が目立つようになってきたこと
から、以下の三つのMLについて役割の再確認と、MLがその役割を果たすため
のモデレーターについて紹介がありました。

各MLの役割は以下の通りです。

・last-call@ietf.org
  Last callと呼ばれる、RFC化直前の段階に入ったInternet-Draftの周知と、
  そのレビューを行うためのML

・ietf@ietf.org
  一般的なお知らせや技術的議論、WGのチャーターのレビュー等を行うため
  のML

・gendispatch@ietf.org
  General Area Dispatch WGという、取り扱うWGが不明瞭な新規提案に対し
  て、どのWGで取り扱うべきか等を検討する特殊なWGで利用するためのML

また、「ietf@ietf.org」のモデレーターについては、IETF Chairに加え、新
たに設けたSergeants-at-arms team (SAA)というチームが加わるとのことで
した。SAAでは、不適切な投稿や、議論が炎上し収拾がつかなくなってしまっ
た際の、対応手続きを明確化した文書を作成しています。今後、RFC3005(*1)
やUnprofessional commentary(*2)に従い、不適切な投稿がされたとSAAチー
ムが判断した場合、SAAメンバーから投稿者に対して直接連絡を取り、事態の
収拾を図るそうです。また、SAAから投稿者に対して連絡を取っている事実に
ついては、ML上で共有されるそうです。 SAAチームもMLの内容確認に努めて
いますが、もし、MLを読んでいて不適切な投稿を見つけた場合は、SAAチーム
(saa@ietf.org)まで報告をして欲しいとのことでした。

(*1) RFC3005 - IETF Discussion List Charter:
     https://tools.ietf.org/html/rfc3005

(*2) Unprofessional commentary:
     https://github.com/linuxwolf/ietf-saa/blob/master/unprofessional-commentary.md


■ IETF Executive Directorの雇用

今回のミーティングで特に大きな話題となったのが、2018年にISOC (Internet
Society)の1部門として設立されたIETF LLC (Limited Liability
Corporation)(*3)で初となる、専任のIETF Executive DirectorとしてJay
Daley氏を雇用したことについてです。

IETFは、IASA (IETF Administrative Support Activity) 2.0 WG(*4)の取り
組みとして、IETFの体制整備を行っています。その中で、従来IAOC (IETF
Administrative Oversight Committee)が担ってきた、ミーティングの計画や
運用、予算管理等をはじめとしたIETFの活動支援を行う法人として、2018年8
月に米国のデラウェア州にIETF LLCが設立されました。なお、IETF LLC設立
時点では、IETF Executive Directorの正式な雇用は決まっていませんでし
た。IASA 2.0による取り組みの一環で、IAD (IETF Administrative Director)
の役割をIETF Executive Directorに引き継ぐことになっていたことから、今
回のIETF Executive Directorの正式な雇用が決まるまでは、IADのPortia
Wenze-Danley氏が、暫定的にIETF Executive Directorの職に就いていまし
た。

2019年5月から、IETF LLCはIETF Executive Directorを雇用するための公募
を行っており、その結果134人の方から応募があったそうです。今回初めて専
任のIETF Executive Directorとして雇用されたJay Daley氏は、ニュージー
ランドのccTLD(.nz)のレジストリであるNZRS (New Zealand Restoration
Services)のCEOや、イギリスのccTLD (.uk)のレジストリであるNominetのCTO
等の経歴を持つ方です。IETF Executive Directorに求められるコミュニティ
組織のリーダー経験や、技術やガバナンスに関する実務経験を有しているこ
と、オープンなインターネットの発展を大切にしていること等が評価され、
134人の中から選ばれました。今後、IETF LLCではJay氏を中心に、長期的な
資金調達計画や、スポンサーシップ戦略の開発等、IETFの活動を継続してい
くための、さまざまな支援活動に取り組んでいくとのことです。

(*3) IETF  | IETF Administration:
     https://www.ietf.org/about/administration/

(*4) IETF Administrative Support Activity 2 (iasa2):
     https://datatracker.ietf.org/wg/iasa2/about/


■ Jonathan B. Postel Service Award

Jonathan B. Postel Service Awardとは、RFC793の「TCP implementations
will follow a general principle of robustness: be conservative in
what you do, be liberal in what you accept from others. (送信は厳密
に、受信は寛容に)」という言葉でも有名な、Jonathan B. Postel氏の功績を
称えISOCが1999年に設置した賞で、インターネットの発展に持続的かつ実質
的に貢献されてきた個人や組織に対して贈られます。(*5)

今年のJonathan B. Postel Service Awardは、アフリカ地域におけるインター
ネットの普及と技術コミュニティの構築に大きく貢献した、WACREN (West
and Central Africa Research and Education Network)のCTOであるAlain
Aina氏が受賞しました。

Alain氏は、1996年にトーゴ共和国で最初のインターネット接続サービス事業
を開始した方で、アフリカ地域にインターネット環境をもたらしたパイオニ
アの1人です。Alain氏は、アフリカ地域に全体に係るインターネット技術コ
ミュニティとして、2000年にAfNOG (African Network Operators Group)を作
り、その後、アフリカ地域を管轄する地域インターネットレジストリである、
AFRINIC (African Network Information Centre)の設立を支援する活動をさ
れてきました。AFRINICのCTOやCEO等を歴任した後、現在のWACRENにてアフリ
カ地域のインターネットエコシステムの発展に一層貢献されています。また、
ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)のSSAC
(Security and Stability Advisory)として、IPアドレスやドメイン名の割り
振りに関するセキュリティや安定性について調査・分析を行う等、世界的な
インターネットの発展にも貢献されてきました。Alain氏からは、アフリカ地
域のインターネットの発展に多大な協力をしてくれた、Jonathan Postel氏を
含むこれまでの関係者に感謝が述べられ、一方で会場からは、Alain氏の貢献
への称賛と受賞を祝う、盛大な拍手が沸き起こりました。

(*5) Postel Service Award | Internet Society
     https://www.internetsociety.org/grants-and-awards/postel-service-award/


■ その他(IETFへの参加を予定している方向け情報)

IETFミーティングに合わせ、ISOC-JP(*6)では、日本からのIETF参加者向けの
企画をいくつか継続的に行っております。今回も、日本からの参加者向けの
情報交換を目的とした懇親会であるGet-togetherの開催や、日曜日に開催さ
れる新規参加者向けチュートリアルの、日本語訳資料(*7)の公開等がありま
した。チュートリアル資料の日本語訳では、毎回何かしらの更新が行われて
おり、今回は前述のIETF Executive Directorに関する情報等が更新されて
います。もし参照される場合は、最新版の資料をご覧ください。

加えて、日本からのIETF参加者の有志によって作られたSlackワークスペース
「ietf-jp」では、ミーティングごとのチャンネル(今回のミーティングなら
「ietf106-singapore」というチャンネル名)で、Get-togetherの開催情報や
IETFミーティング開催地の現地情報等をはじめとした、IETFミーティング参
加者向けの情報交換が日本語で行われています。

また、IETFミーティング後には、ISOC-JPとJPNICの共催で、IETFミーティン
グに関するホットトピックを現地参加者から日本語で報告してもらう、IETF
報告会(*8)も行われています。今回のIETFミーティングに関する報告会は、
2020年1月9日(木)に開催されます。本IETF会合での議論の動向などを詳しく
知りたい方は、ぜひ報告会にご参加ください。

(*6) ISOC-JP Wiki:
     https://www.isoc.jp/

(*7) Internet Engineering Task Force入門:
     https://datatracker.ietf.org/meeting/101/materials/slides-101-edu-sessb-ietf-newcomers-overview-japanese-translation-03

(*8) IETF報告会 (106th シンガポール)
     https://www.isoc.jp/wiki.cgi?page=IETF106Update

次回のIETFミーティングは、2020年3月21日(土)から3月27日(金)にかけて、
カナダのバンクーバーにて開催されます。


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