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    /P▲        ◆ JPNIC News & Views vol.2042【臨時号】2023.12.6 ◆
  _/NIC
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◆ News & Views vol.2042 です
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第117回IETFミーティングは、2023年7月下旬に米国・サンフランシスコで開
催され、その次の第118回IETFミーティングは、2023年11月上旬にチェコ・
プラハで開催されました。

昨日発行したvol.2041では、第117回IETF連載第1弾として会合の全体概要に
ついてお届けしましたが、第2弾となる本号では、リアル開催のIETFに初参加
したJPNICスタッフの振り返りをお届けします。

本号の内容も、バックナンバーと合わせてJPNICブログでもお読みいただけま
す。発表資料などへのリンクも辿りやすくなっておりますので、ぜひブログ
でご覧ください。

  □ IETFアップデート - 第117回IETF [第2弾] 参加報告
     ~リアルIETF初参戦から得た気づき~
     https://blog.nic.ad.jp/2023/9420/

  □ IETFアップデート - 第117回IETF [第1弾] 全体概要
     https://blog.nic.ad.jp/2023/9357/

なお、この次の会合となる第118回IETFミーティングのレポートについても、
準備ができ次第お届けする予定です。

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◆ IETFアップデート - 第117回IETF [第2弾] 参加報告
                      ~リアルIETF初参戦から得た気づき~
                                               JPNIC 技術部 五島健太朗
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本稿では、今回私が参加したIETF 117について、会期中の1週間で考えたこと
や印象に残ったWGから感じ取ったことについて簡単に触れます。IETF自体に
は以前に一度参加した経験があるものの、その時には新型コロナウイルス感
染症の影響で完全オンライン開催だったので、会合の雰囲気をあまり感じる
ことのないまま終わってしまいました。加えて、インターネット運用の業界
に入ったばかりで今以上に勝手がわからなかったこともあり、今回の現地参
加が初参加のような心持ちで臨むことになりました。

今回の開催地であるサンフランシスコは、私が物心つく前に母に旅行で連れ
られて行った地でもあり、当時買ってもらったケーブルカー(MUNICIPAL
RAILWAY)のおもちゃの本物が見られることが、IETF参加とは別のひそかな楽
しみでした。


■ IETF 117 - 現地での1週間

今回のIETFでは、会場となるホテルの客室がそのまま参加者の宿泊用に提供
されており、大きなホテル内で1週間の生活のほとんどが完結していました。
このため、ハッカソンや興味のあるWGに立ち寄るように参加して、それが済
んだら部屋や共用スペースに戻って休憩したり通常業務をしたりする人が多
く、忙しく駆け回ることなくゆっくり過ごすことができました。ホテル自体
もUnion Squareという中心部に位置しており、買い物や食事に行くにもなに
かと便利な立地でした。

また、会場では新型コロナウイルス感染症に関する配慮も継続していました。
受付周辺にはマスクや抗原検査キットのほか、参加者がソーシャルディスタ
ンスに関する考え方を表明できるバッジ(ハグに応じる、あるいは距離を保っ
てほしいなど)も無料配布されていました。私も会期中に乾燥で喉をいためて
咳が出るようになってしまい、念のためにホテルの自室で検査するのに役立
ちました。

一点気になったのは、会場のホテルが比較的治安の良いエリアのきわに位置
しており、すぐとなりが昔からサンフランシスコ内で犯罪発生件数の高い
Tenderloin地区だったことです。一歩地区を外れると、薬物を手にした人・
流血したまま歩き回る人・大勢のホームレスが目立ち、まるで別の街に来た
かのような感覚になりました。そのすぐとなりの巨大なホテルでIETFが開催
されている対比を見るたび、ここには普段私が過ごす日本での生活ではほぼ
感じることのない経済格差があることが思い出されました。


■ WGでの議論における文化

私はIETFには初の現地参加ということで、議論の内容だけでなく、議論の運
び方や会場の雰囲気について気になる場面が多くありました。特に印象に残っ
ているのは、木曜日のOperational Security Capabilities for IP Network
Infrastructureの最後にあったOn Network Path Validationという発表です。

下記が主な参考資料です。
  発表資料 On Path Validation and a Possible Solution (*1)
  ドラフト On Network Path Validation
           draft-liu-on-network-path-validation-00 (*2)
  アーカイブ動画 IETF117-OPSEC-20230727-2230 (*3)

こちらの発表は、インターネットのBGPルーティングにおいてしばしば話題に
なるPath validationに関して、宛先までパケット送出側が意図したルータの
みを経由することを保証する仕組みを提案する内容でした。この仕組みにつ
いて、提案者では(1)パケットがファイアウォールやIDSなどのセキュリティ
機器を通過したことを保証する(2)秘匿性を高めたいVoIPなど通信するアプリ
ケーション次第で、プロバイダ契約でのSLAを確実に満たすルータのみをパ
ケットに辿らせる、などのユースケースを想定していたようですが、会場か
らの反応は厳しいものでした。その主な理由は、この提案が「始点と終点だ
けを指定して通信し、その途中の経路は送信者が操作できない」ことや、通
信プロトコルを階層化するというインターネットの原則に反している、とい
うことでした。

RPKIを使ったパス検証でも通信のパスを検証することができますが、こちら
は経由するASの順列を意図したものに限定することを目的とした技術で、当
然それぞれのAS内部でのルーティングについて干渉する内容ではありません。
それに対してこの提案では、経由するルータ単位で順列を限定しようとして
おり、これは現在のインターネットルーティングの思想に反するため、技術
的には実現可能だとしても受け入れられるものではない、との意見が多数挙
がりました。

この例から、IETFはオープンで誰でも提案できる場であるとはいえ、参加者
間にはインターネットが満たすべき大原則について共通理解が強く形成され
ていること、それに反する提案に対してはしっかりと歯止めをかける文化が
あること、を私は感じ取りました。

(*1) https://datatracker.ietf.org/meeting/117/materials/slides-117-opsec-on-path-validation-and-a-possible-solution
(*2) p.14-21参照 https://datatracker.ietf.org/meeting/117/agenda/opsec-drafts.pdf
(*3) 再生時間30:49時点から開始 https://youtu.be/5NjA-JwGzYI?si=z84Rc6nDfTFT8LAF&t=1849


■ イベントのハイブリッド開催で重視すべきこと

最後に、昨今の新型コロナウイルス感染症に端を発する会議やイベントのオ
ンライン・オフラインのハイブリッド化について、このIETF 117に参加した
ことをきっかけに考えたことを書きます。それは、映像と音声でのオンライ
ンコンテンツを提供する際に、ある程度リソースに制限があるならば、スト
リーミング(生中継)よりも動画アーカイブのほうが優先されるべきではな
いかということです。ただし、本稿にはストリーミングの提供そのものを否
定する目的はなく、内容は個人の見解です。

今回のIETF 117で、ストリーミングには提供側と参加者側でそれぞれ、大き
く一つずつ問題点があると私は感じました。

まず提供側の視点で考えた時、ストリーミングの提供にはそれだけ人的リソー
スが求められます。これには、事前の配信体制の設計・機材の設置・テスト
配信だけでなく、本番中のトラブル対処への人員も含まれます。あるいは自
前で配信せず外注して専門業者に任せる場合でも、代わりに金銭コストが発
生します。

次に参加者側の視点で考えた時、ストリーミングはリアルタイムであるだけ
に、聞き取れない・理解が追いつかないという状況が起こりやすい傾向にあ
ります。特に、使われる言語を母語としない・得意としない参加者が多いイ
ベントや初心者の継続的な参入が望ましいイベントでは、この問題は比較的
顕著ではないでしょうか。ただしこの問題については、現地参加でも無関係
ではありませんが、現地にいればその場の雰囲気で察したり周囲の人に聞い
てみたりすることで、ある程度解決できます。

一方、オンラインコンテンツを事後公開される動画アーカイブのみに絞った
場合について考えてみます。

提供側は、内容とは無関係のストリーミングのトラブル解消に費やすタイム
ロスが減るため、イベント内容の充実化に注力できます。またこれには、活
発な議論を中断したり、発表者に与えられた持ち時間を奪ったりすることな
く進行しやすくなるだけでなく、金銭コストや事前・事後の作業コストを抑
える意味もあります。

参加者の視点では、リアルタイムに遠隔地から参加することはできなくなる
という欠点はあります。しかし動画で後から視聴する時には、何度もリピー
ト再生ができるだけでなく、発表者や運営が事後公開する資料とあわせて活
用することで、自分のペースで理解を補えるという利点があります。特に発
表者や関係する議論に長く関わっている参加者を除いた、主として情報収集
のため(つまりReadonly memberとして)参加している方には、リピートして発
表と議論を聞き直せるアーカイブ動画のほうが恩恵は大きいといえます(私の
場合はイベント終了後に限らず、会期中であっても時間帯が重複していて参
加できなかったWGを空いた時間で追う、という活用もしていました)。

IETFは大規模な会合であり、資金や人的リソースは豊富に確保できることが
期待できる状態なので、ストリーミングとアーカイブ動画の両方が高品質で
提供できていました。しかしそうしたリソースの制限が強いイベントの場合
には、上に述べたような事情を考慮すると、まず動画アーカイブ(と付随する
資料等)の提供を優先して内容の充実化に立ち返るのが重要ではないかと考え
ました。

                ◇               ◇               ◇

この次の会合となるIETF 118は、2023年11月4日から10日にかけて、チェコ・
プラハで開催されました。IETF 118の報告についても、準備ができ次第お届
けする予定です。


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