━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.2058【臨時号】2024.2.15 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.2058 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第118回IETFミーティングは、2023年11月上旬にチェコ・プラハで開催されま した。先日発行したvol.2053から、この第118回IETFミーティングの話題を連 載にてお届けしています。第2弾となる本号では、TLSやSML、MLS、sidropsな ど各WGでの議論のほか、HotRFCの話題などをご紹介いたします。 本号の内容は、JPNICブログでもお読みいただけます。発表資料などへのリン クも辿りやすくなっておりますので、ぜひブログでご覧ください。 JPNICブログ:IETFアップデート - 第118回IETF [第2弾] WLS/SML/MLS/sidrops WG、HotRFC https://blog.nic.ad.jp/2024/9462/ 連載第3弾となる次号では、ハイブリッド公開鍵暗号スキームであるHPKE (Hybrid Public Key Encryption)と、その応用技術の動向をご紹介する予定 です。 また、第118回IETFの全体概要やBOF、tigress WGの話題などについては、下 記のURLからバックナンバーをご覧ください。 □第118回IETF報告 ○[第1弾] 全体概要、BOF、tigress WG https://blog.nic.ad.jp/2024/9459/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ IETFアップデート - 第118回IETF [第2弾] WLS/SML/MLS/sidrops WG、 HotRFC JPNIC 技術部/インターネット推進部 木村泰司 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 前号に引き続き、2023年11月にプラハで行われた第118回IETFミーティング (IETF 118)の話題を通じて、IETFにおける国際動向をお届けします。 ■ IETF 118で行われたWGより IETF 118で行われたWGから、ピックアップして話題を紹介します。 ○ トランスポート・レイヤー・セキュリティ / Transport Layer Security (TLS) Webにおけるデータ伝送の仕組み(トランスポート)において使われている TLS で、耐量子暗号への対応について議論されている。耐量子暗号は、量 子コンピュータの実現によって危殆化(きたいか)してしまうと言われてい るRSA などのアルゴリズムに代わるアルゴリズムのこと。新たな提案とし て鍵のカプセル化方式(Key-Encapsulation Mechanism - KEM)への対応が 提案されている(*1)。 (*1) AuthKEM and AuthKEM-PSK https://datatracker.ietf.org/meeting/118/materials/slides-118-tls-authkem-and-authkem-psk-update-00 TLS WGに関連する動きとして、クライアント・ハロー・メッセージの暗号 化 / Encrypted Client Hello (ECH)の実装が挙げられます。通信のプラ イバシーへの配慮の一環として、これまでにDNS over TLSやDNS over HTTPSが策定され実装されてきていますが、TLSにおいてサーバとクライア ントの間で、暗号化に利用する鍵の合意ができる前にやり取りされるメッ セージを暗号化することができませんでした。ECHは、TLSのクライアント からサーバへの最初のメッセージである、クライアント・ハロー・メッ セージを暗号化するというものです。そのための公開鍵は、DNSのHTTPSリ ソースレコードを使って得るとされています。 ECHの実装状況のまとめ: https://github.com/tlswg/draft-ietf-tls-esni/wiki/Implementations ○ 構造化されたメール / Structured Email (SML) プログラムで解釈可能かつ人が判読可能なメールの構造定義。Schema.org (*2)のようなソリューションを想定。ユースケースやメールの自動処理、 セキュリティとトラストに関するインターネット・ドラフトがある。 趣意書:https://datatracker.ietf.org/group/sml/about/ (*2) https://schema.org/ ○ メッセージング・レイヤー・セキュリティ / Messaging Layer Security (MLS) ユーザー間でやり取りされるメッセージの暗号化に関する、エンド・ トゥ・エンドのセキュリティについて議論されているWG。More Instant Messaging Interoperability (MIMI) WGや、今回からWGになったKEYTRANS WGとの連携も視野に入れている。 趣意書:https://datatracker.ietf.org/wg/mls/about/ ○ SIDR・オペレーション / SIDR Operations (sidrops) リソースPKI (RPKI)を使ったBGPの経路制御のセキュリティ技術について 検討しているWG。経路広告するIPアドレス・プリフィクスにRPKIを使って 検証できる署名を施したオブジェクト「PrefixList」が新たに提案されて いる。これは、ROAが作成されていないプリフィクスについて、第三者の ASがネクストホップになるようなASパス属性を加えた不正な経路情報を検 知するためのもの。ASのオペレーターが経路広告するプリフィクスの一覧 (PrefixList)に、ASの証明書に関連付く私有鍵を使って署名を施すとされ ている。 ■ HotRFCより Hot RFC (Request for Conversations)は、一緒に議論をしてくれる人を募っ たり、サイドミーティングへの参加を呼びかけたりするプレゼンテーション が、ライトニング・トーク形式で行われる会合です。 ○ IPv6トラフィック割合とIPv6ユーザー普及率に関する最新情報 / New update on IPv6 traffic% and packet loss rate - progress since previous talk & next steps IPv6トラフィック割合とIPv6ユーザー普及率が、一致しないことが分かっ ている。行っている調査と今後の調査ノード協力者の募集。 ○ スタジアムWi-Fiにおける二酸化炭素排出量の削減 / Reducing Stadium WIFI carbon footprint Orange社とCisco社が2022年にマーシール・スタジアムのWi-Fiネットワー クで行った二酸化炭素排出量を減らす実験。20%エネルギー削減。50%削減 が期待される。 ○ SCIONインターネット・アーキテクチャの次のステップ / Next steps for the SCION Internet Architecture ドメイン間ルーティングの新しいアーキテクチャ。スイスの金融分野では 使われている。SCIONではパス検証が意識されている。 ○ コミュニケーションモデルの最適化: ユースケース、課題、要件 / Collective Communication Optimization: Use cases, Problems and Requirements 分散アプリケーションのための論理的なコミュニケーションモデルであ る、コレクティブ・コミュニケーション。分散システムがスケールした時 に全体のシステムパフォーマンスが落ちる。このモデルによってパフォー マンスが変わることを示す。 ○ ユニバーサル名前システムとユニバーサル認証局 / A Universal Name System (UNS) and Universal Certificate Authority (UCA) 各エンティティは、独自の、機密性の高い、普遍的にユニークな暗号識別 子によって表現されるユニバーサル・ネーム・システム(UNS)。分散型の 鍵管理を自動化することができる、とされる。 ○ KIRA - ゼロタッチ・ルーティング / KIRA - Scalable Zero-Touch Routing 設定不要なIPv6のルーティング・アーキテクチャKIRA。DHTを使い、サー ビス登録とサービス探索をサポートする。 ○ 耐量子暗号はIoTデバイスやネットワークを廃れさせるか? / Will Post Quantum Crypto make Constrained IoT Devices and Networks obsolete? 制約のあるIoTデバイスやネットワークを時代遅れにするのだろうか。何 かできることはあるのだろうか。 ○ 証明書/JWT/CWTの失効を改善できるか / Can we improve certificate/JWT/CWT revocation ? OAuthワーキンググループは最近、"OAuth Status Lists"という新しいワー キンググループ項目を採択した。CWT (CBOR Web Token)とJWT (JSON Web Token)の所有証明鍵の導入により、それらは新しいエンコーディング形式 の証明書となった。JWT/CWTの失効はX.509証明書と異なるのか、それとも PKIXの世界での経験をOAuthの文脈に適用できるのか。X.509 PKIXの世界 にステータスリストを導入すべきか。 ○ マークル・ツリー ラダーモードの署名実装 / Merkle Tree Ladder Mode (MTL) Signatures Implementation IETF 117でCFRGに提示されたMTLモードインターネットドラフト仕様を、 基盤となるSPHINCS+署名スキームのラッパーとともに実装したもの。 ○ パーソナル・デジタルエージェントプロトコル / A Personal Digital Agent Protocol IRTFのHRPCと新しいIETFのGNAPプロトコル(現在Last Call中)におけるFAA の研究を活用。人間と機械が同時に読み取り可能な認可ポリシーでエー ジェントがどのようにプロビジョニングされるか、エンティティ、ベン ダー、その他のサービスプロバイダがどのようにエージェントにアクセス するように指示されるか。 ○ IRTFリサーチグループにおいて技術が特定のことを成さないことに確証を 得るには / How to ensure technology doesn't do certain things by design - An exploration for an IRTF RG 技術が特定のことをする、あるいは(さらに重要なこととして)しない(特 定の結果に繋がらない)ことを確認するための、客観的で測定可能な方法 を見つける必要性に関する話題。 HotRFCの資料は以下で閲覧できます。 IETF-118 : hotrfc https://datatracker.ietf.org/meeting/118/session/hotrfc ■ IETF 118に関するブログ IETF 118に関するブログ記事を紹介します。 ○ IETF 118 post-meeting survey, Jay Daley IETF Executive Director 30 Nov 2023 https://www.ietf.org/blog/ietf-118-post-meeting-survey/ IETF 118の満足度などを調査したアンケートの結果が公開されています。 前回のIETF 117に比べて、満足度の高い項目が見られます。 ○ DNS at IETF 118, By Geoff Huston on 29 Nov 2023 | APNIC Blog https://blog.apnic.net/2023/11/29/dns-at-ietf-118/ TXTレコードを使ったさまざまな検証の用途やDNSSECが広く普及しない理 由、DANEに関する考察など。 ○ Event Wrap: IETF 118 | APNIC Blog https://blog.apnic.net/2023/11/29/event-wrap-ietf-118/ APNICの職員が関わったRDAPの機能提案やStarlink社のサービスをデータ 通信のために使うための計測結果など。後者は、併催されているIEPGミー ティングで発表されたものです。 IETFミーティングの後には、RIPE Labsでもブログ記事が掲載されることが あります。 ◇ ◇ ◇ 次回の第119回IETFミーティングは、2024年3月16日(土)から22日(金)にかけ て、オーストラリア・ブリスベンで開催されます。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。 https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html ◇ ◇ ◇ メールマガジン以外でも、情報を発信しています! 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