━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.2072【臨時号】2024.4.11 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.2072 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2024年3月上旬に、プエルトリコ・サンフアンで第79回ICANN会議が開催され ました。今回の会合では、GNSO以外で行われた議論に印象的なものが多くあ りましたので、本稿ではそういった話題を中心にご紹介します。 なお、この第79回サンフアン会議の報告会を、来週4月16日(火)にオンライン で開催いたします。報告会では本稿で取り上げた話題以外に、会合での話題 を広くご紹介いたしますので、ぜひ皆さまご参加ください。 第69回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2024/20240410-01.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ 第79回ICANNサンフアン会議報告 JPNIC 政策主幹 前村昌紀 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第79回ICANN会議(以下、ICANN79)は、2024年3月2日(土)から7日(木)までプエ ルトリコのサンフアンで開催されました。 暫定CEOを務めるSally Consterton氏が閉会後に公開した、会議振り返りブロ グ記事(*1)によると、1,189名が現地参加、558名以上がバーチャル参加、参 加者の国籍は108ヶ国・地域とのことで、参加者の半数が北米から、アジア太 平洋地域からの参加者は11%だったとのことです。 (*1) A Look Back at ICANN79 https://www.icann.org/en/blogs/details/a-look-back-at-icann79-21-03-2024-en ICANN会議は通例としてGNSOにおけるgTLD政策議論が中心で、本メールマガジ ンでご報告する内容もGNSOのセッションが多いのですが、今回はgTLD次期ラ ウンド(いわゆるSubpro)が実施準備段階に入っていることに起因してか、GNSO の議論は細かな整理のような作業が多かった印象です。その一方、GNSO以外 の議論が非常に印象的なICANN会議となりました。 ■ ASO ACワーキングセッション ASOアドレス評議会(Address Council)は、会期中に12ものワーキングセッショ ンを持ちました。月曜日から水曜日まで3日間4セッションずつ、終日を費や す集中検討だったということです。新たな地域インターネットレジストリ (RIR)の設立を承認する基準を定めた、ICP (Internet Coordination Policy)-2(*2)の改定検討のためのものです。 (*2) ICP-2: Criteria for Establishment of New Regional Internet Registries https://www.icann.org/resources/pages/new-rirs-criteria-2012-02-25-en 前回のICANN会議報告やいくつかの記事、カンファレンスでもお伝えしている (*3)通り、現在アフリカ地域のRIRであるAFRINICが、差し止め請求に基づく 裁判所の命令によって理事の指名ができない状況になっています。そのため、 日常業務を超える経営判断ができないという機能不全に陥っていて、他のRIRs やICANNが事態の収拾に取り組んでいます。機能不全の立て直しそのものは、 司法当局とのやり取りを中心とした、AFRINICが設置されているモーリシャス 国内の作業となります。これ以外に、ASOではICP-2がこのような機能不全に なるケースを想定していないことを認知し、2023年10月にNRO EC (RIRの CEO たちによる委員会)からASO ACに対して検討を依頼(*4)しました。ACは2024年 1月にウルグアイ・モンテビデオ(LACNICオフィスの所在地)で合宿検討を行っ ており、ICANN79は2度目の集中検討となりました。 (*3) 例えばJANOG53「The Internetの運営機構を堅牢にするために」 https://www.janog.gr.jp/meeting/janog53/robust/ (*4) ASO ACのメーリングリスト ac-discuss における依頼のやり取り https://aso-apps-2.ripe.net/hyperkitty/list/ac-discuss@aso.icann.org/thread/GBMO6DIIZPYT3U7PLUWGLYQJRHD35T46/ セッションでは、今までの実績や実態に関わらず白紙の状態から、「RIRとは 何なのか」「RIRは世界にいくつ必要なのか」といったレベルの議論を丹念に 繰り返していました。例えばRIRの数に関しては、仮定として6という数字を 使っていました。現在RIRは五つですが、現状と違う数字を仮定すると、どう やったら増えるのか、増やすときのプロセスは何か、といった形で、想像が 広がります。ASO ACでは、この検討に2年間くらいじっくりと取り組む予定の ようです。 ■ ルートサーバシステム・ガバナンス・ワーキンググループ(RSSGWG) もう一つ、息の長い議論が続いているのが、RSSGWGです。インターネットの 起こり以来、ルートサーバ運用者の協議によって運営要領が定められていた RSSに、他のステークホルダーを交えてガバナンススキームを新たに定めるこ とを目的に、WGが設立されたのが2020年。感染症禍の期間には月次のWeb会議 でしたが、実地開催が再開した2022年6月ICANN74ハーグ会議からは、毎回の ICANN会議でワーキングセッションを数回設定して、議論を進めています。全 体的な議論内容に関しては、RSSGWGのコミュニティWikiページ(*5)や、WGメ ンバーである株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の堀田さんからのICANN 報告会での報告資料(*6)をご覧ください。 (*5) RSSGWGコミュニティWikiページ https://community.icann.org/pages/viewpage.action?pageId=120820189 (*6) 第68回ICANN報告会 ルートDNSサーバーシステムに関する報告(RSSAC及びRSS GWG) https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20231130-ICANN/icann68-4-hotta.pdf 今回のRSSGWGセッションで検討されたテーマの一つは、「RSSガバナンスに関 連して意見を言えるステークホルダーは誰か」でした。ルートサーバがトッ プレベルドメイン(TLD)名を解決するという点から、TLD運営者はステークホ ルダーに違いありませんが、問い合わせに応じるという意味では、全世界の リソルバ運営者にもサービスを提供していることになります。それ以外にも 専門家やIANAなど、ルートゾーンの運営に寄与したり、影響を及ぼす関係者 は少なくなく、それらを列挙し、オイラー図で関係を示したり、その結果を 表に落とし込んでみたりと、細かい作業が進行していました。 ■ ガバメントエンゲージメント(GE)チームアップデートセッション 最近のICANN会議で、最終日に開催される公開理事会前の恒例となっているの が、「地政学、法制、規制に関する最新動向」と題された、GEチームのアッ プデートセッション(*7)です。 (*7) Geopolitical, Legislative, and Regulatory Developments Update https://icann79.sched.com/event/1a1Ay/geopolitical-legislative-and-regulatory-developments-update GEチームは、政府間組織(IGOs)や各国政府における、インターネット政策や デジタル政策の動向を注視しています。このセッションは最新動向が簡潔に まとまっており、情報価値が高いものとなっています。またレポートなども GEのWebページ(*8)で公開されていて、この領域の動向把握にとても役立ちま す。 (*8) ICANN: Government and Intergovernmental Organization Engagement https://www.icann.org/en/government-engagement おりしも、2024年9月に開催される国連未来サミットで議論されるグローバル デジタルコンパクト(GDC)や、2025年の国連総会で議論される世界情報社会サ ミット20周年レビュー(WSIS+20)の検討プロセスが進んでいる最中で、この セッションも単なるアップデートに留まらず、フロアマイクに並んだ参加者 からは、これらのプロセスの中でマルチステークホルダーアプローチの堅持 に向けて一丸となって取り組むべきだ、といった熱気を持った発言が相次ぎ、 非常に盛り上がったセッションとなりました。WSIS+20に関しては、GEチーム がオープンなメーリングリスト(*9)を開設したことが公表されました。こち らのメーリングリストの議論も活発です。 (*9) ICANNコミュニティWiki: WSIS+20 Mailing List https://community.icann.org/pages/viewpage.action?pageId=311230498 ■ David Olive氏最後のICANN会議 David Olive氏は、14年にわたってICANN事務局のポリシー策定サポート (Policy Development Support)チームを導いた幹部職員ですが、2024年5月末 にICANNを退職することが、ICANN79会議の直前に発表されました(*10)。 (*10) ICANN Blog: Executive Team Update https://www.icann.org/en/blogs/details/executive-team-update-23-02-2024-en PDSチームは支持組織や諮問委員会における議論の事務処理を一手に引き受け る部署ですが、そのトップであるOlive氏は、その温和で優しく紳士的な人柄 が、職員だけでなくコミュニティメンバーにも愛された方でした。Olive氏の 幹部職員として最後となるICANN79会議では、「Team David」と書かれた大き な缶バッジが用意され、職員だけでなく理事やコミュニティメンバーもそれ を名札に付けていました。私も、主に理事の在任期間に大変良くしていただ きました。今後のOlive氏の、奥様との健やかで穏やかな生活をお祈りしま す。 ■ 最後に 今回の会議報告は、GNSOに関してあまり触れない、非常に例外的な内容とな りました。 しかしながら、ASO ACとRSSGWGの議論は、インターネットの発展 とともに少しずつ増強してきた仕組みを、再定義するような本質的な議論と して非常に興味深いものです。GEチームのセッションは、そのような不断の 取り組みとともに、技術コミュニティの自治によるグローバルインターネッ トの基盤運営を、国際社会にキチンとアピールしようとするコミュニティの 意思が現れているように思いました。 ICANN会議を常連参加者の報告で振り返るICANN報告会は、2024年4月16日に開 催予定です。奮ってご参加ください。 第69回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2024/20240410-01.html 次回ICANN80・ポリシーフォーラムは、2024年6月10日(月)から13日(木)にか けて、ルワンダのキガリで開催されます。遠隔参加も可能で、その場合にも 参加登録が必要です。 ICANN80 Policy Forum - Kigali https://meetings.icann.org/en/icann80 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。 https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html ◇ ◇ ◇ メールマガジン以外でも、情報を発信しています! 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