━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.2096【臨時号】2024.8.6 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.2096 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2024年6月中旬に、ルワンダ・キガリで第80回ICANN報告会が開催されました。 今回の会合では、新しいICANN事務総長の指名が発表されるという、大きな ニュースがありました。また、前回のサンフアン会議に続いて、今回もgTLD 関連以外の議論が盛り上がる会合となりました。 なお、この第80回キガリ会合の報告会を、2024年7月25日に開催しております。 当日の資料をWebで公開しておりますので、ぜひ本稿と併せてご覧になってく ださい。 第70回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20240725-ICANN/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ 第80回ICANNキガリ会議報告 JPNIC 政策主幹 前村昌紀 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第80回ICANN会議(以下、ICANN80)は2024年6月10日(月)から13日(木)まで、ル ワンダのキガリで開催されました。 暫定CEOを務めるSally Consterton氏が閉会後に公開する、会議振り返りブロ グ記事(*1)によると、123ヶ国・地域から1,000名を超える参加者が参加、参 加者の半数近くがアフリカ地域からで、アジア太平洋地域からの参加者は約 14%と、前回サンフアン会議の11%よりも若干多いという結果でした。 (*1) A Look Back at ICANN80 https://www.icann.org/en/blogs/details/a-look-back-at-icann80-01-07-2024-en 前回サンフアン会議の報告でも、普段は盛んなGNSOにおけるgTLD政策議論が 目立たないと伝えましたが、今回もその印象は継続しています。また、6月の ICANN会議は、支持組織(SO)や諮問委員会(AC)の中の議論を中心として、 フォーマリティを抑えたポリシーフォーラムという形式です。ポリシーフォー ラムの大きな特徴は、会期中毎日夕刻にカクテルアワーが設定され、参加者 と親睦を図ることができることと、このカクテルアワーにさまざまな発表や 表彰などが行われることです。そのようなICANN80会議から、特に印象に残っ たことをご報告します。 ■ 新事務総長指名の発表 今回最大のニュースはこれです。ICANNでは前の事務総長であるGoran Marby 氏が2022年12月に辞任して以来、グローバルステークホルダーエンゲージメ ントを統括するSally Costerton氏を暫定事務総長に指名した上で、次期事務 総長の探索を行っていました。その探索プロセスを終え、1日目2024年6月10 日のカクテルアワーに、理事会議長Tripti Sinha氏から新しい事務総長が発 表されました。新事務総長に指名されたのは、Kurt Erik "Kurtis" Lindqvist 氏です。Lindqvist氏は、スウェーデンでインターネットエクスチェンジや ルートDNSサーバを運営するNetnod社でCEOを含むいくつかのポジションを永 らく務めた後、2019年からはLondon Internet Exchange (LINX)社に勤め、現 在はCEOを務めています。RIPEミーティングを中心に非常に活発な活動で、技 術コミュニティで非常によく知られた顔です。技術コミュニティからの事務 総長への指名は私が記憶する範囲では初めてで、Lindqvist氏の就任は技術コ ミュニティにとってとても喜ばしいニュースとなりました。Sinha氏が発表す るタイミングに合わせて、Webサイトでもアナウンスされました(*2)。 Lindqvist氏の着任は2024年12月5日で、それまではCosterton氏が暫定事務 総長を続けるとのことです。 (*2)ICANN Selects Next President and CEO https://www.icann.org/en/announcements/details/icann-selects-next-president-and-ceo-10-06-2024-en ■ マルチステークホルダー主義の本場ICANNの本領発揮 初日の午後に開催された"Navigating the Multistakeholder Approach: The ICANN Community's Role in Global Internet Governance" (マルチステーク ホルダーアプローチを操縦する:グローバルなインターネットガバナンスに おけるICANNコミュニティの役割)(*3)と題されたセッションは、GAC(政府諮 問委員会)の議場で行われました。モデレーターはauDAのJordan Carter氏、 ALAC (At-Large諮問委員会)のPari Esfandiari氏、GAC英国代表のNigel Hickson氏の3名でした。 2024年から2025年にかけて、グローバルデジタルコンパクト(GDC)やWSIS+20 など、政府間機関におけるデジタル政策の検討が進行中であるため、インター ネットの関係者の間では、マルチステークホルダー主義が損なわれるような 結果にならないかと懸念の声が上がっていることが、このようなセッション を開催するきっかけになったと考えられます。 セッション冒頭で、NETmundial+10、GDC、WSIS+20、およびICANN80会議の会 期前日に開催されたGACハイレベルミーティング(HLGM)の内容がそれぞれの関 係者から簡潔に説明された後、フロアマイクから参加者の意見表明が数多く 行われました。コミュニティメンバーからは、マルチステークホルダー主義 の意義が唱えられたり、それぞれの国のGAC代表や政府担当官にアプローチす ることが推奨されたりする一方で、政府間機関の1国1票に比べマルチステー クホルダー主義では小国の声が取り入れられにくいといった問題点も率直に 言及されていました。政府、プライベートセクター、技術コミュニティ、市 民社会が満遍なく参加して、25年にわたってマルチステークホルダーの議論 の場を育ててきたICANNだからこそ、このような率直な発言もきちんと受け入 れられるのだろうと思いました。とても充実したセッションでした。 (*3) ICANN80: Navigating the Multistakeholder Approach: The ICANN Community’s Role in Global Internet Governance https://icann80.sched.com/event/1dr3U/navigating-the-multistakeholder-approach-the-icann-communitys-role-in-global-internet-governance ■ 理事会による戦略計画 最終日の最後のセッションでは、理事会による2026年から2030年の戦略計画 に関するセッションがありました。 Board Led Community Engagement on Draft FY26-30 ICANN Strategic Plan to Present Draft Strategies https://icann80.sched.com/event/1dr1o/board-led-community-engagement-on-draft-fy26-30-icann-strategic-plan-to-present-draft-strategies ICANNにおける戦略計画の検討には2年間を費やし、理事会に設置された戦略 計画委員会(BSPC)がこれを主導します。ICANN80の時点で、戦略計画案が完成 し、パブリックコメントの直前という段階で、このセッションはBSPCの共同 チェアであるMaarten Botterman氏とChris Chapman氏がモデレートしました。 新たな戦略計画は「ICANNのマルチステークホルダーモデル」「卓越した組 織」「一意な識別子」「セキュリティ」の4分野で、2021年から2025年の計画 である前回のものの5項目からは「地政学問題」がなくなっている状態となり ます。小項目にも増減があるものの、ほぼ同様の項目が今の状況を反映して 並んでおり、その中でマルチステークホルダーモデルの充実に力点が置かれ ているように見受けました。参加者からも積極的な質問やコメントが相次い で、このような経営事項にもコミュニティメンバーの包摂を重視するICANNの 姿勢を示す良い例だと思います。戦略計画はこの後、パブリックコメントを 経て最終化され、2025年3月頃の承認が見込まれています。 ■ 実施準備レビューチーム(IRT) gTLD次期ラウンドは既に実施準備フェーズで、SOのコミュニティメンバーが 事務局の実施準備を見守る、実施準備レビューチーム(IRT)のセッションが3 セッション開催されていました。そのうちの一つでは申請料に関しての議論 で、その算出の基礎となる予算計画に関して、CFOのXavier Calvez氏が説明 し、それに対して活発に質疑応答が進んでいました。次期ラウンドには関心 が高く、IRTメンバー以外のセッション参加者も数多く見受けられました。 IRTの情報に関しても、ICANNコミュニティWikiから参照できます。 Subsequent Procedures Implementation Review Team https://community.icann.org/display/SPIR また、PPSAI (Privacy Proxy Service Accreditation Issues)は2016年にポ リシー策定プロセス(PDP)が終了し、一旦実施準備を開始したのですが、登録 データディレクトリサービスに(RDS)関する迅速ポリシー策定プロセス(EPDP) の開始にあたり、実施準備が中断されました。今回仕切り直しとなったため、 IRTとして初顔合わせのセッションのようでした。 GDS: PPSAI IRT Work Session https://icann80.sched.com/event/1dr4r/gds-ppsai-irt-work-session 初顔合わせということで、IRTの運営要領や今後の計画などが事務局担当職員 から説明され、IRTの中身を知る良い機会となりました。 ■ 最後に 今回の会議報告も前回に引き続き、gTLD以外の内容が多いものとなりました が、マルチステークホルダーモデルも戦略計画も、ICANNという組織をよく表 すものとして、印象的でした、ご関心がある方は、ぜひ資料など一読なさる と良いと思います。 なお、本ICANNキガリ会議について、常連参加者の報告で振り返る第70回ICANN 報告会を、2024年7月25日にオンライン形式で開催いたしました。本報告会の 資料については、以下のURLで公開しています。本稿でご紹介していない内容 も扱っていますので、こちらもぜひご覧ください。 第70回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20240725-ICANN/ 上記報告会のレポートについては、本メールマガジンにて別途お届けする予 定です。 次回ICANN81・年次総会は、2024年11月9日(土)から14日(木)にかけて、トル コのイスタンブールで開催されます。遠隔参加も可能で、その場合にも参加 登録が必要です。 ICANN81 Annual General Meeting https://meetings.icann.org/en/meetings/icann81/ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。 https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html ◇ ◇ ◇ メールマガジン以外でも、情報を発信しています! 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