━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.2134【臨時号】2025.1.23 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.2134 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2024年11月中旬に、トルコ・イスタンブールで第81回ICANN報告会が開催され ました。年次総会となる今回の会合では理事の改選が行われたほか、ここし ばらく動きが静かだった次期新gTLDの募集に関する検討について、いくつか の新たな展開がありました。また、ASO ACでは、ICP-2の改定に関する作業が 進んでいます。本稿では、このイスタンブール会議の模様をご紹介します。 なお、この第81回イスタンブール会合の報告会を、2024年12月9日に開催して おります。明日発行予定の次号では、報告会の模様についてお届けする予定 です。また、報告会当日の資料はWebで公開しておりますので、ぜひ本稿と併 せてご覧になってください。 第71回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20241209-ICANN/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ 第81回ICANNイスタンブール会議報告 JPNIC 政策主幹 前村昌紀 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第81回ICANN会議(以下、ICANN81)は2024年11月9日(土)から14日(木)まで、ト ルコのイスタンブールで開催されました。 暫定事務総長を務めるSally Consterton氏が閉会後に公開した会議振り返り ブログ記事(*1)によると、ICANN81の参加者は2019年以降最多となる、141ヶ 国・地域から1,200名以上が現地参加、遠隔参加も700名以上を数えました。 ICANNの地域区分ではアジアに含まれる中東を間近にすることから、アジア太 平洋地域からの参加者が35%を占め、次いで欧州が29%に及びました。 (*1) A Look Back at ICANN81 https://www.icann.org/en/blogs/details/a-look-back-at-icann81-26-11-2024-en 前回、前々回と、gTLDの政策議論が目立たないという印象をお伝えしていま すが、今回は、新gTLDプログラム次回ラウンドの実施準備が着々と進む中で、 ポリシーについても新たな展開がありました。また、秋のICANN会議は年次総 会(Annual General Meeting)であり、理事の離着任のタイミングでもありま す。本稿では、筆者が参加したセッションなどの中から印象に残ったものを ご紹介していきます。 ■ 変化の季節を感じさせるオープニングセレモニー ICANN会議のオープニングセレモニーは、開催地域の地域責任者(Regional VP)が司会を務め、事務総長、理事会議長に続いて開催国の来賓からの挨拶が 続きますが、今回は、暫定事務総長Costerton氏、理事会議長 Tripti Sinha 氏に続いて、12月9日(火)にいよいよ事務総長に着任するKurtis Lindqvist氏 が登場しました。会期前の理事会ワークショップに参加し、その日に帰ると いう日程だったようですが、インターネットの世界に入り今に至るまでの経 歴に簡単に触れた上で挨拶しました。また、毎回NRO (Number Resource Organization) Executive Councilのチェアがアドレス支持組織(ASO)を代表 して挨拶しますが、今年のチェアである、RIPE NCCのCEO、Hans Petter Holen 氏の挨拶では、二つのRIRsにおいてCEOが交代したことに言及され(APNICで、 Paul Wilson氏からJia-Rong Low氏に、LACNICで、Oscar Robles氏から Ernesto Majo氏に)、大きな変化の季節を感じさせるオープニングセレモニー となりました。Lindqvist氏は着任した週にブログ記事を発して所信を述べて いますが、初の技術コミュニティ出身となる、新たなリーダーに期待したい と思います。 The Adventure Begins https://www.icann.org/en/blogs/details/the-adventure-begins-13-12-2024-en ■ 能力開発・参加型セッションが多く開催 今回のICANN会議で印象深かった一つには、能力開発や参加型・インタラク ティブなセッションが多かったことが挙げられます。「How it works:」とし て、おそらくはICANN会議に参加しはじめて日が浅い方々に、基本として重要 な事項を解説するセッションが五つありました。その他、以下に三つほど印 象に残ったものをご紹介します。 最初に紹介するのは、会期初日の11月9日(土)に開催された、ISPCP Capacity Building with OCTOです。 ISPCP Capacity Building with OCTO https://icann81.sched.com/event/1p28B/ispcp-capacity-building-with-octo ISPCP (Internet Service Provider Connectivity Provider Constituency) は、インターネット事業者やその業界団体による部会であり、JPNICや一般社 団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)さんが参加しています。 分野別ドメイン名支持組織(GNSO)の中でも技術領域に近い部会なので、OCTO (Office of CTO) が何かの講習をするというのは想像しやすかったのですが、 このセッションではなんと、バーチャルマシンを参加者に一つずつ割り当て て、BINDを立ち上げてDNSSECの設定をするという、極めて技術的なもので、 びっくりしてしまいました。私もその場にいたのですが、セッション終了後 すぐ始まる打ち合わせが控えており、傍聴のみとしましたが、それぞれISPや IX事業者を背景としながら、必ずしも技術者ではない部会メンバーに非常に 技術的なプログラムを提供する意欲には圧倒されました。コース資料は GitHubで公開されており、本稿執筆時点でもまだ参照可能でした。 ISPCP Training at ICANN81 https://github.com/yakanho/training/blob/main/labs/ISPCP-ICANN81/instructions.md 合同会議(Joint Meeting)と名付けられたセッションの通例は、互いに相手の 政策事項に対する関心や懸念を交換するものが多いのですが、今回開催され た 政府諮問委員会(GAC) と ルートサーバーシステム諮問委員会(RSSAC)の合 同会議は、RSSACがルートサーバーシステム(RSS)に関する基礎的な事項を GACに説明するという形式をとっていました。 Joint Meeting: GAC and RSSAC https://icann81.sched.com/event/1p2Jq/joint-meeting-gac-and-rssac これはRSSACが非技術者におけるRSSへの理解を増進するために取り組んでき た資料開発の成果として実施されたもので、RSSACチェアのJeff Osborn氏が、 DNSやRSSに関して非常に分かりやすく説明しています。Zoomによるセッショ ン録画が参照可能です。 Joint Session: GNSO RrSG & ICANN: Perspectives on Accuracyは、レジス トラ関係者会議とICANN事務局という珍しい組み合わせで、登録データ正確性 に関するインタラクティブなセッションでした。近年のDNS Abuseに対する取 り組みや議論の盛り上がりの中で、登録データの正確性がしばしば取り沙汰 されます。さまざまな国から登録を受け付けるレジストラにとって、時にと ても難しい問題で、登録データ要求システム(RDRS)で取得したデータがまっ たく不正確だったという事例を耳にすることもあります。このセッションで は、まずICANN事務局がレジストラ認定契約(RAA)における登録データ正確性 に関する規定をおさらいした上で、ISP、ビジネス、セキュリティ、法執行、 登録者という五つのそれぞれの立場からデータ正確性を議論するグループワー クを行い、その結果をセッション最後に共有しました。あらかじめ設定され た議論テーマは次の三つ、 1) 登録データが正確だということは何を意味するのか 2) 不正確なデータが及ぼす影響は何か 3) 正確性を担保するために必要なプロセスは何か で、私は法執行のグループで議論に参加しましたが、例えば3)に関しては、 定期的なチェックを行う、ハイリスクな登録に関してはキチンとKYC (Know Your Customer)手法で本人確認をする、身分証明書や写真を求めるなどの方 策が挙がった一方、自国外の証明書の確認など課題が多いことも認識されて いました。セッションページでは、グループワークのまとめも含まれる資料 が参照可能です。 Joint Session: GNSO RrSG & ICANN: Perspectives on Accuracy https://icann81.sched.com/event/1p2Ko/joint-session-gnso-rrsg-icann-perspectives-on-accuracy ■ 新gTLD次回ラウンド実施準備の進展 新gTLD次回ラウンドに関しては、実施準備が進んでいます。ICANN81の会期中 には、次回ラウンドに関するIRT (Implementation Review Team, GNSOのメン バーによる実施準備状況確認チーム)がワーキングセッションを開催するとと もに、さまざまなセッションで状況報告が提供されました。次回ラウンド実 施に向けたプログラムである、申請者支援プログラム(ASP)やレジストリサー ビスプロバイダー(RSP)評価プログラムは会期直後の11月19日(火)に開始され るとあって、関心が高かったです。新gTLD募集の詳細要領が示される申請者 ガイドブック(AGB)の作業に関しては、明確に2025年12月までに確定版を公開 するという見通しが示され、AGBの中を四つの部分に分けて順次意見募集にか けていくとのことです。また、ICANN81会期中の公開理事会では、次回ラウン ドにおける方針が二つ決定されました。一つは、競合セットの解決のために 2012年ラウンドでは許されていた私的解決の禁止、もう一つは、TLDラベルの 文字列に関して、単数形複数形どちらか片方が登録された場合、もう片方は 登録を禁止するというものです。 ICANN理事会 2024年11月14日会合決議 https://www.icann.org/en/board-activities-and-meetings/materials/approved-resolutions-regular-meeting-of-the-icann-board-14-11-2024-en ■ ASO ACによるICP-2 (新RIR設立要件)改定作業 ASOでは、AFRINICの機能不全に伴う対応として、ICP-2 (Internet Coordination Policy 2)「Criteria for Establishment of New Regional Internet Registries」(新RIR設立要件)の改定作業を進めており、2024年 10月に改定版の「原則案」と呼ばれるドキュメントを公開し、意見募集を行っ ていました。それを受け、ICANN81では会期中に八つのワークセッションを開 催し、検討を進めました。私は2024年11月にAPNIC理事会の指名を受け、2025 年1月からASO ACのメンバーとなりましたが、ICANN81においては言わば「見 習い」として、非公開部分を含むワークセッションに参加しました。私は ICP-2が定められた2001年には既にAPNIC理事になっており、この過程をリア ルタイムで経験した観点からいろいろと意見を持っていましたが、一方でASO AC (ASO Address Council)としては、RIRsやICANNとの関係性の中でやれるこ と、やるべきことが決まっていくということで、そのようなコンテキストを 学ぶ機会となりました。ICANN81のワークセッションでは、原則案に対する表 明意見のあらましを確認し、今後のスケジュールや作業要領が主な議題でし た。 JPNICブログ:ICP-2 新RIR設立要件の改定作業:「原則案」に対する意見 募集が始まりました。(和訳付き) https://blog.nic.ad.jp/2024/10159/ ■ 年次総会:理事の去就 先述の通り、公開理事会においては新gTLD次回ラウンドに対する方針などが 決議されましたが、この公開理事会をもって理事会任期の節目が来ます。既 に任期半ばで退任した国コードドメイン名支持組織(ccNSO)選出のKatrina Sataki氏の他に、今回は指名委員会(NomCom)選出のDanko Jevtvic氏とEdmon Chung氏がそれぞれ2期、1期を務めて退任となり、新たに、米国で大使や政府 の要職を歴任したMiriam Sapiro氏と、インドでインターネット黎明期の貢献 が著しい Amitabh Singhal氏が着任しました。副議長を務めたJevtvic氏、精 力的なChung氏の退任は惜しまれますが、Sapiro氏、Singhal氏の経歴も堂々 たるものです。また、IETFリエゾンがHarald Alvestrand氏からDavid Lawrence氏に交代となりました。2024年の陣容で最後となる公開理事会の直 後には、2025年の陣容で迎える最初の理事会、組織会合となりますが、議長 は引き続きTripti Sinha氏、副議長には、退任したJevtvic氏に替わり、 Chris Chapman氏が選任されました。また、2024年12月9日(月)にLindqvist氏 が着任するため、それまでの暫定事務総長であるCosterton氏とともに、期間 指定の上で幹部職員の指名が行われました。新たな事務総長を迎える新たな 理事会にも、期待したいと思います。 ■ 最後に 今回の開催地イスタンブールは、西洋と東洋が出会う地理的な位置にあり、 多様性を尊ぶICANNに似つかわしい場所のように思われました。会場は、たく さんの市民や観光客で賑わうタクシム広場や目抜き通りのイスティクラル通 りからも近く、夕方食事へ行くにも散歩気分で歩いて向かうことができ、と ても快適に過ごしました。 本イスタンブール会議の報告会は、2024年12月9日(火)に、ICANN APAC本部か ら新たなAPAC地域責任者 Samiran Gupta氏、日本を担当するAthena Foo氏を 迎えて実施しました。常連参加者の皆さんの詳しい報告資料も、こちらのペー ジから参照可能です。 第71回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20241209-ICANN/ なお、上記報告会の内容については、本メールマガジンでもレポートを次号 にてお届けする予定です。 次回ICANN82・コミュニティフォーラムは、2025年3月8日(土)から13日(木)に かけて、米国・シアトルで開催されます。遠隔参加も可能で、その場合にも 参加登録が必要です。 ICANN82 Seattle Community Forum https://meetings.icann.org/en/meetings/icann82/ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。 https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html ◇ ◇ ◇ メールマガジン以外でも、情報を発信しています! 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