━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【 2 】News & Views Column 「インターネットとリサーチ」 JPNIC IRR専門家チームメンバー 東京大学大学院 長橋賢吾 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 4月からとある大学で「リサーチの基礎」という授業を大学2年生向けに、非常 勤講師として担当していますが、はじめにリサーチとは何か? 聞いてみまし た。ほとんどの学生は、調査して何かを生み出す、調べたものを論文にしてま とめる、難しいもの、といったイメージを挙げていました。では、リサーチと は一体どういったものでしょうか? 物理学者のR.ファインマンは、「数学や物理というのは神様のやっているチェ スを横から眺めて、そこにどんなルールがあるのか、どんな美しい法則がある のか、探していくことだ」と述べています。私はこれを一歩進めて、リサーチ とは一編の探偵小説を書くようなもの、だと思っています。どんな探偵でも根 拠なしに犯人を見つけ出せません。中には天才的な勘を駆使して、直感的に犯 人を見つけ出す場合もあるかもしれません。しかし、そこにも必ずなぜ彼・彼 女が犯人なのか? という根拠が含まれています。良質な探偵物語ほど、その 「なぜ?」を追いかける根拠、およびそれに至るプロセスが巧みに描かれてい ると思います。そして、この「なぜ?」は、数学、物理などすべてのリサーチ に共通していると感じています。 私はインターネットに関するリサーチに従事しており、インターネットのリサー チに関してもこれと全く同様のことが言えると思います。現在私は自律システ ム(AS)をまたぐルーティングについて調査しています。このルーティングは、 BGP(*)と呼ばれる10年以上も前に策定されたプロトコルを利用していますが、 さまざまな問題が指摘されています。では、多くの問題が指摘されつつBGPが ここまで利用されているのはなぜでしょうか? 私はその原因(犯人!?)を インターネットの大規模ISPを頂点とした階層的なトポロジーにあると推定し ています。つまり、小規模なサイトがBGPで問題をおこしても、大規模ISPによっ てその影響が吸収されるのではないかと思っています。 残念ながら(?)、この探偵物語はまだ途中であって完結していません。しか し大事なことは、どんなもの・ことでも「なぜ?」を追求することだと思いま す。探偵物語でも「なぜ?」がなければ物語が進みません。リサーチでも「な ぜ?」がなければ事実をまとめただけのレポートで終わってしまいます。リサー チという形式にとらわれることなく、「なぜ?」を追求する姿勢が大切だと思 います。 (*) BGP:【 3 】インターネット用語1分解説「BGPとは」をご参照ください