━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【 2 】News & Views Column 「未来の二つの顔」 WIDEプロジェクト 石田慶樹 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ここ最近になって「安全・安心なインターネット」が耳目を集めるキーワード として取り上げられるようになってきました。実際に今のインターネットでは、 大量に生産され消費される情報の洪水の中での不正アクセス、脅迫や誹謗中傷、 フィッシングやファーミングなど、犯罪やそれに類するような言動が発生して いるということは事実としてあります。また、そのような言動が、いたずらや 出来心といった趣から、組織的犯罪に性格を変えつつあるということも見逃せ ません。 ただ、犯罪も含むこれらの行為は、実は人間の社会そのものが本質的に内包し ていることであり、インターネットが人間の能力を増幅させるという本質を持っ ている以上、悪意もやはり増幅されてしまっているのであるということも言 えるのではないでしょうか。 このような現状の中で「安全・安心なインターネット」とは非常に魅力的な響 きを持つキーワードです。ただ、「安全・安心」を追求するあまりに、人と人 や機械との間でコミュニケーションツールとして発展してきたインターネット のグローバルかつ自由であるという性質が曲げられ、自由にアイデアが表現で きないような事態になったとすると、本末転倒であると言わざるを得ません。 これら二つの相反するような世界を意識しつつ、インターネットのみならず通 信の世界がどこへ向かっていくのか、秩序か混沌のいずれの顔を選ぶのか、そ の岐路に今現在立ちつつあるのではないかという個人的な認識が、このコラム の表題の意味するところです。 二つの顔は、極端に走ると確かに相反しますが、実際のところ果たしてそうな のでしょうか。極端に走らずとも現実社会と同じようにそこそこ安全・安心で ありながらそこそこ自由な世界はできないのか、そういう世界をもたらすため には技術はどうあるべきか、ということがこれからしばらくの間ユーザーも含 めた皆で考えて実践していくべき課題だと言えるでしょう。 なお、表題はジェイムズ・P・ホーガンのハードSF「未来の二つの顔」(創元SF 文庫、山高昭訳)のタイトルを借用したものです。このSF小説は通信の世界を 書いたものではありませんが、技術の進歩の結果として出現した二つある選択 肢のどちらを選ぶかが主題となっているものです。その結末について興味を持 たれた方は是非小説をご一読ください。