━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【 2 】News & Views Column 「「自律・分散・協調」という技術の思想から学んだこと」 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助手 牧兼充 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「インターネット」という言葉を聞くと私が真っ先に思い浮かべるのは、「自 律・分散・協調」というキーワードです。私のインターネットとの出会いは、 1995 年、私が高校3年生のときで、それ以来私は、教育、性能評価、ベンチャー 育成などいくつかの側面からインターネットの展開に関わって参りました。イ ンターネットに携わることで、もちろん技術そのものを学んできたことは間違 いないのですが、でもそれ以上に私がインターネットとの出会いから学んだの は、「自律・分散・協調」という思想だったように思います。この思想に感銘 を受けたからこそ、今までインターネットに携わっている原動力になっている、 と言っても過言ではないように思います。 現在私は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)において、SIVアントレプレ ナー・ラボラトリー(SIVラボ)(*1)というベンチャー育成プロジェクトの事務 局長をしています。SFCは1990年の開設以来、多数のインターネット関連ベン チャー企業を輩出してきましたが、その蓄積を活かす形で、更なる成長性の高 いベンチャー企業を輩出する仕組みを作りたいと思い日々活動をしています。 この仕組みをデザインするにあたっては、SIVラボが単独で行うのではなく、 多数のスピンオフ組織を育成し、それぞれの組織が自律的に活動し、そして相 互に連携していくというモデルを常に頭に思い浮かべながら、活動を進めてき ました。当面はSIVラボが全体のコーディネートをしていますが、近い将来SIV ラボがなくなっても持続可能な、中央の存在しないインキュベーションのシス テムになっていければ、と思っています。これまさに「自律・分散・協調」モ デルですよね。私が思い描くSIVラボの基本コンセプトがこうした形になった のも、私が大学時代にこの思想を学んで衝撃を受けていたからだろうと思って います。 私はSFCで「アントレプレナー概論I・II」(*2)(*3)という授業を担当していま す。このうち、「アントレプレナー概論I」は、毎回ベンチャー起業家をゲス トとしてお呼びして、新たなビジネスモデルをディスカッションするというも のです。昨年5月にSNS(Social Networking Service)のアーキテクチャを「自 律・分散・協調」モデルで運用する、というビジネスモデルを扱い、学生の皆 さんに「自律・分散・協調」というモデルを伝えました。しかしながら、「自 律・分散・協調」という思想に興味を持った学生はほとんどいませんでした。 詳しく学生に話を聞いてみると、今やこの「自律・分散・協調」という思想自 体はどこでも見る話だし、「当たり前で目新しい気がしない」とのことです。 私の授業は技術系の授業ではないので、非技術系の学生も含めた学生の大多数 が、もはやこの「思想」を当たり前のものととらえているということになりま す。 90年代半ば、SFCから多数のベンチャーが育っていったのは、SFCの学生がイン ターネットという技術や思想に感動し、ここに人生の一部をかけてみたいと思 わせる時代であった、ということだろうと思います。私のような大学でインキュ ベーションに携わる立場としては、今後も学生たちにとって感動する先端的な 技術や思想を伝えていくミッションを持っています。ちなみに最近だと「実空 間性」、「位置情報」、「集合知」などが学生が興味を持つキーワードになり つつあります。 このような刺激を学生たちに提供していく場作りは、大学単独では限界があり ます。まさにこの仕組み作り自体を、インターネットの展開に今まで携わって こられた方に応援いただきながら発展させて、更にこれからのインターネット を担う次世代の育成に貢献できれば、と思っております。ご興味を持っていた だいた方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にご連絡ください。 ■ 著者略歴 牧兼充 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)をベースにしたベンチャーインキュベー ションプロジェクト「SFC Incubation Village」を創設。以来、事務局長とし て、全体の企画・運営のコーディネータとして活動中。三菱地所株式会社ビル 事業本部街ブランド企画部ビジネスインキュベーションユニットパートナーを 兼務。 (*1)慶應義塾大学SIVアントレプレナー・ラボラトリー http://www.siv.ne.jp/ (*2)アントレプレナー概論I http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2006_24261 (*3)アントレプレナー概論II http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2006_24262