━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【 2 】News & Views Column 「コミュニケーションの本質から企業Webを見直す」 クロスメディア・コミュニケーションズ株式会社 雨宮和弘 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ インターネットに初めて触れたのは90年代初頭。まだ日本では商用利用前だっ たのですが、当時外資系企業で工業デザイナーだった私は、自社の衛星回線を 使ったグローバルネットワークを利用して、マックで作ったデザイン画像や CAD図面のデータをDOSバイナリーに変換、スクリプトベースのFTPで米国本社 やヨーロッパへファイル転送していました。 その後、モザイクナビゲーターのベータ版を落としては、社内のサーバーで勝 手なデータサイトを作っていた記憶があります。商用利用が開始されるや否 や、「まだ誰もやったことがないから」と発起して、米国本社のWebサイトが 立つ半年前に「日本初の」企業採用ページを作りました。当時はまだWeb制作 会社なんてありませんでしたので結局、このサイト(約20ページ)と日本支社の Webサイト(約250ページ)は全て自分でHTMLを手組みしました。 悪い(笑)うわさが広まるのは早く、「勝手なことをやっている奴が日本にい る」ということで、すぐに本社のWeb開発チームから呼び出しを食らったので すが、そこで行われていた「企業Web開発プロジェクト」のプロセスと考え方 が先進的で、今の私の仕事の根幹になったのです。 そのプロジェクトチームのオーナー(トップマネージャー)はいわゆるCIOや技 術系の方ではなく、企業コミュニケーション担当の取締役だったのです。チー ムメンバーにはもちろん技術、マーケティング、法務のメンバーも含まれてい ますが、そのテーマは、「『企業コミュニケーション』の観点から、恒常的に この新しいメディアをどう活用していくか」というものでした。 このチームに加わり、いわゆる企業Webサイトのマネジメントを学んだ後、別 の外資系企業に転職しましたが、ここでもやっていることはほとんど同じでし た。独立後もずっと企業Webサイトのベンチマークを続けていますが、多くの 欧米企業は企業コミュニケーションの観点から全体視しているため、数年ごと の大きな技術革新にもあまり左右されることなく、ステークホルダーとの関係 構築を続けているように見受けられます。 一方、多くの日本企業では、このような考え方の芯がないまま、製品プロモー ションや人材採用サイトなど、部門単位のコンテンツの積み上げでWebサイト ができあがっていることが多く、トップページはまるでその企業の勢力の縮図 のような企業もあります。まだ多くの日本企業には、自社のコミュニケーショ ン戦略を反映する意思と権限を持ったWebチームや担当者がほとんどおらず、 きちんとしたコミュニケーション人材教育も行われていない状況ですので、リ ニューアルをやっても3年ぐらいで飽きてスクラップする、という繰り返しの ような気がします。 私も独立後、数多くの大手企業のコミュニケーションプロジェクトに関わって きましたが、もう単なるWebのリニューアルにはあまり興味が湧かなくなりま した。どんなにデザインを洗練させ、機能やコンテンツを増やしても、結局 「人」がいなければ継続的なステークホルダーとの関係は紡ぐことができない からです。 コミュニケーションの語源は、ラテン語のコミュニカレ(communicare:共 有・分かち合う)から来ていると言われています。すなわちコミュニケーショ ンは「伝える・投げかける」では不十分、相手の理解が得られ「共有・分かち 合う」ことができてはじめて目的が達成されたことになる、というわけです。 一般的に私達がインターネットを使うようになってまだたったの10余年です が、その間の技術革新のインパクトは本当にすさまじいものがあります。仕事 のやり方もガラッと変わり、ビジネスチャンスも飛躍的に広がりました。だか らこそもう一度、「コミュニケーション」の基本に立ち返って、そこに関わる 多くの企業担当者、経営者の方たちをサポートしていきたいと思います。 ■ 著者略歴 雨宮和弘 大手外資企業における企業広報およびオンラインコミュニケーション実務経験 を基に独立。クロスメディア・コミュニケーションズ株式会社を立ち上げ、数 多くの企業ウェブサイトの調査評価、企画、再構築に関わるほか、オンライン コミュニケーションに関わる人材育成を目指し、日本経団連、日本PR協会等で 講演やセミナーを多数行っている。 http://www.crossmedia.co.jp/