ニュースレターNo.16/2000年4月発行
5 最新トピックス English Page
5-3 APRICOT報告
去る2月28日から3月2日に、韓国ソウル市にてAPRICOT (Asia Pacific Regional Internet Conference on Operational Technologies)が開かれました。本会議はもともと運用技術を議論する会議だったのですが、最近はアジア太平洋地域の会議週間として、APNIC、APNG、APIAなどAP*と呼ばれる組織の総会やワークショップが開かれています。その意味で、APRICOTはアジア太平洋地域のコーディネーションを行う場として唯一無二の存在となっています。JPNICではAPRICOTのスポンサーになるとともに、何名かの参加者を送り、いくつかの会議で議論をリードしてきました。本稿ではAPRICOTでのいくつかの会議の模様を簡単にご報告いたします。
Social Aspect of the Internet Development in the Asia Pacific Region BOF
(企画・国際部会)
3月1日の14時から15時半にかけてJPNICとAPIAの共催により、"Social Aspect of the Internet Development in the Asia Pacific Region" というBOF(小規模のセッション)を開催しました。このセッションは、アジア太平洋地域へのインターネットの普及と、それが各社会に与える影響に焦点を当て、各国のケースについて情報交換を行うことを目的としたものです。
このセッションには、アジア太平洋地域の各国/地域を中心に約20名の参加がありました。今回は、アジア太平洋地域でインターネットがどのように社会に拡大、浸透しているのか、インターネットの普及促進のための支援策が取られている場合はそれがどのようなものか、といったことなどを参加者同士で情報交換しました。
たとえば、スリランカでは、視聴者からの電話によってWEBページの検索を代行するテレビ番組があり、インターネットに対する関心の拡大につながっているそうです。このような情報のほか、各国/地域でのインターネットの地道な広がりを示すおもしろい例がいくつか紹介されました。一方、都市と地方とのインターネット普及格差や、インターネット利用コストが所得水準に比較して高額であることなど、いくつかの問題も指摘されました。
今回のBOFは、このような情報を各国の人がface to faceで交換しあう初の試みでした。今後は、今回の参加者同士で電子メールを通じて情報や経験を共有し、インターネットをアジア太平洋地域の人々にとってさらに使いやすくするためのヒントは何かなどを考えていきます。そして、JPNICとしては、アジア太平洋地域のインターネットの発展動向を知り、会員のみなさまにお伝えするとともに、支援の可能性などを検討できればと考えています。なお、7月のINET2000でも同様のBOFを開催し、さらに経験を共有していくこととなりました。
IPアドレス関連
(IPアドレス、AS番号割り当て検討部会)
APNIC SIG セッション
例年、APNICはAPRICOTに隣接してAnnual Member Meetingを開催していますが、今年は初の試みとして「SIG (Special Interest Group)」と銘打ち、以下の5つのセッションが開催されました。
セッション名 | チェア |
---|---|
Address Policy SIG | 荒野 高志氏(JPNIC IPwg主査、ICANN AC) |
PGP and the RIPE database SIG | Joao Damas (RIPE NCC) |
Routing SIG | Phillip Smith (Cisco Systems) |
DNS SIG | Mathias Koerber (SingTel) |
IPv6 SIG | 加藤 朗氏(WIDEプロジェクト) |
これらの内容に関しては、以下のURLにて参照することができます。
http://www.apnic.net/amm2000/sigs.html
JPNIC IP-WGでは、これらのSIGに対して以下の発表を行いました。
Routing SIG
「IRR協調運用体制に関して」近藤 邦昭氏
RADBの有料化に端を発した多くのISPにおけるIRR運営に関して、グローバルにデータの完全性を保つためには適切なコーディネーションが必要という内容で、おおむね了承を得られながら各論に関して引き続きメーリングリストなどで検討するということになりました。
Address Policy SIG
(1)「/29以下のアドレス空間の簡易割り当て」 | 江面 祥行氏 |
(2)「割り当て審議の大原則の明文化・共通化」 | 廣海 緑里氏 |
(3)「APNICデータベースにおける個人情報保護」 | 前村 昌紀氏 |
Address Policy SIGは、APNICのIPアドレス割り振りポリシに関してAPNICと会員との間でオープンに討議するもので、ICANN体制のもと、RIRの要件として新たに定義されたものです。これによって、APNICが計画中のポリシーだけでなく会員からの提案も提出可能となり、それらに関して会員の意見を取り入れることができるようになりました。会員のコンセンサスに基づく民主的なポリシー策定手順が確立されたと言ってよいでしょう。
JPNICからの提案に関して、(1)は小さなアドレスブロックに対しても利用状況の確認は必須であるという立場が強く、利用状況確認の簡素化に関してより具体的な検討を通じて実現性を探っていく方向になりました。(2)は必要性に関しておおむね賛同を得、具体論は継続検討、(3)は合意に至りました。
APNICから提出された提案の中で重要なものとして、RIPE NCC、ARINにおける実績に基づいたclass Aアドレス通常割り当て開始に関する提案、ISPに対する最小割り振りサイズを/19から/20に変更する提案があり、この2つに関しては合意に至りました。
APNIC NIRミーティング
SIGとは別枠で、APNIC配下のNIR (KRNIC(韓国)、TWNIC(台湾)、CNNIC(中国)、APJII(インドネシア))の担当者とAPNICで、NIRに関するポリシーを話し合うNIRミーティングが開催されました。議題は、NIRに対する割り振り手順の改良、APNICに対する人員派遣などで、どの議題もおおむね了承されました。これもAddress Policy SIG同様、NIRに対する施策に関して民主的プロセスでの決定を目指しており、歓迎される方向性と言ってよいでしょう。
APNIC総会
例年どおり、一年間の事業報告、重要案件の議論とともに、各SIGの概要が報告されました。Address Policy SIGに関しては、合意事項に関してその場で合意確認が挙手によってなされました。この手法は、民主的かつ素早い施策実施のために非常に有効だと考えられます。
また、APNICの会員の会費カテゴリーについて、今までは各会員の自由選択でしたが、これからはAPNICから割り振られているアドレス総量によって決定することとなりました。しかしJPNICはNIRとして"Very Large"カテゴリーに入っている為変化はおこりません。
総会の最後では、ARIN、RIPEの両RIRからの活動報告がなされるとともに、現在創立準備中である新しいRIR――AfriNIC(アフリカ地域)、LACNIC(ラテンアメリカ地域)の準備状況が紹介され、3RIR体制に変わる新たな時代を予感させました。
総会の詳しい内容に関しては、以下のURLを参照してください。
http://www.apnic.net/amm2000/index.html
総会当日、初めてAPNICの新しいロゴが発表されました。
この1年間は新たなICANN体制のもと、RIRの成り立ちが明確となるとともに、APRICOTでもSIGの実施やポリシーの民主的決定プロセスが実現するなど、APNICの体制、事業内容も充実しました。今回の総会は、この新しい洗練されたデザインのロゴが象徴するように、APNICに大きな進展を感じた総会となりました。
ICANN Panel & BOF報告
(IPアドレス、AS番号割り当て検討部会)
APRICOT開催中、Panel on ICANN updateおよびICANN BOFが設けられました。まず、ICANN Panelでは、ICANNの構成説明から現在までの活動、問題点、今後の予定などが五つのトピックスに分けられて説明がありました。
インターネットといえば欧米諸国の発言力が強く、その利用においても格差が出ています。今後は、アジアパシフィックなどからも積極的にインターネットの発展のために参加していこうという提案がされました。
また、組織構成の中で注目すべき点として、既存のASO、DNSO、PSOといった下部組織の他に世界中のインターネットユーザーを対象にした「At Large Member」についての紹介と参加の呼びかけがありました。これは、今後のインターネットの発展のためにあまねく意見を募っていく予定だそうです。日本からの参加もおおいに期待されており、参加登録はICANNのホームページからできるようになっています。また、ASO、DNSO、PSOからそれぞれの活動報告がありました。
その後、場所を変えてBOFを行いました。当初は参加者が30人前後で、各自の自己紹介から始めるという和やかな雰囲気での開始でしたが最終的には倍程度の人数で活発な議論が行われました。
BOFでのトピックスは、「At Large member」、「ASOについて」、「次回カイロでのICANNミーティングについて」、「ICANNの決定過程について」、「.eu問題」、そして「資金調達について」の六つでした。
参加者からは、新しいトップレベルドメイン名が簡単に作られたという非難のあった ".eu" など、すでにドメイン作成にあたっての説明資料が提示され完了しているものを除き、3月第2週目のカイロでのミーティングに持ち越される話題もありました。合わせて4時間にも及ぶ議論にもかかわらず、最後まで活発な意見交換が見られました。