ニュースレターNo20/2002年3月発行
1 巻頭言: 地域情報化と地域IX
JPNIC理事 林 英輔
最近、どこの県でも電子自治体システム構築への取り組みの足並みが揃ってきているようにみえる。多くの県では、県庁と域内にある出先庁舎や事務所、総合教育センター、県立学校や市町村等を接続する情報ハイウェイネットワークを設ける計画があり、既に運用が開始されているところもある。このネットワークは、電子自治体システムの柱である総合行政ネットワークの県内アクセス網としての用途を目的としているようにみえるが、県によっては、それだけでなく、民間ISPネットワークとの接続も考慮し、その先につながる県民や県内の企業のホストからこの情報ハイウェイの利用を可能にする、いわゆる情報ハイウェイの民間開放を行うところもある。このような自治体では、県民に直接繋がる情報ハイウェイを目指し、特に首長の意思がそこに強く働いている。インターネットが広がり、多くの人々に使われるようになってきたとはいえ、首都圏や大都市と地方では、その普及度に差があり、民間ISPネットワークの広がりやブロードバンドネットワークサービスの受け易さ等に差がある。全国的IT戦略事業が進んでゆくなかで、先進的地域の住民と地方の住民との間で情報格差が広がってはならないという地方行政担当者、地域産業界や有識者たちの強い思いが情報ハイウェイを地域共通の情報インフラとして活用させようという流れを後押ししている。
例えば、電子申請が可能になったとき、家庭内のパソコンからある証明書発行申請を行う場合を考えてみよう。民間ISPネットワークが便利に使え、全国的IXも近くにある場合は快適である。しかしそうでない場合、同じネットワーク経由と言っても、遅い回線を通ったり、遠い経路を経由することでレスポンスが悪くなる。特に、地方においてこの傾向が強い。したがって、地方でも高速で近い経路を使えるネットワーク環境を県民で共有したいという希望が生まれる。このような環境は地域産業界にとっても勿論望ましい。
情報ハイウェイに種々のネットワークを接続する場合、複数の異なる自律系ネットワーク(ASと呼んでいる)を接続して相互間で経路情報を交換して最適な経路で情報が流れるようにする(これをピアリングと呼んでいる)には、BGP4と呼ばれる経路制御方式を用いることになるが、その実現方法がIX(Internet Exchange)である。情報ハイウェイの民間開放は地域IXの運用をもたらす。実際に地域内の異なるASに繋がるコンピュータ同士の間で、地域IXを経由する経路と、それぞれのASの上位網を通りインターネットを経由する経路のそれぞれに、長時間にわたり多数のパケットを送って比較すると、地域IX利用の方が経路は安定していて伝送効率がよいことが示される。地域IXを経由する回線のバンド幅が広ければ、平均のパケット伝送時間の大幅短縮も実現する。一概にIXといっても、詳しくは、IX(Internet Exchange)とプライベート・ピアリングの方法がある。1997年に筆者たちは山梨県で、県内経路のみ交換することで複数ASの接続を始めたとき、この影響が県外に及ばないよう配慮して、後者の方法を採用した。
各地域で独立にIXの運用を行うようになると、そのやり方によっては地域内経路として経路の細分化が行われるため経路の数が増え、国全体では、経路制御の仕事が複雑化するという問題が生じる可能性があるため、今後、地域IXが増えてゆく場合、全体としての合理的な経路運用のための相互協力が必要になる。