ニュースレターNo20/2002年3月発行
5 2001年 インターネットトピックス
5-5 第52回 IETF報告
(2001年12月26日発行 vol.7より)
5-5-1 IDN標準化動向
第52回IETF Meetingが米国ユタ州のソルトレークシティにおいて開催され、その中で日本語ドメイン名を実現する国際化ドメイン名(Internationalized Domain Name)の標準化を行っているIDN WGのMeetingも行われました。
WG Meetingにおいては、これまで課題として議論が継続されてきた言語や地域に依存する補助的な扱いに関した各提案について、それらはWGのスコープ外のため作業項目から除外したいという考えがチェアから提示されました。この提示は大きな反対もなく合意され、課題が解決したため、標準化に向けて大きく前進しました。今後の作業項目は
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IDNA
IDNの処理(NAMEPREPとACE)をアプリケーションで行うアーキテクチャ -
NAMEPREP
表示上同一のドメイン名(ホスト名)の比較が正しく行われるよう、コンピュータ内部の表現形式を統一する方式 -
AMC-ACE-Z
ASCII以外の文字をASCII文字のみを使って表現する(ASCII Compatible Encoding)方式
の三つの提案を、WG Last Callと呼ばれる1週間程度の最終確認期間を経て、数週間以内(2002年1月中旬までをめど)に順次WGの最終案としてまとめることになります。まとまり次第各提案はIESG (Internet Engineering Steering Group)に送られ、IESGのレビューを経てProposed Standard RFC化されます。
WGの最初の活動項目であった要求条件を取りまとめたRequirementsドキュメントについては、内容が古く技術的な誤りもあるため破棄することにし、別途IDN WGの活動を総括する新しいドキュメントを作成することになりました。
IDN関連BOF
今回のIETFでは、IRNSS (Internet Resource Name Search Service)というインターネット上のリソース名を、ドメイン名(第1層)、ディレクトリ(第2層)、サーチ(第3層)を連携させて解決するフレームワークの検討を行うことについてBOFが開催され、検討を継続することが合意されました。IDN WGではスコープ外となった言語や地域に依存する処理は、今後はIRNSSの第2層および第3層へ継続して検討されることになります。
また、INTLOC (Internationalization and Localization of Internet Protocols)という、Internet Protocolの国際化を行う際のガイドラインや用語の定義などを提供する作業についてのBOFも開催され、こちらはWGではなくメーリングリストを中心として活動が行われることが合意されました。
今後のJPNICの取組み
今回のIETFの進捗を受けて、早ければ2002年春にもRFC化が見込まれます。この標準化に基づき、ブラウザやメーラ等の各種アプリケーションの開発が可能となり、いよいよ本格的な日本語ドメイン名利用環境が整うこととなります。私たちは、インターネット全体の整合性をとりつつ、ユーザのニーズに基づいた技術革新を推進していかなければなりません。特に技術的整合性は重要な点となります。JPNICはこのような立場から、IETFの標準を尊重し、また、標準化を積極的に推進することで、日本語ドメイン名利用環境の整備、普及を行っていきます。
5-5-2 その他のトピックス
DNSEXT (DNS EXTension: DNSの機能拡張) WG
今回のDNSEXT WGでは、DNSSECの機能拡張に関する発表が多く行われました。DNSSECは1999年にRFC 2535として標準化され、DNSに関するセキュリティの強化を行うためのしくみを提供しています。しかし、実際にDNSSECによる運用を実現するためには、親ゾーンのDNSサーバとの間の鍵の交換、親ゾーンにおける鍵の保守、大きなデータを持つゾーンにおけるデータファイル作成のためのオーバーヘッドといった、運用上問題となる考慮点が多くあり、普及に至っていません。
これらの問題を解決するため今回のIETFでは、Delegation Signer (DS)という新しいリソースレコードを定義し、それを利用して親が子の鍵を署名することでゾーンの委譲と鍵更新を簡略化するための提案※1や、巨大なゾーンにおいて徐々にDNSSECを展開していくためのしくみを提供するOpt INという仕組みの提案※2などが行われました。
また、DNSEXT WGの終了後、NAI Labs.のEd Lewis氏の呼びかけで、DNSSECに興味を持つ技術者が集まって、DNSSEC Interest Group meetingが開催されました。これには約30名ほどが出席し、自己紹介と簡単な現状の情報共有が行われました。
DNSOP (DNS OPeration: DNSのオペレーション) WG
今回のDNSOP WGでは、ルートサーバおよびCOM/ORG/NET TLDのDNS サーバを管理運用しているオペレータから、これらのDNSサーバの状況を監視した結果、該当するDNS サーバに対し多くの「再問い合わせ」(同内容の問い合わせが短時間の間に繰り返し発信されること)が観測されていることが報告され、その原因の考察および再問い合わせを減少させるためにとるべき方策について報告されました※3。
また、IPv6が今後普及するにあたり、IPv6環境におけるDNSのオペレーションに関する要求事項をまとめた提案※4や、IPv6への移行にあたりDNSの階層を移行する際に予想される問題点をまとめた提案※5が行われました。
DNSMEAS (DNS MEASurement: DNSに関する計測) BOF
今回のIETFではIRTF (Internet Research Task Force)の主催により、DNSに関する計測に焦点を当てたBOFが開催されました。このBOFでは、root/TLDserver、あるいは組織内のDNSキャッシュサーバ等に対する各種の計測結果をもとに、DNSトラフィックの解析やDNSの負荷に対する考察、DNSキャッシュの有効性等についての議論が行われました。
今後インターネットの利用がさらに普及するにあたり、DNSサービスの設計や、ネットワーク上におけるDNSサーバの配置設計等を行う場合、DNSに関する計測や考察は今後重要となってくると思われます。
DMCA (Digital Millennium Copyright Act)の巻き起こす問題
IDRM-RG (Internet Digital Rights Management Research Group)で、DMCAのもたらす問題について議論が起こっていました。IDRMは、IETFではなくIRTF (Internet Research Task Force)に設けられたリサーチ・グループで、2001年春に設立されました。設立以来毎回IETFの場で会議を開いています。インターネットでやりとりされるディジタル・コンテンツの著作権管理技術について議論するのが目的です。
DMCAは、1998年10月28日に米国で施行された法律で、デジタル化された情報の著作権保護やその取り扱いを規定しているものです。
その中に、著作権保護に関連する技術の弱点を公表するような行為を禁止する項目があり、それが著作権管理技術の規格化の議論にとって致命的な効果がある、という問題です。規格化議論のなかでは当然、いくつかの技術の得失について比較を行う必要があります。その過程では、ある技術の弱点について明らかにするとことも出てくるでしょうが、それはDMCAに違反する行為となり、訴訟されてしまう可能性があるというわけです。公表どころか、こういった研究を行う行為自体も訴訟の対象となるのではないかという意見も出ていました。
DMCAは研究者や規格検討グループに対してだけでなく、ISPに対しても強力な効果を持ちます。著作権保護技術に対抗する技術や、弱点を公表するようなコンテンツがweb等に掲載された場合、それを削除する義務を課しているからです。
DMCAのように対象範囲の広い法律は今のところ米国だけにしかありません。そのため、著作権管理技術や、さらにはその基礎となる暗号技術の研究や規格化議論は米国で行えなくなり、ヨーロッパ等を基盤とするような組織へといっせいに逃げてゆくことになるかもしれません。また、DMCAを、言論の自由を侵す、憲法違反の法律であるとした訴訟も起きているようです。
1998年施行の法律なのですが、その効果は今になってじわじわと実感されつつあるようです。この行方について注目しておく必要があるでしょう。
※1http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-dnsext-delegation-signer-04.txt
※2http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-dnsext-dnssec-opt-in-01.txt
※3http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-dnsop-bad-dns-res-00.txt
※4http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-ngtrans-dns-ops-req-03.txt
※5http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ihren-dnsop-v6-name-space-fragment-00.txt