ニュースレターNo.21/2002年7月発行
巻頭言:地域の連携
JPNIC理事 竹村 純
地域IXの活動は、域内の通信を域内で終端し、経路の最適化を図る事を主な目的として技術的な要素を強く持った形で展開されてきました。今まで地方では、資金の不足、技術者の圧倒的な不足、またインターネットに対する認識の低さなどから、必ずしも順調な発展と遂げてきたとはいえませんでした。経路の最適化といっても、ローカルコンテンツに乏しく、コンテンツの多くが域外からのものでした。また大手ISPが地方に進出するにつれ、地域IXの役割、メリットが見えにくくなっていたことも十分活発な活動を展開できなかった理由にあげられると思います。地域IXの活動は、そのほとんどが大学など研究者を中心にボランタリーに展開されてきました。地方の通信事業者は地域IXに必ずしも存在意義を認めず、学術研究的なものと捉え、「お付き合い」程度にしか考えていなかったといっても過言ではないと思います。
しかし、インターネットの急速な普及、電子政府構想の登場などによって状況は大きく変わってきました。また、技術の急速な進歩によりインターネット本来の姿である高速常時接続型の接続が、安価に手に入れられるようになってきました。このため、従来の学術研究的要素の強かった地域IXの活動が、インフラ整備という観点から、行政組織、産業界からの注目を浴びるようになっています。
また一方で、インターネット普及率の増加、コンテンツの大容量化により、トラフィックが過度に集中するという問題も生じてきました。そもそもインターネットは中央集権的な体制から脱却し、分散環境を実現するものとして期待されていました。しかしご承知のように現在のインターネットはツリー状のトポロジーであり、IXにトラフィックが過度に集中すると大容量通信の障害となってしまいます。高速常時接続のより一層の普及と共に、ネットワークの構造をツリー状からメッシュ状に変えていかなければならないでしょう。このような観点からも地域IXの動きは注目されつつあり、各地で情報基盤の整備が行われつつあります。またこれらが従来の地域IXの動きと大きく異なる点は、学術研究的な要素が少なく、地方自治体の積極的な関与、情報基盤の民間開放、商用に耐え得るネットワークの構築を目指していると言う点にあります。
地域IXの活動が新たな局面を迎えるようになっても、技術者の不足、設備投資等の資金的な問題が解決した訳ではありません。今までは問題にならなかった新たな問題も発生してきています。東京一極集中型のトラフィック交換による大容量通信の障害を避けるために分散化を図る事になるのですが、分散化が進めば進むほど、経路が複雑化します。この複雑化した経路を、効率良く合理的に管理運用する必要が生じてくるでしょう。
今まで、技術者レベルでの横の連携はかなり密接に行われてきましたが、都道府県レベルでの情報基盤の整備、地域IXの実用化のニーズに伴い、様々なレベルでの連携が必要となってきました。地域IX同士を相互に接続し、経路の最適化、効率化を図る技術はすでに開発されつつあり、ほぼ実用の域に達しています。しかし、合理的な運用に関する検討は未だになされていません。地方での情報基盤の整備をより以上に進め快適な通信基盤を作り上げる為には、地方の連携が必要不可欠であると思われます。
インターネットはもともと、使う人達が自ら作り上げてきたものです。初めに何らかの機構、管理組織があったわけではありません。一人一人の個人、そして大小を問わず個々の組織が連携し、ネットワークを作り上げてきました。そこから出来た枠組みの一つがJPNICであったと思っています。地域の連携を図り、合理的な管理運用を検討する場としてJPNICは、最適な枠組みではないかと思います。
プロフィール●たけむらじゅん 1949年東京に生まれる。1971年法政大学中退。 株式会社クリアパルス、安藤電子を経てシステムハウスCATを設立。 現在、地方自治体の情報収集のアドバイス、市町村県域の情報基盤の設計支援などを行っている。 |