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ニュースレターNo.24/2003年7月発行

APNIC便り

アジア太平洋地域でIPアドレスの割り当て業務を行っている「APNIC(Asia Pacific Network Information Centre)」。この組織に、JPNIC IP事業部の穂坂俊之が派遣され、5月5日から6月27日の約2ヶ月にわたり、ホストマスタートレーニングを受けました。現地オーストラリアより隔週で送られてきたレポートをまとめてお届けします。

◆その1(2003年5月13日)

私、穂坂俊之は、2003年5月5日から6月27日の日程で、APNICに派遣されています。今回の派遣の目的は、APNICのホストマスター(審議担当者)としてのトレーニングを受け、JPNICの上位レジストリであるAPNICがどういった判断基準で各種審議を行っているのかを、ホストマスター達と一緒に仕事をすることで実地に体験し、JPNIC-APNIC間の相互理解を深めることにあります。

私の方からも積極的に日本のIPインフラの状況、IPサービスの動向など伝え、背景の共有化を図りたいと考えています。これはひいては審議の迅速化にもつながり、指定事業者の皆様にもその成果を還元できるものと信じます。

当地では5月6日より勤務を開始いたしました。APNICでは以前にもKRNICやTWNICの派遣者をスタッフをトレーニングを目的として受け入れてきましたが、JPNICからは今回が初めての受け入れとのことです。APNICのスタッフはアジア太平洋の幅広い地域の出身者で構成されており、日本人も2名勤務しています。

勤務開始してからまだ日が浅いこともあり、今までのところはAPNICの各部署のマネージャーから、オリエンテーションを受けている段階です。どのマネージャーも吸収欲旺盛で、日本の状況やJPNICのやり方について色々とヒアリングしてきますので、こちらも負けてられないという気にさせられます。

合間にホストマスターのトレーニングも始まっていますが、審議に必要なフォームや記入方法など、JPNICのものとは違いがあるため少々戸惑っています。審議の方法、判断基準などは来週から順次トレーニングがある予定ですので、本格的にはこれからといったところでしょうか。

今後も当地より逐次レポートさせていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

◆その2(2003年5月28日)

こちらで勤務を始めて、早3週間が経過しました。これまでに各部署からのオリエンテーションは終了し、本格的なホストマスターとしてのトレーニングが始まっています。

トレーニングは審議種別毎に進んでおり、現在までにセカンドオピニオン申請(JPNICでいう割り当て審議申請にあたる)、AS番号申請、初期割り振り申請のトレーニングを受けました。具体的なトレーニング内容は、次の様になっています。

まずはRFC、APNIC文書等関連ドキュメントの確認を行った後、内部マニュアルに沿って審議プロセスの確認、およびAPNICで利用するツールの使い方の実習を行います。次に、過去の審議をいくつか例にとり、APNICのホストマスターと議論し、審議基準の確認を行います。その後何回か実際の審議申請に対し、承認前に確認すべき事項を列挙し、APNICホストマスターにチェックしてもらう、という作業を何回か行った後、実際の審議を担当します。現在では、セカンドオピニオン申請、AS番号申請、初期割り振り申請を実際に審議しています。

APNIC文書等の関連ドキュメントについては、JPNICのアドレス管理ポリシーに反映されていたりしますので、それほど時間を費やすこともないのですが、各種申請書のフォーム、会員関連の情報の格納場所、審議時に使用するツール等が全く異なるため、当初これに慣れるのに時間を要しました。

ただ、マニュアルなどのドキュメント類は非常によく整備されており、スタッフ用のイントラネットも非常に使い勝手良く作られています。この点はJPNICも見習うべきかもしれません。

こちらでは、毎週水曜日にホストマスターが集まってミーティングを行っています。このミーティングでは、ホストマスターが判断に迷った案件につき、他ホストマスターの意見を聞いたり、議論をしたりして重要案件の共有化を図っています。

先日、このミーティングで私から三つほどJPNICの審議例を紹介し、APNICのホストマスターならどう審議を進めるか、ケーススタディをしてもらいました。マニュアルではカバーできない審議判断基準を確認することができ、非常に有益な時間となりました。今後も同様の試みを続けていくつもりです。

こちらの勤務形態について少し触れますが、APNICのホストマスターは、アジア・太平洋地域の時差に対応するため、遅番勤務という形態があります。通常勤務が9:00~17:30なのに対して、遅番勤務は10:30~19:00が勤務時間となっています。

APNICのスタッフに限らないことだと思いますが、こちらの人は夕方にはきっちり家路につきます。ふと気が付くと、オフィスに残っているのは私と遅番のホストマスターだけということがしばしばです。それで仕事がきっちり回っていますから、大したものです。

ところで、こちらのオフィスにはビリヤード台があります。オーストラリアでは8ボールというルールがポピュラーで、昼食時には8ボールに興じるAPNICスタッフの姿を見ることができます。私も時々チャレンジするのですが、今のところ旗色が非常に悪い状況です。こちらの方もトレーニングが必要かもしれません。

◆その3(2003年6月11日)

こちらでの勤務もあと2週間余りとなりました。前回からトレーニングはさらに進行しており、追加アドレス割り振り申請、各種ポータブルアドレス割り当て申請(IX用、マルチホーム用、クリティカルインフラストラクチャー用)、逆引きDNS関連申請、SPAM苦情受付、ERX※1関連申請の処理については、机上でのトレーニングを終え、審議を行っています。

各種ポータブルアドレスの割り当てのメニューは、現在のところJPNICでは取り扱っておらず、APNICが提供する当該メニューを紹介するにとどまっています。どういった形でJPNICがこのポータブルアドレスの割り当てに関わっていけるか、今回のトレーニング内容を生かしつつ、検討したいと思います。

上で述べた事項の他にも、会員の退会処理、APNICとNIR間の会員移管処理についてもトレーニングを受けましたが、これらは実際に処理をする機会が今の所ないため、過去の処理がどのようになされたのかを中心に処理内容を確認しています。

今週から来週にかけ、IPv6関連事項についてトレーニングを受けますが、これが終わると概ねトレーニング自体は終了となります。その後は、できるだけ多くの案件についてホストマスターとの議論を行い、審議の基準や、審議処理方法の確認をしていきたいと思っています。

先日、JPNICが取り次ぎを行ったある申請がありましたが、その際APNIC内でどのような議論がされているかを現在進行形で触れることができました。議論には私も参加し、日本の状況、申請者の情報について補足を行いました。結果、ある事項についてJPNICに対し再度の確認を求めるという結論に落ち着きましたが、その結論の背景をJPNICに対し説明することができましたので、やり取りは比較的スムーズに進んでいきました。JPNICに戻っても、適宜このようなフォローをしていきたいと思っています。

ところで、APNICでは2ヶ月に1回全スタッフが会議室に集い、ランチパーティを行っています。調理は各部署が順番で担当しますので、担当する部署により、さまざまな料理を食べることができます。今回の担当は技術部でしたが、インド出身の方が調理を担当したため、インド料理中心のランチとなりました。菜食主義の方のための料理も用意されていたりして、今更ながら文化の多様性について再認識した次第です。

写真:ランチパーティー
ランチパーティの様子

今回は非常に美味しいランチを楽しむことができました。APNICのイントラネット上には、過去のランチパーティのレシピが公開されています。せっかくですので、これも日本に持ち帰りたいと思います。

◆その4(2003年6月26日)

こちらでの勤務もあと数日を残すのみとなりました。残っていたIPv6関連審議の机上トレーニングも終了しています。たまたま同時期にIPv6の申請が来ていましたので、実際の審議も実施することができました。現在は、今までのトレーニング事項のまとめ、および、今まで確認できなかった質問事項の整理と確認を順次行っています。勤務日が残り少ないので、審議の開始から終了まで比較的時間のかかる割り振り審議はもう行っていませんが、セカンドオピニオン申請、データベースの変更申請等は引き続き審議処理を行っています。

こちらで勤務を開始してから何件審議を行ったか今朝数えてみたのですが、66 件となっていました。APNICの他のホストマスターと比べるとやや少ない数字ではあるものの、どのような審議が行われているかを知るには十分な数をこなすことができたのではないかと思います。

こちらで実際の審議を担当して改めて感じたことは、「ポリシーとその運用は、技術の変化、状況の変化により変わっていくもの」だということです。

一例として、クライアントPCへグローバルアドレスを割り当てることの是非を挙げることができます。現在JPNICではクライアントPCへのグローバルアドレスの割り当て申請の際には、技術的必要性を明らかにしていただくようお願いをしています。この運用は、もとはといえばAPNICの審議方法と合わせたものでした。しかしながら、ADSL等の高速常時接続サービスの普及に伴い、オンラインゲームやIP電話サービス等のアプリケーションがより多くの人々に利用され始めている現状を見ると、PCにグローバルアドレスが必要なケースがより頻繁に見受けられるようになっています。

このような状況のもと、現在APNICではPCがインターネットに接続されることが明らかであり、かつ、ユーザーがNATを採用せず、あえてPCにグローバルアドレスを割り当てるという選択をする際は、その理由を問うことをしていません。これを受け、JPNICでもIP事業部内で話し合った結果、上記についてはAPNICの運用に合わせるという方向で修正することとしました。

IPv6の審議も、IPv4と違い節約がそれほど重視されていないことと、まだ普及途上の技術ということもあって、今のところはIPv4の審議と比べると、意図して簡便な審議を行っています。JPNICとしても、世の中の動向と、他レジストリの運用状況を注視しながら、その時点においての適切なポリシーの運用というものを常に意識していく必要があるということを、改めて認識しました。

また、APNICではホストマスターに対し「できるだけ会員とのメールのやり取りが少なくなるように工夫すること」という指導がなされています。JPNICでも同様に、審議時の指定事業者の皆様とのやり取りが最小限で済むよう、必要な質問は極力まとめて行うなどの工夫をする等、今までも継続的に努力しておりましたが、今後さらに努力を重ねていく所存です。

写真:APNICでの執務風景
APNICでの執務風景。右は筆者の穂坂

審議例、審議基準などの審議に関する情報をできるだけ見やすい形で指定事業者の皆様に事前情報として提供できれば、それも審議時のやり取りの回数を減らす一手段となり得るはずですので、今後はそのような情報提供にも工夫を凝らしていきたいと思います。

今回は2ヶ月間にわたりAPNICでのトレーニングを受けましたが、この一回きりで終わらせることなく、今後ともAPNICと継続的にコミュニケーションをとり、相互に有益となる情報交換を行っていきたいと思います。このような継続的なコミュニケーションをとれる関係を維持することは、JPNICの指定事業者の皆様の声を上位レジストリに届けるという意味でも重要な役割だと考えています。JPNIC IP事業部は、これからも指定事業者の皆様と一緒に円滑なインターネット資源管理を進めていきたいと思いますので、今後の活動にご期待いただくとともに一層のご協力をお願いしたいと思います。

最後となりましたが、貴重な経験の場をご提供いただいたAPNIC関係者の方に心より感謝申し上げます。

(JPNIC IP事業部 穂坂俊之)


※1 ERX:Early Registration Transfer

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