ニュースレターNo.26/2004年3月発行
Internet Week 2003
1. Internet Week 2003 全体概要
冬の風物詩になりつつあります(?)Internet Week、今回は2003年12月2日(火)から5日(金)までの4日間、パシフィコ横浜で開催しました。6,000名を超す多くの方々にご参加いただきましてありがとうございました。今回のInternet Weekはいかがでしたでしょうか。
2003年は34プログラムという過去最多のチュートリアル開催、展示コーナーの設置、書籍販売の実施、スポンサーによるソリューションセミナーのオープンスペース開催など、主催としてはチャレンジの年でもありました。特にソリューションセミナー、展示、書籍、アクセスコーナーを設置した会場3F海側のスペースは、休み時間ともなると人でごったがえし、非常に盛況であったのが印象的でした。Internet Weekのミッションの一つである「場」の提供が実現できたといえるのではないでしょうか。
また、チュートリアルに関していえば、「そう、そういう質問を期待していたんだ」というような質問が会場から寄せられてよかった、というような講師の声も例年以上にお聞きしており、開催・講演側としては予想以上の反応に満足しています。参加された皆さまのお声は、現在やや緊張しながら集計している最中です。
今回、共にInternet Weekを支えてきたコミュニティに大きな動きがありました。今まで日本のインターネットを根付かせ、引っ張ってきた日本インターネット技術計画委員会(JEPG/IP)が会期中に解散を発表したことです。JEPG/IPが主催していたIP Meetingを軸に、1997年から複合イベントとしてInternet Weekが誕生したことを考えると感無量であり、インターネットの一時代の終焉を感じる出来事でした。IP MeetingはJPNICが引き継いで今後も開催していきます。
こうしたボランタリのコミュニティに支えられてきたInternet Weekの精神や魅力を維持しつつ、来年はさらに磨きをかけたイベントにせねばと気をひきしめております。
さて、次回のInternet Week 2004は2004年11月29日(月)~12月3日(金)にかけて同じくパシフィコ横浜で開催予定です。2004年2月にみなとみらい線が開通したので、アクセスは今までより大幅に向上しました。ぜひお誘い合わせの上、ご参加くださいますよう、よろしくお願いいたします。また来年も横浜でお会いいたしましょう!
(JPNIC インターネット推進部 岡部ちぐさ)
参照URL
- チュートリアルプロシーディングス
- http://www.nic.ad.jp/ja/materials/iw/2003/proceedings/
- 参加者アンケート集計結果
- http://www.nic.ad.jp/iw2003/enquete/question.htm
- Internet Week 2003 当日の模様
- http://internetweek.jp/01/photo.asp
2. メインプログラム報告
DNS DAY
日時:2003年12月2日(火) 9:30~17:00
参加者数:123名
2002年に引き続きInternet Week 2003のメインプログラムの一つとしてDNS DAYを開催しました。今年は、「DNS運用レポート」「DNSの実装とその比較」「DNSセキュリティ」の3部構成としました。
【午前の部】
1)DNS運用レポート
- Root DNS update 加藤朗氏(WIDE Project/東京大学)
- JP DNS update 白井出氏((株)日本レジストリサービス(JPRS))
- DNSQC-TF report(1) 小島育夫(JPNIC)
- DNSQC-TF report(2) 藤原和典氏(JPRS)
- ENUMトライアル 米谷嘉朗氏(JPRS)
【午後の部】
2)DNSの実装とその比較
- BIND/djbdns/NSD 森下泰宏氏(JPRS)
- Nominum ANS/CNS 田村俊明氏(住商エレクトロニクス(株))
- Cisco Network Registrar(CNR) 山崎年正氏(シスコシステムズ(株))
3)DNSセキュリティ
- DNSサーバ・セキュリティ 神明達哉氏((株)東芝)
- DNSの安全な設定 民田雅人氏(JPRS)
DNSに関する各種の運用レポートに引き続き、「DNSの実装とその比較」では数年前までは唯一の実装であったBINDに加え、最近利用するサイトが増えてきているdjbdnsや、ルートネームサーバの一つで運用が行われているNSDとの実装比較について解説いただき、商用製品の実装についても紹介いただきました。
「DNSセキュリティ」では、DNSを管理・運用するものにとって必要不可欠なセキュリティに関する事項を詳しく解説いただきました。
アンケートの結果は大変好評で今後もぜひ継続してほしいとのご意見を多数いただきました。プレゼンテーションをお引き受けいただいた講師の方々、活発な議論・意見交換により本会議を盛り上げてくださった全ての参加者の方々に、この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。ご協力ありがとうございました。来年もぜひご参加いただきますようよろしくお願いいたします。
(JPNIC 技術部 小島育夫)
ドメイン名に関する最新動向
日時:2003年12月3日(水) 9:30~16:30
参加者数:104名
このプログラムではccTLD(country code Top Level Domain:国コードトップレベルドメイン)、IDN(Internationalized Domain Name:国際化ドメイン名)、Whois、ICANN、DRP(Domain Name Dispute Resolution Policy:ドメイン名紛争処理方針)、gTLD(generic Top Level Domain:分野別トップレベルドメイン)等ドメイン名についてさまざまな角度からこの1年の動向と最新情報の提供を行いました。
ccTLDについて
JPNICの是枝祐よりccTLDの概要と動向について説明がありました。ccTLDの登録数、ICANNとccTLDの関係、ICANNとccTLDレジストリとの契約の進捗状況、またkids.usドメイン名など最新のトピックについてプレゼンテーションが行われました。JPドメイン名に関してはJPRSの長谷川早苗氏より、利便性向上を図るための登録規則改訂、安定性向上を図るためのJP DNSの分散稼動の開始等の諸施策についての説明がありました。また、登録数が50万件を超えたJPドメイン名の現状やRFCに準拠した日本語.JPサービスの開始等について述べられました。
IDNについて
JPRSの米谷嘉朗氏より日本語.JPにおける動向、RFCをはじめとするIDNを支える技術仕様について、また文字の混用から生ずるため技術だけでは解決できない諸問題について、その解決策としてのIDN-admin※1 Guidelineによる対応が挙げられました。諸外国のccTLDにおいてもIDNのサービスを開始、もしくは開始予定としているところが増えてきていることに触れ、IDNの本格的な普及開始を象徴する1年であった旨の説明がありました。
Whoisについて
JPRSの草場明子氏より、まずWhoisの機能について説明がありました。その後、Whoisに対するコミュニティの要求の変遷について触れ、Whoisの情報の正確性、プライバシー保護と情報公開とのバランスという視点からとられてきた、ここ1年のWhoisに関する施策が、.JP、gTLD、全TLDに分けて説明されました。
ICANNについて
JPNICの入交尚子より、まずICANNの概要、役割、組織構成について説明があった後、2年間に渡り実施されてきたICANN改革に関して述べられ、移行期を経て新体制へ移ったこの1年の動きについて説明がありました。また、ポリシー策定活動の動きとして、gTLDにおける統一手続き手段が制定された例として、レジストラ間のドメイン名移転やレジストラによるドメイン名の削除手順が挙げられました。
DRPについて
JPNICの丸山直昌理事よりICANNでのUDRP関連の動きとしてUDRP ReviewとSecond WIPO Internet Domain Name Process(WIPO II)ついての説明がありました。また、JP-DRPに関連する動きとしては先般、政府の司法制度改革の一環として発表のあったADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外の紛争解決手続)についてJPNICより意見書を提出した旨の発表がありました。
gTLDについて
(株)国際調達情報(PSI-Japan)の梅津美恵子氏よりgTLDの概要やトピックス、各gTLDの動向などについてプレゼンテーションがありました。その後、来日したgTLDレジストリ2社による動向の発表がありました。
まず今回が2回目の参加となるAfilias社(.info)のRoland LaPlante氏とDesiree Miloshevic氏よりプレゼンテーションがあり、.infoをはじめとする新gTLDはこの1年順調な増加を示しており今後も登録数の増加が望めること、ドイツ語を用いたIDNのサービスを開始すること等の紹介がありました。続いて、今回初参加したNeuLevel社(.biz)のFernando Espana氏よりNeulevel社の概要、事業説明の後、.bizではIDNに関して慎重に取組む方針であること等が語られました。
(JPNIC ドメイン名事業部 二瓶竜史)
第5回JPNICオープンポリシーミーティング
日時:2003年12月5日(金) 9:30~14:15
参加人数:105名
Internet Week 2003メインプログラムの一つとして、第5回JPNICオープンポリシーミーティング(以下、JPOPM)を開催しました。今回は2003年7月の単独開催の時とはまた違った方々からご意見をいただくことができ、大変よかったと思っています。また、一部の議題ではマイクの前で数名待つ方が見受けられるほど活発な議論が行われ、主催者としては喜ばしい状況として受け止めています。
また、これまではAPNIC※2オープンポリシーミーティング(以下、APOPM)での決定事項を中心にご紹介してきましたが、このミーティングでは、事前に次回のAPOPMで予定されている、APNICからの提案内容の一部をご紹介することができました。その結果、JPNICからの提案事項に限らず、その他の提案についても、決定前にJPコミュニティの意見をお伺いすることが可能となったことが、これまでとの大きな違いです。そして、今後はJPNIC単体としてではなく、JPコミュニティがコンセンサスの形成へ能動的に参加できることにつなげていきたいと考えています。
今回行われた7点のプレゼンテーションの内容で、大きな議論を呼んだテーマは、以下の3点でした。
- Whoisでのネットワーク情報の公開任意化
- IPv4初回割り振りサイズの変更
- IPv4における特殊用途PI割り当てサービスの提供について
このうち、「Whoisでのネットワーク情報の公開任意化について」の内容を簡単にご紹介いたします。近年の個人ユーザーへの固定IPアドレスの割り当ての増加に伴い、現在は個人ユーザーへの割り当てであってもネットワーク情報(IPアドレスの割り当て先の情報。住所、連絡先に関する情報を含む)の登録が必要とされるケースが決して少なくありません。そこで、個人情報保護の観点から、2003年8月のAPOPMでネットワーク情報のWhoisデータベースでの公開を任意化することが決定しました。
しかし、ネットワーク情報のすべての項目が個人のプライバシーに関わるわけではなく、また、ネットワーク情報そのものを非公開とした場合、ネットワーク情報の登録の有無さえ確認できなくなるため、Whoisの利便性が低下するとJPNICは考えています。そこでJPNICは個人のプライバシーに関わる項目は非公開とし、ネットワーク情報そのものは公開するという方法をご紹介しました。
この中で、個人への割り当ての場合、運用責任者をISPで代行可能とした案については、第三者であるISPがユーザーのネットワークについて判断を行うことは望ましくない等、何点か懸念を示すご意見をいただきました。最終的にはISPによる運用責任者の代行はあくまで任意であり、個人ユーザーの場合に限定するということをご理解いただいたうえで実装、という結論に落ち着きました。
この意見交換を通して、本来の運用責任者の役割を再確認することができ、私は非常に有意義な意見交換であったと感じました。参加者の皆様にとっても有益な議論となったのであれば幸いです。
また、今回のミーティングではAPNICからの提案事項についてのご意見も多数いただきました。これらのミーティング当日のご意見はもちろんのこと、ip-usersのメーリングリストへのご意見も、APNICコミュニティへ紹介していく予定です。皆様からのコメントをお待ちしています。
- IP-USERSメーリングリスト
- http://www.nic.ad.jp/ja/profile/ml.html#ip
現状のJPOPMはまだまだ発展途上ではありますが、開催当初は質疑応答の場面でもJPNIC関係者による発言の方が多かったことを振り返ると、少しずつでもコミュニティの皆様からご意見をいただけるかたちに近づいているのではないかと思いました。このように定期開催を重ねていきながら、今後はミーティングでのプレゼンテーションもコミュニティの皆様からいただけるようにしていきたいと考えています。次回のJPNICオープンポリシーミーティングは2004年夏に開催を予定しておりますので、今後もよろしくお願いいたします。
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)
参照URL
- 当日のプレゼンテーション資料
- http://www.nic.ad.jp/ja/materials/ip/20031205/
IP Meeting
日時:2003年12月4日(木) 9:30~17:30
参加人数:320名
IP Meetingは、JEPG/IP(Japanese Engineering & Planning Group/IP)によって1990年に第1回が開催され、それ以来毎年1回続いている会議です。その趣旨は、「インターネットの開発・構築・運営に関わる人々が一堂に集まって知識・課題を共有し、インターネットの発展のための議論を行う」というものです。このIP Meetingが母体となって、1997年からさまざまなインターネット関連団体も参加して、Internet Weekという形で開催されるようになり、今日に至っています。
今回IP Meetingとしては14回目を数えますが、JEPG/IPは今回をもってその役割を終えたとして解散ということになりました。しかし、IP Meetingは今後もJPNICが主催して、Internet Week全体のプレナリー的会議として継続されます。そのため、今回のIP Meetingも、JEPG/IPとJPNICの共催という形で運営されました。
前置きはこれくらいにして、IP Meeting 2003の内容をご紹介します。最初に基調講演として、現JEPG/IP代表である筆者が「日本のインターネットの発展とJEPG/IPの10年」と題して、JEPG/IPの活動とIP Meetingの歴史について発表を行いました。そして「インターネットに関わるさまざまなグループ ~オペレーター、研究・開発、製品・サービス提供者、リソース管理者、セキュリティ担当者~ が、お互いに議論する場としてのIP Meetingの重要性は、ユビキタス時代を迎えて一層高まっており、今後も維持・発展させていかなければいけない」と締めくくりました。
次に、恒例の報告として、JPNICとJPRSから、国際関連とIPアドレス関連の報告が行われました。国際関連では、JPRS 大橋由美氏から、その後の世界情報サミットでもインターネット利用先進国とこれからの国の間での鋭い対立点となった、ICANNガバナンスをめぐる問題について報告が行われました。
引き続き行われた、JANOG 吉田友哉氏からのルーティング・トポロジーに関する報告では、さまざまなトラフィック・ルーティングに関する具体的なデータが示されました。継続的にこのような情報を収集・分析・公開していくアクティビティの重要性について考えさせられる内容でした。
午前の部の最後には、JPNIC 二瓶竜史氏から、日本語ドメイン名やENUMなどの最近のドメイン名をめぐる動向についての説明があり、JPCERT/CCの山賀正人氏からは、この1年のセキュリティの動向と、JPCERT/CCの組織変更・定点観測などの活動の展開について発表が行われました。
午後の部では、最初にJPNIC 小島育夫氏から、DNSをめぐる最近の動き、JPNICとJPRSがWIDEプロジェクトと協力して行っている、DNS設定改善の取り組みやDNS運用健全化活動などについて紹介がありました。
次に、かつてのIP Meetingではよく取り上げされていた教育(K12※3)と医療へのインターネットの利用がブロードバンド時代にどう変わってきているかについて、教育が広島県吉田町立郷野小学校 玉井基宏氏・京田辺市教育委員会 中島唯介氏から、医療が東京医科歯科大学 田中博氏から、それぞれ発表されました。どちらの分野でも、ブロードバンドが普通の環境となった今、双方向の動画系のニーズが高く、しかも臨場感や高精細度の要求から、さらなる高速ネットワークへのニーズがあることが語られました。会場からストリーミング関係者からの質問もあり、多くの参加者にとって興味深い内容だったのではないでしょうか。
最後のプログラムとして、奈良先端科学技術大学院大学 山口英氏を司会者として、慶應義塾大学 中村修氏、独立行政法人産業技術総合研究所 高木浩光氏、JPNIC/JPRS 佐野晋氏という豪華なメンバーで、「インターネットにおけるIDとトレーサビリティ」というテーマでパネルディスカッションが行われました。山口氏の巧みな仕切りもあって、会場からも多くの質問が寄せられ、短い時間で議論しつくせる話題ではないものの、考えさせられる議論が闘わされました。
最後に、JEPG/IPの初代代表である村井純氏より、「インターネットのこれからの10年」という題で、IP Meeting/Internet Week、そしてその参加者の皆さまがこれまで果たしてきた役割、またこれから果すべき役割について、およびその重要性が力強く語られ、IP Meeting 2003は閉幕しました。
(元JEPG/IP代表 白橋明弘)
- ※1 IDN-admin
- 国際化ドメイン名(IDN)の運用において、複数のドメイン名を等価なものとして扱えるようにするために、漢字圏を中心とした国や地域から提案されている管理方法
- ※2 APNIC
- Asia Pacific Network Information Centre アジア太平洋地域で資源管理業務を行っている地域インターネットレジストリ
- ※3 K12
- 概ね18才以下の幼児・児童・生徒を対象としている小中高校などの教育機関のこと。米国での表現「幼稚園(Kindergarden)から高校3年生(12th Grade)まで」に由来