ニュースレターNo.28/2004年11月発行
巻頭言:地方のインターネットと地域ISP
JPNIC理事/福田 晃
地方における地域ISP(Internet Service Provider)の役割が、最近益々重要になってます。地域でのお祭りや各種イベントへの協力、中小企業へのインターネットの活用支援、各種教育等々です。大手ISPに対する、地域ISPの一番の差別化要素は「Face to Face」です。地元に密着した情報提供の役割を担ってます。
数年前、全国の都道府県や市町村が中心となって、IT普及のための教育活動が盛んに行われました。地方自治体主導のパソコン教室が全国に出現し、多額の補助金が全国にまかれました。地方のIT推進は地方自治体(主に県の情報政策課)が中心になるように見えました。
しかし、現在の関心事は市町村の合併問題です。都道府県の情報政策課も町村合併の情報化支援に主軸が移り、財源難もともない、官主導のIT普及は停滞してます。このような環境下で、民間主導の地域ISPにおける役割りは益々重要になってます。
4~5年前、1つの都道府県に独立系の地域ISPが20社~40社位ありました。現在は、どの地域も(個人経営のISPを除けば)2~3社に絞られており、地域における地域ISPの寡占化が進んでます。
この背景には、(田舎のスーパーでもやっている)某社のモデムの無料配付や電話勧誘などの営業活動の影響があります。特に経営体質の弱い中小の地域ISPが大きな影響を受け大半が淘汰されましたが、現在生き残っている比較的大きな地域ISPはとても元気です。
この流れはどの業界も同じで、銀行やスーパーマーケットといった業界でも、全国区の大手事業者と地方の中小事業者が共存しています。特徴の無い中堅事業者や弱小事業者が消えるのも、業界発展の一過程のような気がしてます。私の個人的感想としては、インターネット業界も成長期から安定期に入り、社会的にも他の業界に認知され、成熟してきたような印象を持ってます。
1999年12月に、大手ISP、キャリア系ISP、ベンチャー系ISP、地域系ISP、これに幾つかのASP、IDCが集まって、日本インターネットプロバイダー協会(会長:渡辺武経。略称JAIPA)ができました。翌年12月には社団法人となりました。私は現在、地域系担当の副会長を務めてます。
この前身として、地域系では日本地域プロバイダー協会(略称JLAPA)があり、全国の地域ISPが80社ほど加盟してました。発展的統合後も、JAIPAの中に地域ISP部会を作り、活発な活動を続けてます。
また、年に3~4回、全国を廻りながら「地域ISPの集い」を行ってます。この5年間で18回を数え、昨年から今年にかけても仙台、静岡、沖縄、大阪、熊本、秋田、鹿児島、大垣で行ってきました。
2002年9月、全国の比較的大きな地域ISPが20社集まって、地域IXを構築し運営する為のNPO法人「地域間高速ネットワーク機構」を作りました。これは内閣府のNPO法人で、全国の都道府県に支店を作る事ができ、個別に活動できます。現在30社程が加盟し、私が理事長を務めてます。毎月全国から渋谷に集まり議論してますが、出席率は非常に高いです。
このNPO法人発足のきっかけは、当時(2000年頃)ブロードバンド普及にともなうラスト・ワンマイルの高速化に対し、地域ISPが持っている東京までのバックボーン回線の脆弱性です。NPO法人が中心となり、キャリアとの回線の価格交渉や東京でのインターネット・トランジットの共同購入の折衝を行いました。
また、以前から地域ISPによるAS番号の取得やIPv4アドレス獲得、BGP設定の支援等々を行ってきました。NPO法人内には幾つものML(メーリングリスト)があり、現在も盛んに情報交換を行ってます。
NPO法人発足のきっかけとなった、バックボーン等のインフラ問題は、既に解決し、最近の課題は、東京と地方とのサービス(ソフト)に対する地域間格差です。
「IP電話やWeblogといったサービスに対し、地域ISPは東京の事業者と直接交渉が難しい」という問題です。これは関東近辺の者がNPO法人を代表して、東京の事業者と交渉し、MLや毎月の会議で報告して方針を決めてます。
最近の活動は、地域IXの構築、運営というよりも、協同組合的要素が大きくなってます。日本に地域IXが必要か否かという学問的議論があります。資本主義の世の中では、必要ならば残るし、不要ならば消えます。私の個人的意見ですが、日本における地域IXは、地方の弱者同士が協力しあって助け合う、精神的な繋がりのような気がしてます。
地方のインターネットを活性化させるために、地域ISPが果たすべき役割が幾つかあります。その一つが、地元に密着した、地方ならではの本格的ポータルサイトを構築することです。新聞社には全国紙と地方紙がありますが、インターネットもポータルサイトのYahooやgoo、infoseek等々を全国紙とすれば、地方紙としての地域ポータルサイトが求められているのです。
最近のWeblogの出現は、当初のlogとしての使い方より、Web作成、更新の簡単さが注目を浴びてます。今までWebに関心の無かった層に情報発信の機会が与えられ、無数のWebサイトが出現する事になります。地方のポータルサイトがこれらを細かく拾ってゆけば、NTTの電話帳以上の役割りを担うと思います。
地域ISPの果たす役割は、これからが本番と考えています。そのためにもJPNICと地域ISPとのコミュニケーションを密にすべく活動してゆきたいと思っています。
プロフィール●ふくだあきら 昭和28年/熊本県生まれ。昭和53年/中央大学理工学部卒業。平成7年/群馬インターネットの設立に参加。取締役に就任。平成9年/日本地域プロバイダー協会の設立に参加。代表理事に就任。平成11年/日本インターネットプロバイダー協会の設立に参加。地域系担当の副会長に就任。平成14年/地域IXのNPO法人「地域間高速ネットワーク機構」の設立に参加。理事長に就任 |