ニュースレターNo.28/2004年11月発行
第10回ICANN報告会レポート
2004年9月9日(木)、東京都千代田区の日本教育会館にて、JPNICと(財)インターネット協会の共催による第10回ICANN報告会が開催されました。
ICANNの動向を定期的に日本のインターネットコミュニティの皆様にお伝えする場として、2001年10月より「ICANN報告会」という名称で開催してきた会も今回で10回目を数えるに至り、JPNICが関わる継続イベントの一つとして定着してきた感があります。
以下では、報告会の内容を項目別にご紹介していきます。
ICANNクアラルンプール会議概要報告
JPNICの伊勢禎和より、2004年7月19日~23日にマレーシア・クアラルンプールにて開催されたICANN会議の概要報告を行いました。会議スケジュールの説明の後、今回の会議の特色として、世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society:WSIS)☆1と国際化ドメイン名(IDN)に関するワークショップがそれぞれ開催されたこと、そして、IPv6推進への貢献に対し、(株)日本レジストリサービス(JPRS)がICANNから表彰されたことが紹介されました。
続いて、主な理事会決議として、前年度予算から大幅増となった2004~2005年度ICANN予算案の承認、DNSワイルドカード☆2に関する勧告、IDNに関する諮問委員会の設置についての説明がありました。
◆ccTLDの動向
国コードドメイン名支持組織(ccNSO)☆3メンバであるJPRSの堀田博文氏より、クアラルンプールでのccNSO関連会合の様子と、ICANN会議後の2004年7月24日に行われたICANN/ITU-T共催によるccTLDワークショップの様子が報告されました。
2004年3月のローマ会合に続く2度目の開催となったccNSO会合は、まだccNSOに加入していないccTLD管理者も含めたオープンな会合として約70名の参加があったとのことです。今回の会合では、組織の枠組みに関する議論がかなり進展し、次回以降はccTLDとして何をなすべきかという本来の議論が主流となる見込みです。
また、ccNSOの役員による会合(ccNSO Council)では、ICANNとccTLD管理者間の関係構築においてccTLDスポンサ契約☆4に代わるものとしての「説明責任の枠組み」、ICANN予算、他のICANN構成組織との連携などが話し合われたとの報告がありました。
ccTLDに関する情報共有を目的として開催されたICANN/ITU-T ccTLDワークショップには、約100名が参加し、各ccTLDの運用モデルに関する調査分析報告や各種プレゼンテーションが行われたということです。堀田氏からは、「ccTLDには、その運用ポリシーや規模、政府との関係など、種々の位置付けのものが存在するため、ccTLDの管理のあり方を一様に決めることは正しくない、というのがワークショップ全体を通しての印象であった」とのコメントがありました。
◆IDNの動向
堀田氏からは続けて、IDNに関する報告も行われました。今回のクアラルンプール会議では、IDNに関するワークショップを1日かけて開催したほか、いくつかの会合でもIDNが話題になるなど、今までよりも特にIDNに力を入れていた印象があったようです。
今回のIDNワークショップでは、IDN先進国であるアジア各国の参加者からIDNの技術開発と運用の経験が紹介され、一方、ヨーロッパやアラブ各国の参加者からはIDNの必要性・重要性が訴えられるという、ややフェーズの違いが感じられる側面もあったものの、「全体的にIDN推進の重要性が今まで以上に声高に議論され、単なる勉強会という感じではなくなってきた」との報告がありました。
◆gTLDの動向
JPNIC理事の丸山直昌より、gTLDの動向報告を行いました。Whoisにおけるプライバシー問題、レジストラ変更手続、スポンサー付き新gTLD募集といった主なトピックについての進展状況が紹介された後、特に.netの次期レジストリ選定に関して、.netの歴史を遡っての詳細な解説がありました。
2004年6月に決定した次期レジストリ選定のための手順によると、2004年10月1日に後継レジストリの応募期間が始まり、意見募集期間および評価期間を経た後、2005年3月に新レジストリが決定する予定とのことです。
gTLDの動向に関しては、今回、分野別ドメイン名支持組織(GNSO)☆5のレジストラ部会会合に参加された(株)国際調達情報(PSI-Japan)の梅津美恵子氏からも、同部会における議論の様子などが報告されました。
◆ICANN政府諮問委員会(GAC)☆6報告
クアラルンプールでの政府諮問委員会(GAC)会合の内容が、総務省の三吉卓也氏より紹介されました。通常のGAC会合に先立って行われたGAC地域フォーラムでは、IDNとIPv6をテーマとしたワークショップをそれぞれ開催し、日本の関係者からの貢献もあり成功裏に終わったとの報告がありました。
また、今回のGAC会合には、現メンバ91ヶ国のうち48ヶ国が出席し、gTLD/ccTLD政策、GAC運営原則の改定、GACの将来体制とその財源についてなど、以前からの継続的課題も含めて議論がなされたということです。
◆インターネットガバナンスに関する議論の動向
ハイパーネットワーク社会研究所の会津泉氏からは、まず今回のクアラルンプール会議のアジェンダの一つとして開催された、WSISに関するワークショップの様子が紹介されました。今回のワークショップの目玉は、インターネットガバナンス・ワーキンググループ(Working Group on Internet Governance:WGIG)☆7の事務局長に就任したMarcus Kummer氏による報告であり、WGIGの構成や活動内容、スケジュールなどに関する構想が発表された模様です。
さらに、インターネットガバナンスに関する日本国内の動向として、2004年8月に設立されたインターネットガバナンス・タスクフォース(Internet Governance Task Force of Japan:IGTF)が紹介されました。
◆ICANN At-Large諮問委員会(ALAC)☆8報告
最後に、同じく会津氏より、At-Large諮問委員会(ALAC)の活動報告が行われました。現在ALACでは、地域別At-Large組織(RALO)☆9の設立に向けて、その構成組織となる現地At-Large組織(At-Large Structure:ALS)☆10の認定作業に取り組んでいるということです。
アジア地域では、すでに6つのALSが認定されたとのことですが、RALOの設立にあたっては、政治的問題や政府と民間との関係など、アジア独自の事情も考慮する必要があるため、アジアではアジアの実情に沿った形での組織作りを進めていくことが望ましいとのコメントがありました。
(JPNIC インターネット政策部 入交尚子)
参照URL
- ☆1 世界情報社会サミット(WSIS):
- 情報社会をテーマとした国連サミット
- ☆2 DNSワイルドカード:
- DNSの基本機能の一つ。リソースレコードを記述する際に、特殊なラベル「*」で始まる名前を用いることにより、そのゾーン内に存在しない名前すべてに一致させることができる機能のこと
- ☆3 国コードドメイン名支持組織(ccNSO):
- ICANNの基本構造となる三つの支持組織の一つであり、国コードトップレベルドメイン(Country Code Top Level Domain:ccTLD)に関するグローバルポリシーを策定し、ICANN理事会への勧告を行う役割を負う
- ☆4 ccTLDスポンサ契約:
- ICANNとccTLD管理に責任を負う組織(スポンサ組織)との間で締結される契約であり、両当事者の権限・責務が明確に規定されているとともに、政府等の役割についても言及されている
- ☆5 分野別ドメイン名支持組織(GNSO):
- ICANNの基本構造となる三つの支持組織の一つであり、分野別トップレベルドメイン(generic Top Level Domain:gTLD)に関するポリシーを策定し、ICANN理事会への勧告を行う役割を負う
- ☆6 ICANN政府諮問委員会(GAC):
- ICANNの諮問委員会の一つで、各国政府の代表などで構成され、各国政府の立場からICANNの理事会に対して助言を行う
- ☆7 インターネットガバナンス・ワーキンググループ(WGIG):
- 2003年12月にスイス・ジュネーブで開催された第1回目の世界情報社会サミット(WSIS)を受けて、国連事務総長の下に設置されることになったワーキンググループ
- ☆8 ICANN At-Large諮問委員会(ALAC):
- ICANNの諮問委員会の一つで、ICANNの活動の中で個人インターネットユーザー(At-Largeコミュニティ)の利益に関わる事項についての検討、および理事会への助言を行う
- ☆9 地域別At-Large組織(RALO):
- 個人インターネットユーザーがICANNプロセスに参加するための枠組み
- ☆10 現地At-Large組織(ALS):
- 世界5地域に設立されるAt-Large組織 RALO(Regional At-Large Organization)を構成する自主運営の現地At-Large組織