ニュースレターNo.29/2005年3月発行
JPNIC会員と語る/KDDI株式会社
技術革新にともなう新たな課題
~JPNICはルール作りに貢献を~
今回はKDDI株式会社を訪ねました。技術統轄本部ネットワーク計画部長の澤田和良氏に、KDDI株式会社が取り組まれている事業やそれを取り巻くインターネット環境における問題、JPNICに期待することなどをお伺いしました。
[対談者紹介]
JPNIC会員
KDDI株式会社 技術統轄本部技術企画本部ネットワーク計画部長◎澤田和良氏
JPNIC広報教育分野担当理事◎佐野晋
JPNIC事務局長◎成田伸一
最近の取り組み - 固定電話網のIP化 -
成田 最初に、現在KDDI様が主に取り組まれている事業についてお聞かせください。
澤田 まず、固定電話のIP化というのが、最近の取り組みの中での一番大きな柱になっています。IP技術を利用した固定電話サービスということを考えたとき、そのネットワークはインターネットの一部であることは確かです。しかし、QoS(Quality of Service)を考えると、既存のインターネットとは別のネットワークを作って品質制御しないと、通常の電話サービスとしては耐えられないというところがあります。
このため、弊社では通常のインターネットとは別なコンテンツデリバリーネットワーク(CDN)を作り、2003年10月から「光プラス」という名称で、FTTHのお客様向けにいわゆるトリプルプレイサービスと言いますか、「テレビ」と「ネット」と「電話」の統合サービスを提供してきました。
その実績をベースに、2005年2月1日から、普通の固定電話のお客様向けに「メタルプラス」というサービスを始めています。この「メタルプラス」のサービスでは、NTTの局舎内に設置したネットワークゲートウェイ装置で既存の固定電話をIP電話に変換し、このCDNに取り込みました。これにより、普通の固定電話のお客様にも、IP電話のメリットである低廉な電話をご提供できるようになりました。
また、この「メタルプラス」サービスの開始に合わせて、弊社では既存の固定電話網全体をIP化し、更にネットワークのコストダウンを図ることにしました。これは2007年度末までに完了させるよう準備を進めております。
佐野 インターネットはベストエフォート型で発展してきましたが、Managed Network(管理された網)に変わるということですね。
澤田 そうですね。ただし、本当に閉じられたネットワークかというとそうではないですね。「ネット」を提供している以上、どうしても通常のインターネットのトラフィックがこの中を通ったりしています。そこを、QoSで優先度をつけて処理し、通常のインターネットのトラフィックと、それ以外のテレビや電話のトラフィックに分けてコントロールするということです。
佐野 CDNでは、ストリーミングといったものをされているのですか?
澤田 これは2種類ありまして、一つは通常のテレビ放送でIPマルチキャスト技術を使っています。残念ながら、色々な制約があって通常の地上波は流せていませんが、CATVのコンテンツを中心に30チャンネル分を流しています。もう一つは、ビデオオンデマンド(VOD)です。これは、マルチキャストではなくシングルキャストで流しています。VODはキャッシュができますので、だんだんと需要が高まってくれば、キャッシュサーバを使ってネットワークを効率的に使うことができると考えています。
佐野 「放送と通信」の問題は、複雑ですが、技術とそれ以外の問題は区別して解決していかなければなりません。いろいろなサービスレベルが混在している中で、QoSでコントロールするのは意外と大変なのではないかと思います。
全く別の話になりますが、IP化するとコスト削減が可能という見方もありますが、こうしたネットワークは運用コストがかかり、それほど廉価なサービス提供が実現できないという見方もあります。この点についてはどう思われますか?
澤田 固定電話網をIP電話網に置き換えるとすると、機器コストは旧来型の電話交換機の半分くらいになります。また、オペレーションコストについても、既存のものと比べて高くはなっていないと思います。
また、KDDIの場合は固定網と移動体と両方もっています。移動体のIP化が進めば、移動体と固定網で別々だったオペレーションを一つにまとめることができ、将来的にオペレーションコストを下げることが出きるものと考えています。
固定通信と移動体通信の融合
佐野 普通の携帯電話にIPが使えるかということは、まだ難しそうではありますが、ホットスポットみたいなものが使えるということはありますよね。
澤田 いわゆるFMC(Fixed Mobile Convergence =固定通信と移動体通信を融合したサービスのこと)が今年あたりから広まっていくかもしれないと思っています。
佐野 そう考えると、今までは固定網と移動体は別々にオペレーションしていても、今後、同じ会社だからこそできるサービスも出てくるのではないでしょうか?
澤田 そうですね。
佐野 そういった意味で考えると、今は、ビジネス的な大変さと技術的な楽しさの両面がある時期と言えるでしょうね。方向性の舵取りが非常に難しいと思いますが。
澤田 ここ1~2年くらい、とても変化の激しい年になりそうな気がしています。移動体を見ても、来年は、MNP(Mobile Number Portability=移動体網の番号ポータビリティ)が実施されるので、弊社を含め、お客様を囲い込むためにどのような付加サービスを提供していくかが大きなテーマになってきています。
佐野 これまでは、番号が囲い込みの道具だったわけですから、それが撤廃された時、これまでと違った選択基準が出てくるのでしょう。
澤田 今後は益々サービス指向になってきて、お客様がサービス内容でキャリアを選ぶ傾向が強くなってくると思います。そうなると、先に述べたFMCのサービスが非常に重要になってきます。
コンテンツでトラフィックをコントロールすべきか?
佐野 インターネットのバックボーン、インフラの整備など大変かと思いますが。
澤田 総務省のIPインフラ研究会でも、インフラの整備はどこまで必要かという議論がされていました。それについては、P2Pなどのトラフィックをキャリアとしてコントロールすべきかという、大きな課題があります。大手プロバイダの中には、基本的にユーザオリエンテッドでトラフィック制御はせずに、バックボーンを増強するという考え方をされているところがあります。他方、他のお客様の帯域を守るためにも、P2Pのトラフィックをある程度規制すべきであるという考え方もあります。どちらの考え方で行くべきか悩ましい問題ではあります。
佐野 昔と逆で、「ラストワンマイルへの投資」と「バックボーンへの投資」のバランスが、とても悪い状況ですよね。特にバックボーンにかける投資の額に対してのつりあいは悪いですね。また一方で、P2Pのトラフィックを制限するのは、中身を見なくてはいけないため、電気通信事業法上、通信の秘密が犯されるので良くないという話があります。だから、中身は見ずに、一定量を超えた場合トラフィックの量を制限するという方法もあると思いますが、いかがでしょうか。
澤田 実際に制限をかけるとしたら、後者の方法になると思います。
佐野 帯域あたりの売上高が安くなってきていることを考えると増設をどこまでやるかは切実な問題ですよね。
澤田 そうなんです。「バックボーンへの投資」も勿論ですが、「ラストワンマイルへの投資」は更に状況は厳しいものがあります。自前でラストワンマイル引くとなると、莫大な敷設費が必要となります。
今後の電話番号の在り方は変化するか?
澤田 その他、我々が今抱えている懸案事項としては、050番号と0AB~J番号との住み分け問題があります。これはインターネットの問題とは少し違う気もしますが。
佐野 0AB~J番号だと地域や料金をある程度目処付けすることができますが、携帯電話のように海外からでも同じ番号で着信できてしまうものがある中で、果たして番号にそういった地域の区別などの役割が必要かという議論が出てきますよね。今のところは0AB~J番号には昔からの信頼性があり、050番号にはまだブランドがないような印象がありますけれども、今後、電話番号の在り方はどのように変化していくと思われますか?
澤田 これは個人的な意見なんですが、私たちのような年代にとっては、0AB~J番号には、それなりにステータスがあるし信頼性もあると思います。やはり「03」からかかってくると東京からの電話だなとわかりますよね。しかし、今の20代の人たちは、携帯電話の世代ですから、番号を見て地域や料金を判断するという感覚はあまりないようです。ですから、今の20代の人たちが世帯主になってくると、感覚は変わってくる気がしています。
成田 世帯主が団塊の世代まではということですね。20代の人たちは、固定電話と携帯電話を意識して使い分けていませんからね。
澤田 そうなんです。特に若い世代の間では、固定電話をひかずにDSLだけあれば十分という考え方も増えているのではないかと感じています。
佐野 使われるのがDSLや携帯電話だけになったときに出てくるのは、非常時通信がうまくできない可能性があるということだと思いますが、KDDI様はその辺りの対応は考えていらっしゃるのでしょうか?
澤田 はい。携帯電話については既に対応しています。DSLについては今後の課題ですね。非常時通信は0AB~J番号で対応し、050番号(DSL)については対応しない、という解もあると思っています。
IPv6普及の行方
澤田 後は、IPv6ですね。弊社でも何年か前から取り組んでますが、なかなか飛び立たないですよね。その辺りJPNICとしてどうお考えですか? 以前は、IPv4が枯渇するという話もありましたが、まだ余裕があるという印象があります。
佐野 今は足りていますが、情報家電などIPアドレスを必要とするサービス、アプリケーションなりビジネスが出てきた時に、途端に足りなくなる可能性があります。インターネットのインフラを守る立場としては、足りなくなることを前提に準備をしないといけません。ビジネスのほうも、いつ導入してもいいようにある程度準備しつつ適当な投資のタイミングを見計らう必要があると思います。
澤田 弊社も、徐々に準備はしているのですが、その適切なタイミングがいつなのか判断が難しいですよね。
佐野 バックボーンの中にIPv6でクローズドネットワークにしてしまうというアプローチもありますよね。
澤田 そうですね。そういうアプローチもありますよね。ただ、IPv6の普及には、IPv6が必要なアプリケーションがいつ出てくるかがキーだと思います。実際には、NATでもできることがまだ多いですよね。IPv6は、情報家電の普及と連動して、知らないうちに広がっていくような気もしています。
佐野 NATでもできるというのは、内側から外側にコネクションを張る時だけですよね。すべてのものがP2Pなどになってくると、NATでなくグローバルアドレスが必要になってきます。確かに、NATというファイヤーウォールをかけていたから安心というのもありますけどね。IPv6は広がる要素はあるので、あとは需要とのバランスですよね。
成田 ここまでインターネットの技術革新についてお伺いしてきましたが、他にも今後力を入れたい分野はありますか?
澤田 先にも述べたましたように弊社としては、「通信と放送の融合」と「FMC」を今後の事業展開上の大きなキーワードとしてとらえています。それに付け加えるとすれば、少し観点が違いますが、P2Pをどうビジネスに結び付けていくかということですね。
佐野 P2Pを、本当にうまく使うと情報の共有化が簡易というメリットもあります。
澤田 P2Pの悪いところばかり叫ばれていますが、良いところもあるので、それをネットワークに取り込み、良い方向につなげていくための研究に取り組んでいます。
佐野 「管理されたP2P」ということですね。
澤田 そうですね。
JPNICに期待すること
成田 最後にJPNICに期待しているところをお聞かせください。
澤田 JPNICには引き続き頑張って頂きたいと思っています。実は私は、1997年に4省庁の共管でJPNICができた時の設立総会にも行って、そのころからJPNICとはお付き合いさせて頂いています。今は直接のコンタクトはありませんが、以前に比べ業務的にはずいぶん迅速になったという印象を持っています。事業者の立場に立って事業をしているところが感じられます。またJPNICに期待することは何かを、担当者に話を聞いてみたところでは、「セキュリティ対策」と「ISPの技術支援」が挙げられました。インターネットの円滑な運営を阻害する可能性があるセキュリティに関しては、行政も含めた対応が今後必要となってくると思われますので、ガイドライン策定や各ISPへの技術支援などを期待したいです。その他、当社としては、IPv6に力を入れていきたいので、今後も日本が世界の中心になってひっぱっていけるようお願いしたいと思います。
佐野 そうですね。IPv6では日本はポリシー作りにもずいぶん関わってきているので引き続き頑張りたいと思います。
澤田 また、さきほどの話に戻りますが、トラフィックの中身にどこまで関与すべきか、関与する場合何をもって判断するかというのが当社としても難しいところでして、今後そういった問題に対するガイドラインとかコンセンサスをつくる場の提供をしていって頂けると良いと思います。
佐野 最近は、他の団体でもそうしたことをやっていますが、その中でJPNICらしい貢献の仕方を模索しているところなので、ぜひご意見をいただければと思います。
佐野・成田 本日はどうもありがとうございました。
会員企業紹介 |
会社名:KDDI株式会社 所在地:東京都千代田区飯田橋3-10-10ガーデンエアタワー 設立:1984年6月1日 資本金:141,851百万円(2004年4月末現在) URL:http://www.kddi.com/ |