ニュースレターNo.30/2005年7月発行
インターネットガバナンスに関する議論の国際的動向
WSIS、WGIGを舞台としたインターネットガバナンスをめぐる議論の動向と、そうした動きに日本から提言を行ってきているIGTFの活動についてお届けします。
JPNIC Newsletter29号に引き続き、インターネットガバナンスに関する議論の動向とインターネットガバナンスタスクフォース(IGTF)※1のその後の活動をお伝えします。
2005年2月14日からジュネーブで開催された第2回のWGIG※2会合の後、2月21日には暫定報告書が作成され、WSIS※3準備委員会に提出されました。この暫定報告書の多くのページはWGIGのそれまでの作業状況を説明するために割かれ、結論めいたものは書かれてはいませんでしたが、「鍵となる課題」(Key Issues)として次の4つを掲げて以後の作業の方向性を示しています。
(1) ドメイン名、IPアドレス、ルートサーバーなど、インターネットの論理的資源の管理運営、技術標準、相互接続、電気通信の基盤、及び多言語化
(2) 迷惑メール、セキュリティ、ネットワーク犯罪などインターネットの利用に関する事項
(3) 知的財産権や国際商取引など、インターネットにも関係するがより広い影響を持ち、既存の組織が既に手掛けている事項
(4) 開発途上国の能力開発など、インターネットガバナンスについての開発的事項
その後、4月18日から20日までWGIGは第3回の会合をやはりジュネーブで開きました。一部は開会前ぎりぎりでしたが、上記の各課題に対する作業文書(working papers)が会合前に公表されて一般からの意見募集を行い、会議のうち一部は公開とするなど、会議運営の手順としては第2回と似ているところもありました。しかし、今回は会議後に報道発表があっただけで会議の成果を表す重要文書の発表はありませんでした。その代わりに5月中旬になってアンケートが発表され、一般から回答を募集し、それを参考として最終報告書を仕上げるための第4回の会合を6月14日から17日までジュネーブで開催しています。アンケートは4つのテーマについてそれぞれ小問を設ける体裁で、さらに全体に対する説明的な前文がついているものでしたが、内容を要約すると、以下のような趣旨でした。
1. (フォーラム機能)
インターネットガバナンスに関連する公共政策を広範に扱う新しい組織あるいは体制を作る必要があるか?
2. (監督機能)
ドメイン名、IPアドレス、ルートサーバーなど、インターネットの論理的資源を現在扱っているICANNを監督する仕組みはどうあるべきか?
3. (既存組織の運営・協調)
インターネット関連の既存組織の運営実務にどのような改善が必要か? またそれらの活動の相互協調はどのようにして改善されるか?
4. (各国内での調整)
各国政府は、インターネットガバナンスに関する自国内の意思決定プロセスをどのようにして国際的な状況に調和させるべきか?
この4つのうち、特に一番目の質問文の作り方は多分に誘導尋問的であり、質問文作成者の意図が感じられるものです。公表はされていませんが、グループ内で新たな組織作りがかなり重要なテーマとして議論された結果として、このような質問文の作りとなったものと推測されます。
以上の動きに対して、IGTFは4月中旬には第3回会合に向けた意見書を、アンケートに対しては6月初めに回答をWGIG宛に送付しました。これらはIGTFのWebサイトでご覧頂けますが、インターネットのこれまでの発展を支えてきた当事者達の自発的な努力を尊重し、これからもそれを活用することを基本的な考え方として書かれています。
また、5月18日には第2回IGTF報告会を開催し、WGIGの動きを中心に国際的な動向を報告いたしました。第1回同様、ICANN報告会終了後に同会場で行い、熱心な聴衆に多くご参加頂きました。
WGIGは7月中に最終報告書を完成し、その後はインターネットガバナンスに関する議論は、舞台をWSISに移して続くものと思われます。
(JPNIC インターネットガバナンス/DRP分野担当理事 丸山直昌)
参考URL
- IGTFホームページ
- http://igtf.jp/
- WGIGホームページ
- http://www.wgig.org/
- WSISホームページ
- http://www.itu.int/wsis/
2005 | |
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2/14~18 | 第2回WGIG会合(ジュネーブ) |
2/17~25 | WSIS準備委員会(ジュネーブ) |
4/14 | IGTFがWGIGに意見書を提出 |
4/18~20 | 第3回WGIG会合(ジュネーブ) |
6/11 | IGTFがWGIGがアンケート回答書を提出 |
6/14~17 | 第4回WGIG会合(ジュネーブ) |
11/16~18 | 第2回WSIS会合(チュニジア) |
- ※1 IGTF: Internet Governance Task Force of Japan
- IAjapan、JAIPA、JPNIC、JPRSの4団体が会員となって2004年8月20日に設立した団体「インターネットガバナンスタスクフォース」(Internet Governance Task Force)の略号。WGIGの活動に、日本からも積極的に意見を出していくことを活動目的としている。
- ※2 WGIG: Working Group on Internet Governance
- 2003年12月にスイス・ジュネーブで開催された第1回目の世界情報社会サミット(WSIS)を受けて、国連事務総長の下に設置されたワーキンググループ。WGIGでは、インターネットガバナンスの問題を、WSISとは別の枠組みで幅広い関係者が参加した上で検討することを目的としており、2005年のチュニスサミットに向けて、インターネットガバナンスに関する調査および(必要な場合には)行動提案を行うことになっている。
- ※3 WSIS: World Summit on the Information Society(世界情報社会サミット)
- 情報社会をテーマとした国連サミットであり、第1回目は2003年12月にスイス・ジュネーブにて開催。第2回目は2005年にチュニジア・チュニスにて開催される予定。