ニュースレターNo.30/2005年7月発行
インターネット10分講座:DRP
今回の10分講座では、DRPとドメイン名紛争について解説します。
DRPとは
DRPとは、Domain Name Dispute Resolution Policy(ドメイン名紛争処理方針)の略です。「ドメイン名紛争処理方針」とは、ドメイン名の登録・使用に関して、登録機関以外の人・組織とドメイン名登録者の間に生じた紛争を処理するための規則(基準)です。DRPには、.com/.net/.org等のgTLD及び一部のccTLDに適用されるUDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy、統一ドメイン名紛争処理方針)があり、JPの場合はJP-DRP(JP Domain Name Dispute Resolution Policy、JPドメイン名紛争処理方針)が適用されます。その他のccTLDの多くがUDRPにある程度倣う形で各々のDRPを策定しています。
UDRP及びJP-DRPの策定経緯
インターネットが一般社会に普及し、商用での活用も本格化し始めた1995年頃より、既存の社名や著名な名称、あるいは商標等と、ドメイン名の衝突が起こるようになりました。ドメイン名の登録の受付は先願主義を採っているため、登録しようと思ったドメイン名が未登録であれば、誰でもそのドメイン名を登録することができます。そのため、企業等が社名を含むドメイン名を登録しようとしたり、商標名を含むドメイン名を登録しようとしたときには、既に何者かにそのドメイン名が取得されてしまっている、ということが発生したのです。なお、後日多額の支払いと引替えに売付けること等を目的とし、明らかに悪意によりドメイン名が登録されたケースを「サイバー・スクワッティング」といいます。
こうした事態に対する苦情を受け、1995年、NSI※1が初めて「Domain Name Dispute Resolution Policy」という名称の、サイバー・スクワッティング対処方針を公表しました。その後、IAHC※2が改めて解決策を検討し、ICANNがこれを引継ぎ、UDRPの策定作業が進められました。UDRP及びこれに付随するUDRP RulesがICANNにおいて正式採択されたのは、1999年10月です。
こうした動きを受け、日本でも1999年12月、JPNICがドメイン名紛争処理制度検討のためのタスクフォースを設置しました。タスクフォースよりJPNIC運営委員会へ答申が行われ、また、答申に対するパブリックコメントの募集等も行われ、こうした手続きを経て、2000年7月、JP-DRP及びJP-DRP手続規則はJPNIC理事会で承認され、同年11月より施行されました。
DRPによる解決の仕組み
ドメイン名を登録しようとする者は、ドメイン名登録の際に約款に同意を求められます。この約款には、将来そのドメイン名について争いになった場合には、DRPによる解決に従う旨が盛り込まれています。このような仕組みから、登録機関以外の人・組織と登録者の間でドメイン名の登録・使用について紛争に至った場合には、ドメイン名登録者を相手方として紛争処理機関に申立が行われることにより、その紛争はDRPに基づいて解決されることになります。
また、UDRPは、裁定結果の公開を原則としています。そのため、各認定紛争処理機関のWebサイトで過去の裁定を見ることができます。JP-DRP及びその他のDRPも同様の規定を設けており、やはり認定紛争処理機関のWebサイトで過去の裁定を見ることができます。
UDRPに基づく手続の迅速さと認定紛争処理機関
UDRPの場合、現在ではICANNより認定を受けた4つの紛争処理機関(WIPO※3/NAF※4/CPR※5/ADNRC※6)が申立を受付けています。図1は、UDRPの手続の大まかな流れです。このような手続により、申立から最大で55日以内に裁定の結果が出されるという、迅速さがUDRPの最大の特徴です。
なお、原則的に、書類の提出は、申立人・登録者側とも1回のみとなっており、また、紛争処理機関が申立人や登録者を呼び出す審問等は行われません。JP-DRPの場合、JPNICより認定を受けた、日本知的財産仲裁センターが唯一の認定紛争処理機関として申立を受付けています。手続の流れも上記UDRPの場合とほぼ同様となっています。
対象となる紛争と主な争点
それでは、申立が行われた場合、申立の対象となるドメイン名を登録者にそのまま保持させるべきか、あるいは申立人に移転させるよう裁定するか、またはドメイン名の取消しを命じるか、等の判断基準はどの辺にあるのでしょうか。また、どのような紛争がDRPの対象となり、DRPに基づくドメイン名紛争においては、どのようなポイントが紛争上の争点となるのでしょうか。これについて、UDRPは次のように規定しています。
◇対象となる紛争
登録済みドメイン名の移転あるいは取消し(ドメイン名の抹消)を求めるもの。
損害賠償請求等は認められていません。仮に、後日申立人の主張が認められて申立人にドメイン名を移転するよう裁定されたとしても、そのドメイン名を取得されたために自身がこうむった損害について賠償請求する等の制度はUDRPにはありません。
◇申立人は申立書において以下の3事項を明らかにしなければなりません
(1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利を有する商標(trademark or service mark)と、同一(identical)または混同を引き起こすほどに類似(confusingly similar)していること
(2) 登録者が、そのドメイン名についての権利(rights)または正当な利益(legitimate interests)を有していないこと
(3) 登録者のドメイン名が、悪意で(in bad faith)、登録かつ使用されていること
第1の事項の「類似性」、第2の事項の「正当な利益」、第3の事項の「悪意」「不正の目的」の有無に関する判断等は実態判断で、機械的な判断を下すことが難しい事実認定の問題です。「悪意」や「不正の目的」については、登録者の内心の問題でもあるため、周辺事情から判断されることになります。
申立人側が商標を有していることが申立の基本条件です。なお、UDRPの場合、「商標」とは登録された商標に限りません。いわゆる「コモン・ロー」上の商標(未登録ではあるけれども、その名称等が営業上使用されている場合等)も含まれます。しかし、商標を有している、その名称で営業している、著名である、等であるからと言って単純に優先的にドメイン名の権利が認められる訳ではありません。
例えば、2000年8月の裁定で著名な[jal.com]の事例があります。日本航空(JAL)は、「JAL」の商標を有していることや世界的著名性を根拠に、[jal.com]の引渡しあるいは取消しを求めました。しかしながら、登録者の氏名(John A. Letteleir)の頭文字が「JAL」であること、Letteleir氏が「JAL」の商標を登録してはいなかったものの、この名称で実際に営業を行っていたこと、同氏は「自身は日本航空ではない」ことを明示しており、消費者の誤認混同を自身の営業に悪用しているともいえなかったこと、等の理由から、裁定は登録者の権利を認め申立人の主張を排斥しました。
この例からも分るように、ドメイン名の移転や取消しを求める場合には、申立人が商標を有しているというだけでなく、登録者側にそのドメイン名を登録するだけの正当な利益や権利がないことや、登録者側に何らかの悪意があること等が必要です。JP-DRPやその他の多くのDRPも同様の限定を行っています。
その他、DRPの特徴
その他、当事者は、裁判所の判断を求めて出訴することができます。その場合、DRPに基づく裁定が下されても、最終的な結果は、裁判所の判断を待つことになります。
参考資料
Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy
http://www.icann.org/udrp/udrp-policy-24oct99.htm
JPドメイン名紛争処理方針
http://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-00816.html
(JPNIC インターネット政策部 小久保明日香)
- ※1 NSI : Network Solutions Inc.
- 米国バージニア州所在の民間企業。1993年より全米科学財団(NSF)の委託を受け、.com/.net/.org等のドメイン名登録を独占的に行っていた。1999年、ドメイン名登録にレジストリ・レジストラモデルが導入された後は、最大手レジストラに。その後、2000年にVeriSign,Inc.に買収され、2003年にはPivotal Private Equityへ売却された。
- ※2 IAHC
- gTLDの運営管理を改善することを目的として発足した国際臨時特別委員会。ISOC/IANA/ITU/WIPO等からのメンバーにより構成され、1997年2月、最終報告書を提出。1997年5月にはその役割を終え、解散した。
- ※3 WIPO : World Intellectual Property Organization
- ※4 NAF : The National Arbitration Forum
- ※5 CPR : CPR Institute for Dispute Resolution
- ※6 ADNDRC : Asian Domain Name Dispute Resolution Centre