ニュースレターNo.32/2006年3月発行
第51回RIPEミーティング
2005年10月10日から14日まで、オランダ・アムステルダムにてRIPE51ミーティングが開催されました。当地は16日のアムステルダムマラソンを控え、街のあちこちに交通規制予告の張り紙が見られました。ミーティング期間中は最高気温が20℃前後で私には快適でしたが、マラソンには少し暑かったかもしれません。
以下に今回の会議の主要トピックを、アドレスポリシーを中心にご紹介いたします。
◆アドレスポリシー・ワーキングループ(WG)
今回のアドレスポリシーWGでは、以下の提案が議論されました。
(1)IPv4アドレス(以下IPv4)追加割り振り基準へのHD-ratio適用
IPv4の追加割り振り基準(現在は既割り振り空間の80%を使用していること)を変更する提案ですが、賛成と反対に意見が分かれている状態で、引き続きメーリングリスト(ML) で議論するという結論になりました。
(2)ccTLD/gTLD DNSのエニーキャスト※1用プロバイダ非依存アドレス
ccTLD及びgTLDのネームサーバのエニーキャスト用に、プロバイダ非依存のIPv4(/24) 又はIPv6アドレス(以下IPv6)(/32)、もしくはその両方を割り当てることができるとする提案です。IPv6のプロバイダ非依存アドレスについてはIETFでも議論中であることなどから、MLで議論を継続することとなりました。
(3)IPv6初期割り振り要件の見直し
現行のIPv6初期割り振り要件の一つである「2年以内に最低でも200の/48の割り当てを行う計画がある」という要件を撤廃するという提案です。会場では、この要件を撤廃すると、LIRは全てIPv6の割り振りを受けられることになるがそれで本当に良いのかなどの意見が出され、本提案は一旦提案者に差し戻して、内容を再検討することとなりました。
(4)IPv6ポリシーにおけるエンドサイトの定義について
IPv6ポリシー中に出てくる「エンドサイト」の定義箇所を、よりわかりやすい説明に書き換えようという提案です。エンドサイトの定義上、ISPと「ビジネス上の関係にあること」という文言があるのですが、「大学と生徒は『ビジネス』上の関係にあると言えるのか」などの意見が出て、引き続きMLで議論することとなりました。
(5)IPv6の割り当てと利用率要件の変更
現在、IPv6のエンドサイトへの割り当ては基本的には/48で、サブネットが一つと決まっている場合/64、接続機器が一つと決まっている場合/128とされています。本提案は、これらに追加して/56という割り当てサイズを定義したうえで、さらにHD-ratioの基準値を現在の0.8から0.94へ変更しようとするものです。割り当てサイズの変更、HD-ratioの変更共に節約方向での変更と言えます。
本提案とほぼ同様の提案は2005年9月のAPNICミーティングでも提出されています※2。APNICミーティングでは、割り当てサイズの変更については賛同が得られなかったものの、HD-ratioの変更についてはコンセンサスとなっています。RIPEミーティングに出された提案がAPNICへ提出されたものと違う点は、「割り当てサイズをどのプリフィクスにするかはLIRの判断に委ねる」とされた所です。APNICミーティングでの提案では、「サブネットが255超であれば/48、255以下であれば/56を割り当てる」とされていました。
今回のRIPEミーティングでは、割り当てサイズの変更とHD-ratioの変更は独立して議論すべきだとの意見が出た結果、これを別々の提案として分けたうえで、それぞれを今後MLで継続して議論していく、という結論になっています。
(6)IANAからRIRへのIPv6割り振りポリシー
本件は既にARIN、APNICでコンセンサスを得ている内容となります。RIPEでも今回特に反対意見が無かったため、ML上で最終コメント期間に入ることとなりました。ここでも特に反対なければ、コンセンサスとして扱われることとなります。
◆DNS WG
2005年9月のAPNICミーティングでもコンセンサスを得たip6.int廃止について議論されました。APNICミーティングでは廃止の時期を「2006年6月1日以降で調整」としていますが、RIPEでは「6bone※3の停止と同時期(2006年6月6日)くらい」として、コンセンサスとなっています。本提案は今後引き続き他地域でも議論され、廃止の日程が協議されることとなります。
◆その他の話題 -IPv4の寿命-
APNICのGeoff Huston氏が「IPv4 AddressLifetime Expectancy Revisited」と題し、IPv4の寿命予測のアップデートを行いました※4。RIRの2005年の割り振り量等を考慮に入れ、従来の予測を更新したものです。これによると、IANAからRIRへの割り振りアドレスが底をつくのは2012年8月5日、RIRからLIRへの割り振りアドレスが底をつくのは2014年5月2日とされています。同氏が2003年に行った予測※5では、RIRからLIRへの割り振りアドレスが底をつくのが2022年としていましたから、それよりも予測枯渇時期が早まったことになります。
同氏はこれからIPv4の残りが少なくなってくるにつれ、駆け込み申請やアドレス売買の可能性など様々な問題が発生する可能性があり、RIRやコミュニティはこれらの問題にどう対処していくべきか考える必要があるのではないか、との問題提起を行いました。
会場ではこの発表を受け、最大割り振りサイズを制限すべきではないかという意見や、今後WGを結成して、アドレス枯渇にかかる課題を検討していけばどうかという提案など、活発な発言がありました。枯渇に至るにはまだ時間があるとはいえ、今後も引き続きアドレスの消費状況、各RIRでの議論の動向等を注視する必要がありそうです。
(JPNIC IP事業部 穂坂俊之)
- ※1 エニーキャストアドレス(Anycast Address)
- IPアドレスは、一般的に特定のインタフェースへ一意に割り当てますが(ユニキャストアドレス)、それに対して、エニーキャストアドレスは、複数のインタフェースに割り当てられたIPアドレスです。
- ※2 JPNIC News & Views vol.293
- 「IPv6アドレスポリシーの変更について ~第20回APNICオープンポリシーミーティングでの議論~」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2005/vol293.html - ※3 6bone
- http://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/6bone.html
- ※4 ミーティング発表資料
- http://www.ripe.net/ripe/meetings/ripe-51/presentations/pdf/ripe51-ipv4-lifetime-rev.pdf
- ※5 "IPv4 -How long have we got? " -The ISP Column
- http://www.potaroo.net/ispcolumn/2003-07-v4-address-lifetime/ale.html