ニュースレターNo.32/2006年3月発行
インターネット技術の標準化プロセス ~
RFCとは?
インターネット技術の標準化を推進する団体としてIETFがあります。IETF(Internet Engineering Task Force) では、新しい技術仕様についてオープンな議論が行われ、ここでの議論を経てインターネット技術の標準「RFC(Request ForComments)」が生まれます。
RFCとはインターネット利用者、運用担当者、開発者等に有益と判断された情報を公開するための文書シリーズで、インターネット技術の発展に伴い常に新しいRFCが発行され続けています。
以下では、RFCの種類とその標準化プロセスについてご紹介します。
◆RFCの種類
RFCは、5種類のドキュメント種別が存在しており、情報の性質により区別されます。
(1)Standard Track RFC
IETFでは技術分野毎に組織されるワーキンググループという単位で議論、検討を行っています。Standard Track RFCとは、ワーキンググループでコンセンサスが得られた業界での国際標準とすべき仕様をまとめたドキュメントです。PS(ProposedStandard) 、DS(Draft Standard)を経て、S(Standard) となります。PSは複数の組織での独立な実装テストと相互接続性の確認が条件、DSは実質的かつ広範囲での運用テストが条件とされています。S(Standard)の状態になると、STD番号が割り振られます。現在、STD番号を割り振られているドキュメントは非常に少数であり、実質的には、DSのRFCになると、国際標準とみなすことができます。なお、最近では、必ずしも、複数での独立な実装テストと相互接続性の確認が行われなくてもPSとしてRFC化される場合も見受けられるようになってきました。
(2)Informational RFC
Standard Trackには分類されませんが、業界にとって有用な情報を含むドキュメントです。例えば、各組織固有の仕様であっても、それが標準仕様の議論や策定に有効と認められる場合に、RFCとすることができます。企業が標準化を待たずに製品展開を行うような場合に、Informational RFCとしてその仕様を広く公開し、事実上のStandardの地位を確立するための手段としてもしばしば利用されます。
(3)Experimental RFC
標準化が目的ではなく、研究等の目的で検討される技術仕様に関するドキュメントです。純粋な研究目的の場合と、企業が企業固有の仕様を使ってそれを標準化しようとする場合などに用いられます。
(4)Historical RFC
標準化過程での議論の経過など、過去の記録として残すべき情報に関するドキュメントです。IPv6技術の検討経過などがHistorical RFCとなっています。
(5)Best Current Practice
直訳すると「現時点での最善の方法」となり、その時点で最善だと考えられるインターネット管理運用手法やIETFでの標準化プロセスなどを文書化する際に用いられます。
各組織は、各自のIETFにおける発言力とビジネス戦略に基づいて、どのTrackを用いて技術仕様の標準化を進めるべきかを検討しています。StandardTrackでの活動は王道ですが、ドキュメントが作成されRFCとなるまでは、1年以上の月日を必要とするのが一般的で、Informational RFCやExperimentalRFCを用いて、より迅速な仕様の公開と普及を図る組織も少なくありません。
◆標準化プロセス
IETFにおいては以下の技術標準化プロセスを経てRFCが発行されます。
(1)Internet-Draftの投稿
Internet-Draftとは、その時点でまだ標準化されていない下書き段階の仕様書のことです。各個人が自由に投稿することができ、6 ヶ月間IETFのFTPサーバおよびWEBサーバに置かれます。Internet-Draftは、6 ヶ月でArchiveから消えていくWork-in-Progressのドキュメントです。Internet-Draftには、ワーキンググループとして投稿・管理されるドキュメントと、個人として投稿されるドキュメントとがあります。
(2)Internet-Draftの成熟
Internet-Draftが、インターネット業界に有益な情報を含んでおり、将来的に標準化されるに相応しいと判断されるとIETFで継続的に議論、検討が行われます。その結果は逐次Internet-Draftに反映され、そのInternet-Draftはより成熟したものとなります。
(3)IESGの承認
IESG(Internet Engineering Steering Group) とは、IETFにおいて議論されるインターネット技術の標準化に関する責任を負い、IETFが作成するRFCの取り扱い方法について決定をくだす組織です。Internet-DraftがRFCとして発行されるのに十分成熟したと判断されると、IESGに対してRFC発行の申請が行われます。申請が承認されると、そのInternet-DraftにはRFC番号が割り当てられ、IETFのFTPおよびWEBサーバを通じて公式に参照可能なドキュメントとなります。
◆今後の展望
1990年後半のインターネット産業の急成長に伴い、IETFへの参加者数の増加と関係するコミュニティの多様化が進展しました。その結果、IETFにおける技術検討やコンセンサスの形成に必要な時間が、長期化してしまう傾向が観測されるようになってきました。これに対応するためか、最近では、ワーキンググループでの技術検討において少人数のデザインチームを形成し、技術仕様確立の迅速化が行われるようになっています。さらに、標準化速度の迅速化と実態に合ったStandard Trackの再検討、あるいは、知的財産権に関する対応方法など、インターネット標準(STANDARD) 化プロセスの見直しに関する検討も始まっています。
(JPNIC理事/WIDEプロジェクトボードメンバー/東京大学教授 江崎浩)
(編集: JPNIC 技術部)