ニュースレターNo.33/2006年7月発行
第15回ICANN報告会レポート
2006年4月25日(火)、東京都港区の虎ノ門パストラルにて、JPNICと財団法人インターネット協会の共催で第15回ICANN報告会を開催しました。以下に、報告会の内容を項目別にご紹介します。
ICANNウェリントン会議概要報告
JPNICの穂坂俊之より、ICANNウェリントン会議(2006年3月25~31日)の概要報告を行いました。会議スケジュールの紹介の後、トピックであった新gTLDの導入促進及び進捗、VeriSignとICANNとの和解(.com契約)、SSACからの報告(オルタネート・ルート、DNSの再帰検索を利用したDDoS攻撃)について、IDNの議論、ICANN戦略計画(Strategic Plan)についてご報告しました。
詳細については、P.40「ICANNウェリントン会議レポート」をご覧ください。
ccTLDの動向
株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の大橋由美氏より、ウェリントンでの国コードドメイン名支持組織(ccNSO)会合で話し合われた議題について、次の5つのトピックが報告されました。
まず、ccNSOが要求していたICANN付属定款改定要求について、全8項目のうちの1点(ccNSO関連条項についてはccNSOの勧告により修正される)については、ICANNガバナンスの根本を崩すものであるとの理由により否決され、内容として支障ない他7項目も含めて決議が保留されました。否決された項目は、ccNSOへの加入を渋るヨーロッパccTLDの要求であっただけに、今後のccNSO加入数の増加も難しいのでは、との見方があります。
ccTLDとICANNとのフォーマルな関係構築を目指すAccountability Frameworkについては、2種類の文書(2者間契約用と書簡の交換用)が作られ、これらを利用し既に契約を進めている組織もあると聞かれます。
ICANNとの関わりについてはもう1点、資金拠出の面で検討されており、ccTLDがICANNから受けているサービスとそのコストを積算するため、現在調査を実施中です。
4つ目のトピックは、IANA業務の検討に関する内容です。これまで、IANAへ情報変更申請を行うと、変更実施までに1週間以上も時間がかかるという現状があり、不満を持つccTLDもありました。そこで、ポーランドのccTLDレジストリなどにより処理の自動化・迅速化をサポートする仕組みが開発されました。IANAは、この仕組みも使いつつ、さらに処理を迅速化し、レジストリの満足度を向上させる施策を図っていくとのことです。
最後に、最近活発化しているIDNの議論について、最新状況の共有が行われました。gTLDとの合同作業部会設立が合意され、今後はIDN導入についての課題の洗い出しや施策の検討が進められるものと思われます。
gTLDの動向
JPNIC理事の丸山直昌より、「whoisについて-gTLDの最近の話題から-」と題しgTLDに関する最近の動向について報告がありました。GNSO評議会では、いくつかあるトピックのうち「WHOISの目的」に関する議論に長い時間が割かれました。WHOISについては情報の取り扱いに数々の問題があり、これまでの議論は、「プライバシー擁護派」と「情報公開派」の水と油とも言える対極的立場に二分された終わりなき戦いと言えます。お互いの立場を譲らずに不毛な議論が繰り返されてきましたが、そもそもWHOISの目的を明確にしなければ議論が成立しないとの認識に至り、2005年6月にはWhoisTask Forceへの委任事項が提示されました。
それ以降、議論の成果として認められるものもありますが、やはり意見対立の根本的解決には程遠いと言える現状にあります。WHOISの役割をどう定義するかで議論が異なる問題であり、ICANNの役割を問われる問題であるだけに、理事会の今後の決定が注目されるとのことです。
ICANN政府諮問委員会(GAC)報告
総務省の糸将之氏より、政府諮問委員会(GAC:GovernmentalAdvisary Committee)についての報告がありました。議論の中心となった2つのトピックは次のとおりです。
1つ目は、今後のGAC事務局についてです。欧州委員会(EC:European Commission)の任期が6月末で期限を迎えるのを受け、インド政府とICANNがホスト受け入れを提案し、今回の会合ではインド政府による事務局運営の受け入れが合意されました。なお、インド政府は運営費が各国から拠出されることを希望しており、今後議論されるとのことです。
2つ目は、GACの在り方についてです。新WG7が組織され、ラトビア大使(前WSIS準備会合議長)のカークリンス氏を中心に引き続き中長期的なGACの在り方が議論される模様です。事務局ホストが短期的に変わらぬような体制整備についても議論の対象となります。最重要事項として、(1)途上国からの参加促進を含めたGACメンバーの拡大、アウトリーチの発展、人材育成及び国際参加の拡大、(2)ICANNフレームワークに関連し、WSISの結果を考慮する形で公共政策課題をより効率的に扱うための改善があげられます。
また、ICANN理事会はピサンティ理事、GACはカークリンス氏を調整役としてGAC Joint Working Groupを組織し、今後「enhanced cooperation」を念頭においた定期的な意見交換の場を持つことが検討されているとのことです。
ICANN At-Large諮問委員会(ALAC)報告
At-Large諮問委員会(ALAC)の活動に関して、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所副所長の会津泉氏より報告がありました。
今回は選挙による委員長交替があり、アネッタ・ミュールベルグ(Annette Muehlberg)氏が選ばれました。ミュールベルグ氏は元フランクフルト市会議員で現在は労組に勤務しており、実に市民派の委員長が選出されました。
ポリシー分野の活動に大きな動きはなく、全体としても大きな進展は見られなかったのが今回の会議の特徴と言えます。RALO(RegionalAt-LargeOrganization:地域別At-Large組織)作りについても、ALS(At-Large Structure)として認証されたのは38団体(前回33)ですが、近隣の国・地域の政治的問題などが絡んでくることもあり、発展が容易ではない現状があるそうです。
前回に引き続き、友好的な雰囲気の中でICANN理事会との会合を持つことができたそうで、今後もコミュニケーションを強化していくことが合意されました。ICANN理事会からは、 ユーザー参加に対して前向きで、個人利用者の声を聞きたいとの意向が示されたそうです。しかしながら、ALACサイドではVeriSignとの.com契約に対する意見がほぼ無視されており、決議のみならず審議プロセスを示してほしいと感じているなど、対応に不満を感じる部分があるのも実情のようです。
ALACでは、活動内容が見える形となるよう、意識した取り組みをしているのが印象的です。ICANNと契約し開設した独自Webページ(http://www.icannalac.org/)のみならず、ICANNとは別にスポンサーにより運営され230人が参加するICANN Wiki (http://icannwiki.org/)も開設し会議議事録などの情報公開をしており、コンセンサス作りの場としても活用していく意向にあるそうです。最近では、ICANN内部で権利を拡大してきていますが、ALAC内部の考え方に対立が見られたり、内部評価の土壌が整っていないなどALAC自身の課題も抱えています。今後のALACの在り方やIGFにどう参画していくか、といった内容が今後の検討課題となるようです。
伊藤ICANN理事からの報告
株式会社ネオテニー代表取締役社長の伊藤穰一氏より、ICANN理事会内の議論の様子について報告がありました。
最初の報告は、多くの方々が関心を寄せるVeriSign Settlementについてでした。理事会メンバー15名中、賛成9名、反対5名(伊藤氏も含む)、棄権1名ということで、理事会の結論としては賛成となりました。理事会メンバーは、コメントなどを含め1000ページを超す資料を読んだ上で出した結論とのことで、十分な検討が重ねられているはずですが、周囲からはプロセスがクリアではないという意見が多く聞かれます。これは、レジストラの業界団体CFIT(The Coalition for ICANN Transparency http://www.cfit.info/)との訴訟中で、 “discovery(証拠開示手続き)”の期間中であったことから、情報開示や発言に敏感になっている時期であったことが影響しているようです。賛否の結果を見てもわかるとおり、理事会の議論でも最後の15分まで判断はグレーな状況であったそうですが、最終的な理事会決議は承認としたので、今後はその調整に注力していくとのことでした。
続いて、Webページ上の理事会決議の内容(http://www.icann.org/minutes/resolutions-31mar06.html)に沿って報告がありましたので、いくつかのトピックをお伝えします。
引き続き議論されている新sTLD「.xxx」の契約案ですが、GACより3月30日にコミュニケ(http://gac.icann.org/web/communiques/gac24com.pdf)が提出され、契約不履行時の対応について明記されていないなどGACのコメントを反映した内容となっておらず、決議は見送られました。今後は、GACからのコメントを反映した契約書の内容が提出されれば、議論が進む可能性も否定できないとのことです。
また、ICANNは新gTLD設置をサポートする意向があり、ICANN付属定款のポリシー策定プロセス(PDP)に沿う形で、 次回6月開催のマラケシュ会議までにGNSOより新gTLDに関する第一次報告書が提出されれば、パブリックコメント、ICANN理事会やコミュニティの検討を経て、2007年1月1日以前には新gTLDプロセスを進める意向にあるとのことです。これが実現すれば、VeriSignの独占とも言える現状を崩すことが期待できるのではないか、とのことでした。
最後に、ICANN理事長をはじめ理事会メンバーの交替時期が近づいているので、今後の役員人事についてインプットがある場合には、伊藤氏や指名委員会(NomCom)へお知らせいただくよう要請がありました。ICANNの今後をコミュニティ全体で考える良いタイミングなので、コメントがある方はぜひともコンタクトしていただければと思います。
(JPNIC インターネット政策部 高山由香利)