ニュースレターNo.35/2007年3月発行
JPNIC会員と語る/ファーストサーバ株式会社
社会に大きな変化をもたらすインターネット革命
~ニーズの多様性と標準化への課題~
今回はファーストサーバ株式会社を訪ねました。代表取締役 岡田良介氏に、ファーストサーバの事業運営を通じたインターネットに対するビジョンについて、さまざまな角度からお話を伺いました。
[参加者紹介]JPNIC会員
- ファーストサーバ株式会社代表取締役 岡田良介氏
- JPNIC DRP/インターネットガバナンス分野担当理事 丸山直昌
- JPNIC事務局長 成田伸一
会員名: | ファーストサーバ株式会社 |
所在地: | 大阪市中央区安土町1丁目8番15号 野村不動産大阪ビル 3F |
設立: | 2000年6月1日 |
資本金: | 3億6,357万円 |
URL: | http://www.firstserver.co.jp/ (2007年2月13日現在) |
インターネットは、より高度なコンピューティングが求められる時代
丸山 最初に、ファーストサーバ様がインターネット事業を始められた経緯といったものをお聞かせいただけますでしょうか。
岡田 当社は、2000年にクボタシステム開発株式会社のレンタルサーバ事業が独立して設立されました。その親会社である株式会社クボタ グループでは、Titanといったコンピュータや、TAHITIという光磁気ディスクを作っていました。
丸山 懐かしいですね。Titanは当時一世を風靡しましたものね。TAHITIは、私は今も使っていますよ。
岡田 そうなんですか。クボタは、Titan2やTAHITIを発表した後、事業を見直していく中、コンピュータ製造事業から撤退しました。1993年の初めには、クボタグループの社内ネットワークは、全社IP化されていまして、私が在籍していたクボタシステム開発では、それを他の上場企業に提案して、3~4社の全国WAN構築を行ないました。そのようなこともあり、「インターネット事業をやれ」ということになったのです。我々は、もともとTitanなどUNIX関連のマシンを使ってシステムインテグレーションを行っていたこともあって、IPネットワークにも抵抗なく対応することができました。その後2000年に、ファーストサーバが誕生しました。
成田 なるほど。ファーストサーバ設立以前よりコンピュータ、ネットワーク事業に関わってこられたということなんですね。ところで、ファーストサーバの社名にはどのような由来があるのでしょうか。
岡田 設立前のクボタシステム開発時代に、レンタルサーバの新システムを開発したのですが、その商品名について、社員からアイディアを出し合い投票を行った結果、「レンタルサーバ業界でNo.1になる」という気持ちを込めて「ファーストサーバ」と名付けました。その後事業が拡大して、分社独立するに至った際、この思い入れのある商品名を会社名にしようということになりファーストサーバという社名となりました。
岡田 社員の方々の想いの込もった社名となっているんですね。
丸山 御社は、設立当初からインターネット事業に関わってこられていますが、これからのインターネットはどうあるべきか、といったビジョンがありましたらお聞かせいただけますでしょうか。
岡田 インターネットは、単なるコミュニケーションという側面から、コンピューティングという側面の高度化が求められる局面にある気がしています。コミュニケーションというのは、本来共通性や標準性を求めるものです。我々がインターネット事業を始めた頃は、RFCへの準拠や標準への合致というものに注意を払うなど、インターオペラビリティ(相互運用性)を確保していくための技術的な取り組みに重きが置かれていました。
ブロードバンド時代となり、インターネットがほぼ全てのところに普及してきて、メールやファイルの交換についても標準化されたものが広がりコミュニケーションインフラとして確立されてきました。企業などは、それぞれの目的を成就するために、こうしたコミュニケーションインフラを使って本格的なコンピューティングを実現し、競争力をアップしたり合理化を進めることに注力し始めています。たとえば、メールやファイル交換といったものは単純なコミュニケーションツールですが、その上に複雑な処理を付け加えて多様なコンピューティングのための応用ソフトウェアが誕生したことにより、コミュニケーションの分野に止まらず、企業活動全般のネットワーク活用の仕方に変化をもたらしています。また、こうしたニーズはますます多くなってきています。
インターネットが、コミュニケーションのためのツールとして安定化し普及してきて社会全体に大きな役割を果たすようになってくると、インターネットの本質である「通信+コンピューティング」のうちの、後者のコンピューティングという側面で非常に高度化することが求められるようになり、これからいろいろな仕組みが登場してくるのではないかと感じています。当社といたしましても「コンピューティング」という要素の強いコンピュータアプリケーション、ソフトウェアの開発に力を入れているところです。
インターネットがもたらす社会の変化
岡田 1994年以前はUNIXを使っていればTelnetもFTPも皆知っていて、テキストのみの通信というのはメインフレームも含めて新しいものではありませんでした。その後、Mosaicの登場により、絵も音もネットワーク越しにアクセスできるというのが、革命的な印象を利用者に与えたんだと思います。まさに、それが「インターネット革命」の出発点、最初の衝撃だったと思います。
インターネットで映像コンテンツが扱えるようになり、世界中どこからでもアクセス可能になったことは、国境を越え、文化を越え、法制度を越え、時間を越え、距離を越え、あらゆる意味でシームレスな世界でありグローバルであるというインターネットの本質を、否が応にもインターネットユーザーに理解させる力を持っていたと思います。その衝撃が今も続いているのではないでしょうか。そういう意味で、最初のMosaicがもたらしたあの衝撃は、YouTubeやMySpaceといったサービスに承継されています。そして、インターネット上でのコミュニケーションに、静止画だけでなく動画が加わり、Mosaicがもたらした恐るべき衝撃はまだまだ続いています。
19世紀の最大の発明である電話と、20世紀の最大の発明であるコンピュータが融合することで誕生したのがインターネットですが、日本では1993年に商用サービスが始まりました。インターネットの利用が進み社会が変革していくことをインターネット革命と呼びます。このインターネット革命というのは、電話産業の流れとコンピュータ産業の流れという、それぞれ違った流れによる変革の嵐を、もう一度起こさざるをえないような本質を持っているのではないでしょうか。
コンピュータは当初から単純にいえば差別化のための道具であったと思います。たとえば、企業では合理化であったり高速化であったり大量の処理を正確に行なうために使われていますが、これはまさに差別化のために使われていると言えます。インターネットというのは、単なる電話網と違い、コンピュータが相互接続されることで、恐るべき繋がりをもたらします。その効果によって、凄まじい社会の変革をまだまだ起こし続けていくのではないかと思っています。
丸山 19世紀的な発明として電話の例が挙がりましたが、19世紀の末に起ったもう一つの革命は自動車だと思います。自動車は20世紀をもの凄く変えました。自動車の存在によって、国土の姿まで変わりました。インターネットは、それに匹敵するくらいのインパクトがあったと思っていますが、そのあたりの岡田社長の感じ方はいかがですか?
岡田 インターネットというのは、自動車と同じかそれ以上に社会を大変革させたと思っています。そのインターネットが従来のやり方では実現できなかった変化を世の中にもたらしているのではないでしょうか。現にGoogle社などは単なる検索サービスを提供するだけの会社ではなく、コンピューティングカンパニーです。つまり、コンピュータがネットワークで相互接続されることで、次元の違うコンピューティング性能を発揮し始め、従来処理できなかったことが可能となってきています。そしてまた、ネットワークで繋がり合うことが、全世界的規模での情報処理を可能としています。そうしたことが、株価や世界の天候の解析であったり、さまざまな分野で当たり前のように活かされているわけです。インターネットで収集した情報を、コンピュータの向こう側にあるさまざまな仕組みを介して分析加工する、といった情報処理の技術は社会に巨大な変化をもたらしているのではないかと思いますね。
丸山 自動車は数十年にわたって社会を変え続けたわけですが、インターネットは社会に出回ってまだ10年ですものね。
岡田 インターネット革命というのは、まだまだ続くと思いますね。
ニーズの多様性にいかに対応していくかが課題
成田 このような変革の中で御社が目指すべきところについては、どのようにお考えですか?
岡田 我々は、大手通信キャリアのように資本も人材も潤沢にあるわけではないですが、それでもインターネット時代に特徴的なことをやってみたいと、創業時より考えてきました。1996年にOCNさんがインターネット接続事業に参入すると聞いて、接続サービスを提供するだけのISPではまず規模では競争していけないと感じました。そして、我々の強みを活かせるサービスは何かを考えた時、サーバコンピュータを貸すレンタルサーバ事業というのは、将来的にはそのサーバ上でプロセッサやストレージを使ったさまざまなサービスに展開するであろうということ、それは我々が目指すコンピューティングという方向性に合致していると考え、そこに活路を見い出したわけです。現在、4万近いビジネスユーザーのお客様がおられますが、皆様からコンピュータを使っていろいろなことをやりたいというご要望を頂いております。そうしたご要望にお応えし、ご提供したプロセッサとストレージとネットワークという環境を基盤に、ソフトウェアコンテンツ、プログラムコンテンツのバリエーションを広げ、より品質を高めることで、お客様のビジネスの変革に少しでも寄与していきたい考えております。そういう意味で、技術や環境の変化はありますが、これまでもこれからも我々がやっていくべきことの本質は変わらないということですね。
丸山 インターネットの環境もこの10年で大きく変わってきていました。たとえば、接続のスピードに関して言えば、1995年当時と比べても1万倍くらいになっていますし、コンピュータそのものの処理スピードも上がってます。他にもいろいろあると思いますが、この10年くらいの変化をどう思いますか?
岡田 そうですね、我々のビジネスを通じて感じるのは、インターネットの活用についてお客様が本格的に考え始めたという点ですね。当初のお客様は、Webには静止画を上げて、コミュニケーションツールとしてはメールを使うという、非常にシンプルなWebのご利用方法でした。Webに上げる情報というのは、駅の看板とイコールだったわけですね。それがここ数年、ブロードバンドの普及と時を同じくして、Webの裏側で仕組みを動かしたいというニーズが増えてきました。常時接続により、誰でもいつでも高速なインターネットに繋がった状態の環境が急速に広がって、インターネットが私たちの生活に深く浸透してきたことにより、社会的インフラとして認識されるようになった感があります。
特に、ここ2~3年でビジネスユーザーの意識に関しては、大地殻変動が起きているように思います。その要因となる第一のソリューションはネットショップなんですよね。それまでインターネットとは縁遠かった実際に商売をされている方々から、チャレンジしたいという要望を多くいただくようになりました。
丸山 ここ2~3年ということですか。
岡田 そうですね。ここ2~3年で、以前と根本的に状況が違ってきている気がします。販売システムについても、一から仕組みを作るとなると取っつきにくいのですが、カートの仕組みだけでなく、在庫管理、受注管理、販売管理の仕組みといったソリューションをパッケージとして提供しておりますから、素人に近い人でも、少し勉強すればショップを開設してネット上で物を売れるというわけです。そうしたツールをいろいろな形で活用してビジネスをされる方々が劇的に増えてきています。そういう時代になって、インターネットの活用の仕方もバリエーションがものすごく拡大していて、一言では言えない多様性、雑多性が生まれてきているように思います。コンテンツは、多様なところに意味があるわけですが、その多様性が一気に爆発しているのが、ここ2~3年という気がしています。
成田 そうすると、御社のようなサービスを提供する会社の需要が増えているということになりますね。
岡田 おかげさまで、レンタルサーバの需要は増えていっていると思います。ただサーバを貸し出しますという商売だけでは駄目で、世の中の多様性にいかに対応していくかが大きな課題だと思っています。
成田 インターネットビジネスの在り方についても、インターネットが市民権を得て社会的なインフラと認知されるにつれ、認識が変わってきていると思いますが、いかがですか?
岡田 インターネットビジネスが登場した当初は、さまざまな事業者もインターネットビジネスに参入してきましたが、ここ数年でそうした事業者はかなり淘汰されてきています。社会に対して本当のサービス価値を提供するために汗水流して取り組む会社だけが認められ、社会から受け入れられる時代がきた、という点では喜ばしい時代がきたと思います。
JPNICに期待すること ~標準化の方向性を提言していく役割~
丸山 ビジネスをされていく中で、どのようなことをインターネットに望んでおられますか?
岡田 エンドユーザーにとってインターネットは正常に動いて当たり前のものになりつつありますが、シンプルなメールシステムの場合でも、実際には迷惑メールの問題など、オープンなネットワークそのものを維持することが困難になるような現象が起きているのが事実です。一方で、SIPのような新しいプロトコルが出てきても、現実社会の中でそれが機能して、利便性の高いものになっているのかというとまだまだだと思います。また、ENUMについてもJPNICさんで取り組まれていますが、まだまだ世界的なインフラとして発展していくほどには正規化されていないと思います。そう考えると、実はオープンに相互接続された基盤部分は、上位のアプリケーションの話が盛り上がる一方で、まだまだ混乱している状況です。
こうした問題について、いろいろなところで議論されているのだと思いますし、またさまざまな利害関係者も多く調整が難しい世界になっているのは百も承知です。しかし、そうした状況を一つに束ね標準化の方向性を提言していくというのは、インターネット革命の陣頭指揮を取ってきたJPNICさんの役割であり義務であると思います。また、我々としては、そのような部分にJPNICさんの会員となって支えていく意義を感じていますので、これからも引き続き公益性を持った組織として先頭を走っていただくことを期待しています。
丸山 少し前にJPNICが取り組んだことに、国際化ドメイン名(IDN)があります。これについては、いろいろと議論がある中で確信ある一つの方向性というのがありました。しかし、SIPやENUMに関しては、まだ模索している段階というのが正直なところです。インターネットの標準化の歴史を振り返ると、試行錯誤の結果、良いものが残るということを繰り返してきました。SIPやENUMについても、これから試行錯誤を十分にやっていく中で方向性を見い出していく必要があると思っております。また、インターネットがダイナミックに発展していくために、何事も恐れずに試行錯誤をやってみることが重要だと思います。
岡田 IDNについては、コンピューティングの世界でも日本が果たしてきた役割というのは、非常に大きいと思っています。IDNの普及に関しては、活用の事例が本格化するのは日本が最初だと思いますし、マイクロソフト社がInternet Explorer 7(IE 7)を供給したことでますます普及のスピードは加速するのではないでしょうか。
丸山 日本語ドメイン名の登録数データを見ると、マイクロソフト社がIEのIDN対応についてプランを発表した頃から、登録数が急増しています。確かに影響は大きかったんだと思います。ところでJPNICは、JPドメイン名の登録管理業務は日本レジストリサービス株式会社(JPRS)に移管し、IPアドレスの登録管理を行なっておりますが、その点については何かご意見などありますでしょうか?
岡田 IPアドレスの管理については、JPNICさんを大いに信頼しています。IPv6アドレスもIPv4アドレスも安定的にルーティングされているということは、ある意味奇跡的なことなのかもしれないと思います。ネットワークの安定的な運用は、誰かがどこかで汗水流さないと維持できないことです。
丸山 ありがとうございます。御社はICANNの公認レジストラでいらっしゃいますよね。そうした立場から国際的な視点で見てドメイン名に関わる状況について何かご意見はございますでしょうか?
岡田 そうですね……ドメイン名そのものが名前というものを扱っている以上、知的財産権とデジタル証明書の話が出てきます。特にデジタル証明書については、その認証基準が米国公認会計士協会の承認の可否によるなど、米国中心で決められていることに不満を感じます。日本企業や日本のソフトウェアハウスが蚊帳の外にいる感じがします。そのことで、不都合を感じることが多々あります。やはり、インターネットの信頼性は今後も引き続き話題になるはずですし、日本としてもデジタル証明書を公式に認証する機構が必要だと思います。
丸山 なるほど、ビジネス上、デジタル証明書というのがかなり重要になってくるということですね。
岡田 ビジネスの世界では必須になっています。たとえば納税証明書の出し方一つとっても米国と日本では違うように、証明書そのものの信憑性や基準というのは、国毎にローカライズする必要があると思っていますが、今のところ全くされていないのが現状です。インターネットがより信頼性を求められるものになるにつれ、日本としてそうした問題に取り組んでいく必要があると思います。
さまざまな分野で活かされるべきインターネットデモクラシーという考え方
成田 最後に、ボランタリーな努力で進展してきた現在のインターネットをさらに発展させていくために、考えておかなければならないことは何だと思われますか?
岡田 インターネットって、それぞれのポジションで一生懸命やっている人たちが、中身に基づいて発言した結果、それが良いものであれば認められて、悪いものであれば採用されずに世には出ないという仕組みを大切にしてきましたよね。そうした、中央集権的なトップダウンの進め方ではなく、ボトムアップで事を進めるというインターネットのポジティブな側面を、さまざまな分野で上手く活用していくべきだと思います。インターネットデモクラシーという考え方は、企業活動や学校の情報教育を通じて広がっていくべきだと考えています。組織というのは元来、中央集権的な性格があるかと思いますが、たとえば、当社を運営していく中でも、リーダーシップという話とは別に、それぞれの人間が持っている可能性を活かし、議論の中で切磋琢磨していくやり方というのを大切にしていかないといけないと思っています。
また、JPNIC総会などでも、異議を唱えさせていただいたことがありますが、JPNICさんにはさまざまな意見を受け止めて考えていただく組織であって欲しいと願っています。そうしたJPNICさんであればこそ、我々も支えていくべきであると考えています。我々も、インターネット文化を先導し造り上げていく役割を意識しながら、企業組織の在り方、インターネット事業について悩みながら進めているので、これからもご支援をお願いします。
丸山 こちらこそよろしくお願いします。JPNICとしても望ましい方向性とは何かを考え、皆様のご意見をいただきながら進めていきたいと思います。ぜひこれからもよろしくお願いいたします。
丸山・成田 本日はありがとうございました。