ニュースレターNo.35/2007年3月発行
IP Meeting 2006
IP Meetingは「インフラとしてのインターネットの開発・構築・運営に関わる人々が一堂に集まり知識・課題を共有し、インターネットの発展のための議論を行う」場として、Internet Weekの開始以前の1990年から継続しているものです。17回目を迎える今回は、Internet Week 2006の初日である12月5日(火)に開催し、250名を超える大勢の方々にご参加いただきました。
ここ数年は、午前中に【今年一年のインターネット基盤技術を総括するTechnical Issue】、午後は【最新動向を伝える講演とパネルディスカッション】の二部でプログラムを構成しています。午後のテーマ「Internet2.0に向けて-変貌するネットワーク社会を見極める-」については、本誌の特集ページ(P8~P14)でレポートしていますので、本稿では午前の部の内容を報告します。2006年のインターネットインフラの整備状況を、一読で概観できると思います。
また、IP Meetingで使用した資料類は、以下のWebページで公開しております。ご興味のある方はこちらもあわせてぜひご覧ください。 http://www.nic.ad.jp/ja/materials/iw/2006/main/ipmeeting/
午前の部「2006年 Technical Issue」
(1)ネットワーク基盤技術
JPNIC IPアドレス検討委員で、NTTコミュニケーションズ(株)の吉田友哉氏から、最近のインターネットにおけるルーティング、トポロジ、トラフィックの動向などを中心に、インターネットバックボーンの状況報告がありました。
ルーティング動向として、IPv4、IPv6、ASとも増加しており、ことIPv4については経路増大の抑制や集成に向けた取り組みが必要であること、またASに関しては、2013年頃に本格化されるとみられる4Byte-ASへの対応を検討していく必要性について言及がありました。
トポロジー動向としては、10G Aggregationが本格化してきていること、またトラフィック動向に関しては、国内外ともにP2Pのトラフィックを中心にかなりの伸びがあることが報告されました。このようにトラフィックが増えると、コンテンツ配信やP2P配信に関するアーキテクチャを検討していくことが必要になってきます。また、経路情報の脆弱性や不要な経路を排除していくこと、次世代の高速IFの必要性(HSSG)についても言及されました。
IP Meetingの参加者は運用管理(ネットワーク管理)者が、参加者の半数以上であるため、本セッションは、例年アンケートでも関心が大変高い項目です。
(2)レジストリ+ガバナンス
JPNIC IPアドレス担当理事の前村昌紀がチェアとなり、ドメイン名、IPアドレス、WHOIS、ICANNをめぐるインターネットガバナンスの観点から、(株)日本レジストリサービス(JPRS)の宇井隆晴氏とJPNIC IP事業部の奥谷泉と共に、今年のコーディネーションを語るという形式で本セッションは進められました。
前村理事からは、ICANNとインターネットガバナンスフォーラム(IGF)を取り巻く動向について話があり、両団体ともに地道に継続して注目していく必要性があることが述べられました。宇井氏からはドメイン名に関して、世界ではTLDへのIDN導入が検討されているとのお話がありました。また、登録数に関しては「.eu」が躍進していることと、日本では汎用JPドメイン名の登録数が50万件を突破したとの報告がありました。
奥谷からは、IPアドレスポリシーを取り巻く状況の説明がありました。枯渇がささやかれるIPv4アドレスへの対応として、JPNICは「IPv4アドレス枯渇に向けた提言」を発表し、枯渇期に即したポリシーとして、クリティカルネットワーク向けのアドレスやLast Minutes Fairnessの確保、歴史的経緯を持つPIアドレスの連絡先の明確化などが検討されている旨が報告されました。また、IPv6のアドレスポリシーについても、実運用を意識したポリシーの見直しをしているとのことでした。
(3)オペレーショナルセキュリティ
(社)日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)行政法律部会の部会長である甲田博正氏、テレコムサービス協会・(株)インターネットイニシアティブ(IIJ)の齋藤衛氏により、「通信の秘密」に関わる制度の動向を中心にお話をいただきました。
100年の歴史を持つ電話もIP化が進みつつある今、通信方式が変化し、事業、プレーヤー、技術、特性も変化しています。その中で当然、通信の秘密として保護すべき部分も多様化していますが、しかし、現行の法制度下ではあまりに多くの場合が「通信の秘密の侵害」にあたるため、実際には一律の基準で判断することが難しく、ケースバイケースで判断されているのが実情です。こういった状況下では、各自業者が判断に困ることが往々にして起こるため、何が「通信の秘密の侵害」にあたるのかを整理してガイドラインを作成しようという試みが、JAIPAを中心とした「インターネットの安定的な運用に関する協議会」で行われています。
実際どういう場合が「通信の秘密の侵害」にあたるのかというケーススタディがあり、その後、協議会やガイドラインに関しての報告がありました。
(4)NGNとインターネット
東京大学・WIDEプロジェクトの江崎浩氏から、NGNとインターネットの関係および相違点等を解説していただきました。
まずNGNとインターネットは“vs”なのか“with”なのか、という視点から両者の相違点が述べられ、今後の両者の関係として「NGNはASの一つと考えられる?」「Gatewayでつながる?」「NGNの上にインターネットが乗っかる?」という選択肢が示されました。両者の関係がどのように位置づけられるかは未知数であるものの、インターネットの技術者として守るべきものは、現在すでにグローバルに動いている、透明性や接続性・メディアの選択性を備えたインターネットアーキテクチャであると述べられました。また技術標準化やビジネス展開を意識したグローバル性も守っていかなくてはならないとの意見が示されました。
※ 講演者の肩書きは2006年12月5日開催当時のものです。
(JPNIC インターネット推進部 根津智子)