ニュースレターNo.36/2007年7月発行
第23回APNICオープンポリシーミーティングレポート
毎年この時期に開催されるAPNICミーティングは、APRICOTと併せて開催されるのが定例となりましたが、ここではそのミーティングの様子をお伝えしたいと思います。
第23回となるこのたびのAPNICミーティングは、インドネシア・バリで開催されました。APNICスタッフの何名かはテロの影響を懸念して参加を見送り、遠隔での参加という形をとっていましたが、会場は街の中心から離れたホテル地域で、程よくリラックスした雰囲気の中で会議が進められたように思います。
今回の議論の焦点は「IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」と「APNICにおける料金体系の見直し」の2点であり、どちらも今後のアドレス管理やAPNICの運営に関わる重いテーマであったと言えます。
開催概要
【開催期間】 | 2007年2月26日(月)~3月2日(金) |
【開催地】 | インドネシア・バリ |
【会 場】 | Bali International Convention Center(BICC) |
【参加者】 | 132名 |
【プログラム】 | チュートリアル、各種BoF、APOPS(The Asia Pacific OperatorS Forum)、各種SIG、APNIC総会、懇親会 http://www.apnic.net/meetings/23/program/ |
全体報告
提案事項の結果
今回は6点の提案がポリシーSIGに提出され、うち4点はIPv6に関するものでした。そして、「prop-046:IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」の一部を除き、いずれの提案もコンセンサスは得られない結果となりました(提案事項と結果の一覧は末尾参照)。
IPv6に関する提案は全てJordi Palet氏というヨーロッパのIPv6 Task Forceのメンバーでもある方が提案されたものでしたが、IPv6の普及目的のみに着目しているとの懸念が強く、内容よりもこの点について参加者より随分強い口調で反対意見が表明されていました。
そして、提案事項のうち、最も大きな注目を集めたものはIPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー提案です。これはJPNICのIPv4アドレス枯渇対応チームにより策定され提出した提案ですので、当然、JPNICとしてもその結果は非常に気になるところでした。
議論の結果、提案された要素のうち、「世界的に調整のうえ取り組みを進める」「延命のためのルール変更は行わない」「分配済みアドレスの回収は別の議論とする」との考えについてはコンセンサスが得られましたが、「一定のIPv4アドレスを在庫として残すこと」および「割り振り終了日の周知」についてはコンセンサスが得られませんでした。この結果だけ見ても、参加者の総意としては「世界的に検討が必要な課題ではあるとは考えるが、枯渇時期に関する人為的な介入には反対」とのスタンスであることが見て取れます。
本件については、JPNICとしても国内での議論も踏まえたうえで、次回のAPNICミーティングでも議論を継続することになると考えています。
IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシーに関する議論
参加者からの主な意見のうち、JPNICからの提案との最も大きな違いは、枯渇期を目処にISPが一斉に準備を開始する必要性を、必ずしも強く感じていないという点でした。
市場原理に従って物事を進めるのが望ましく、おそらく今後の流れとしてはIPv4アドレスの取り引きが行われたりISPによるNATの多用が進み、IPv4ベースでそういった運用を続けることが経済的にISPにとって合理的ではなくなった時点で、例えばIPv6といった他の運用を自然に選択していくことになるだろう、との意見が米国、豪州等からの参加者の間では主流です。
また、APNICの事務局長も、今後何らかの形でアドレスの取り引きが行われることに備え、現在ポリシーで禁止しているアドレスの譲渡を認めることも検討項目に入れていることを表明しています。
こういった実際の運用状況と市場に委ねる姿勢を、どの程度JPNICの提案の中に盛り込んでいくかが今後の課題と言えそうです。
APNICにおける料金体系の見直し
APNICにおける料金体系の見直しは、“APNIC Feeセッション”として専用に時間をとり、提案ではなく、いくつかの料金体系モデルを基に議論を進める形式をとりました。
これまではAPNIC事務局より提示されたモデルをベースに議論を進めており、これは課金額は異なるものの、基本的には現行通りアドレスサイズに応じて課金するモデルでした。
一方、アドレスが分配された時期、すなわち、実際のコストも考慮したモデルが紹介され、これは古い時期に分配されたアドレスは最近分配されたアドレスよりもレジストリ側のコストは低い、との前提に基づいたモデルです。これはレジストリ側のコストも考慮したモデルであることから特にFeeセッションのチェアは大いに検討の余地があると考えている様子で、今後このモデルをベースに料金体系に関する議論を継続することになりそうです。
また、JPNICのようなNIRに対する課金方法も議論に上り、NIRは収入のうち一定の割合をAPNICへ上納する仕組みや、APNIC、NIR管理下に関わらず、全てのLIRは一律同じ金額が課金されるべき等の意見も表明されました。JPNICの料金体系は基本的にAPNICをモデルにしていることから、こういった料金体系の見直しはJPNICおよび国内の事業者にも影響を及ぼすため、IPアドレス管理指定事業者と調整を進めながら今後も議論を進めていく予定です。
その他の議論
今回は提出期限に間に合わなかったことから提案ではありませんでしたが、既存のGLOPマルチキャストアドレス(RFC3180)の割り当てを拡張した「eGLOP(RFC3138)」アドレス(233.144/14)を、IANAではなくRIR経由で分配するという提案です。同じ提案が他のRIRにも提出されており、アジア太平洋地域においても次回のAPNICミーティングで正式に提案として議論が行われる予定です。
- □prop-047: eGLOP multicast address assignments
- http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-047-v001.html
- □RFC:3180 GLOP Addressing in 233/8
- http://www.ietf.org/rfc/rfc3180.txt
- □RFC3138: Extended Assignments in 233/8
- http://www.ietf.org/rfc/rfc3138.txt
まとめ
今回注目を集めたトピックスであった「IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」と「APNICにおける料金体系の見直し」は、いずれも提示された実装論の根底に疑問を投げかける議論が展開され、結論には結びつきませんでした。
これはテーマの大きさを考えるとある程度予測できたことであり、単なる意見の発散ではなく、一つの視野に縛られずにより多角的な視野で今後の進め方を再検討できる状態になったという意味では建設的であったと考えています。
当日の議論は公式ページより動画やトランスクリプトでもご覧いただけますので興味のある方はAPNIC23のWebページよりご覧ください。
次回のAPNICミーティング
次回のAPNICミーティングは2007年8月末から9月にかけて、インド・ニューデリーでSANOG※1と併せて開催されます。南アジアでの開催はAPNICミーティングとしてこれが初めてです。
提案事項と結果の一覧
コンセンサス | 提案事項 | URL |
---|---|---|
なし | prop-042:IPv6における初回割り振り基準の変更 | http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-042-v001.html |
prop-043:IPv6ポリシー文書中の“暫定”の記述の削除 | http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-043-v001.html | |
prop-044:IPv6における/48を超える割り当てに対する審議の撤廃 | http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-044-v001.html | |
prop-045:IPv6割り振り対象者をエンドサイトへ拡張 | http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-045-v001.html | |
prop-037:電子メールによる申請の廃止(前回より継続) | http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-037-v002.html | |
一部あり | prop-046:IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー | http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-046-v001.html |
参考情報
- □APNIC23公式ページ
- http://www.apnic.net/meetings/23/
- □提案事項一覧
- http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)
- ※1 SANOG(South Asian Network Operators Group)
- http://www.sanog.org/future.htm