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ニュースレターNo.37/2007年11月発行

インターネットが変える、インターネットを変える
― インターネットを巡る七つの視点 ―

総務省総合通信基盤局事業政策課長 谷脇 康彦

変質するインターネット

写真:谷脇 康彦氏

ここ10年でインターネットは急速に普及し、あらゆる社会経済活動の基盤となりつつある。かつて“デジタルエコノミー”と呼ばれた「リアルな取引をサイバー空間での取引で代替することによる効率化」というステージから、「サイバー空間での新しい価値の創造と新事業の創出」というステージに既に入ってきている。

ネットワークの中立性

巨大化・商業化するインターネット。その分析の枠組みとして、ネットワークの中立性という議論がある。総務省「ネットワークの中立性に関する懇談会」報告書(2007年9月)は、ネットワークの中立性の基本原則を、以下の3項目に整理している。

  1. 消費者がネットワーク(IP網)を柔軟に利用して、コンテンツ・アプリケーションレイヤに自由にアクセス可能であること。
  2. 消費者が法令に定める技術基準に合致した端末をネットワークに自由に接続し、端末間の通信を柔軟に行うことが可能であること。
  3. 消費者が通信レイヤやプラットフォーム(認証・課金、QoS制御等の機能)レイヤを適正な対価で公平に利用可能であること。

こうした基本原則はどのように維持していくことができるだろうか。そのためには、より具体的な視点で議論していくことが有益だ。インターネットを巡る七つの視点(懸念)を挙げてみよう。

視点1:インターネットはインフラとして耐え得るのか?

インターネットは研究者間のネットワークから巨大化・商業主義の一途をたどってきた。インターネットの基本精神は「自律・分散・協調」だが、これは巨大化・商業化が進む中で維持できるのか。2010年代初頭には現在のIPv4アドレスは枯渇する可能性がある。IPv6への円滑な移行を図り、意識することなくネットワーク化が実現するユビキタスネットワークは実現可能だろうか。

現在ネットワーク上を流通するトラフィックは2年で2倍のペースで急増している。ユビキタス化の進展はトラフィックの増加速度をさらに加速化させ、インターネットの「自律・分散・協調」が崩壊する可能性はないか。ネットワーク混雑に対処するため、既に関係者の間ではP2Pなどのコンテンツ配信技術を活用したスケーラブルなネットワークの実現に向けた取り組みが始まっている。しかし、現実のトラフィック流通量がネットワークの供給能力を超える可能性もある。その場合、帯域制御はどこまで認められるのだろうか。道路、水道、電力、港湾―いずれのインフラ基盤も、利用の公平性や運用の透明性が求められる。インターネットはインフラとしての要件を満たし得るだろうか。

視点2:セマンティックウェブは実現可能か?

インターネットは、検索技術の進化によってさまざまな情報を効率的に引き出すことが可能となり、爆発的に普及した。さらに最近では、新しいビジネスモデルが登場し、プロ・アマを問わずコンテンツ等をネット上に供給し共有することによって、新たな価値が創造されるようになってきている。情報をネットから引き出し、情報をネットに投げかけ、ネット上で共有し、そこに利潤機会が生まれている。

ソーシャルタグのような情報のタグ化も進んでいる。しかし、ネット上に、新旧を問わず、管理不能なほど膨大な情報が集積されるようになり、本当に必要な情報を整理して効率よく手に入れることは今後とも可能だろうか。今のインターネットの構造のままで、果たしてセマンティックウェブは実現可能だろうか。改良に改良を重ねてきたインターネットは、サイバー空間における情報爆発に耐えられるだけの安定性を持っていると言えるだろうか。

視点3:ネットワークの選択の自由は確保されるのか?

ネットワーク設備を保有する通信キャリアは、現在、NGNの構築に積極的に取り組んでいる。NGNの構築が進むと、果たしてインターネット(the internet)との共存は可能だろうか。NGNは自網内に閉じている限りはエンドエンドで品質保証も可能なIP網だ。また、インターネットに抜けていくためには通信事業者のアクセス網を経由していく必要がある。NGNはインターネットの門番となってしまうのだろうか。

NGNとインターネットという二つのIP網が共存共栄し、利用者が自由に選択することができる「ネットワークの選択の自由」は果たして確保可能だろうか。NGNを透過性の高いネットワークにしていくためには、オープンなNGNの構築が求められるのではないだろうか。

視点4:利用者保護は可能か?

ブロードバンドあるいはインターネットの持ち味の一つは「ベストエフォート」という考え方だ。しかし、インターネットの巨大化・商業化が進む中、ベストエフォートの中で最大パフォーマンス値がどこまで得られるかは極めて不安定になってきている。

インターネットが社会経済基盤になる中、「最大限の努力をしてルーティングを確保し、通信を疎通させる」という本来のベストエフォートの意味と、「約束した品質は出ないが、ご容赦ください」という別のベストエフォートの意味の相克が生まれる恐れはないだろうか。

そもそも、これまでの通信サービスは原価を把握し、これに一定の利益率を積んだ上で利用者から直接対価を徴収する形がとられてきた。しかし、グーグルに代表される広告モデル、フォンのような共益コミュニティ型モデルなどが登場すると、伝送ネットワークを中心に、“対価直接徴収型”のビジネスモデルが崩れる可能性は出てこないだろうか。その場合、受益者とコスト負担の関係が崩れる中、対価を払う利用者の意向を踏まえてサービス向上を図るという需要と供給の「緊張関係」は引き続き維持可能だろうか。また、ネットワークコストの内容が利用者から見えなくなり、不透明感が高まる可能性はないだろうか。

視点5:端末は引き続き端末か?

これまでのネットワークは交換機に代表されるように、ネットワークの内部に高度なインテリジェンスを内蔵していた。通信事業者は、NGNというIP網への移行を進め、SDP(Service Delivery Platform)という頭脳を持ったヒエラルキー構造のネットワークを構築しようとしているが、これまでのネットワーク構築の哲学との継続性を考えれば、これも理解できる。

他方、ネットワークエッジの部分にはPCを始めとする多数のインテリジェンスが集積し、グリッドコンピューティングのように、仮想的にこれらを統合管理して使う仕組みや、端末とサーバが連携して付加サービスを実現するSaaS(Software as a Service)なども登場している。

インターネットは、果たしてインテリジェンスの集積と分散がバランスよく実現したものになるだろうか。ネットワークエッジの端末機能の高度化は、ネットワークに機能を制限されることなく、ネットワークをダムパイプとして使う利用形態を促すことになるのではないか。

他方、こうしたインテリジェンスの分散は、エンドエンドで見た場合、端末、アプリケーション、ネットワークなど多数の参加者の連携によるサービス提供を可能にする。その中のどこかで事故が発生してサービス停止に追い込まれた場合、果たして誰が責任をとるのかといった「責任分担モデル」の構築も求められているのではないだろうか。

視点6:電脳民主主義は実現するか?

物理的なネットワークには国境という制約条件がある。しかし、サイバー社会にはそのような制約条件はなく、セカンドライフのように、自由に国境を越えた経済活動を行うことも可能だ。

逆に言うと、サイバー社会において強力な市場支配力が生まれてしまった場合、果たしてこれを排除することは可能だろうか。各国の法制度は国境を越えられない。スパム対策などで各国の連携強化が叫ばれているが、その取り組みは試行錯誤の段階に留まっている。

また、サイバー社会において国境が存在しない一方、グーグルの中国進出時の議論のように、各国の政治・社会情勢には配慮が求められる。しかし、サイバー社会において国際的な民主主義を実現するためには、どのような枠組み作りが必要だろうか。ここ数年議論が続けられてきたインターネット・ガバナンス問題に見られるように、各国の主権とサイバー社会における国際協調という観点から、新しい電脳民主主義の構築が求められているのではないだろうか。しかし、それは具体的にどのようなものだろうか。

視点7:新世代ネットワークはいつ実現するか?

インターネットの巨大化・商業化が進む中、そもそも今の「ツギハギ」のインターネットでは持たないのではないかという議論が出てきた。NGN(あるいはNXGN)と区別して、新世代ネットワーク(NWGN)と呼ばれる議論で、米国NSFの「GENIイニシアティブ」やNICTの「AKARIプロジェクト」などで議論が進んでいる。

「AKARIプロジェクト」の基本的な発想は、これまでのネットワークアーキテクチャを一旦ご破算にして、ぺタビットクラス以上のオール光網で、レイヤ縮退とクロスレイヤ制御を基本に、IPに捉われない持続進化性を持ったネットワークを生み出していこうということにある。これは、今のIP網のアーキテクチャでは早晩限界が来るという危機意識の裏返しとも言える。

NWGNの構築は2015年頃の具体化を目指している。その前段階としてのNGNの構築、あるいはIPv4からIPv6への移行などとダブルトラックで進んでいく。新世代ネットワークの実現可能性をどう考えれば良いだろう。また、そのためのロードマップはどうあるべきだろうか。

変革期のインターネット

以上の七つの視点は杞憂に終わるものかもしれない。しかし、インターネットの抱えている「今」と「これから」を考えるためには、具体的なイメージを基に議論していくことも一案だろう。「インターネットが社会経済の仕組みをどのように変えていくのか?」、そして、その反作用として、「社会経済活動の変化に対応して、インターネットはどう変わっていかなければならないのか?」という二つの面から、建設的な議論が求められている。

(本文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解です)

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