ニュースレターNo.37/2007年11月発行
第12回JPNICオープンポリシーミーティング報告
開催概要
日時: | 2007年7月17日(火) 10:00~17:50 |
会場: | 日本教育会館 中会議室 |
参加人数: | 89名 |
全体報告
2007年7月17日(火)、日本教育会館(東京都千代田区)で開催しました、第12回JPNICオープンポリシーミーティングの様子をお伝えしたいと思います。
今回は、単独開催の形式をとった中では最も多くの方にお申し込みいただき、当日の参加者数は関係者を除いて89名でした。このうち多くの方が、「IPv4アドレスの在庫枯渇に向けたポリシー提案」に最も強い関心を持っていらしたようです。
また、アンケートにご回答いただいた方のうち、4割弱となる38%の方が、今回初めてのご参加ということです。このように少しずつ、新たにポリシー策定に興味を持つ方が増え、参加者層が広がっていくことは喜ばしいことです。
そして、今回の提案事項ですが、3点提出された提案は下記の結果となりました。
- ip-users ML アーカイブの設置提案
参加者によるコンセンサス(合意)には至らなかった - プロバイダ用IPv4プライベートアドレスの提案
参加者によるコンセンサス(合意)には至らなかった - IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー提案
下記の点については参加者のコンセンサス(合意)が得られた。詳細条件1および3については会場での意見、MLでの意見を考慮した上で修正し、次回APNICミーティングへ提案する。
- IPv4アドレス枯渇に向けた何らかのポリシー検討をし、提案を行うこと
- 提案の大枠について
議論を進めるにあたっては、APNICで申請業務を統括しているリソースマネージャー、Guangliang Pan氏もミーティングに参加し、適宜アジア太平洋地域全体の観点からの発言をいただきました。彼自身にとっても、日本における状況が理解できて興味深かったようです。また、APNICの日本人スタッフで、トレーナーをされている藤井美和さんにも参加いただき、Guangliang氏の通訳も務めていただきました。
IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー提案
本提案は、今後数年以内と予測されている、IPv4アドレスの在庫枯渇に向けて、関係者への十分な周知と、残りのアドレス分配をめぐって混乱が生じることの無いよう、あらかじめ分配方針を明確にすることを目指したものです。
提案の大枠を整理すると、下記のようになります:
- IANAからRIR、RIRからLIRへのIPv4アドレスの分配は、それぞれ分けて定義する
- IANAの未分配プールが残り10×/8になった時点で、各RIRに/8を2ブロックずつ分配し、この時点をIANA Exhaustion Dateと定義する
- IANA Exhaustion Date以降は、初回の割り振り申請を優先し、追加申請についてはより厳しい基準を適用する
より詳しい内容については、当日の発表資料よりご確認ください。
http://venus.gr.jp/opf-jp/opm12/jpopm12-7-2.pdf
議論の結果、以下の方針については、過半数を超える参加者の支持が確認されました。
- (何も対策を行わず、枯渇するまで現行のポリシーで分配を進めるのではなく)枯渇に向けてポリシー面で何らかの対策を行う
- 現状の分配基準が維持される日付を設定し、それまで分配基準は変更しない。また、この日付の周知を進める
- 定義された日付以降、何らかの方法で分配基準を厳しくする
しかし、IANAからRIRへの分配サイズの合理性、IANA Exhaustion date以降、初期割り振り申請を優先することの適切性、追加申請の利用率を上げることの効果に対して疑問が投げかけられ、IANAからRIRへの分配サイズ、IANA Exhaustion date以降にどういう形で厳しい基準を適用するかについては、合意に至りませんでした。
議論の最も大きな焦点となった部分は、特定の日付以降、初回割り振り申請には現行通りの基準を適用するが、追加割り振り申請に対しては厳しい基準を設定している点です。IPv4アドレスが必要である事実は、新規事業であっても事業拡張であっても同じであるにも関わらず、なぜ初回の申請だけを優遇するのか等の疑問が表明されました。
提案者からは、IPv4インターネットへの接続にあたっては、IPv4アドレスが必要となり、既に分配を受けている組織はそれを工夫することにより、何らかの接続手段を実現することが可能と思われるが、新規の場合はそもそもそういった手段を持ち合わせていないとの説明がありました。しかし、「本当に必要な人は誰なのか」の議論になると、それぞれ立場によって「必要性」の考えが異なり、全員が納得する「必要性」を定義することはできませんでした。
プロバイダ用IPv4プライベートアドレスの提案
IPv4アドレスの在庫枯渇後も、プロバイダがユーザーへ、IPv4接続サービスの提供を継続できることを目指した提案です。
在庫枯渇の状況から、プロバイダが新たにグローバルアドレスを取得せず、プライベートアドレスを利用してIPv4接続サービスを提供しようとした場合、ユーザー側で使用しているプライベートアドレスと、プロバイダ側で利用するプライベートアドレスが、重複する可能性が出てきます。しかし、この提案により、プロバイダ専用のプライベートアドレスを新たに設けることで、ユーザーで利用している空間との重複を避けることが可能となります。
提案内容の詳細はこちらをご覧ください。
http://venus.gr.jp/opf-jp/opm12/jpopm12-5.pdf
これに対する懸念としては、プロバイダ専用のプライベートアドレスを設けることは、プロバイダが自己の利益のためにアドレスを確保しようとする動きに見える、拡張するなら用途を限定せずに開放するべきとの意見があり、本提案における議論の焦点となりました。
一方、提案を支持する意見としては、一見プロバイダのエゴのように見えるものの、本提案が施行されなければその分グローバルアドレスが消費されていくことになるが、本提案は複数のプロバイダでアドレスを共有することにより、資源の有効活用につながるという主張です。
その他、「プロバイダ」をどう定義するべきか、現在でもプライベートアドレスを利用することは可能だが、実際活用されていないケースが多い等の指摘がありました。支持する声も多かったものの、まだいくつか検討を必要とする課題が残されている状況です。ミーティングでの結論としては、今回はコンセンサスには至らず、WGを立ち上げ、再提案に向けて検討を進めることになりました。
ip-users ML アーカイブの設置提案
これはip-usersメーリングリストのアーカイブを公開し、途中から議論に参加する人でも、背景や経緯を追えるようにすることを目的とした提案です。詳細はこちらよりご覧ください。
http://venus.gr.jp/opf-jp/opm12/jpopm12-4-1.pdf
この提案に対しては、ほとんどの参加者が支持を表明されたものの、アーカイブ公開の際に委託先となることが予想されるJPNIC職員の一部から、アーカイブ公開によって発生する、個人情報保護法抵触のリスクは取れないとの懸念が示されたため、「コンセンサスには至らず」と判断されました。
アーカイブを誰にでも見える形で公開するとなれば、それは個人情報保護の観点からはどのようにしても実装できないとする考え方と、実現する何らかの方法はあるはずとの考え方があります。最もシンプルに考えれば、電子メールアドレスをマスキングした上で公開することを登録者に同意していただけば、大きな問題は無いようにも思えますが、やはり法務家を交えた判断が必要になりそうです。
このような事情から、今回はコンセンサスには至りませんでしたが、メーリングリストアーカイブの公開は、APNICでも、その他レジストリ、そしてIETFでも行われていることですので、何とか実現に向けた議論を進めていきたいものです。
ミーティングを振り返って
参加者や議論の状況を見て、これまでよりも多くの方が、ポリシー策定に興味を持ってくださるようになりつつあることを感じました。そうはいっても、昔からポリシープロセスについてご認識いただいている方に、参加者層が限られている傾向があることも事実ですので、これを十分に認識し、今後も周知活動を継続していきたいと思います。
また、一定の支持が確認されている提案についても、なかなかコンセンサスに至らないとのご指摘もあります。JPNICとポリシーワーキンググループで相談しながら、効果的な議論、議論の判断プロセス等についても、改善に向けて検討を進めていく予定です。
次回のJPNICオープンポリシーミーティングは、Internet Week 2007で、ワークショップの一つとして開催する予定です。今回ご都合によりご参加いただけなかった方も、ぜひ一度参加してみてください。
(ポリシーワーキンググループ 藤崎智宏/JPNIC IP事業部 奥谷泉)