ニュースレターNo.37/2007年11月発行
第10回LACNICミーティング報告
第10回LACNICミーティングが、2007年5月21日から25日まで、ベネズエラのマルガリータ島で、25ヶ国から約300人の参加を得て行われました。LACNICは世界に五つあるRIRの一つで、ラテンアメリカおよびカリブ海地域を管轄するRIRです。会場のホテルは町中から隔絶され、隣の建物まで数km離れているという、実に会議に集中できる環境でした。
LACNICミーティングにJPNICの職員が出席するのは、今回が初めてということになります。また、全参加者の中でも日本人は私1人でした。プレゼンテーションはほとんどスペイン語で行われますが、ミーティング全体でスペイン語・英語・ポルトガル語の三言語相互同時通訳がつきますので、英語での質疑応答が可能でした。
LACNICにおいても、提案は事前にメーリングリスト(ML)に提出され、MLおよび実際の会議での議論を経て、コンセンサスを得るという大きな流れは、他のRIRにおけるIPアドレスポリシー策定プロセスと同じです。
今回の会議では、IPアドレスポリシーを議論する場として、1時間半のセッションが4日間にわたり、合計5セッション設けられました。そこで行われた議論の内容を、以下に報告いたします。
IPv4アドレス消費に関するパネルディスカッション
最近注目を浴びているIPv4アドレス在庫枯渇問題ですが、LACNICミーティングでも、この問題と議論の内容を紹介するパネルディスカッションが行われました。私もパネリストの一人として招かれ、最新のIPv4アドレス在庫枯渇予想や、この問題に対応するためのアドレスポリシーが、各地域で議論されていることなどを紹介しました。
パネリストと会場のいずれからも「IPv4アドレス在庫枯渇に対する長期的かつ根本的な解は、IPv6の利用である」というコメントが聞かれ、IPv6の普及に向けて、レジストリやコミュニティがやるべきことを早急に検討する必要がある、ということが確認されました。
ポリシー提案
今回のミーティングで議論された、IPアドレスポリシー提案の概要と結果を、以下にご紹介いたします。
IPv4アドレス関連
(1)IPv4アドレスの在庫枯渇に向けたポリシー
前回のAPNICミーティング(APNIC23)、ARINミーティング(ARIN XIX)、RIPEミーティング(RIPE 54)で提案されたものと同じ内容で、以下の四つの要素からなるものです。
- IPv4アドレスの在庫枯渇に対しては世界的に調整の上、取り組みを進める
- 延命のためのルール変更は行わない
- 分配済みアドレスの回収は別の議論とする
- 割り振り終了日を前もって決めた上で周知する
会場では、「割り振り終了日を決めてしまうと駆け込み申請が起きてしまうのではないか」「RIRに未割り振りアドレスがある限りは割り振りを続けるべき」などのコメントが出て、コンセンサスには至らずMLで継続議論することとなりました。
(2)IANAからRIRへのIPv4アドレスの最終割り振りに関するポリシー
IANAにおける/8の在庫が25個になった時点で、その25個を5個ずつ、五つのRIRへ割り振ってIANAからRIRへのIPv4割り振りを終了するという提案です。IANAからRIRへの割り振りポリシーは「グローバルポリシー」と呼ばれ、全RIRのミーティングでコンセンサスを得た後、さらにICANN理事会の承認を得る必要があります。
会場では、「25個もの/8を一度に割り振り切ってしまうのは乱暴ではないか」「一律に5個ずつではなく、人口比で分けてはどうか」等のコメントが出ましたが、細かい数値は他RIRの議論を反映して修正し、再度ミーティングでコンセンサスを得るものとする条件付きでコンセンサスとなり、45日間の最終コメント期間(Last Call)に付されることとなりました。その後、最終的にLACNICの理事会で承認されています。
(3)マルチキャストアドレスのRIRからの割り当て
現在、IANAで行っているマルチキャストアドレスの割り当てを、RIRから行うように変更するという提案です。賛否両論ありましたが、提案者が自ら、今後さらに議論することを望んだため、MLで継続議論されることとなりました。
IPv6アドレス関連
(4)IPv6プロバイダ非依存(PI)アドレスの割り当て
IPv4のPIアドレス割り当て要件を満たしていれば、IPv6のPIアドレス(/48)についても、割り当てを受けることができるとする提案です。ARINやAPNICでは、既にPIアドレスの割り当てを認めるポリシーが施行されていますが、割り当ての要件をもう少し明確に記述する必要がある等のコメントが出てコンセンサスに至らず、MLでさらに議論することとなりました。
(5)IPv6アドレスにおける2回目の割り振り(初回の追加割り振り)を受ける要件の変更
IPv6アドレスの初期割り振りを受けた組織が、初めての追加割り振りを受けるとき、初期割り振りで受けたアドレスを6ヶ月以内に返却する場合に限り、追加割り振り要件ではなく、初期割り振りの要件を適用して、割り振りアドレスのサイズを決定する、という提案です。
現在のポリシーでは、それまでに受けた総アドレス量と同じだけのサイズが、追加割り振りとして割り振られますが、この提案では、より多くのアドレスの割り振りを受けることが可能となります。
この提案はコンセンサスに至り、その後LACNIC理事会で承認がなされています。
(6)同一サイトへ複数の/48を割り当てる際の審議不要化
現在のポリシーでは、同一サイトへ複数の/48を割り当てる際には、RIR/NIRに対し審議申請を行うことを求めていますが、これを不要とする提案です。APNIC、ARINでは却下となった提案ですが、ミーティングでは特に反対は無くコンセンサスに至り、この提案もLACNIC理事会で承認されました。
(7)IPv6アドレスポリシー文書からの「暫定的」という言葉の削除
現在のポリシーでは「このポリシーは暫定的(Interim)であるものとしてみなされ、将来IPv6の運用に関するより幅広い経験に従って見直される」という記述がありますが、既にIPv6の運用の経験は十分蓄積されたとの理由で、この部分を削除するという提案です。先のARINミーティングではコンセンサスとなった提案ですが、今回のLACNICミーティングでもコンセンサスとなり、その後LACNIC理事会で承認されました。
(8)IPv6アドレス広報に関するポリシー変更
現在のポリシーでは、割り振りを受けたIPv6アドレスは、集成して一つのブロックとして広報することという記述がありますが、トラフィックコントロールのためにいくつかのブロックに分けて広報するニーズがあることから、この要件を削除しようとする提案です。
ミーティングでは、この要件の削除に関して否定的なコメントが複数なされたこともあり、MLで継続議論することとなりました。
(9)IPv6アドレス初期割り振り要件の変更
現在のポリシーではエンドサイトへの割り振りを認めていませんが、エンドサイト内で/48を割り当てる計画があれば、割り振りを認めるという提案です。
ミーティングでは特に反対も無くコンセンサスに至り、LACNIC理事会で承認されました。
(10)IPv6ユニークローカルアドレス割り当てに関する提案
現在、IETFでも議論されているIPv6ユニークローカルアドレスの割り当てを、RIRで行うという提案です。現時点では、このアドレスに関するRFC自体が成立していないこともあり、今後も継続して議論するという結論になっています。
その他のポリシー
(11)IANAからRIRへのAS番号割り振りポリシー
このポリシーも「グローバルポリシー」として提案されているもので、IANAからRIRへは、1,024個単位でAS番号を割り振ることを定めるポリシーです。提案者からは、現在取られている割り振り方法を明文化するものだという説明があり、IANAの担当者からも同様のコメントがありました。
この提案に関しては特に反対のコメントは無く、コンセンサスとしてLast Callに付され、その後LACNIC理事会で承認されました。
LACNICミーティングは年一回開催のため、次回は2008年5月の開催(場所は未定)となります。
(JPNIC IP事業部 穂坂俊之)