ニュースレターNo.37/2007年11月発行
第69回IETF報告
全体会議報告
2007年7月下旬に第69回IETFが開催されました。本稿では、全体概要とDNS関連WG、IPv6関連WG、セキュリティ関連WGについてのレポートをご紹介します。
はじめに
11時間半のフライトを経て、航空機はやや揺れながらシカゴ・オヘア空港に着陸しました。シカゴはミシガン湖から吹く風のため「Windy City(風の街)」と呼ばれているそうですが、そのためか湿度が高く、この時期の気候は東京の気候に近いように感じます。しかし、ループと呼ばれるダウンタウンの中心部には、ビルがひしめくように建っており、ビルの間を高架の電車が行き交う様子はシカゴ特有の情景と言えます。世界第三の高さを誇るシアーズタワーはシカゴのループ内にあります。
概要
第69回IETFは、2007年7月22日(日)から27日(金)にかけて、シカゴのPalmer House Hiltonというホテルで開催されました。このホテルのビルは歴史のある建物で、テラス付きのホールがあるなど内装が素晴らしい会場です。
今回のIETFの参加登録者数は1,146名で、前回より37名ほど増えました。前回と同様に約40ヶ国からの参加があり、内訳は第一位がアメリカ(45%)、第二位は日本(10%)、第三位はドイツ(4%)でした。その後はフランス(4%)、イギリス(3%)、韓国(3%)と続きます。今回も日曜日のチュートリアルから始まり、月曜日から金曜日までWGやBoFのミーティングがありました。水曜日と木曜日に、それぞれIETF Operations and Administration PlenaryとTechnical Plenaryが開かれました。Plenaryは参加者全員を対象とした全体会議です。
IETF Operations and Administration Plenary
IETF Operations and Administration Plenaryは、こちらも前回と同様、4日目の水曜日に行われました。このPlenaryは、IETFの活動全体や各ミーティングの運営に関する報告などが行われるミーティングです。
今回は、Russ Housley氏がIETFチェアに就任してから初めて行われるPlenaryです。アジェンダの構成には特に変更がなく、NOCのレポート、ホスト企業のプレゼンテーション、第69回IETFミーティングの概要、IESGのオープンマイク(会場から意見を挙げてもらって議論を行う時間)がありました。
NOCのレポートによると、今回のIETFミーティングでは、合計87台のアクセスポイントが使われて、参加者が行き来する1階、2階から6階までで無線LANが使えるようになっていました。会期中の同時利用ノード数は最大で748ありました。これは参加登録者数の65%にあたります。参加者の半数以上が同時に無線LANに接続しているカンファレンスは、他にはあまり例を見ないのではと思われます。近年のIETFでは、会議の資料をWebで閲覧できるようになっていることが関係しているかもしれません。
- □ IETF 69 Preliminary & Interim Materials
- https://datatracker.ietf.org/meeting/69/materials.html
ホストを行ったMotorola社からは、インターネットの昔と今を比べたプレゼンテーションが行われました。10年前は世界の携帯電話台数が約32万台であったのが、今や30億台に達しているそうです。ユーザーの接続部分である“エッジ”を提供しているMotorola社らしく、IETF参加者に向けて「Don't forget the Edge.」というメッセージが伝えられていました。
続いてRuss Housley氏からIETF活動状況の報告がありました。現在、約120のWGが活動しており、新たに436のドラフトが作成されました。またRFCは103発行されました。ここ1年のドキュメント数を比較してみましたが、WG数や新規ドラフト数には大きな変化はないようです。
WG数 | 前回以降の新規ドラフト | 前回以降の新規RFC | |
---|---|---|---|
第69回IETF | 120 | 436 | 103 |
第68回IETF | 120 | 441 | 95 |
第67回IETF | 120 | 440 | 104 |
他に、IAOC(IETF Administrative Oversight Committee) Webページの公開や、IETF ToolsのWebページにパスワード認証機能が付加されたことについてお知らせがありました。
- □ IETF Administrative Support Activity (IASA)
- http://iaoc.ietf.org/
- □ IETF Tools
- http://tools.ietf.org/
パスワード入手のためのページは、左側の「Get Password」というリンクから辿ることができます。
IESGオープンマイクは、参加者がIESGメンバーとIETFの運営等に関する議論を行う時間です。会場からは、IPv6 WGの活動が見られない、IPv6におけるNATの位置付けなどIPv6への移行について包括的に整理した文書が必要である、IETFの策定プロセスを改善する議論を継続する必要がある、といった意見が出されていました。
Technical Plenary
Technical Plenaryは5日目の木曜日に行われました。今回はOlaf Kolkman氏がIABチェアに就任してから初めてのTechnical Plenaryです。
今回は、IRTF活動報告とIAB活動報告の後に、恒例のテクニカルプレゼンテーションはなく、そのままオープンマイクの時間になりました。
IRTFの活動報告とIABの活動報告は比較的手短に終わりました。IRTFではここ3ヶ月の間にRFC4838を作成し、新たなドラフトの作成も行っているそうです。この報告では他に大きなトピックはありませんでした。
IABからは、ITUから送られてきた“Consultation on ITU Resolution 102”という活動のアンケートに対して回答したという報告がありました。これはIPアドレスやドメイン名などの管理に付随する、国際的かつパブリックなポリシーの策定に関するアンケート(問い合わせ)で、ITUメンバーの活動方針を検討するために使われるようです。IETFの活動を概説した回答がなされていました。
- □ Response on “Consultation on Resolution 102”
- http://www.iab.org/documents/correspondence/2007-05-21-itu-resolution-102.html
オープンマイクでは、まず今回のTechnical Plenaryで技術的なプレゼンテーションがなく、技術的な議題が明らかになっていないことに対する指摘から議論が始まりました。これに対しては、今回適切なスピーカーが見つからなかったというKolkman氏からの回答に留まりました。
この他には、IPv6におけるNATの位置付けを発端とする、End to Endの原則に関する議論が行われました。会場の参加者による呼びかけで挙手が行われ、自宅においてグローバルIPアドレスを使ってインターネットに接続しているユーザーは、NATもしくはNAPTを使って接続しているユーザーよりも少ないことがわかりました。この結果から、IPのレイヤーでは、End to Endの原則が成り立っていないのではという問いかけがありました。
これに対し、IABメンバーからは、IETFにおけるEnd to Endの原則は、技術の複雑化を避け、ネットワークの堅牢性を維持するために重要である、デザインゴールとしての原則であるといった反論がありました。続いて、ユーザーのPCにおいてファイアウォールをデフォルトで設定せざるを得ない状況や、IPv6アドレスが必要とされる場所についての意見交換等に繋がっていきました。ただし、議題の中心的なトピックが提示されなかったためか深い議論にはならず、ほぼ定刻通りにPlenaryが終了しました。
IABによるRouting & Addressing workshopやその報告を受けて、今の段階で必要とされる議論は多いと考えられます。次回以降のTechnical Plenaryでは、より活発な議論が行われることが望まれていると思われます。
次回の第70回IETFミーティングは、2007年12月2日から7日にかけて、カナダのバンクーバーで開催される予定です。Plenaryで発表されたIASAの予算計画によると、ホスト企業が現れない場合、参加費の大幅な値上げが見込まれるようです。
(JPNIC 技術部 木村泰司)