ニュースレターNo.38/2008年3月発行
ARIN XXミーティングレポート
2007年10月17日(水)~19日(金)、米国ニューメキシコ州のアルバカーキーで開催されたARIN XXについてご紹介します。
年2回開催されるARINミーティングのうち、秋に開催されるミーティングは例年NANOGとの併催という形をとっています。今回の参加者数はNANOGが452名、ARINが203名、NANOG・ARIN両ミーティングへの参加者は123名ということです。
ミーティング全体としては、IPv4在庫枯渇に向けた課題の検討が中心といった印象でした。これは在庫枯渇予測時期が今後数年以内とされている今、どこのRIRコミュニティでも注目されているテーマですが、ARINではIPv4アドレスマーケットの可能性、経路情報への今後の影響等、一つの分野に閉じずに枯渇に伴う課題について議論が行われていた点が特徴的でした。
パネルディスカッション:IPv4アドレスマーケット
5名のパネリストにより、現在はポリシーで禁止しているIPv4アドレスの取り引きを、枯渇に向けて認めた場合の課題について議論が進められました。
- Paul Vixie(パネルモデレーター)
- John Curran(ARIN Chairman)
- Ben Edelman(IT専門の経済学者)
- Tony Li(Cisco)
- Steve Ryan(ARIN顧問弁護士)
参加者も含めて多くの人が懸念事項としてあげていたものは、株のように扱われて価格が跳ね上がることと、これまで集約されていたアドレスが複数ブロックに分けて取り引きされると経路情報の増加につながること、の2点です。
経路増加の対策としては、経路を流す組織に対価を支払わせる「routing slot market」の考えも一案として紹介され、ARINのメーリングリストでは引き続き議論が行われていました。
IPv4/IPv6経路情報増加に伴う影響と対策に関する発表
Jason Schiller氏とJohn Scudder氏からそれぞれ、経路増加に伴う問題と現在検討されている技術について紹介されました。
Schiller氏は、市場で提供されるハードウェアの処理能力は、経路増加に対して7年ほど遅れをとっており、IPv6の実装とファイアウォールフィルターにより、状況は悪化すると考えられると発表で述べています。一方、参加者からは、経路の集約も今後進んでいくと考えられ、実際それほど悲観するほどの状況ではないのではとの指摘もありました。
Scudder氏からは、そのような状況への対策として、経路制御とホスト識別の機能を分けるLISPや8+8/GSE等、現在IETFで検討されている技術が紹介されました。ただし、特に分けた機能のマッピング等、各技術においてまだ課題が多く残っているということです。
アドレスポリシー提案の結果
今回のミーティングでは13件の提案があり、このうち以下の4件が参加者の支持が得られる結果となりました。
- Policy Proposal 2007-19
- :IANAからRIRへのAS番号分配ポリシー
- Policy Proposal 2007-21
- :契約締結を行った歴史的PIアドレスの割り当て先へのIPv6アドレス割り当て
- Policy Proposal 2007-22
- :ARIN地域におけるISPへのIPv4アドレス分配期間を他のRIR地域と合わせる提案
- Policy Proposal 2007-25
- :IPv6ポリシーの文言整備
2007-21以外は実運用の明文化、またはRIR間における運用の統一性につなげるものであり、実質的な影響はありません。
2007-21は、現在歴史的PIアドレスとしてIPv4の割り当てを受けている組織に、ARINから直接分配を受けられるIPv6のPIアドレスの割り当てを認めることを提案しています。これらの組織は、上位のISPに依存しないIPv6アドレスを必要とするものの、現状の分配基準を満たすことができないことが、理由としてあげられています。
その他ARINコミュニティにおける提案事項は、以下のURLをご覧ください。
- Policy Proposal Archive
- http://www.arin.net/policy/proposals/proposal_archive.html
このうち、Policy Proposal 2007-19については2008年2月までに施行され、Policy Proposal 2007-25もICANN理事の承認が得られ次第、施行される予定です。
残りの2点の提案についてはARIN理事による検討の結果、現時点ではまだ継続議論のステータスとなっています。
JPNICからのポリシー提案
また、JPNICから、IPv4アドレスの在庫枯渇に向けて、IANAのIPv4アドレス在庫が/8単位で5ブロックを切った時点で、各RIRへ/8を1ブロックずつ分配する提案を行いました。これは全RIRのミーティングで提案しているものです。
一方、同じくIANA在庫のRIRへの一律分配ではありますが、各RIRへ/8を2ブロックずつ分配する提案がLACNICからも行われているため、両提案をあわせて議論が行われました。
結果としては、IANAにおけるIPv4アドレス在庫の最後数ブロックを、一律RIRへ同じサイズで分配する枠組みについては参加者の支持が得られましたが、分配サイズについては結論が出ていないため、継続議論というステータスになっています。
今後は、IANAから各RIRへの具体的な分配サイズについて、全RIRコミュニティに対して提案を行うことになります。また、これとは並行して、APNICにおける最後のアドレスプールをどのように分配するか、その方法について提案を進める必要があると考えています。詳しくは今後発行するJPNIC News & Views特別号「IPv4アドレス在庫枯渇関連レポート」※1で随時、状況をご確認ください。
NRO NC選挙
Sanford George氏の任期満了に伴い、ARIN地域代表となるNRO NCの選挙が行われました。NRO NCは、実質的にはICANN ASOのACとして、グローバルなアドレスポリシーをICANNが承認するにあたり、ICANN理事へ助言する役割を担います。候補者5名のうち、UUNETのJason Schiller氏が当選となりました。
まとめ
スペースの関係上、全てをご紹介することはできませんでしたが、ポリシー提案も在庫枯渇に向けた対策としているものが半分以上を占めていました。次回に向けて継続議論になった提案のうち、IPv4アドレスの分配基準をIANAブロックの在庫数に応じて厳しくしていく提案と、歴史的PIアドレスをPAアドレスと交換することを認める提案は、特筆すべきものであると考えられます。特に、前者は他の地域でも提案される可能性があるということですので、動向を注意深く見守る必要がありそうです。
参考情報
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)
- ※1 JPNIC News & Views バックナンバー
- http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/index.html