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ニュースレターNo.39/2008年7月発行

インターネット歴史の一幕:
ルートDNSサーバ IPv6対応への道

JPNIC DNS運用健全化タスクフォースメンバー/東京大学情報基盤センター 関谷 勇司

2008年2月4日(米国時間)に、DNSのルートゾーンにAAAAレコードが登録されました。具体的には、A、F、H、J、K、Mの六つのルートDNSサーバにAAAAレコードが登録され、IPv6トランスポートによるルートDNSサーバへの問い合わせへの対応が正式に開始されました。

この段階に至るまでには、ICANNのDNS Root Server System AdvisoryCommittee(RSSAC)やSecurityandStability AdvisoryCommittee(SSAC)にてさまざまな議論や試験が繰り返されました。その結果は文章にまとめられ、Webサイト上で公開されています※1

ルートDNSサーバをIPv6対応にする、という言葉には二つの意味が存在します。一つは、ヒントファイルの整備も含めてルートDNSサーバをIPv6トランスポート対応にすること(1)、もう一つは、ルートゾーンにAAAAレコードを登録すること(2)です。

(1)は、比較的早い時期から対応が始められていました。各ルートDNSサーバの管理者が、IPv6トランスポートに対応したルートDNSサーバを試験的に立ち上げ、運用の経験を積んでいました。そのため、大きな混乱や障害も無く、IPv6正式サービスを開始できたと思われます。しかし、ルートDNSサーバをIPv6トランスポート対応にしたのみでは、ユーザーがそのIPv6アドレスを明示的に指定して名前解決を行わない限りは、ルートDNSサーバからのIPv6による名前解決は発生しません。そこで、次の段階が(2)の、AAAAレコードの追加です。これによって、ユーザー側のDNSサーバがIPv6を利用できる環境にある場合には、ルートDNSサーバへの問い合わせが、IPv6によって行われるようになります。

これは、ユーザーに直接影響を与える変更であり、もし何らかの不都合や障害が発生すれば、インターネット全体の名前解決に影響を与える結果となってしまいます。そのため、(2)の段階を行うにあたっては、前述の通り、事前に多くの議論が行われました。個人的な感想としては、少し臆病になりすぎているのでは、と思われるくらいの長い議論となりました。解決すべき技術的な課題としては、DNSサーバ実装の差異による不都合が発生しないか、またAAAAレコードを加えることでメッセージサイズが増大するため、DNSにおけるUDPメッセージの最大長を超えないようできないか、等の議論が行われました。現在のルートDNSサーバのIPv6対応状況は、Webサイト上にて公開されています。

WIDEプロジェクトが管理運用を行っているMルートDNSサーバも、比較的早い段階からIPv6トランスポートへの対応を行っていました。2000年には試験IPv6アドレスを利用して、IPv6トランスポート対応ルートDNSサーバの試験運用を開始しました。これは外部に公開するものではなく、IPv6トランスポートを有効にした場合において、OSやDNSサーバの実装に不都合が無いか、また運用上の問題点は無いか、等の試験を行うために立ち上げました。特に、当時はまだIPv6トランスポート対応のDNSサーバ実装もまだ普及しておらず、いくつかの実装上の問題点を発見するのに役立ちました。

その後、APNICから正式にIPv6アドレスブロックを取得し、ルートDNS管理者の間で情報を共有しながら、IPv6対応ルートDNSサーバの運用と検証を引き続き行ってきました。その結果、MルートDNSサーバは、IPv6正式対応時にも問題なくIPv6サービスを開始することができました。

ルートDNSサーバがIPv6に対応することにより、インターネットにおいて何かが大きく変わるわけではありませんが、IPv6普及に向けての着実な進歩であると思われます。IPv6が試験レベルのプロトコルではなく、IPv4に続く次のプロトコルとして普及が開始されている、という事実を大きく印象付ける変化だからです。引き続き、ルートDNSサーバには新たな変更が求められています。DNSSEC(DNSSecurity Extension)や、国際化TLDの導入が現在も議論されており、導入に向けて動き始めています。今後も、安定した運用と新機能の導入、このバランスを保つことが求められています。


※1 Accommodating IP Version 6 Address Resource Records for the
Root of the Domain Name System
http://www.icann.org/committees/security/sac018.pdf
※2 現在のルートDNSサーバのIPv6対応状況
http://www.root-servers.org/

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