ニュースレターNo.39/2008年7月発行
JPNIC会員企業紹介
新コーナー「会員企業紹介」は、JPNIC会員の、興味深い事業内容・サービス・人物などを紹介するコーナーです。
フリービット株式会社 | |
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所在地 : | 東京都渋谷区円山町3-6 E・スペースタワー13F |
設 立 : | 2000年5月1日 |
資本金 : | 18億1032万5000円 |
URL : | http://www.FreeBit.Com/ |
事業内容 : |
インターネット接続事業者へのインフラ等提供事業 ユビキタスネットワーク提供事業 インターネットビジネスに関するコンサルティング事業 |
(2008年7月1日現在) |
新コーナー1回目の今回は、各界の名士からも「Mr.顧客満足度」「芯が緩んでいない、才能と情熱の両方を兼ね備える真の経営者」と賞賛される、フリービット株式会社代表取締役社長 CEOの石田宏樹氏に、インターネットに懸ける情熱と展望、それを実現するビジネス手段について幅広く語っていただきました。
《人間らしい時間を取り戻すインターネット》を全ての人に
~最強インフラ創出に向けた熱き戦い~
フリービット株式会社代表取締役社長 CEO 石田 宏樹氏 |
【プロフィール】 1972年佐賀県伊万里市生まれ。1998年慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中に、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)設立に参画。最高戦略責任者として、顧客満足度No.1獲得に尽力。2000年株式会社フリービット・ドットコム(現 フリービット株式会社)を設立。2007年3月東証マザーズへ上場。同年9月DTI買収により、同社社長を兼任。 |
■まずは、フリービットの事業内容についてお聞かせください。
一番大きな事業は、ISPへのバックエンドの提供です。
バックエンドに必要な、OverLay Internetプラットフォーム(Emotion Link)、帯域制限、認証、IPv6/SIP、セマンティックなユーザーインターフェースという五つの技術要素と、ネットワーク、データセンター、サポートセンター、課金というオペレーション要素を必要に応じて組み合わせ、ISP事業者に提供しています。例えば、接続認証と帯域制限という二つの技術要素を組み合わせて、安価なブロードバンドの回線を提供するという具合です。現在国内にある250社ほどのISPのうち、約200社にフリービットのネットワークをご利用いただいています。
■なぜ、ISPにバックエンドを提供する事業を始めようと考えたのですか?
私の前職は、ドリーム・トレイン・インターネット(以下、DTI)です。DTIは、BtoCで「顧客満足度No.1」プロバイダにまで成長しましたが、それでも当時、会員は20万人程度でした。このDTIについては、立ち上げのフェーズは終わったということ、また当時、インターネット人口が急激に増え、さらにインターネットを拡大路線に乗せるためにも「ISP事業を行う上で必要な技術を貸し出す」モデルで、BtoBの分野に取り組もうと考え、2000年にフリービットを設立しました。
■なるほど。しかし、絶えず拡大を続けたISP業界も、数年経った今や、慢性不況と言われています。この逆風の中で、拡大を続けていらっしゃる秘訣は何でしょうか。
サービスの種類には、「売り切り型」と「継続提供型」という二種類がある中で、我々が従事するネットワークのサービスは後者にあたります。こうした、継続性が必要なサービスの場合は、何でも「合理的」にしていかないと、金銭的にも立ち行かず、当然、それを反映して顧客満足度も上がりませんよね。
■2007年3月にはマザーズ上場も果たされています。その後、DTIも買収されていますね。あえてDTIを買収先に選んだ理由を教えてください。
マインドと、経営的戦略の両部分がありますね。
DTIがめざした「最高のインターネット環境」は、それを始めた自分がずっと守り続けたいと思っていましたが、株式の論理から言えば、DTIを離れた当時の自分は創設者ではあってもオーナーではありませんでしたので、その時から取り戻したい気持ちはありました。また、DTIが売りに出されたタイミングとフリービットの上場という経営面でのタイミングが合ったということもあります。
■今後のフリービットとDTIの役割分担はどうなりますか。
今まで通りDTIはBtoC、フリービットはBtoBです。既にネットワークは統合済みで、今後は運用面などを共通化していきます。本当の意味での「ユビキタス社会」を実現するには、今やBtoBだけでは広がりはないと思っていますから、BtoCの中で真のユビキタスがどんなものかを、多くのユーザーに実際に体験してもらいたいと考えています。このために事業を徹底的に効率化し、そのコストダウンで捻出した費用を「ユビキタス化」に還元していきます。
■「ユビキタス実現費用捻出」のために、具体的にどんな効率化を考えているのでしょうか?
地方のISPが経営的に苦しくなっていますが、こういったISPを取得し、フリービットのサービスに置き換えることで、ユーザーは自然にフリービットが提供するサービスが使えるようになります。こういったプロセスで、あらゆる費用が節約できます。この費用で、ユビキタス化やIPv6の普及に努めていきたいと考えているんです。こうやって誰かが投資しないと、ユビキタスだ、IPv6だと言ってはいても、永遠にユビキタス社会もIPv6社会も到来しないのではと思っています。
■お考えの「ユビキタス社会」では、どんなことが可能になるのでしょうか。
例えば、インターネットに繋がる自宅のPCに簡単なアプリケーションを入れるだけで、外出先から携帯などの複数端末で、自宅PC内のファイルを検索できたりします。具体的には、VPNで仮想化を実現し、アプリケーション毎にIPv6 アドレスを割り当てることによって実現していきます。IPv6の利用で、今後もっとインターネットの可能性を広げていけると思っています。
■御社のサービスや部門名称には、「SiLK」という言葉がついているようですが、「ユビキタス」の概念と、この「SiLK」に込められた意味にも、何か関連があるのでしょうか。
はい、そうなんです。インターネット利用者の大多数は、Webブラウザ上で実現できることがインターネットの全てだと思っているんですね。しかし「情報をクモの巣状に張りめぐらす」というブラウザのあり方は、いかにもアメリカ的な粗い考え方です。本来、我々日本人のネットワークはもっときめ細かいものであるはずではないでしょうか。フリービットでは、Web to SiLK(クモの巣から絹のように丁寧なネットワークに)を掲げています。フリービットの中期経営計画を「SiLK VISION」と呼び、丁寧なものづくりを実行する部門には、全て「SiLK」という名前を掲げています。例えば、中国無錫のネットワーク運用・監視センターを「FB SiLK NOC」、佐賀県唐津のコールセンターを「SiLK Hotlines」などと呼んでいます。
■なるほど。そしてその絹のようなネットワークを作る仕組みの一つが、VPNでの仮想化であり、IPv6利用ということなのですね。
おっしゃるとおりです。この仮想化環境下では、自分の思い通りの検索が可能になります。こうなると、ノードとは果たして何だろう、という観点で発想が変わってきますよね。一般的には「ノードは機器単位」だと捉えられていますが、人間が必要とするネットワークが、いつもサーバ、端末単位で区切れるとは限りません。むしろ、やりたいことは「アプリケーション」単位であるはずです。これが「SemantiqNode = 意味論的なノード」という考え方です。
もっと言うと、電話時代のネットワークは、「ネットワーク側」に価値がありました。しかし、インターネットでは、エッジ側が「ネットワークをどう使うか」によりネットワークの価値を決めていきます。ですからブラウザにとらわれず、もっとエッジが自由にできるべきだと思うんです。
フリービットでは、このVPN内のIPv6環境サービスを「現代のどこでもドア =Emotion Link」、その下のクライアントをそのものずばり「SemantiqNode」と呼んでおり、ネットワーク利用における第2章の始まりであると考えています。
このEmotion LinkはAPIで利用できます。Googleでも同じことができるように見えるかもしれませんが、Google単体では「サーバに蓄積された情報」しか検索できません。しかし、Google Desktop Searchとマッシュアップすれば、自宅のPCの中身も外部から検索できます。
■ネットワーク利用における第2章の幕開け、ですか。
ええ。「こんなことができるんだ!」ということを、プロバイダとしてのDTIが見せていきたいですね。今後、もっとエッジの部分までIPv6にしていく必要があります。
アップル社のSteve Jobsが行ったことは、「PCをデジタルハブに」でした。しかし、「ネットワークをハブに」することができるならもっと素晴らしいですよね。仮想化技術で、機器にとらわれない世界最大のルーティング環境を提供したい。そのためのIPv6アドレス。そういう考え方で、付加価値の高いサービスを提供することこそが、これからのISPのあり方だと思っています。
■そういった技術開発については、それなりのリソースがかかると思うのですが。
実はこういった技術開発に関しては、予算に糸目をつけていません。儲けるのは別の人でもいいんです。私の目的は「インターネットを全ての人に」ですから。愚直にそう言い続けているからこそ、いろいろな人に支援してもらえているようにも感じています。坂本龍馬の海援隊みたいな考え方に似ているのかな(笑)。
■ところで、中国や佐賀県にあるセンターのお話が出てきました。なぜ、その地なのですか? インフラを支える仕事に、人材が集まらないと言われていますが、そういった要素もあるのでしょうか。
労働集約型の仕事を単純に日本、とりわけ東京で行っても競争に勝てませんから。
また、日本の大学は売り手市場です。特にIT業界では都会でレベルの高い人材が引っ張り合われるため、運用に従事する「インターネットの根幹を支える」人材が育ちません。ですから、自らがリスクを負い、中国や唐津で独自の教育メカニズムにより人材を育てることにしました。
また、この独自教育メカニズムには、「技術を体系的に理解させる」狙いもあります。我々の世代は、コンピュータサイエンスの頂点からネットワーク技術を体系的に学びましたが、しかし、今はそうでもないようなのです。したがって、このメカニズムの中で、基礎を作っていきたいという気持ちもあります。
「東京でしかできないこと」と「そうでないこと」とを分け、地方でできることは地方でやる構造にしなければ、インターネット的でもなければ、経営的利点もありません。このように、地方の人材を多く雇うことで、そこに対しても貢献をし、インターネットを産業としてきちんと育てていくことも、この業界に携わる者の責任だと思っています。村井先生からの教育というのは、そういうものであったと考えています。
■人材の育成は大変ではありませんか。
ええ、大変ですよ。でも事業は農業と同じで、人を育て確保することが最重要ですから。こういった「継続的に人材を確保する仕組み」によって、勝っていけると考えています。
要は、会社に対する愛着とやる気がある人材を、会社としていかに確保できるかではないでしょうか。唐津のセンターでは、トイレに石鹸がなかったら、わざわざ自分の家から持ってきてくれる姿を目の当たりにすることがあり、驚いたことがあります。たかが石鹸一つで、と思うかもしれませんが、私は、会社や仕事に対するマインドの高さと垂直統合でモノを作ることのすごさを手応えとして感じました。
実際には、どんなことでも結果が出るまでには多少なりの時間がかかります。こと人材育成についてはそう言えます。それを待てるという心の強さが経営者には必要だと思います。
■今後のインターネットが行きつく世界を、どんな世界だと想像しますか?
インターネットの進化には3段階の過程があると考えています。まず第1段階として、(1)ブロードバンド化・定額化というITインフラ進化の時代。次に、我々がまさに直面している(2)ユビキタス化の時代。最後に、(3)セマンティック化の時代です。このセマンティック化とは、コンピュータが情報の意味を正しく知ることできるようになるという意味です。セマンティック化で、我々は、いろいろなものを正しく検索できるようになります。
フリービットでIP電話を研究している理由の一つに、「PCや家電を、電話という最も身近な端末からコントロールしたい」ということがあります。今、050番号を、家電につけたIPv6アドレスにDNSで変換し、これらの家電を音声認識で動かす実験をしています。テスト段階では動いていますので、そういう日もあまり遠くないのかもしれません。
セマンティック化の時代には、このようにPCという縛りをなくして時間を節約することで、人間の無駄な時間をもっと増やし、人間らしい時間を取り戻したいですね。無駄なことをするかどうかが、人間と動物の違いなんです。今はまだ、単に時間を消費するだけのフェーズです。SNSが最もそれを体現するものではないでしょうか。あったはずの時間でもっといろいろなことができたはずなのに、習慣的に「多くの人に触れられる機会」を求め、刹那的なSNSにはまっています。こういうツールを使いこなすには、基礎的なスキルが必要です。
人間の生活様式が変わるのは、この時間の使い方を変えた時だけです。不要な無駄を省くことで、もっと人間らしい営みの時間を増やしたい。これが自分のめざすゴールですね。
■ご自身をどんな人物だと思っていますか?
小さい時から何でも「目的」と「手段」とを分けるタイプですね。高校に行く「目的」ですら考えましたから(笑)。幸運にも高校時代にソニーの盛田さんから、「起業」「通信」というキーワードを授けられ、大学受験の2週間前に慶応のSFCに志望校を変えました。実は慶応については、当初おぼっちゃん的な先入観があったのですが、思い切って入ってみると、村井先生、そしてインターネット技術との出会いとなりました。
村井先生からは、インターネットとは何か、つまり「インターネットはあらゆるものをフラットにする」という考え方を学びました。「物理的に同じ場所にいないあらゆる人が、同時にモノづくりに参加できる」、また「さまざまな人の意見を聞き、発言できる場を瞬時に形成できる」、これらの視点がその後の道筋を定めるにあたり、非常に大きなものでした。このような未曾有の可能性を秘めたインターネットを世の中に広げることが、自然に自分の中での「目的」となっていると思っています。以降、さまざまなことにチャレンジしてきましたが、今に至るまでに取り組んできた全てのことは、この目的を実現するための「手段」に過ぎなかったと言えるかもしれません。
■今後、インターネット関連事業以外でやってみたいことはありますか?
全く新しい産業についてはわかりません。そもそも、ネットワークはあらゆるものに関係していますから(笑)。RFIDで物流を管理できるように、「スマートなインフラをいかに作るか」、そして時間節約型のビジネス創出という観点においては、自分は貢献できると思います。まずはインフラをしっかりさせ、大暴れできる環境を作りたいですね(笑)。
■経営者として社員やインターネット業界全体へのメッセージをお願いします。
正解を求めて立ち止まらないで欲しいと思います。みな、正解を求めすぎています。 正解は「求めるもの」ではなく、正解に「していくもの」です。
未来は誰にもわからないがゆえに、試行錯誤が必要だと思います。よく何でも事前に精緻な分析を行う人がいますが、そのやり方だと、成功するか否かを確率論でしか話せないと思うんですね。やはり勇気を持ってやってみないと実際の可否はわかりません。「もし失敗したら修正する」ということでいいのではないでしょうか。勇気を持って失敗し、修正するまでの過程が人より早ければ、結果として人に先んじられます。仮に「何で失敗したのだ」と怒られても、きちんと修正できれば、「こいつだったら間違っても確実に正しいものにしてくれるな」という信頼感も生まれます。
また、とりあえずの失敗は許容する、社会のおおらかさも必要なのではないでしょうか。「働く人の姿勢」と「社会の許容」、この二つが変わると相乗的によい方向に行けると考えます。
大切なのは、やると決めたらあきらめずに時間をかけてやっていくこと。例えば、やると決めたことがサービスなら、そのサービスのサポートに至るまで、徹底的にその考え方を浸透させていくことですね。
■最後に、石田社長にとっての「インターネット」とはなんでしょうか。
ライフワーク。「インターネットそのもの」が僕たちのビジネスであり、ライフワークです。