ニュースレターNo.39/2008年7月発行
ARIN XXIミーティングレポート (2008.4.6~4.9)
今回のARINミーティングは、米国コロラド州のデンバーで開催されました。「天気予報では気温マイナス8度、4月でもまだスキーができる」と聞いていましたが、街中は覚悟していたほど寒くなく、雪も見られませんでした。
春のミーティングは、NANOGとの併催となる秋とは異なり、単独開催のためこぢんまりとしており、参加者も事前登録ベースで156名程度でした。
今回は8点の提案のうち、IPv4アドレスの在庫枯渇に向けたものが4点、IPv6に関するものが2点、その他が2点でした。2008年2月のAPNICミーティングでもそうでしたが、ARINでもやはり在庫枯渇に向けた提案が半数以上を占めていました。
提案事項の結果は以下の通りです。
2008-3 | "コミュニティネットワーク"向けのIPv6アドレス割り振り[継続議論] Community Networks IPv6 Allocation |
2008-2 | IPv4アドレス移転ポリシーの提案[継続議論] IPv4 Transfer Policy Proposal |
2008-1 | /29より小さな割り当ての登録対応[コンセンサス] SWIP support for smaller than /29 assignments |
2007-27 | RIR間での調整によるIPv4アドレス在庫枯渇期の統一[否決] Cooperative distribution of the end of the IPv4 free pool |
2007-23 | IANAからRIRへの最後のIPv4アドレス分配ポリシー[コンセンサス] End Policy for IANA IPv4 allocations to RIRs |
2007-21 | 歴史的PIアドレス保有者へのIPv6 PIアドレスの割り当て[コンセンサス] PIv6 for legacy holders with RSA and efficient use |
2007-17 | 歴史的PIアドレスの合意書締結促進と部分返却[継続議論] Legacy Outreach and Partial Reclamation |
2007-14 | 資源の審査プロセス[継続議論] Resource Review Process |
このうち、本稿では特筆すべき以下3点の提案を取り上げたいと思います。
- IPv4アドレスの移転について
- IANAからRIRへの最後のIPv4アドレス分配ポリシー
- 歴史的PIアドレス保有者へのIPv6 PIアドレスの割り当て
IPv4アドレスの移転について
この提案はIPv4アドレスの在庫枯渇に向けて、現在ポリシーで禁止しているIPv4アドレスの移転を今後認めようというものです。
この提案の背景には、IPv4アドレスの在庫が枯渇すれば、ISPは当面のIPv4ベースでのサービスを維持するため、たとえいくらポリシー上禁止されていたとしても、お互いに余剰空間を取り引きする、いわゆるブラックマーケットが一般的になるのでは、という想定があります。
そして、これが広まると、実際の利用者とデータベース登録上の利用者に齟齬が生じ、アドレス管理における混乱が予想されます。これを防ぐために、RIRへの情報更新を行う前提で、あらかじめ公式に移転を認めようというのがこの提案の趣旨です。
ARIN地域では、ARIN ACがコミュニティに対する問題提起のため提案を行いましたが、異なった提案者によりAPNIC、RIPEでもそれぞれ提案が行われています。 これに対して、会場では以下のような慎重な意見が主流となっていました。
- 闇取り引きはどんなものにでも存在するが、実際に問題となるほどの規模になるとは想定しにくい。
- 実際、闇取り引きが一般化されたら大問題ではあるが、そうでなければ移転を認めるほうが大きな問題。あらかじめ対応案を策定しておき、問題が起こってから発動するほうがよいのでは。
- IPv4における移転を認めた場合、IPv6への影響も考慮するべき。
- 実際に起こるという予測の根拠が推測の域をでていない。もう少し調査が必要ではないか。
一方、実装にともなう問題だけではなく、実装しないことにより生じる問題も検討し、どちらがより深刻な事態になるのか判断するべき等、支持する意見も一部の参加者から出ていました。そして、賛否はともかく引き続き検討の必要性を感じる参加者が多かったため、継続議論となりました。
IANAからRIRへの最後のIPv4アドレス分配ポリシー
これは、JPNICがAfriNIC、LACNICコミュニティの代表者と共同で、各RIRのコミュニティに対して行っている提案です。
提案内容は、IANAにおけるIPv4アドレスの在庫が/8ブロック5個を切った時点で、各RIRへ一律/8を1ブロックずつ分配するというものです。
IANAからRIRへの最後のブロックの分配サイズをあらかじめ定義することにより、IANA在庫終了時における余計な混乱を避けること、RIRがそれぞれの地域において分配方針とペースの検討のしやすさにつなげることを目的としています。
この提案に対して会場からの反対意見は特になく、コンセンサスが得られました。AfriNIC、LACNICコミュニティでは、自らの代表者が提案していることからコンセンサスが得られると考えられており、グローバルポリシーとして施行されるかどうかはRIPE、APNICコミュニティの反応次第です。今年、2008年で本提案の今後の方向性が定まることになると予想されます。
歴史的PIアドレス保有者へのIPv6 PIアドレスの割り当て
ARINのポリシーでは、現在IPv4アドレスの分配を受けていれば、ARINから直接IPv6アドレスの分配を受けられるように定義されています。しかし、歴史的経緯を持つPIアドレスについては対象に含まれていません。
この提案は、効率的に利用されていない歴史的PIアドレスに対してそのままIPv6の割り当てを認めることが適切ではないにしても、効率的な利用が確認でき、ARINと合意書を締結していれば、他のIPv4アドレスの割り当て先と同じく、IPv6 PIアドレスの分配を認めようというものです。昨年のミーティングですでにおおよその支持が確認されており、今回はコメントを反映した提案であったため、会場からは大きな反対意見や議論はなく、挙手により支持が確認されました。
その他
APNIC地域でも提案が行われ否決された「2007-27: RIR間での在庫調整によるIPv4在庫枯渇期の統一」は、IANAの在庫枯渇後、RIR間でお互いの在庫を譲り合うことにより枯渇時期を調整しようという趣旨ですが、これはARINでも否決されました。したがって、今後、このような考え方での枯渇対応について、世界的に議論が行われる可能性は低いと言えます。
所感
2008-2と2007-23についてはAPNIC25でも議論が行われましたが、同じ提案であっても参加者の基本的な姿勢や議論の方向性が、APNICのミーティングと大きく異なっていたことが印象的でした。
2008-2に該当するIPv4アドレス移転に関して、ARIN地域以外のRIRオープンポリシーフォーラムでも盛んに議論が展開されています。現在JPNICでは、「余ったアドレスがあるのならレジストリに返納するべき」という考えを持っていますが、我々としてもこの議論の動向を注視して、分析と検討を進めてまいります。
次回のARINミーティング
次回のARINミーティングはNANOGとの併催で、2008年10月15日~17日にロサンゼルスで開催されます。
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)