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ニュースレターNo.40/2008年11月発行

ICANNパリ会議報告

フランスのパリにて、2008年6月23日から26日に開催されたICANN会議に出席しました。

本稿では、今回の会議における主要トピックのうち、ポリシー策定プロセス(PDP)※1からポリシー実装のフェーズに移った新gTLDの導入およびドメイン名テイスティングの件と、2008年度運営計画案・予算案の承認についてご報告します。

新gTLD導入に関するPDP

GNSO※2評議会が作成した、新gTLD導入に際しての原則、ポリシー勧告、実装に関するガイドライン等を含む、新gTLD導入に関する最終報告書※3は、2007年9月6日のGNSO評議会にて3分の2以上の賛成を要する特別多数で採択され、その後理事会に提出されていました。しかしながら、2007年11月のロサンゼルス会議でも、2008年2月のニューデリー会議でも、理事会は勧告の内容を実装するにあたっての課題や方策等を検討するようICANNスタッフに要請するのみに留まり、勧告の採択は見送られていました。

GNSOの勧告には、ICANNのミッションである技術的な内容のみならず、倫理的、政治的な判断を要する内容等も含まれていたため、ICANNスタッフの検討にも理事会の判断にも時間を要したことが、理事会により採択が見送られてきた理由であるように推察されます。

ICANNスタッフによる検討の結果、GNSOの勧告は実装可能であると判断され、今回のパリ会議において、理事会により勧告が承認されるに至りました。2005年12月に開始された新gTLD導入に関するポリシー策定プロセスは、理事会の勧告承認をもって終息しました。確かに、理事会がGNSOの勧告を採択したことは、新gTLD導入において一歩前進と言えますが、ポリシー実装に向けて詳細を詰め、具体的な実装計画に落とし込んでいくのはこれからです。これらの背景や今後の展開等については、P.28「TLD新設についての誤解」で取り上げていますので、あわせてご覧ください。

今回の会議でICANNスタッフより説明があった“New gTLD Implementation Model”※4によれば、パリ会議の時点でICANNが想定している新gTLD実装のスケジュールは次のようになっています。

2008年第4四半期: ドラフトRFPの公開
(3~4ヶ月間): 意見募集期間やドラフトRFP修正期間を経て、理事会が最終RFPを承認
2009年第1四半期: 最終RFPの公開
この後、新gTLD導入プロセスに関する公示期間を少なくとも4ヶ月設ける
2009年第2四半期頃: 申請受け付け開始

このスケジュールは、2008年2月のニューデリー会議で説明されたスケジュールよりも、全体的に3~4ヶ月程度繰り下げられています。今後ICANNスタッフにより実装計画が策定されるわけですが、その実装計画は新gTLD導入プロセスの開始前に、コミュニティからの意見募集に付され、理事会により承認される必要があります。ICANNスタッフによる実装計画の策定はもとより、理事会承認を得るまでの過程でも時間を要することが予想され、今後もスケジュールが変更される可能性は大いにあると考えられます。

ドメイン名テイスティングへの対応に関するPDP

ドメイン名テイスティング※5は、登録猶予期間(AGP:Add-Grace Period)※6の仕組みを利用して行われることから、AGPの運用方法について議論が行われてきていました。2008年4月25日に、GNSO評議会がICANN理事会に提出したドメイン名テイスティングに関する勧告でも、AGPについて提案を行いました。内容は、「AGPを実装しているgTLDレジストリは、AGPの期間に削除されるドメイン名が、新規の月間ドメイン名登録総数の10%もしくは50ドメイン名のどちらか多い方を超えた場合、超えた分についてレジストラに返金を行わないようにする。ただし、特殊な状況については、それが証明できれば例外も認められる。」というものです。

時期が前後しますが、NeuStar社(.biz)とAfilias社(.info)からも、レジストリ契約のAGPに関する条項の修正提案が2008年2月5日にICANNに提出され、2月下旬から3月下旬までの意見募集期間を経て、2008年3月27日の理事会で承認されています。GNSO評議会では、両社の提案を参考に検討を進めていたこともあり、AGP期間中に削除されるドメイン名のうち、課金が猶予されるドメイン名数の上限は上記GNSOの勧告と同様です。

いずれの提案も、タイプミスの修正といった本来の目的にAdd-Grace Periodが利用されることを考慮し、一定割合の削除件数を許容する内容となっています。

パリ会議最終日の理事会では、GNSOの勧告が採択され、今後はポリシー実装のフェーズに入ります。AGPへの制限には、反対を唱えるレジストリ、レジストラもあったようですが、2007年11月のロサンゼルス会議でPDPが開始されてから1年足らずで、ポリシー策定が完了したことになります。

写真:理事会の様子
最終日に開かれた理事会の様子

2008年-2009年度運営計画案・予算案の承認

2008年-2009年度の予算案が、最終日の理事会で承認されました※7。収入は、ドメイン名テイスティングに関する前項でお伝えしたように、AGPに制限を設けることを前提として試算されています。また、支出面では、新gTLDおよびIDN関連予算として862万7,000ドル(前年度比485万4,000ドル増)を見積もっており、今までにも増して精力的に活動を行っていこうとする意向がうかがえる内容です。収入は6,067万4,000ドル(前年度比20.5%増)、支出は5,712万9,000ドル(前年度比34%増)を見込んでおり、収支ともに引き続き増加傾向にあります。

(JPNIC インターネット推進部 高山由香利)


※1 ポリシー策定プロセス(PDP:Policy Development Process)
ICANNの役割の一つに、インターネットの各種資源の調整業務に関連するポリシー策定があり、このポリシー策定のための一連の流れをポリシー策定プロセス(PDP)と呼んでいます。ICANN改革を受けて改定された新付属定款には、プロセスの詳細が明確に規定されています。
※2 分野別ドメイン名支持組織 (GNSO:Generic Names Supporting Organization)
ICANNの基本構造となる三つの支持組織(Supporting Organization:SO)の一つであり、分野別トップレベルドメイン(generic Top Level Domain:gTLD)に関するポリシーを策定し、ICANN理事会への勧告を行う役割を負っています。
※3 “Final Report Introduction of New Generic Top-Level Domains”8 August 2007
http://gnso.icann.org/issues/new-gtlds/pdp-dec05-fr-parta-08aug07.htm
※4 “New gTLD Implementation Model”
https://par.icann.org/files/paris/gTLDUpdateParis-23jun08.pdf
※5 ドメイン名テイスティング
Webサイト上に設置したオンライン広告などからより多くの収入を得ることなどを目的として、よりトラフィックの多いドメイン名を選別するために、ドメイン名を一度に大量に登録し、ある程度のアクセス数を持つ少数のドメイン名を残してあとは全て登録猶予期間内に登録を取り消す行為です。
※6 Add Grace Period(登録猶予期間)
登録者がドメイン名を登録してからすぐ(5日以内)にその登録を取り消して手続きを行えば、登録料が不要となる仕組みで、ユーザーの勘違いや手続き上のミスなどが原因で意図しないドメイン名が登録され、そのドメイン名に課金されることで、ユーザーが不利益を被ることを避けるために導入されています。
※7 Fiscal Year 2008-2009 Operating Plan and Budget
http://www.icann.org/en/financials/proposed-opplan-budget-v3-fy09-25jun08-en.pdf

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